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現代的男女同権ハーレム 列伝2  作者: 今谷とーしろー
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十九の集い

 瀬尾華理那、御堂真梨世、西条恭子。それぞれ三か月違いで生まれた父親違いの三姉妹は、高校に上がってから合同で誕生会を催してきた。華理那が五月生まれ、真梨世が八月生まれ、恭子が十一月生まれなので真ん中の八月がその開催月となっていた。今年はここに同い年の二人を加える事に成った。鵜野天音が六月生まれ、青木沙羅が十月生まれなので八月開催は動かさずに済む。何よりも真梨世が現在海外留学中なので、は夏季休暇で一時帰国している八月が集まれる唯一の機会になる。

「この催し自体が最初で最後だと思うわ」

 と真梨世。

「誕生日を家族で祝う段階から、恋人もしくは配偶者と過ごす段階へと移行する過渡期でしょう」

 現状は真梨世だけ相手が居ない状況である。天音と沙羅は相手を共有するだけにややこしいが、その相手が三姉妹の異母弟であるので、五人は疑似姉妹となる。華理那と天音は同じ大学で、恭子と沙羅はプロバスケで同じチームに所属する。その点でも彼女だけが弾かれてしまうが、

「りせねえは、今は居なくても、来年はお見合いをして結果的に一番先にゴールするんじゃないの?」

 と恭子が言うと、

「結婚がゴールとは限らないけどね」

 と真梨世が皮肉交じりの笑みを浮かべる。

「おまちどうさま」

 総一郎がドーナツを盛った大皿を持って現れる。そう、五人が集っているのは総一郎のドーナツハウスエリアである。

「ではごゆっくり」

 と給仕を終えたらすぐに下がる総一郎。女子会の邪魔をしない気遣いであるが、

「飲み物はコーヒーがデフォルトだけれど、駄目な人はいる?」

 と華理那が給仕を代行する。

 飲めないモノは居なかったが、恭子は砂糖を一杯だけ入れて、沙羅は意外にもミルクをたっぷりと使った。

「一番飲みそうなのにねえ」

 と真梨世が言うと、

「体の大きな二人がコーヒーが苦手だとすると、コーヒーは成長を阻害するのかも」

 一番小さな天音が冗談交じりにぽつり。

「それにしても、瀬尾の小父様はトレードマークのお髭を生やしたままなのね」

 と沙羅が話題を変える。

「私たちは髭アリの方が見慣れているのだけれど」

 と真梨世。

「前に政界を引退した時にはすっぱりと剃って、初めて髭のない状態を見たわね」

 と華理那が笑う。

「今回は委託販売がメインで、接客はこれだけだから。むしろ生やしたままの方が付加価値が高いのよね」

「商売上手ねえ」

 と笑う沙羅。彼女には底意が無く純粋に誉め言葉である。

「それで、誕生会はどうだったの?」

 と華理那が訊ねる。

「映像を見せた方が早いわね」

 真梨世はタブレットで写真を開いた。

 広間の中央にテーブルが置かれて料理が並べられている。

「量が少なくない?」

 と恭子に言われ、

「今回は身内だけだからね」

 二枚目は舞台上の様子。立派なピアノとドラムセット、そして他に演奏者が三名。ピアノを弾いているのは春真で、ドラムが太一。他に貴真がトランペットを吹いていて、

「このクラリネットの女性は見覚えがあるわ」

 と天音。

「万里華先輩ね。南高男子バスケ部を率いた伝説の美少女監督だけど、御堂家の係累だったの?」

 と沙羅。

「戸籍上は太一の従姉よ。母親の滝川千里さんは千万太さんの妹で、瀬尾総一郎総理の凄腕秘書官として知る人ぞ知る有名人」

 と華理那。

「フルートの女性はうちの兄さんの妻の美紗緒さん。北女で私たちの一級上だったわ」

「これがあの室町のご令嬢ね。室町化成を持参金として、御堂製薬と大合併に至ったという」

 と天音が納得する。

「どうせなら動画で見たいわ」

 と恭子。

「それは後で」

 と言って次の写真を開く。真梨世が舞台に立って春真の伴奏で歌っているところだ。そしてその次がバースデーケーキの切り分け作業。

「なんで二個あるの?」

 と沙羅が疑問を呈する。

