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現代的男女同権ハーレム 列伝2  作者: 今谷とーしろー
18/31

フライングゲット(表)

希総視点。

 速水家と不破家そして滝川家を総称して御堂御三家と言う。その三家の次代を担う速水貴真、不破皆人、滝川太一の三名は共に後期入学でT大に進み、揃ってバレー同好会の門を叩いた。同好会を実質的に率いるのは神林家の御曹司である希総。三人にとっては異母兄あるいは従兄に当たる。

 初めに口にしたのは最年少の皆人だったが、他の二人も内心では考えていた事だった。貴真は高校までサッカーをやっていて団体競技に慣れているが、太一は格闘技、皆人はボード競技の二刀流で、性格も個人競技向きだ。

「僕は、小さい頃から兄さんたちに混ざって遊びたかったんだ」

 と皆人。

 希総が兄の春真とバレーを始めた頃は、末弟の皆人はまだ小さくて相手に成らなかった。春真は中学までで辞めてしまい、希総も恐らく大学卒業後にはバレーどころでは無いだろう。これが最初で最後のチャンスなのだ。

「取り敢えず三人の運動能力をテストしよう」

 三人が呼ばれたのは神林邸の一角にある希総の為に作られた専用コートである。外から見ると書院造風なのだが、中は三メートルほど掘り下げられて体育館に成っている。これまでのチームメイトですら入ったことが無い秘密の場所で、三人が入れたのは身内だからであろう。

 まずは反射神経のテスト。課題は希総が投げるボールに反応して触る事で、守備範囲の広さを測る意図もある。サッカー上がりの貴真は遠くのボールには手よりも足が先に出てしまう傾向があり、結果として最も広い守備範囲を見せた。太一は最も反応が早く、希総のフェイントにも全く引っ掛からない。そして皆人は、兄弟でもトップクラスの身体能力を発揮して、触るだけで良いのにすべて真上に弾いて見せた。

「三人とも地上戦は合格だな。次は空中戦だ」

 壁に付いているボードが最高到達点を測る測定装置になっている。助走なしの両足ジャンプと助走付きの右足踏切と左足踏切の三種類を計測する。

 両足ジャンプでは身長の高さと逆順。最も長身の太一が一番低くて、逆に一番小さい皆人が一番高かった。これは脚力と体重が影響する。武術を修めた太一は筋肉質なので見た目以上に重い。サッカーをやっていた貴真は当たり負けしないように上半身にもある程度の筋肉を付けている。ボード競技に特化した皆人は人との接触を考慮しないので空中姿勢を維持する為に必要最低限の筋肉だけを付けている。

 助走を入れるとより高くまで届く訳だが、注目は左右の記録差である。貴真は軸足の左は良いが右はジャンプが乱れる。がこれは普通の事で、左右で差が出ない太一の方が普通ではない。皆人は右足踏切の方が記録が良い。彼はボードでも右足を前にするグーフィースタイルを得意にしているらしいが、太一ほどで無くても左右どちら方向でも滑れるように訓練しているので、貴真ほど左右の差は出ない。

 いずれにしても、現段階ではお手本で跳んだ希総の記録を越えない。彼が四人の中で一番背が低いのだが。

「三人とも基本的なルールは把握して居るよね」

 勝つための部活動ではなくあくまでも同好会活動なので、基礎練習をすっ飛ばして練習試合をすることになった。三対三のミニゲームの相手として現れたのは、太一と縁の深い島津桃華と大久保姫佳の現役コンビ。そして育休中の西条沙也加であった。

 チーム分けは沙也加がセッターとして男子二人を率いる。もう一組は現役の女子二人に男子一人が混ざる。桃華と姫佳が指名したのは当然太一である。

「じゃあ軽く合わせましょうか」

 沙也加は出産から三カ月を経て、体型もほぼ元通りになっている。沙也加のトスは打ち手の最高到達点に合わせて丁度良い所に上がってくるので、打ち手はとにかく全力で跳ぶことに集中すれば良い。天才肌の貴真や皆人の癖に対応してあっという間に戦力化して見せた。

 さてこれを迎え撃つ桃華の作戦は、

「攻撃は私たちが受け持ちますので、太一先輩には防御をお願いします」

 貴真と皆人の高さに対抗できるのは太一だけ。なので太一にはトスに合わせて跳ぶリードブロックをさせる。そしてこちらの攻撃時にはブロックフォローを行わせた。


「…思ったよりも差が付きましたね」

 と希総が講評する。

「このレベルでは矛よりも盾の方が強いと言う事かしら」

 と悔しそうな沙也加。

 貴真と皆人のスパイクはほとんどが太一の一枚ブロックで止められた。たまに抜けてもそこにはきっちりと姫佳が待ち構えている。逆に貴真や皆人のブロックは、高さでは姫佳に勝るのにコースの打ち分けで外されてしまう。

