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現代的男女同権ハーレム 列伝2  作者: 今谷とーしろー
24/31

百花霊覧

太一。

 八月某日。滝川百恵の一周忌がひっそりと執り行われた。

 参列者は一年前の葬儀と同じく滝川姓の人々のみ。の筈だったのだが、滝川太一が父千万太に女性たちを紹介する場として利用する事となった。

「それで、どの娘が本命。いや本妻候補なのかな?」

 千万太は妻の翼から渡された調査文書を見ながら訊ねた。

「それはまだこれからね」

 と翼が答える。

「と言うと、兄では無く父の路線か」

 兄である瀬尾矩総の場合には正妻ポジションはある程度決まっていた。対して父の総一郎の場合は消去法的に決まっていった。

「まず桃華ちゃんの場合は、婿養子が前提だから外れる」

 と翼が言ったら、

「なんで?」

 と千万太が疑問を指し挟んだ。

「太一が向こうの婿養子に成りたいなら私は反対しないけれど」

「桃華ちゃんは希代乃さんをお手本にしているらしいから」

「次は、青木沙羅。この外見は異国の血が入っているのかな?」

 海外を放浪した経験のある千万太には特に外国人への嫌悪感はない。

「母親が米国人で」

 と翼。

「父親は総一郎君達の同級生なので、親子二代で私の教え子と言う事になるわ」

「なるほど。華理那ちゃんの下で生徒会副会長をやっていた訳か」

 次をめくり、

「大久保市長の娘さんか。パーティで見かけたことがあるよ」

 と千万太。

「向こうはこちらを知らない筈だけれど」

「あなたはあまり公の場に顔を出さないからね」

 滝川千万太の顔を知っているのは御堂家に極めて近しい人間だけだろう。

「双子の姉妹で姓が違うのは、生後間もなく養子に出されたからか。旧家には珍しくない話だな」

「双子が不吉と言う話を信じる?」

 と翼に訊かれ、

「双子はどうしても生まれた時は小さいから、医療が発達していない頃には死にやすい。遺伝子が同じなので同じ環境にあると共倒れを起こしやすい。故に話して育てる事には一定の合理性はあるかな」

「旧家だと跡継ぎ問題も絡むものね」

「大久保家はどうするつもりなのかな?」

 神林家の調査報告には双子に入れ替わりについても機密情報として記述されている。

「太一を婿にして地盤を継がせたいと言う思惑もあるようだけれど、太一次第ね」

「政治家と言うなら、この最後の子が最も肝だな」

 元総理の孫娘鵜野天音である。

「太一が政界に興味を持っているなら最適のパートナーだけれど、中央政界に出るならば兄の矩総くんに話を通す必要があるでしょうね」

「それにしても」

 千万太は五人の調査報告を並べて、

「いずれ劣らぬ美人ばかりだな」

「本物はもっと綺麗よ」

 と翼に言われ、

「それは…」

 愉しみだと言う言葉を飲み込んだ。


 少し時間を戻す。都内に住居を持つ太一は、同じく都内に住む天音の所へ向かった。

「ご苦労様」

 と出迎えてくれたのは天音とルームシェアしている姉の華理那。

「お世話様です」

「私は車を貸すだけよ」

 六人で動くとなると車は二代必要で、太一以外で免許を持っているのは天音だけである。天音も車を買えない訳では無いが、仕事の関係で運転は控えるように言われている。年少組が免許を取ったらドライバーはそちらに任せる事に成るだろう。

「じゃあ先に出るわね」

 太一と天音はスマホで互いの位置情報を共有した。太一は残り三人が集合する予定の風間家へ直接向かい、天音は沙羅を拾ってから合流する手筈だ。沙羅の住所はチームの寮なので男性の太一が迎えに行くといろいろと面倒になる。