「一個は私の為のもので、もう一個は太一と貴真、そして皆人の為の進学祝いよ」

「皆人と言うのは?」

 と天音。

「不破皆人。母の従妹瞳さんの息子で、御堂御三家の一つ不破家の跡取りよ」

 と言って次の写真を見せる。皆人が代表でケーキを切っているところだ。

「中央高校の二年で、つまり桃華たちの同級生だったけれど、飛び級で大学生になるの。それも母親と同じT大理三よ」

 我が事のように自慢げな真梨世である。

「と言う事はお母さまの方は医者なのね」

 と天音。

「そう。御堂病院の外科部長よ」

「動画も見せて」

 と恭子が促す。

「良いわよ」

 画面は舞台を広く映し出す。舞台にいる五名は良いとして、舞台下の左手に瀬尾総一郎がポツンと立っている。演奏が始まると会場に入場してくる御堂家の人々を移すために右へ向けられる。

「この映像って、誰が撮っているの?」

 と華理那。

「執事長よ」

 と真梨世が答える。

 列の先頭は御堂家の先代恵美様。その介添えを務める男性が、

「これが太一の戸籍上の父親である千万太叔父様よ」

 恵美の異母弟なので、正確には大叔父である。

「随分とお若く見えるけれど?」

「もう七十代後半よ」

 と真梨世が言うと、

「御堂家の方々は年齢が判らないわねえ」

 と天音。

「次が太一君のお母さんの翼さん。沙羅には滝川校長と言う方が早いかしら」

 その隣に義理の妹である千里が並ぶ。

「次が速水の伯母さまとその夫の貴志伯父さん」

「前総理にそっくりね」

 と天音が言うと、

「二人にとって父親である速水の祖父に似たのね」

 と華理那。

「次が御三家の一角不破家の映見叔母さまとその夫の清彦教授。その後ろが娘の瞳さん。そして息子の皆人と、速水家の千秋ちゃん」

 以上の人々は右手に並べられた椅子に腰掛けていく。

「あれ、瀬尾の小父様は独りぼっちなの?」

 と沙羅。

「馬鹿ねえ。まだ主役が入場していないでしょう」

 と天音が指摘する。

 音楽が行進曲から誕生日を祝う曲に変わり、真梨世が母の真冬と並んで入場する。二人は右手に並ぶ人々に頭を下げながら歩みを進め、総一郎の隣へ向かう。舞台に一番近い所に真梨世が立ち、次が母の真冬。そして父の総一郎となる。

「前総理の御堂家での扱いはと言う訳ね」

 と天音がまとめる。

「動画はもう一本あるでしょう」

 と恭子。

「目敏いわねえ」

 と言いながらそちらを開く真梨世。

 真梨世が舞台上に立ち、兄のピアノ伴奏で歌っている映像だ。

「良いカメラ使っているわねえ」

 と天音。

「映像はもちろんだけど、音声が綺麗に入っているわ」

「うちの兄さんの私物よ」

 春真は自分の演奏動画をネットに挙げていた時期が有って、その当時に使っていたモノだ。

「華理那が高校時代に使っていたモノは?」

「あれは神林の兄さんに借りたもので、解析用でデータ量が多いから、単に記念映像を撮るには高機能すぎるわ」

 そもそも大き過ぎて手持ちでは扱えない。

「恭子はチームに馴染んだの?」

 と真梨世が話題を変える。

「プロだから、学生の部活動とは全く違うのだけど」

 と恭子。

「ちょっと面倒な先輩はいるわね」

「強豪校に居た天音は判るだろうけれど、弱いチームならエースに成れるけれど、出番が貰えなくて鬱憤を抱えている選手が居るでしょう」

 と沙羅。

「スターターには及ばなくても、控えの二番手としてそれなりに出番のあるタイプ。そう言う選手は下から上がってくる、特にルーキーには当たりが強いモノで」

 沙羅が入団した時にも厳しく当たってきた三人組が居た。

「余りに鬱陶しいので三対一での五本勝負を挑んだわ」

 最初の一本目。先攻の沙羅はいきなりスリーポイントを放つ。試合での成功率は三割弱なので相手も全く警戒して居なかった。

「練習では結構入るのよね」

 と華理那。

 沙羅がスリーを打つ場合と言うのは大きく分けて三通り。一つはシュートクロックぎりぎりの局面で入れば儲けものと言う場合。二つ目は自分に二人以上のマークが付いている場合。以前の沙羅ならば強引に抜きに行くところだが、そこで冷静にロングシュートを放つ。と言う選択肢を教えたのが華理那だ。

