五輪夢中
太一。
九月。島津桃華の誕生日。滝川太一は家でパーティの準備を行っていた。参加者はそれぞれの手段で集まる予定なのだが、
「一人?」
真っ先に到着したのは主役である島津桃華であった。
「他のメンバーは天音さんが廻ってくれるそうよ」
桃華本人は自分の車で来たらしい。
「免許はいつ取ったの?」
「八月中に試験をクリアして、誕生日が来たからようやく有効になったわ。と言ってもAD限定だけれど」
今や全体の四割を超えたのみを対象とした制限付き免許はペーパー試験のみで取得可能である。
「手動運転も練習したのだけれどね」
かつては高額だった最先端のフルオート車だが、今やセミオート車(手動と自動を切り替えられる)とさほど変わりない値段になっている。
「頭金を贈与として出してもらって、残りはローンよ」
車だけでなく都内の一戸建てまで貰っている太一にはツッコむ資格はない。
「今どの辺かな」
太一はスマホで天音の現在位置を検索する。
「え、矩総兄さんのマンションに?」
そのタイミングで桃華のスマホが鳴る。
「姫佳だわ」
太一が位置確認すると向こうにも伝わる。それで代理で連絡をしてきたのだろう。
「ええ。私はもう着いているわ。判ったわ」
「何だって?」
「ケーキを持ってくるって」
「なるほど、一号店に寄ったのか」
矩総が住むマンションの一階には総一郎が立ち上げた菓子店があり、今は長男嫁の西条沙也加が店長を務めている。
「じゃあ何か飲み物を買って来るよ」
料理についてはあとは盛り付けるだけになっている。四人が到着する前に戻ってきて冷蔵庫へ入れて冷やす。
盛り付けを終えて運んでいる最中に四人が到着した。
先頭はケーキを抱えている唯衣。次が姉の姫佳。そして沙羅、運転手の天音が最後になる。
「さあ座って」
と仕切る桃華。
丸いテーブルの真ん中に中華料理店で見られるような回転式の円卓を乗せている。料理はここに盛りつけられているが円卓には大皿でメインディッシュが盛りつけられている。五人とも小食とは縁遠く、特に沙羅は並の男子よりも多く食べる。
席次は太一を起点にして左隣りに主役の桃華、続いて天音。太一の正面に沙羅、そして大久保姉妹、唯衣と姫佳が並ぶ。
「先月と違ってカラフルな装いだね」
黒一色だった法事と違い、主役の桃華は桜色。唯衣は萌黄色のワンピース。姫佳は同形で色違いの浅黄色。沙羅は臙脂色のTシャツにデニムのジーンズ。天音は紺色の半そでシャツにデニムのスカート。
「色の選択に関して事前の申し合わせでもあったの?」
「打ち合わせた訳では無いけれど」
と桃華。
「先日、千種さんとお話して、色分けの重要さを再認識したのよ」
それぞれの服の色は初めて集まった時に選んだ浴衣の色をそのまま踏襲しているらしい。単純にそれぞれが好みの色を選んだだけだが、黒や紫を避けたのは結果的に正しかった認識されている。滝川の女、千里や千種の黒を見た後ではとても黒を選ぶ気にならない。そして紫は太一の母翼の色であった。
「まだ入る?」
少し作り過ぎたかと思った太一だったが、テーブルの上の料理はすっかり平らげられていた。
「甘いものは別腹ですよ」
と姫佳が言うと全員が頷いた。
「じゃあケーキを出そうか」
年上組が片づけを担当し、大久保姉妹がケーキの準備を行う。太一はグラスとドリンクを持ってきた。アルコールの入っていないタイプのシャンパンだ。
「アルコールの解禁はまだ先だからね」
現状でアルコールが許される二十歳を越えているのは天音だけだが、
「私はあまり強くないけれど」
と笑った。実際に呑んだ訳では無く、検査の結果アルコールの分解酵素が低活性と判定された。父親の方が完全に下戸らしい。沙羅は調べるまでもない。姫佳は未検査だが、妹の唯衣の方が検査して活性の診断を得ている。桃華はまだ未検査だが、
「島津家の血統は代々酒豪らしいから」