「あの子は逸材ねえ」

 バレーダンスをしていた姫佳は柔軟性に優れ、腰の捻りと肩の稼働域の広さで、クロスとストレートを直前で打ち換える。素人の一枚ブロックではとてもカバーしきれない。

「肩関節の柔らかさでは春真兄さんも凄かったですけど、姫佳ちゃんはさらに腰の捻りで角度を付けてきますからねえ」

「折角だから希総君も混ざりなさいよ」

 と言われ、

「この面子だと戦力のバランスが」

 素人三人をテストするために女性の経験者を呼んだが、

「取り敢えず一人は当てがあるわ」

 と言ってスマホを取り出す沙弥加。。呼ばれて現れたのは別邸で待機していた相棒の西条総美で、希総の祖母ほのかも沙也加の双子を乗せた乳母車を押して付いてきた。子供たちに授乳させるためである。子供たちの元へ向かう沙弥加と入れ替わるように総美がコートへ降りてきた。

「すこし腕慣らしをしたいわね。桃華、上げてくれる?」

 と肩を回す総美。ママさんバレーのチームに参加していた沙弥加と違って、総美の方は高校卒業以来の筈だが、全くブランクを感じさせない。お手本のようなフォームである。

「希総もサーブ練習しておいた方が良いわよ」

 と総美。

「今日は殺人サーブは禁止だから」

 希総のジャンプサーブは強力過ぎるので、女子相手に使うのは反則過ぎるのだ。

「まだ殺したことはありませんけどね」

 と言いつつジャンプしないサーブを久しぶりに撃つ。

 打点が低いので、いつもの調子で打つとエンドラインを越えてしまう。それを数発の微調整でラインぎりぎりに落とし込んでくる。

「相変わらず機械みたいに正確なサーブねえ」

 と降りてきた沙弥加が賞賛する。

「私一人ならジャンプサーブに挑んでみたいけれどねえ」

 と総美。

「止めておきなさい。もうふぅでも相手に成らないわよ」

「その呼びかたも久しぶりねえ。さーや」

 チーム分けはシンプルに男子対女子。それぞれ四人居るので一人は休みになる。女子チームは桃華を入れて姫佳は審判に廻る。男子チームの三人にはまだ審判は無理だ。男子チームの方は太一と皆人を入れて貴真を休ませる。

 両チームは五分ほど時間を取って作戦会議を行ったが、その内容は試合の過程で紹介する。


 まずは女子チームのサーブから。一番手は総美。男子チームはセッターの希総がネット前に立ち、向こうから見て右手に太一が、左手に皆人が待ち構える。

「サーブレシーブはセッターに返るのが理想だが、最悪でも上にあげる事。高く上げてくれれば後は僕がフォローする」

 希総はレシーブを重視して面子を選んだ。

「攻撃は皆人に集めるから、太一は基本的にはブロックフォローに回ってくれ」

 と希総に言われ、

「二人で同時に攻めた方が良いのでは?」

 と太一。高さでこちらに対抗できるのは総美だけ、に見えるのだが、

「太一兄さんは、沙弥加姉さんの怖さを知らないんだね」

「ブロックは高さではなくタイミングだよ」

 沙也加は背が低い分、打ち下ろす瞬間にいきなり現れるから、却って対応しにくいと言う。彼女にブロックされて調子を乱したスパイカーは何人も居て、エースキラーと呼ばれたこともある。

 総美のサーブを一本で切って今度は希総のサーブ。待ち受ける女子チームはセッターの沙弥加を前に置いて総美と桃華がレシーブに廻る。桃華をセッターに置く手も考えられたが、元リベロの桃華の守備力に期待した様だ。希総の選択は勝敗に関係なく狙いやすい的として左に構える桃華を狙った。

 いつものジャンプサーブほどの威力は無いが、それでも女子には厳しい威力のサーブを、体ごと動いて正面で拾った。Aパスには若干短いが沙也加の守備範囲である。

「オーライ」

 沙弥加は素早く落下点に入るとそのまま背面でトスを上げる。沙也加が動くと同時に相棒の総美は助走を始める。互いに声は掛けない。まあ他に選手が居ないからこのホットラインが使われるのは判り切っている訳だが。

