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現代的男女同権ハーレム 列伝2  作者: 今谷とーしろー
14/31

太一と真梨世と

 異母姉の御堂真梨世から彼女たちを紹介しろと言われた滝川太一は真っ先に島津桃華に連絡を入れた。姉が弟の彼女を品定めすると言うどこにでもある話だが、この時点でおかしなところが複数ある。姓が違うのは異母兄弟だから不思議ではないが、紹介するのは彼女たち、具体的には五名である。真梨世はまだ正確な人数を知らないが、複数の彼女が居る事をすんなりと受け入れられたのは、二人が異母姉弟であることと無関係ではない。真梨世の方は母の違う兄弟姉妹の存在に慣れている。慣れないのはむしろ太一の方だろう。

 太一は十人の兄弟姉妹の内、御堂系の四人とは兄弟と知らされずに付き合っていた。そのうちの二人、御堂春真と滝川万里華は予め弟だと知った上で引き合わされていた。真梨世は知らされてはいなかったが、その顔立ちを見てそれとなく察していただろう。太一が実父の瀬尾総一郎にそっくりに生まれ付かなければ、兄弟とは知らされずに過ごしたかもしれない。末っ子の不破皆人は、兄妹と知る前後で変化を見せなかった。

「僕が末っ子であることに変わりはないからね」

 気付いていたか否かについては明言しなかった。


「少なくとも私は紹介される必要は無いわね」

 と言うのが桃華の第一声だ。

「真梨世姐さんとの付き合いは僕よりも長いにだからね」

 桃華の祖母瀬尾さくらは御堂病院の看護師長であり、母楓は御堂病院で桃華を産んだ。御堂家のお嬢様である真梨世にとっては桃華は赤ん坊のころから知っている妹も同然。後から弟だと知った太一よりも親しい存在だ。

「私から他の四人に連絡を取るわ」

「それまでに前倒しで引っ越しを済ませておくよ」

 太一の荷物はそれほど多くないので一両日中には完了するだろう。

「御堂さんなら既に顔見知りだけどねえ」

 桃華が真っ先に連絡を付けたのは青木沙羅だった。

「私も紹介される必要は無いと思うのだけれど」

 沙羅は太一の異母姉瀬尾華理那と同学年で、彼女の下で副会長をやっていた。真梨世は同時期に他校の会長をやっていたので面識がある。

「全員が顔を揃える事に意味があるんだと思いますよ」

「それはそうね」

 とあっさり納得して、

「それにしてもやっぱり彼女も瀬尾総理の娘だったのね」

 真梨世の同母兄春真に付いて総理本人が息子だと公言した。言われてみれば顔立ちが似ているのだが、それまでは真冬が速水秀臣の娘だから祖父からの隔世遺伝と言う理解だった。その親娘関係が否定されてみれば、父親似と言う説明に納得するしかない。真梨世に関しては母親似だったので、父親に付いて触れられてこなかった。