桃華の両親は従兄妹同士なので血統の影響は強い筈だ。
ケーキを六等分して皿に移し、シャンパンをグラスに注いで配る。これをすべて太一が一人で行うだのが、その一連の所作は父の瀬尾総一郎にそっくりだった。それに気付くものはここには居ない。
「さて、そろそろ二次会へ移行しようか」
と太一が言うと、
「片付けは私達がやるわ」
と天音が立ち上がる。
それを受けて太一は隣にいた桃華をお姫様抱っこで持ち上げる。
「いいなあ」
と沙羅がぼそり。
「沙羅さんを座った状態から持ち上げるのはきついな」
と苦笑する太一。
「立った状態からで良ければ可能だけれど」
と付け加えたら、
「冗談よ」
と照れた沙羅。
両手がふさがっているので引き戸を桃華が開ける。
「こうなっているのね」
桃華は前回不参加だった訳だが、
「前回はエアベッドを壁際にくっ付けてあったけれど、今回は中央に置いたのね」
と唯衣。
「今回は観戦者が多いからね」
ベットの左右に座布団が二枚ずつ置かれている。
太一は桃華をベッドに降ろして服を脱ぎ始める。桃華はそれに倣おうとして、
「私だけ脱ぐの?」
と大久保姉妹に言う。
「そこの籠に浴衣が入っているから着替えると良いよ」
と太一。
長方形で浅めの脱衣籠が五枚重なっていて、それぞれに色違いの浴衣が入っている。
「竹製なのね」
と姫佳。
「実家の裏に生えている竹で作ったものだよ」
「え、お手製なの?」
と驚く唯衣に、
「それも野外サバイバルスキルの範疇ですか」
と冷静な桃華。
「まあそんなところだね」
着替えが終わったところで沙羅と天音が合流してきた。
ベッドの上に桃華と太一が向き合い、それを四人が左右二人ずつに分かれて見守る。
「どうしてこの組み合わせ?」
と桃華が首を傾げる。桃華から見て右手に唯衣と天音、左手に姫佳と沙羅が並ぶ。
「私たちは双子と言っても、いつも一緒だった訳では無いからね」
一緒に過ごしたのはごく短い期間だけだ。一卵性双生児なので肉体のスペックは同じでも、育った環境が全く違う。
「むしろ性格的にはこの組み合わせの方が自然だな」
と太一。この組み合わせは今日突然生じた訳では無く、初集合の頃から交流が始まっていたらしい。唯衣と天音は共にチームの指令塔を務めていたし、姫佳と沙羅は点取り屋のエースだったと言う共通点がある。
「さて、始めようか」
太一は桃華の顎を掴んでクイッと持ち上げると唇を合わせる。生真面目な太一は常に向上心を失わない。故に太一の技量は以前よりも格段に上がっている。
「思ったより硬くないのね」
と桃華。彼女が触っているのは太一の胸である。
「力を入れればもっと硬くなるけれど」
と太一。
「素人の拳ならば筋肉に力を込めて相手の拳を壊しに行くけれど、鍛えている相手なら少し力を緩めて受け止める方がダメージが減らせるからね」
「そうね。レシーブの時に当たった瞬間に膝を曲げて接触時間を増やす事で威力を殺せるものね」
バレーで例えるところが桃華らしいが、理系だけあって理解が早い。
「相手の右こぶしを左胸で受けながら体を捻って右こぶしを繰り出すと、相手の打撃力を軽減しつつこちらの打撃力に上乗せできる」
自分の胸に置かれている桃華の右手に自分の左手を添え、腰を捻りながら右手を桃華の右胸に押し当てる太一。
「私小さいから」
「僕はそう言うの関係ないから」
と太一。
「こんなものは只の脂肪の塊で、重要なのはそれが誰のどこに付いているか」
と言って少し強めに握る。
「それにねえ。君は、君たちは僕の母を見ただろう」
と全員に視線を巡らせる。
「正直なところ、胸の大きな女性は母を思い出して萎える」
翼は叱る時には腕を組むのだが、それだとあの大きな胸が余計に強調される。太一にとって大きな胸は母のイメージとダブってしまい女性としては見られないらしい。
「大きいのは嫌い?」
とこの中では一番大きな姫佳。