 空中で総美と対峙するのは当初の指示通り末弟の皆人。太一は皆人が塞いだコースの反対側で待ち構える。

「姉さんとの一騎打ちなら、太一兄さんの方が良くない?」

 と皆人。

「総美姉さんを一枚ブロックで止めるのはそもそも不可能だよ」

 と希総。

「あの人は後出しジャンケンが出来るんだ」

 バレーのスパイクは大きく分けてクロスとストレートがあるが、総美は空中でその両者を自在に打ち分けられる。一人では止められないと言うのはそう言う事だ。

「皆人はブロックで片方のコースを塞ぎ、残ったコースを太一が地上で待ち構える。あの人は二人居ないと止められない」

 太一がブロックに跳ぶと、なまじ反応が良すぎるためにその打ち分けに反応してしまう。それで止められば良いが、しくじると味方のレシーブを邪魔してしまう。皆人はそれとは逆で、目の前の相手がどんなトリッキーな動きを見せても、全く動じずに自分の動きを完遂する。マイペースで空気を読まないのがこの末っ子の特徴である。

 傍で聞いていた貴真もその適材適所の判断に舌を巻いた。

「他人事じゃないぞ。お前だっていずれ人を使う立場になるのだから」

 貴真を外したのは外から見て学ばせるためだ。

 皆人は指示通りストレートのコースを塞ぐが、総美はそれを見てクロスへ打ち込む。地上で待ち構える太一がセッターの希総へ綺麗に返す。

「グッジョブ」

 希総が味方を褒めるのは珍しい。

 攻守交替で、今度は皆人が攻撃して総美がそれをブロックする。皆人はそれを先程の姉のフォームをそっくり真似てやり返した。

「映像では見ていたけれど、近くで見ると迫力が違うねえ」

 とはしゃぐ皆人。

「してやられたわ」

 と言いつつどこか嬉しそうな総美。

「あの子は昔から兄や姉の真似をするのが得意だったけれど」

 皆人は専門のボード競技でも他人のトリックを見ただけで真似して、更に幾人かの技を混ぜて進化させたりしている。

「桃華ちゃん、セッターをお願い」

 総美一人では攻撃力が足りないと見て沙也加が後ろに下がった。

 この入れ替えを見た希総は今度は総美を狙ってきた。エースに拾わせて攻撃の足を止めるのがセオリーだからだ。

 総美のレシーブが綺麗にセッターに返ると、左右から総美と沙弥加が同時に助走を始める。総美は今まで通りに皆人が対応するとして、沙也加には太一が付く。これも事前打ち合わせ通りだ。

 沙也加に上がった桃華のトスはやや低め。それを打った沙也加のボールは太一とネットの間に挟まって落ちていく。いわゆる吸い込みと言うやつだが、

「やられたな」

 打点が低い事を逆用してネットすれすれを狙って吸い込みを誘発させる沙也加の裏技だ。トスも敢えてネットすれすれの高さを狙うので、かなりの精度が必要なのだ。

「あれをぶっつけ本番でやってのけるとは、桃華ちゃんも侮れないな」

 これを仕掛ける時には総美がトスを上げる役なので希総も計算に入れていなかったのだ。

「封じる手はあるけれど、まずは向こうのサービスを切ろう」

 と指示を出す。

 沙弥加の無回転サーブ。こちらもジャンプ不可なので揺れは通常よりは少ない。この手のサーブは変化する前にオーバーで処理するのがセオリーなのだが、狙われた太一はこれがあまり得意ではなく、二点連取された。

「取り敢えず上に挙げればいい」

 と言われてようやく対応できた。皆人のセンター攻撃に対して総美と沙弥加の二枚ブロックが付く。打つコースが無いと思われたが、皆人は体を捻って左でクロスを狙う。兄春真のフォームを真似た上に総美のテクニックを加えた複合技である。

「あんなのどうやって止めれば良いのよ」

 と若干切れ気味の総美に対して、

「大丈夫よ。恐らくは狙った所へ打ち込める精度はまだ無いから、ブロックでコースを限定すれば後は地上で対応出来るわ」

 と冷静な沙弥加。

「広角に攻撃出来ると言うのはメリットだけれど、それが最大に生かされるのは中央。裏を返せばセンター戦以外では威力を発揮しない」

「その通りです。まるでチェスのクイーンの様に」

 沙也加の異名であるコート上のリトルクイーンを下敷きにした希総の表現だ。良く誤解されるが、沙也加がクイーンと呼ばれるのはコートを駆け巡るその動きがチェスのクイーンを想起させるからだ。その前に付くリトルと言う形容詞に付いては触れてはいけない。