「予定より少し遅れるわ」

 沙羅を拾った天音から連絡が入る。

「礼服が実家に有るらしいからそれを取りに向かうわ」

「了解です」

 予め言っておいてくれれば先に青木家の方へ寄っただろうが、まあ大したロスではない。

 一足先に風間家に着いた太一。案内された客間には姫佳と前日から泊まり込んでいた唯衣の二人がいた。体型で見分けが付くはずの二人だが、

「随分と盛ったねえ。唯衣」

 と左側に向かって声を掛ける。

「どうして判ったの?」

 当てられた悔しさが半分、見分けてくれた嬉しさが半分の唯衣。

「片方だけと会えば若干迷うかもしれないけれど、二人並んでいれば体型を揃えても直ぐに判るよ」

 程なくして到着した桃華も、

「右が姫で左が唯衣でしょう」

 と即答した。

「唯衣が胸を盛るだけじゃだめね。姫の方も胸を押さえつけて逆になる心算でやらないと」

「それでも天音さんは見破ると思うな。あの人は演技のプロだから」

「沙羅さんならあるいは引っ掛かるかも」

 まもなく到着すると連絡が入ったので出発準備の為に太一の車に着替えを積んでいると、

「お待たせ」

 と沙羅の声が掛かる。

「あれ?」

 と天音が目聡く反応する。

「入れ替えゲームでもやって居たの?」

 と沙羅もすぐに気が付いた。

「全敗かあ」

 と悔しそうな唯衣に、

「動かずに座っていれば判らなかったと思うわ」

 と天音が謎解きを始める。

「姫佳は胸が重い所為で普段から若干猫背なのよ」

「私の場合は匂いかしら」

 と沙羅。

「姫佳は胸の谷間に汗を掻いてほのかに香るのだけれど、押し付けた所為か匂いが強まっているわよ」

 唯衣が入れている胸パットは吸水性が良いので匂いが立たない。汗を吸って密着性を高めると言うコンセプトらしいが、

「そんな盲点が」

 と太一。

「そんなところで見抜ける沙羅がおかしいのよ」

「それよりも、そのまま行くと向こうで余計な混乱を招くわよ」

 と冷静な桃華。

「戻してくるわ」

 と言って姉妹は家の中に入った。

 戻って来たら残っていたのは天音だけ。

「太一君達は先に出たわ」

「やられたわ」

 と唯衣。

 六人居るので三人ずつになるのが当然なのだが、乗車区分がまだ決まっていなかった。

「とにかく乗って。直ぐに追うわよ」

 天音は追尾モードに切り替える。太一の方もこちらの位置を把握して居るので、程なくして追い付いた。

「あと十分ほどで着くよ」

 と太一から連絡が入る。

 二台は連なって滝川邸の門を潜った。

「いらっしゃい」

 と出迎えてくれたのは滝川万里華。控室に案内されてそこで礼服に着替える。

 部屋には先客がいた。

「桃華ちゃん以外は初めましてね。故人の姪で滝川千種です」

「お久しぶりです」

 と桃華。

「こうして会うのはお祖母さまの二十三回忌以来かしら」

 その頃には桃華以外はまだ太一との面識がなく、互いに無縁の存在だった。大久保姉妹もまだ双子であることを知る前だった。

「黒がお似合いですね」

 と姫佳に言われて、

「私、仲間内では黒担当なのよね」

 と笑って答える千種。

「希理華さんが青で、麗華さんがその対抗色の白。そして刹那さんが私の反対の赤」

「黒の反対は白では無いのですか?」

「黒と赤は明暗を現わす暗しと明るしから来たと言われています。そして青は淡し、白は白し。つまり色の明瞭さの度合いを示していました」

 ここに中国由来の五行思想が加わって、

「青が東で春。ここから青春と言う熟語が産まれます。赤が南で夏、白が西で秋。そして黒は北で冬となります」

「それで矩総さんの所は四人なんですか?」

 と天音。

「まあ偶々のこじつけですよ」

 と千種が艶笑う。

「ではまた後でお話ししましょう」

 と言って先に退室した。

「顔の系統は先輩と違うけれど、どこかしら雰囲気が似ているわね」

 と沙羅。

「そこが滝川の女と言う訳ね」

 元総理の孫である天音は滝川の女の伝説を聞いていた。