「姫佳は初対面のぽちゃりイメージがあるから平気だな」
と返す太一。
「あのサイズだと、年とともにどうしても垂れてくるから」
と言いながら桃華を横たえて、
「僕の理想は横に成っても崩れない固さ」
と言いながら鷲掴みにする。
「私の胸で遊ばないで」
桃華は口調は厳しいが表情は満更でもない。
「いやあ、大きくなったなあと思って」
太一が桃華と初めて会ったのは祖母みさきの法事。その後海水浴に行って成熟前の体型も知っている。当時から顔立ちは整っていたが、体型的にはまだまだお子様だった。
「こうして横に成っても崩れない」
と言いながら桃華を組み敷くと、
「そろそろ始めようか」
桃華は足を閉じたまま。太一はそれを跨ぎながら隙間へ相棒を滑り込ませる。太一のモノはそれでも奥まで届くほど長大だ。
入れる時は負担にならない様に一気に進んだが、引く時はゆっくりとその感覚を確かめる。抜き差しを繰り返しながら右左と順に足の位置を入れ替えていく。初めは受け身だった桃華だが、膝を曲げて足を絡めてくると、更に腰を浮かせて押し付けてくる。
「なるほど」
太一はその意図を正確に理解して左手を桃華の腰に回して密着度を増して動く。
「初めてとは思えないわねえ」
と言ったのは誰だったか。普段の桃華なら周囲を見回していただろうが、この時はそれどころでは無かった。両手を太一の首に回してキスをねだる。二人はこれ以上無い位に密着して動いた。
「お疲れ様です」
太一は姫佳ら受けとったボトルあらドリンクを一口飲んで桃華に渡す。
「間接キス」
と呟いて、
「今更?」
と全員の苦笑を呼んだ。
「これはどうする?」
と天音から差し出されたアフターピルは、
「後で良いです。もう一回するから」
その視線の先にある太一の相棒はまだ元気だった。
「取り敢えず風呂に入って汗を流してくると良いよ」
と良いながらタオルで汗を拭く太一。汗で濡れているのは体の前面だけ、つまり桃華が出したモノだ。背中が全く濡れていないことを見ても、彼自身はほとんど汗を掻いていない事が分かる。
桃華が浴衣を持って風呂に行った後、桃華の汗でしっとりと濡れたシーツを交換する。
「さて次は誰が」
と太一が言ったら、ベッドに上がって来たのは、
「え。二人一緒に」
ベッドで太一と向き合って座るのは姫佳と沙羅である。
「二人ずつ相手することでお互いの親睦を深めるのが狙いよ」
と沙羅。
「と言うのが建前で、単に興味があるのよ」
と天音が下から混ぜっ返す。
「まあ君たちがそれで良いなら」
沙羅が仰向けに、その上に姫佳がう俯せになって抱き合う様な体勢になる。沙羅が足を大きく開き、その間に姫佳の足が挟まる。そこに太一が侵入した。
「意外に難しいな」
父総一郎もそうだったが、太一のモノの長大さが仇となる。フルに使うと一ストロークはどうしても時間が長くなる。一人相手なら問題なくても、二人以上を交互に攻めるとなると取り回しが悪い。打開策としては浅い所を攻めるのが常道だ。太一はそれだけでなく、たまに奥へツッコんだりと変化を付けている。相手の反応を見ての受難な対応は太一の得意とする所だ。
二人の様子を見ながらほぼ同時に逝かせたが、自分は発射しそびれた太一。
「お疲れ様」
と戻ってきた桃華からボトルを受け取って一口飲んで姫佳に渡す。姫佳はそれを沙羅に引き継いで桃華の隣へ移動する。沙羅は反対派側へ降りて、唯衣と天音が交代でベッドに上がった。実に自然な選手交代である。
「今度はその向きなの?」
下で仰向けになっているのは唯衣で、その上に乗る天音は逆向きになって互いの秘所を嘗め合っている。
「ではこっちから」
太一はまずは唯衣の中へ攻め入る。天音は指を添えて押し開いてアシストしてくれた。奥まで到達した後、天音が体を起こしてきたので、手を添えて手伝ってそのままキスを交わす。そのままトライアングルを形成しながら息を合わせて動く。