「そもそもど真ん中から攻撃するにはセッターが邪魔になる」

 希総はトスを上げた後さらりと交わしていたが、

「それにも拘わらず、みーくんはまだボールから目を切れないから、ファーストタッチがセッターの近くに上がらないとそもそも技が出せない」

「初見でそこまで見抜きますか」

 と苦笑する希総。

「仰る通りで、いつでも使える無敵の技と言う訳ではありません」

「左右どちらでも打てるとは言っても、実際には跳ぶ前にどちらで打つか決めている筈で、技術的な問題もあるけれど、経験に裏打ちされた戦術的判断だから、決めているのは希総君ね」

 希総は皆人を諦めて貴真と交代させた。皆人は特定の選手に集中することでその技術を盗む事が出来るが、他の選手の動きを見ていないから戦術的には後手を踏んでしまう。なので一旦外に出て全体を見る力を身に付けさせたいらしい。

「そちらは代えなくても良いですか?」

 と希総に訊かれ、

「こちらはもう少しこのままで行くわ。桃華ちゃんにはまだ教えたい事があるから」

 と答える沙弥加。

 さてサーブは代わったばかりの貴真。普通なら敵陣を見ている筈の希総だが、どんなサーブを打つのかと珍しく後ろ向きで注視していた。その視線を意識したのかどうか、貴真はジャンプサーブを試みて、ネットに引っ掛けた。

「あ、ジャンプサーブは禁止でしたっけ」

 と笑う貴真だが、

「それ以前に、ジャンプサーブの経験はあるのか?」

「いやあ。出来ると思ったんですけどね」

 と頭を掻く貴真。

「お返しに、一回だけ良いですか?」

 次のサーブは桃華である。

「お手本になるかどうか分からないけれど」

 桃華のジャンプサーブを貴真は真正面から迎え撃った。手許で伸びてくるサーブは二の腕で跳ねてそのまま顔面を襲う。避けきれないと判断した貴真はとっさに前に出てヘディングでセッターに返す。低い弾道で飛んでくるボールを顔の前でキャッチする希総。

「ヘディングが得意なのは判ったけれど、ダブルコンタクトは反則だよ」

 と言って敵陣にボールを送る。

「いつの間に希総の殺人サーブを身に付けたの?」

 と揶揄う総美。

「今のは避ければ普通にアウトだったと思うけどね」

 と冷静にツッコむ沙弥加。

 二発目は、普通のサーブだが一発目とほぼ同じ弾道で飛んできた。当然だが威力は前よりも落ちるので普通にレシーブできる筈なのだが、貴真は敢えて前へ踏み込んで頭をぶち当てた。弾道は先程よりも高い軌道を取った。そのままだとネットを越えて向こうのコートへ入りそうだと判断した希総は、

「太一」

 と声を掛けつつ右手を伸ばしてボールの軌道を変える。走り込んできた太一がそのボールを敵陣へ打ち込んだ。チャンスボールを待ち構えていた桃華は慌ててブロックに向かうが間に合わない。

「ナイス、尻拭い」

 と希総に声を掛けられた太一は、

「慣れてます」

 と笑った。

 次にサーブを打つのはその太一である。太一は武術の癖で掌底で押し出すようにして無回転サーブを放った。ボールは三角形を描く三人のちょうど真ん中へ飛んで行ったが、後衛に居た沙弥加がオーバーであっさりと拾った。ボールはセッターの桃華の頭上に上がり、総美と沙弥加が左右から助走を始める。総美に当たるのは皆人と代わった貴真だが、沙也加に対する太一はネットに詰めずに引いて対応する。沙也加の吸い込みを封じる最善手とはブロックしない事である。そして希総はコートの中央に陣取って両方のフォローが出来る位置に居る。

 桃華の選択は総美だった。ファーストタッチが希総になるならそれで十分なアドバンテージだと考えたのだが、貴真が上げて太一が打つ速攻が見事に決まった。

 貴真にセッター経験は無いが、彼はゴール前でのポストプレイを得意としていた。更に、先程見せたヘディングのスキルを見た希総が、

「飛んでくるボールをヘディングで捉えて、その延長線上に手を伸ばす感覚だ」

 と教えたのである。


 これは試合後の感想戦だが、

「太一君でなく貴真君をセッターに使ってきたのは意外だったわ」

 と沙也加。

「太一は目の前の相手の心理を読むのが上手いんですが、それだとアタッカーが打ち易いトスを上げる事が出来ても、それが試合全体で最適かどうかが微妙なんですよ」

 と希総が答える。

「絶対的エースが居て、そこにオープントスを上げるだけで勝てるならそれで良いんですけれど」

「中学時代のそれね」

 兄春真とコンビを組んでいた頃の希総は、ほぼ春真一択で危うく彼を潰しかけた。春真が卒業で抜けた直後の中三に希総のスタイルが完成した。高校では裏方に回ることが多かったこともあって、そこが彼の絶頂期だったと言われる事に成ったが。