「従姉妹同士である千里さんと千種さんのご主人様が親子である時点で、滝川の女の常識を逸脱していますけれどね」

 共倒れを避けるために、近しい血統は敵対する相手を選ぶケースが多かったと言う。

「瀬尾総一郎の血脈が規格外だったと言う事では無いですか」

 と姫佳が言うと、

「それって自爆と言うか自白と言うか」

 と妹の唯衣が苦笑した。

「千里さんは影の総理を言われたほどの凄腕秘書で、千種さんもその衣鉢を継ぎつつあるようだけれど」

「スペックは確実に上を行きますものね」

 千里は公認会計士の資格を持つ才女だが、千種はT大法学部を首席で卒業し、司法試験も在学中にクリアしている。

「着替えは済んだかしら」

 と万里華が様子を見に来た。

「緊張しなくても良いからね」

 と言われたが、彼女達は今日の本題をすっかり忘れていた。

 万里華に案内されて応接間に入る五人。正面にこの家の主である滝川千万太、そしてそれと対峙する位置に太一が座っていて、その左側に座布団が五枚。

「なるほど」

 五人が現れた時に千万太が漏らした一言の意味は太一たちには判らない。

「では紹介します。右から」

 と言ってちらりと横を確認する太一。並び順はじ前に打ち合わせする機会が無かったが、出会った順番に並んでいた。

「島津桃華さん。高校の一級後輩で、僕らの跡を引き継いで生徒会長を務めていました」

「聡太郎君のお嬢さんか。母親の楓さんにそっくりだな」

「両親をご存じでしたか」

「ああ。結婚式に参列したからね」

「次が青木沙羅さん。一級上で南高校時代には華理那姉さんの下で副会長を務め、バスケで全国大会に出場。現在はプロの選手として恭子姉さんのチームメイトです」

 と紹介されると、

「貴女のお母さんの現役時代の試合を生で見たことがありますよ」

 と千万太。

「これはその時にもらったサインなのだけれど」

 レプリカのユニフォームに書かれた母のサイン。娘の沙羅ですら見るのは初めてだ。

「どうしてうちの母にサインを求めたんですか?」

「日本から来た選手と付き合い始めたとかで、私が日本語で話しかけたら応じてくれたんだ」

 男子の方の試合は日程が合わなくて見られなかったと言う。

「出来たら君のお父さんの方のサインも入れて欲しいね」

「紹介を続けます」

 次は大久保姉妹。

「まずは姉の姫佳さん。出会った経緯は長くなるので省きますが、今は妹の名前で中央高校に通っていて、桃華さんとバレー部の中心選手でした」

「その辺の経緯も調査報告に有ったよ」

「で、妹の風間唯衣さん。姓が違うのは…。報告書の通りです」

 そして最後尾。

「諏訪部元総理の孫の鵜野天音さん。母親は女優の加賀魅羅音さんで…」

「父上の鏡太郎くんとは面識があるよ」

 父の本名を言われて驚く天音。

「大学が同期でね。と言っても私は海外を放浪していた卒業はしていないけれど」

「父も学生時代にデビューして中退していますから」

 故に二人とも大学の卒業生に数えられていない。

「私のことなど憶えてはいないだろうと思っていたんだが」

 千万太の勤める大学に公演に招かれた鵜野氏が声を掛けてきたと言う。

「大学時代の私をモデルにして一冊書いているらしいのだが、まだ読めていないんだ」

「もしかすると」

 天音は題名を挙げた。

「そう。そんなタイトルだったな」

 名家の落胤として生まれながら、家を追われた双子の兄妹の流転を描いた小説だ。

「そんなご縁があったのですね」

 と感慨に耽る天音。

「さてそろそろ始めようか」

 と立ち上がる千万太。彼を先頭に仏間へ移動する。

 仏間と言っても仏壇らしきものはなく、遺影と位牌があるだけ。位牌も白木を削っただけの質素なモノである。そして輪袈裟を首に掛けた太一がその前に座って読経を始めた。

 参列者は太一の後ろに二列で並ぶ。前列は滝川家の一族。右端に太一、続いて母の翼。千里と万里華の親子、最後が千種となる。後列には五人客が並ぶのだが、並び順は先程とは異なり右から年の順である。