ここでも太一は唯衣の反応に気を使い過ぎて自身は出しそびれてしまった。それを察した天音は抜いた直後に太一の分身を指と口で攻めて口に受けた。
「あ、狡い」
と唯衣が権利を主張したので口移して半分分け与えた。
唯衣は沙羅の隣に座り、反対側から桃華が再びベッドに上がる。
「この組み合わせは珍しいわね」
と天音が笑う。五人の間で最も接点のない遠い関係の二人だが、この日をきっかけに親密な仲になる。
さてベッドの上では、太一が希望に沿って仰向けになって下から天音を迎え撃つ。桃華は太一の顔の上に腰を下ろして、天音と唇を合わせる。先程とは配置の異なるトライアングルが構築される。
騎乗位の為、主導権は天音にある。お互いに様子を伺いながらも天音が逝った直後に太一も放出した。終わった後二人は視線を交わして感想戦を繰り広げた。
太一が水分補給をしている間に天音はベッドを降りてアフターピルを服用すると、
「先に風呂を戴くわ」
ベッドに残った桃華は最初とは逆に俯せになり、掌を重ねて顎を乗せる。足はピンと伸ばして閉じたまま。
「またか」
太一は苦笑しつつも股の間に相棒を滑り込ませて突入孔を探る。突起物にカリが引っ掛かりピクリと反応する桃華。位置を見定めた太一はそこから角度を変えて突入を開始する。一度開通しているので挿入は容易だった。そこからの手順が先程と異なる。足を開かせるのではなく腰を持ち上げて体を折り曲げて戦闘を開始する。
太一は桃華の反応を見定めるようにゆっくりと動く。初回よりも反応が鈍い事に気付き、右手を腰に回してそこか突起を狙う。予想通り反応を見て、同時攻撃、いや左手で乳首を狙う三カ所同時攻撃を仕掛ける。
桃華は派手に潮を吹くと、自分の作った水たまりを避けるように横倒しに崩れる落ちた。
「お風呂に連れて行こうか」
と言って沙羅が抱き上げるが、
「ああ。その前にお薬を飲まないと」
「頭ははっきりしているのね」
と唯衣が笑いながらアフターピルを渡す。
「本当に腰が抜けるとは思わなかったわ」
そして残ったのは大久保姉妹だが、
「まだする?」
と太一に訊かれ、
「今のを見ていたらお腹いっぱい」
と姫佳が笑う。
「もう一回シーツを変えるのが面倒くさいわ」
と唯衣。
「じゃあこれを鎮めるよ」
と言って胡坐を汲んで目を閉じる太一。深い呼吸と共に心拍数が下がり、それに伴って屹立した相棒がゆっくりと前方へ倒れていく。径は小さくなったが、長さはあまり変わらない。平常時に戻ると激しい運動を終えた直後の様に汗が噴き出す。それを見て姫佳がタオルを肩に掛けてくれた。
「大丈夫なの?」
と唯衣が心配そうにするが、
「水分を補給すれば問題ないよ」
と言ってボトルの残りを飲み干した。
「じゃあ僕らも風呂へ向かおうか」
唯衣はシーツを剥す。姫佳も先程のシーツを持って、風呂場にある洗濯機に放り込んだ。
「一人暮らしにしては大きいですよね」
と唯衣。ドラム式の洗濯乾燥機は太一が引っ越した時に買い替えた数少ないモノの一つだが、
「着目すべきは洗濯機よりもこの風呂そのモノじゃない」
と姫佳。
この家の浴槽は六人が揃って入れるほどに大きい。そしてその手前の洗い場もほぼ同じ広さで、シャワーが入口から向かって左右に二カ所ある。
「この家は元々御堂の御前が愛人の為に作ったもので…」
その愛人と言うのが滝川百恵で、その二人の子供たち千万太と千里はこの家で幼少期を過ごした。息子の千万太が成人すると名義は彼に変更されたが、本人は大学に進んで間もなく海外を放浪し始めたので、名義人としてはこの家に住んでいない。この風呂は千里が使うようになってから拡張されている。この家は政治家時代の瀬尾総一郎の活動拠点として用いられ、協力関係にあった政治家や官僚達がしばしば泊まり込んだ。総一郎が「家に仕事を持ち込まない」主義だったからだ。