「周囲に目配りが訊くのは貴真の方で、太一はそれを側面から支援する。と言うのが二人の役割分担だったようです」

 太一は副官タイプのナンバー2だった様だ。

「それは希総君と万里華ちゃんのコンビと同じね」

「万里華は副官役も参謀役も両方こなしていましたけどね」


 時間を試合に戻そう。

「こちらも交代するわ」

 と沙也加がカードを切ったのは双方の得点が二桁に乗った時点。一進一退で互いに決め手がない状態だった。

「桃華ちゃんには基礎的なスキルはすべて叩きこんだから、次は姫佳さんの方ね」

 姫佳が審判台を降り、代わりに桃華が登った。

 サーブはその姫佳から。彼女は天井を見上げて、

「ここなら」

 と言ってアンダーでボールを高く打ち上げる。

「天井サーブか」

 この体育館は普通よりも天井が高いので、普通ならあり得ない高さまでボールを打ち上げられる。希総なら何とか処理できるが、それでは二人の練習に成らない。太一がアンダーで拾おうとしてしくじった。オーバーで対処するのが定石だが、太一はオーバーがあまり得意では無いので結果は大差なかっただろう。

「次は俺が」

 と意気込む貴真であったが、次は普通のサーブを打ってきた。虚を突かれた貴真はミスをする。

「天井サーブなら、打たれた後でも対応できるから、サーバーから目を離すな」

 と叱責する希総。彼は積極的なミスは責めないが、消極的なミスには厳しい。

 結局天井サーブは初めの一発のみ。

「天井が高いから試してみたかったんです」

 と試合後にあっけらかんと明かした姫佳。

「この子、こう言う怖いもの知らずの所があるから」

 と相棒の桃華が漏らす。

 姫佳の真価は攻撃にこそ発揮された。元々彼女のアタックはブロックしにくい。空中で大きく反り返ってその反動で打つのだが、タメが大きい分だけ通常よりも遅れてくる。合わせて跳ぶとブロックが落ち始めた頃に打ち込まれるのである。男子チームは元々の到達点が高いのでぎりぎりで間に合っていたが、これが同じ女子選手なら完全に間を外されていただろう。その上で、総美の捻り技を混ぜ込んできたのだ。

「直接教えた後輩は誰一人出来なかったのに、見ただけで再現されるなんて。それも一日で二人も」

 と当惑する総美である。

「皆人はボード競技で、姫佳嬢は踊る方のバレーで、空中姿勢を維持する為にインナーマッスルを鍛えていましたから」

 と希総が謎解きする。

「出来ると思ったからふうを呼んで手本にしたのでしょう?」

 と沙也加に言われ、

「参考に成ればと言う程度で、まさか二人ともその日のうちにモノにしてしまうとは、想定以上でしたよ」

「皆人君はともかく、姫佳ちゃんの方は再現と言うレベルを超えたわね」

 皆人は単にクロスとストレートの打ち分けだが、姫佳の方は腰の捻りの角度調整でコースを打ち分けている。もはや別の技へと進化発展している。

「しかし公式戦で目立ちすぎると後々面倒にならないかな」

 と若干反省気味の希総に、

「僕が言うのもなんですが、中央の女バレはあまり強くないですから」

 と前会長の貴真。

「あの二人が跳び抜けて優秀でも、残りの面子はあまり上手くないので、県予選を勝ち抜くのは厳しいと思いますよ」

「姉さんたちの後輩である南高の女子バレー部は粒ぞろいで、県内三強の一角と言われています」

 と太一が補足する。

「代表枠は二校だからねえ」

 と総美。

「まあ県代表枠が一校だけの方が圧倒的に多いんだから、恵まれていると言えなくもないけれどね」

 と冷静な沙弥加。

 試合後、男子チームは備え付けのシャワー室で、女子チームは別棟に移ってお風呂で汗を流した。そしてその後で希総の祖父母を交えての食事会になった。



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