 滝川家は門徒なので南無阿弥陀仏の名号が繰り返されるのだが、途中から良く判らない経が読まれた。

「うちの父はインドやチベットも廻った事があるからね」

 パーリ語の原典を学んでいて、大学でも東洋哲学を教えている。

 読経を終えると、仕出しのお弁当が運び込まれてきた。席次は千万太を上座に据えて、前列が向かって左手に、後列が右手に並ぶ。

「このお弁当って?」

 と太一。

「速水家の元メイドで、つまり母の弟子に当たる人が独立して市内で小料理屋をやって居て、そこにお願いした」

 百恵の一周忌だと言ったら二つ返事で引き受けてくれたらしい。

「一つ伺っても良いですか?」

 と天音。

「あの位牌はすごくいい香りがするのですが?」

「ああ、香木だよ。売ればかなりの値が付くだろうね」

 海外で手に入れたらしいが、国内に持ち込む時には煩瑣な手続きに煩わされたと言う。


 食事を終えて、大きく三つのグループに分かれて雑談。

 一つ目は千万太と翼、太一の親子に天音が加わる。二つ目は千里と万里華の親子に後輩の沙羅。そして千種を囲んで桃華と大久保姉妹となる。

 天音のお目当ては父の若い頃を知っている千万太であったが、

「私も学生時代の彼とはあまり親しくなかったから」

 と言われて、

「むしろあの無口な男が大女優をどのように射止めたのか興味があるな」

 と訊き返されてしまった。

「父の小説を映画化する際に、ヒロインを演じたのが母だったと言うのが広く知られる馴れ初めですが」

 ヒロインに抜擢された当時の加賀魅羅音は歌劇団を退団したばかり。男役のスターだった彼女にとって初めての女性役だった。それを危惧してか、毎日のように撮影を見に来ていた鵜野氏が、ある日を境に姿を見せなくなった。

「不安に思った母が監督に訊いてみると、続編を書き始めたのだと言う」

 本来一話完結の小説だった筈が、魅羅音の演技に触発されてその先の構想が沸き上がって来たらしい。この小説は結局三部作となり、その全てが魅羅音の主演で映画化された。第二作の完成時に二人の結婚が発表され、三作目の撮影は産休明け。つまり娘の天音が生まれた直後に始まった。

 第一部を書いた時点では鵜野氏は理想の女性を頭に思い描いていただけだが、第二部以降は明らかに魅羅音を念頭に書いている。魅羅音本人もほぼ素のままで演じられたと語っている。それに対して相手役は三作とも異なり、いずれも作者自身を投影したキャラではない。なぜ自分自身をモデルにした相手役を書かなかったのか、鵜野氏はそれについて何も語らない。

「それは訊くまでも無いな」

 と千万太。

「あの三部作はヒロインが運命に翻弄されながらも理想の男性を追い求めていく話だから、鏡太郎君自身がそこに登場したら話はそこで終いになる」

「それは照れくさくて外では言えませんよねえ」

 次に第二グループ。喋っているのは娘の万里華とその後輩の沙羅だけで、母の千里は黙って見守っている。

「総志さんのワンハンドショットを再現しようとしているのですが」

 と沙羅。

「あれは完全に個人技になるから誰にもやらせなかったのよね」

 と万里華。

「必要条件は片手でバスケットボールを掴んで扱えること」

 妹の恭子もこれが出来なくて断念した。

「太一は例外的にボールを握らずに掌底打ちの応用でそれを可能にしたけれど」

 あれは武術の達人である彼にしかできない。

「勘違いされているけれど、総志兄さんと言えども片手の力だけであの重いバスケットボールを投げられる訳では無いわ」

 全身の力を瞬時に効率よく使っているのだ。

「まずは第一段階として添えている左手を外す事」

 これは正しいフォームが出来ていれば可能である。

「空いた左手はバランスを取るために使う。これが出来れば一見して無理な体勢からも正確なショットが打てるのだけれど」

 総志にあって沙羅にないモノが広範囲の空間認知能力。総志はリングを視野に入れずにその位置を正確に把握して狙える。故に背面シュートが可能なのだが、

「貴女の場合は、打つ瞬間にリングを視野に捕えて微調整をする事ね」

 そこが一番難しいのだが、

「後は練習あるのみよ」

 そして最後のグループ。滝川千種は三人の少女から質問攻めにあっていた。

「矩総さんとは大学で?」

「ええ。でも私が中学生の時に母が死んで、その時に従姉の千里さんの紹介で永瀬弁護士のお世話に成ったから、いずれどこかで出会っていたでしょうね」

「ご苦労されたのですね」

 と唯衣。

「そうでもないわ」

 と千種。

「父には母とは別に正式な奥様が居たけれど、私は父にとって唯一の子だったから、父が亡くなった時にはその遺産の半分を貰った。と言っても父は婿養子だったからそれほど大きな額では無かったけれども」