「ともかく、沙羅さん以外は学生で夏休み期間だから、沙羅さんのご都合が最優先なんです」

 沙羅は高校在籍中にプロバスケ選手として契約を結び、今季は二年目である。

「今はシーズンオフで自主トレがメインだから時間は自由になるわよ」

 桃華は沙羅の予定を確認して次に進む。

「その件なら華理那から聞いたわ」

 と鵜野天音。

「天音さんはいま華理那さんと同じ大学でしたね」

「今隣にいるわよ」

 と言って華理那と替わった。

「沙羅と天音は私が車で連れて行くわ」

「送って下さるのですか?」

「同席するわよ。知り合った経緯について説明する責任があるし」

 とここまでは良いが、

「大久保姉妹に付いては春真兄さんが対応してくれるそうだから」

「御堂の御曹司がわざわざ?」

「卒業を控えた今が一番暇なのよ」

 同級生が就活の追い込みの最中にあるが、春真は既に行き先が決まっている。

「日程を双子に連絡して、春真兄さんと調整してもらってね」

「私は春真さんの連絡先を知りませんけれど」

「大丈夫よ。あの二人が知っているから」

 と言う事で姫佳と連絡を取る。紛らわしいのだが、電話の登録名は風間唯衣になっている。

「御堂のお姉さま、お帰りに成っていたのね」

 と返されて、

「真梨世さんと面識があるの?」

「無いわ。五校対抗戦の時に遠目でお見かけしただけ」

「御堂の春真さんが二人を迎えに行くと言うのだけれど」

「こちらから電話して調整すれば良いのね」

「話が早いわね」

 実際に春真に電話して調整をしたのは妹の唯衣だった様だが。


 当日。太一は荷ほどきを終えて部屋の掃除を済ませると食事の準備に取り掛かる。

「物が少ないわね」

 最初に到着したのは年長組。沙羅と天音を送迎してきた華理那の台詞である。

「元々荷物はマンションに一室に収まる程度しかなかったからね」

 冷蔵庫だけは千種が置いていた大型のものを使い、部屋で使っていた小さなものは一人暮らしを始める貴真へ譲った。

「実家から持ってくるものは無かったの?」

「海外を放浪した経験を持つ父の訓えも有って、余り物を持たない主義なんです。本も電子書籍で事足りますし」

「うちの父は紙の書籍が良いって、電子書籍を持ちたがらなかったけれどね」

 と華理那が言うと、

「父さんは若い頃に苦労しているから、本を所有すると言う事に執着を持っているんでしょうね」

「ちょっと気になったのだけど」

 と天音。

「父と父さんてどう使い分けているの?」

 太一には社会学上の父と生物学上な父とが居る。

「僕が公的な場で父と言えばそれは滝川の父を指します。もう一人の父を話題に出すのは身内しかいない時だけで、その場合には文脈で理解できる筈です」

 そこへ春真が大久保姉妹を伴って到着した。

「やあ青木さん、今日は。そして鵜野さん、始めまして。御堂春真です」

 と言って恭しくお辞儀をする。右手を体の前に添え、左手は水平よりやや下げて横へ広げ、右足を引いて頭を下げる。ボウアンドスクレイプと言うやつだ。

「お久しぶりです。御堂先輩」

 沙羅と春真は三学年違うので高校では出会わなかったが、御堂家主催のストリートバスケの大会で面識がある。

「名字で呼ばれるのは滅多に無いので新鮮です」

 天音は子役として顔が売れているので、初対面でも下の名前で呼ばれることが多い。

「折角広かったのに、兄さんが来たら一気に狭くなったわね」

 マンションは六畳二間だったのに対して、この家は二階建てでそれぞれ八畳間が四つと十二畳が一つ。二階は全て板張りだが、一階は八畳間の二つが板張りで残りは畳敷きである。

「妹キャラの貴女を見るのは新鮮ね」

 と華理那をからかう沙羅に、

「そんなに違う?」

「華理那は俺に対してだけこんな感じだからね」

 と笑う春真。

「実の兄だと誰もが知っている矩総兄さんや希総に対しては公私で対応を変える必要が無いけれど、俺は少し事情が異なるから」

「それは面倒じゃないの?」

 演技のプロであった天音は興味を示すが、

「全くの別人を演じる訳では無いから」

 と華理那。

「全くの別人を、仮面を付け替えるように自在に演じる人が身近に居たからねえ」

「水瀬先生から演技指導的なモノでも?」

 と喰い付く天音。

「それは特に必要なかったよ」

 と春真。

「幼少期には父は子育てに関与してこなかったし、父だと教えらえたのはある程度理解できるようになったからだったな」

「真冬さんは公私一貫して兄さまと呼んでいたしねえ」

 そして真梨世が島津桃華を連れて到着した。

「やっぱり兄さまも居たわね」

 と真梨世。

「派手な外車が停まっていたからもしやと思ったけれど」

 春真の車は赤いドイツ車なので街中を走っていると目立つ。華理那の車は国産の軽だが、今回は真梨世に貸して自分は希理華の車を借りてきた。真梨世が希理華の車を借りれば良さそうだが、真梨世は行き先である太一の家の住所を知らない。華理那の車なら太一の家の住所も登録してあるので自動運転で行ける。


「続きは食事をしながら」

 と言いながら太一が配膳を始める。

 コの字に並べられた箱膳の下座に太一が座る。上座の位置は空いており、お誕生日席と言うよりも被告席と言うのが正しいだろう。顔ぶれから言えば上座に座ってしかるべき春真は右手の一番手を占める。年齢順に華理那と真梨世、そして桃華が太一に一番近い位置に座る。太一から見て左側にはやはり年の順に沙羅と天音、姫佳と唯衣が並ぶ。