「自分に二人以上付いているなら、味方の誰かがフリーになっている。だからシュートを外しても味方がリバウンドを取ってくれる可能性が高い」

 これは西条総志の得意パターンで、ポイントガードも出来る彼は敵を引き付けておいてパスを選択するのだが、沙羅にはそこまでの視野の広さは無いので、取り敢えずリングを狙って味方のフォローに期待すると言う手法になる。

 そして三つ目の場合が、初対決の初っ端。これは神林希総の仕込みだ。

「僕の場合は最初のセットアップでいきなりツーアタックを狙う。とにかく敵に考えさせる事で、反応を少しでも遅らせる事が出来れば成功だ」

 先制パンチが見事に決まり、攻守交替。

 向こうは三人居るのでシュートとドライブの他にパスと言う第三の選択肢がある。身長差のミスマッチが有るのでシュートは無理だ。太一からのディフェンス指南で学んだことだが、相手を止めるには相手の選択肢を減らす事。更に一歩進んで選択を誘導出来れば最善である。この場合、パスをさせてカットするのが相手へのダメージが大きい。なので沙羅は一歩引いてドライブに備えてパスへ誘導する。パス相手の位置は後方で見えないが、相手の視線で大まかな位置は判る。逆方向を見ながらパスをする、程度のフェイクは入れてくるが、それが逆に沙羅のパスカットを成功させた。初手にスリーを決められたことで、相手は明らかに焦りを見せていた。

 沙羅の二度目の攻撃。シュートをフェイントに使って一人目を抜き去る。後方にいた二人が左右から挟み込んでくるが、距離を詰められる前にシュートを放つ。体格差を有効に使うためにあえて相手にファールをさせつつシュートを決めてバスケッとカウントを貰う。フリースローも決めて六点。

 先輩チームの二度目の攻撃は、焦ってスリーを狙おうとして見透かされた。沙羅はシューターの位置をあらかじめ確認しておいて、わざとそちらへパスを誘導し、素早くシュートブロックへ動いた。三人居るのだから、パスを回して慎重に攻めればよかったのに。

 沙羅の三度目は、ドライブからのダンクシュート。三人は連携が取れずにあっさりと抜かれてしまう。

「もう良いでしょう」

 観戦していた主将が止めた。これ以上続けると三人が自信を喪失して使い物にならなくなると判断したのだ。

「同じ面子が恭子にも喧嘩を売って返り討ちにあっていたわね」

 と沙羅。

 沙羅のマークに付いたのは控えのポイントガードの選手だったが、恭子の時には初めからスリーポイントを警戒してシューターが付いていた。それに対して恭子は、ドリブルからアンクルブレイクを仕掛け、相手の体勢が崩れた所でシュートを放つ。

「あれはえげつなかったわねえ」

 と現場を見ていた沙羅がため息をつく。

「あれで心が折れるようなら、プロは辞めるべきだわ」

 敵は恭子がドリブルを始めた時点で、シュートは無いとみて距離を置いた。横を抜かれない為だが、アンクルブレイクを防ぐためには距離を詰めてドリブルのスペースを潰すべきだった。スリーが得意でない沙羅と違って、恭子は高校最後の大会でシューティングガードとしてベスト5に選ばれている。

 そして攻守交替。恭子は右手を相手の顔の前に突き出して視界を遮りつつ、左手を横へ広げて突破を妨害する。相手は恭子の右をドリブルですり抜ける事を選択する。いや選択させられたというのが正しい。横を通った時に、恭子の右手が降りてきてボールを掻っ攫う。ドリブルしている右手にの下に自分の手を置いてそのまま自分のドリブルに変えてしまう、総志が得意とするテクニックだ。これは恭子が初めて習った技であり、総志とプレイしたことのあるん仲間は全員が教えられる。ドリブルで味方とすれ違いながら相手に渡すトリックプレイで、味方同士で息を合わせればそれほど難しくはない。これを敵に対して仕掛けるとなると途端に難度が跳ね上がる。南高ではこれが出来ないとガードポジションを任せられない。