「一周廻って本来の目的に立ち返った訳ね」
と姫佳が笑う。
浴室に入ると、向かって左手のシャワーの前で沙羅が体を洗っている。後の二人は並んで浴槽の中だ。それを見た太一は反対側のシャワーの前に腰掛けて、左右から大久保姉妹に体を洗われた。
体を洗い終わった太一が風呂に浸かると、桃華と天音が左右に寄って来た。
「もう回復したみたいだね」
と言われ、
「体を洗って貰って、風呂に浸かったら血行が良くなって」
と桃華。
「沙羅に抱きかかえられて入って来た時には何事かと思ったけれどね」
と天音が笑う。
「太一君じゃなくてごめんね」
体を洗い終えた沙羅が浴槽の向かい側から会話に入って来る。
「沙羅がああなったら、太一君以外では運べないモノねえ」
と天音。
「二人三人がかりなら何とか」
と桃華。
「みんな体育会系だものね」
と沙羅。
「腕力で言えば私が一番弱いかも」
と天音が笑う。
「沙羅さんなら、私たち二人で十分運べますよ」
と唯衣も話に参加してくる。
「なんなら腕相撲大会でもしますか」
と姫佳。
「折角六人揃ったけれど、私はそろそろ上がるわ」
と一番長く風呂にいた天音が言うと、
「僕も先に上がるよ」
あまり長湯すると再起動してしまうから。
太一と天音は二階に上がって布団を敷いた。敷き終わった頃に他の四人も上がって来た。
「それじゃあやりましょうか」
と腕まくりする沙羅。
「え、僕も入るの?」
太一と沙羅はシードされて、残りの四人で一回戦。試合は布団の上でうつ伏せ状態で行われる。
籤の結果、まずは鵜野天音対大久保姫佳。これは姫佳が圧勝した。
続いて風間唯衣対島津桃華は、接戦の末に唯衣が押し切った。
太一は唯衣を相手に、手首を掴み左手を背中に回すハンデを付けて、それでも完勝した。勝った太一もだが、負けた唯衣もどこかほっとしていた。
姫佳はハンデを断って対等な条件で善戦したが、沙羅には及ばなかった。
そして決勝戦は、順当に太一の圧勝で終わった。
ニケ月後の11月。三人の進路が決まった。桃華はA認定、大久保姉妹は共にB認定を得て、
「三人とも御堂大学なの?」
桃華は医学部、姉妹は看護学部を選択した。
「Sが取れたらT大に志願書を出す心算だったけれど」
と桃華。T大の理三だとA認定では二次選抜試験が必要だが、一般の私大ではA認定なら合格となる。他を受けずに即入学手続きを取ると言う条件が付くが。
「研究職に就くのではなく、開業医の家を継ぐに当たっては御堂大学の方が都合が良いのよ」
御堂大学は研修医をに対して場に即した実戦経験を積ませるし、開業医との連携も熱心だ。桃華の実家も御堂病院と提携して難病患者をお願いしている。
三人の進学内定を聞きつけて、
「パーティーをやりましょう」
と言い出しのが竜ヶ崎麗華であった。
「どういうメンバーで?」
と訊ねる太一。彼はいつもの様に竜ヶ崎家に出げいこに来ていたのだが、
「りか姉とつな姉の卒業祝いと、三人の入学祝い。在学中の私とみさちゃんが幹事をするわ」
瀬尾希理華は薬学部なので六年、二歳下の野田刹那は体育学部を揃って卒業する。麗華と御堂美紗緒は現在三年。全員が御堂大学に通っている。
「御堂大学って別に女子大では無いですよね」
「ええ。男子の方が多いと思うわ」
このパーティーが実際に開かれたのは希理華が薬剤師の国家試験に合格した三月になるので詳細はまた別の機会に譲るが、
「そう言えば美紗緒姉さんは何を専攻しているんですか」
「彼女は生化学部よ」
御堂大学の生化学部は薬学部が四年制から六年制に移行する際に分離独立したもので、
「太一君とは話が合うかもね」
美紗緒の属する生化学部と太一が志望する農学部には共通する部分があるが、それ以上に二人の志望理由が似通っている。御堂家の為、もっと突き詰めれば春真の為である。性別も関係性も異なる二人なので共存共栄が可能だろう。