「一番手が青木沙羅。彼女に説明は不要ね」

 と華理那が紹介を始める。

「その次が鵜野天音」

「ああやっぱり」

 と真梨世が食い気味に反応した。子役時代のファンだった真梨世は困惑しつつ、

「…父さんの関係かしら?」

「全く無関係とはいえないけれど」

 と微笑む天音。

「政界ルートならば太一君ではなく矩総さんを狙うわ」

 祖父の元総理が存命なら実際に縁談が持ち上がったかもしれない。

「彼女は子役を辞めた後、九州の強豪校でバスケをしていて、ポイントガードとして高校八連覇を成し遂げたわ」

 と華理那が説明する。

「私が唯一の黒星を喫したのが昨年の国体。開催県の選抜チームを率いた華理那さんでしょう」

「神奈川が誇る二大エース、西条恭子と青木沙羅が居れば、私は必要なかったと思うけどねえ」

「当時は元総理の孫娘と現総理の娘の対決と言う事でニュースにもなったのに」

 と華理那が言うと、

「まりは興味のない情報は耳に入らないタイプだから」

 と春真が苦笑する。

「恭子は逆に昔の私を知らなかったわね」

 と天音。

「恭子が全国には私よりも凄い選手が居ると言っていたけれど、貴女の事だったのね」

 と納得しつつ、

「りーなは天音さんの事をいつから知っていたの?」

「私の天音に対する認識は元総理の孫娘と言う事よ。実際に有ったのは国体の時だけど」

「私が太一君を紹介してもらったのはその後よ」

 太一は貴真と一緒に恭子達の応援に行って天音の目に留まったのだ。

「その隣は大久保姫佳嬢と風間唯衣嬢。見ての通り双子の姉妹だけれど、下の子は生まれてすぐに養子に出されたので姓が違っている」

 と春真が紹介を始める。

「二人の母親は初代の箱根姫で、当時の三代目獅子王と県を二分する存在だった。代を重ねるにつれて西の勢力は東進を続け、ついにこちらの勢力圏に入り込むようになったので、十代目の太一が敵地に乗り込んで片を付けた」