「貴方達も懲りないわねえ」

 ここで主将からの待ったが入るが、

「止めないでください。彼女たちには引導を渡す必要があります」

 と恭子。

「貴女、可愛い顔に似合わず過激ねえ」

「実力はあっても伸びしろの無いベテランよりも、将来性のある若手に出番を与えるべきです。それがチームの為であり、ひいては…」

 本人の為。バスケを辞めて再出発するなら早い方が良い。と言う言葉はある意味で大きなお世話なので呑み込んだ。

「そう言う事なら私も協力するわ」

 と沙羅が加勢に入る。

「面白そうね。私も混ぜて」

 と言ってきたのはチームの司令塔。代表チームでもポイントガードを務める夏目茜であった。

「それでどうなったの?」

 と華理那が訊ねる。

「試合は一点も与えずに完封して、心の折れた三人はその場で引退を表明。一人は生まれ故郷へ戻って再就職。一人は教員免許を持っていたから、教壇に立ちつつ指導者の道を進むそうよ」

 そして三人組のリーダー格はコーチとしてチームに残る選択をした。彼女は決して天才では無いが、そうであるが故に指導者としては優秀だった。かつて彼女にチームを追われた過去の選手たちも今は新たな道で活躍している。つまりは自分がやってきたことを恭子たちにされたことになる。

「なんだか良い話風にまとめているわね」

 と真梨世がツッコむと、

「三人にもし行き先が無かったら、再就職先の紹介をする心算だったのよ」

 兄たちに頼めばそれなりの就職先を用意できる訳だが、それを事前に教えてしまうと真剣勝負が成立しない。この勝負はお局的な先輩たちを追い出すと同時に、残ったメンバーの士気と結束力を高める目的が有ったのだから。

「天音さんは、りなと同じ大学って聞いたけど」

 と話題を転換する真梨世、

「それって偶然なの?」

「それは私も聞きたいわ」

 と華理那も乗っかってきた。

「大学で会った時に、貴女もこの大学だったのねとか言われたけれど」

「偶然よ。いくつかあった私の志望校の中に華理那さんの進学先が有ったのは」

 と開き直る天音。

「調べた訳では無いのよ。偶々聞きつけたから」

「…太一ね」

「ええ。志望校の話をしていたら、その流れで教えてくれたわ」

「誘導尋問でもしたんでしょう?」

 と華理那に問い詰められると、

「私が遠回しに聞き出そうとしていたら、向こうが察知して教えてくれたわ」

「…あの子、基本的に女に甘いわよねえ」

 と言ったのは真梨世。

「私が華理那に敵意を持っていないことが伝わったからだと思うわ」

 と天音。

「誑し込んだんじゃないないの?」

 と冗談交じりの華理那に、

「まあ太一経由だと周りに説明しづらいわよねえ」

 と華理那が察する。

「要するに体裁を整えるために、私が引き合わせたことにして欲しいと言う訳ね」

 呑み込みの早い真梨世である。

「それなら、師匠から舞台の切符を二枚貰っているから一緒に行きましょう」

「りーせには一緒に行く相手が居ないものねえ」

 と華理那がからかう。

「意外ね」

 と天音。

「普段はクールなイメージなのに、身内だけの時にはそう言う軽口も叩くのねえ」

「この子はこっちの方が素よ」

 と真梨世が言うと、

「総理の娘って大変なのよ」

 と華理那がぼやく。

「りなねえは一人だけ矢面だものねえ」

 と恭子。瀬尾総理の娘は華理那一人ではないのだが、彼女の場合はファーストレディである矩華の娘である為に公式の場に出る事も多かった。父総一郎が引退した今も兄矩総が官房長官として政界に闊歩しているので、彼女の立場は今だ重要である。

「兄さんには美人妻が居るから負担は若干減っているけれどね」

「判るわ」

 と天音が共感を示す。

「自分自身のモノではない看板を背負わされるのは大変よね」

 天音自身も元総理の孫と言う肩書を背負っている。天音の母は元総理の娘であるが、女優として先に名前が売れて、父が政治家だと言うのは後から付いてきた。娘の名に引っ張られて知名度が上がり結果として総理の椅子に座る事に成った様だ。それに対して天音が子役として名を売り始めたのは祖父が総理に成った時期と一致している。

「華理那と親しくなりたかったのはその所為だったのね」

 と沙羅に指摘されて、

「それも一因であることは否定しないわ」

 天音の祖父と瀬尾総一郎は政治的に緊密だったので、現役当時に二人が知り合う可能性はあったが、

「あの当時は子役として忙しかったから」


 鵜野天音は御堂真梨世と共に水瀬麻里奈の舞台を鑑賞し、その後彼女の楽屋で”正式の対面”を果たすのだがそれはまた別の話。

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