 千種の受け取った遺産は千種の母が管理していたが、千種の母はそれには一切手を付けずに自分の稼ぎだけで千種を育てた。家事はすべて千種が受け持ったが、総一郎の様にバイトに明け暮れることは無かった。成人すれば遺産は千種の自由になるので、学費は問題ない。いやそれ以前に総一郎が作った制度により彼女は学費の全額免除を獲得した。よって父の遺産はそっくりそのまま残っている。

「従姉の千里さんが父親と、自身がその息子と結ばれることに関してどう思っていますか?」

 と姫佳。

「従姉と言っても、千里さんとは年が二十以上離れているし、それほど親しい付き合いがあった訳でもないわ。それに」

 と千種が苦笑交じりに、

「麻里奈さんと希理華さんは姉妹、なゆたさんと刹那ちゃんは伯母と姪。私よりも近しい血縁になるわ」

「双子の姉妹が同じ男の所に居る方がよほど問題よねえ」

 と桃華が笑う。


「それじゃあ、お祖母さまのお墓参りに行こうか」

 と太一。

 道案内として千種の他、万里華だけが参加する。

「千万太さんは本場で仏教を学んできた人だから、お墓参りと言う風習は重要視しないのよ」

 と千種。火葬と納骨に関しては日本の習俗と言うか法律に従った。

 乗車区分は太一の車の助手席に千種、後ろに大久保姉妹。華理那から借りてきた車は万里華が運転して助手席に桃華、後ろに沙羅と天音が座る。

 都内の霊園で線香をあげる。太一を真ん中に、千種と万里華が左右を固め、残りの五人が後列に並ぶ。男一人に美女七名と言う構図はかなりのインパクトがある。

「これで全認定は終了だけれど」

 太一が家の遠いモノは送ると言ったら、

「私実家に帰るのだけれど」

 と桃華。

「それならついでだから曽祖父さんにも詣でて行こうか」

 と言う事に成った。

 曽祖父と言うのは瀬尾総一郎の母みさきの養父瀬尾総門氏の事であるが、この場で彼と血縁関係にあるのは桃華だけだ。と言っても祖父が総門氏の甥に当たるので五親等と言うかなり遠い繋がりであるが。

 借り物の二号車の運転は千種に交代し、万里華は太一に車へ移った。二号車が先行し、助手席の桃華が道案内を務める。

「これが瀬尾家の家紋なのね」

 万里華が墓に描かれた十字の紋章に目を止める。

「カトリックの神父であった総門様が紋付を切る機会は無かったでしょうけれどね」

 と桃華。

 ここで二手に分かれる。

 太一の一号車はまず箱根の大久保邸へ向かう。ここで姉妹の両方が降りた。万里華を乗せてそのまま滝川邸へ戻り、太一もその日は実家に泊まる。

 二号車は桃華を家まで送った後は千種の住むマンションの隣の専用駐車場へ入る。ここで運転手は天音に交代し、沙羅を寮で降ろして帰途に就く。

「早かったわね」

 と華理那。

「泊って来るかと思ったのに」

 天音は一瞬ほおを赤らめて、

「…桃華さんがまだだから」

「太一も生真面目ねえ」

「どちらかと言うと桃華さん本人の問題よ」

 年齢で縛れば自分が一番最後になるのは判り切っていたのに。

「むしろ最後を希望しているんじゃない。うちの母みたいに」

 と華理那が笑う。

「…母親とそんな事まで話しているの?」

 今度は判り易く動揺を見せた天音に、

「教えてくれたのは希代乃さんだけれど」

「それはそれで問題でしょう」

「私たちには母親が複数いて、それぞれが得意分野で子供たちに対処しているのよ」

「なるほど」

「他人事では無いわよ」

 と真顔になる華理那。

「貴女方もいつか母親になるのだから」

「なるほど」

 今度は神妙な口調だった。



ハーレム完成まで行く予定だったけれど。

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