「命じたのは九代目だった兄さんですけどね」

 と太一がぼやく。

「初代、つまり父さんの頃には、県内はおろか箱根の関を越えて、伊豆の辺りまで傘下に置いていたらしいわ」

 と華理那。

「そんな初代が消えた後、西の象徴が箱根姫で、東では継承戦争を勝ち残った三代目獅子王が誕生した」

 三代目の息子が華理那の恋人竜ヶ崎麗一である。

「初代の箱根姫は青年党系の地方議員の後押しで箱根市長を務めているわ」

 就任時は少数与党だったが、今は青年党系だけで過半数を押さえている。

「姉の姫佳は中央高校に転校してきて、バレー部で私のチームメイトになっています」

 桃華が双子の入れ替わりに付いて説明すると、

「無茶するわねえ」

 と苦笑する真梨世だが、

「それだと二人まとめてとなるのも無理ないわねえ」

 と理解を示した。

「桃華ちゃんが私だけにして、と頼めばこういう状況にはならなかったんじゃないの?」

 太一は父の総一郎と違って初めからハーレムを目指していた訳では無いのだから。

「その助言は完全に手遅れだけれど」

 と苦笑しつつも、

「結果として桃華ちゃんは希代乃さんの役回りを背負っていたのよね」

 と華理那が分析する。

「あれを一人で受け持つのは無理よ」

 桃華は頬を赤らめて俯きながら太一の方をちらりと見た。

「太一さんって料理がお上手なのですね」

 一見して空気を読んでいないかのような姫佳の発言だが、淀んだ空気を入れ替えようとして無意識に出るらしい。

「貴女方四人はどの程度料理が出来るの?」

 と真梨世。

「その発言は小姑臭いわねえ」

 と華理那に茶々を入れられて、

「うるさいわねえ」

「私は一通り出来ます」

 と唯衣が言うと、

「多分唯衣さんがこの中では一番ね。りーせと同程度かしら」

 と華理那。

「だとすれば全員太一より下手と言う事ね」

「天音は、スキルは身に付けているけれど、経験不足でレパートリーが少ない。レシピを見ながらなら作れるのだけれど」

 と評されて、

「脚本通り演じられるけれど、アドリブが効かないの」

 とやや自虐的に答える天音。

「子役時代はそれでも通用したのだけれど」

 そこを一歩抜けるにはやはり人生経験が必要だ。

「高校に入る前の矩総兄さんも似た様な評価だったわね」

 と真梨世が言うと、

「似たタイプだから、合わないと判断されたのでしょうね」

 と華理那も同意する。

「姫佳さんは鋭意練習中で、沙羅は専門以外はからっきしよ」

「昨年のバレンタインチョコは普通に食べられましたよ」

 と太一がフォローに入るが、

「あれは融かして型に流し込んだだけだから、食べられないモノだったら大問題よ」

 と苦笑する華理那。

「そうよ。華理那の教えた通りにやったのだから。ねえ桃華ちゃん」

「あれは自分としては上出来でした」


 帰りの組み合わせはシャッフルになった。沙羅が春真の外車に乗ってみたいと言い出したのだ。

「一番遠い唯衣嬢を乗せるとして、まりも乗って行くか?」

「私は希理華姉さんの車を返さないと」

「それなら僕が乗っていきますよ」

 と太一。

「荷物は全部運んだんじゃないのか?」

「祖父の四十九日もありますから、一度実家に帰ります」

 太一は礼服だけ持って希理華の車でマンションへ向かう。車を希理華に返したら、そのまま電車で帰る心算だったのだが、

「そう言う事なら家まで送るわよ」

 と言われて希理華の運転で実家に戻った。

「お帰り、太一」

 母の翼が出迎えてくれたが、その背後に叔母の千里も居た。

「お祖母さん、具合が良くないんですね」

 太一は病床を見舞おうとするが、

「今は止めておいた方が良いわ」

 と千里が言う。

「鎮痛剤で眠っているけれど、記憶が混濁しているから、起きて貴方の顔を見ると別の人物と間違えてしまうから」

「私たちも、千里さんも明日は欠席するから、万里華ちゃんと二人で行ってね」

 滝川家の人間が欠席しても問題ないが、速水秀臣の孫を全員揃えるのが今回の趣旨である以上、太一と万里華だけは欠席できない。


 少し時間を戻して、春真の車に乗った真梨世の動きを追う。

 まず青木沙羅を宿舎で降ろす。派手な外車に乗って帰ってきた沙羅はチームメイトからの質問攻めにあった。困っていた沙羅を救ったのは、すこし後に帰ってきた西条恭子である。

「ああ、御堂の御曹司も一緒だったんですね」

「御堂の御曹司?」

「お忘れですか、この青木沙羅は高校時代にあの総理の娘瀬尾華理那の相棒だった女ですよ」

 春真も前総理の息子で、沙羅と同じ高校の先輩でもある。

「御堂先輩はすでに妻帯者ですし、御堂家はWBリーグのスポンサー企業の一つですよ」

 話はそこでお終い。

「手慣れたものね」

 と沙羅に言われ、

「別に嘘は言っていないわ。余計な情報を省いているだけよ」

 春真の車は小田原の大久保邸で姉の姫佳を装っている妹の風間唯衣を降ろす。これが夏休み中で無かったら、箱女の校門の前に付ける事に成り、沙羅の時と同様の騒ぎを招いたであろう。

「唯衣さんはあの中では一番普通かと思ったけれど、実際に話してみると只者ではなかったわね」

 と真梨世。

「まあ普通の女性ならこの状況は受け入れないだろうさ」

 と苦笑する春真。

「なんと言うか、速水の伯母さまに似ているような気がしたけれど」

「同感だな。大久保姉妹の会話を聞いていたら、母と伯母のそれに近いように思えたよ」

 天然な姉が二人の母である真冬に似ていて、理知的な妹の方が伯母の真夏に近い。

「企業体である御堂家ではうちの母を担いだけれど、政治に携わる大久保家では事情は異なるだろうな」

 政治家としては唯衣の方が向いているかもしれない。

「それは本人が継いだ場合でしょう?」

 と真梨世が異議を唱える。

「と言うと?」

「婿を後継者にした場合は別。大久保家の姫と言うのは確かに大きな看板ではあるけれど、太一を婿にするなら、総理の息子と言うより大きな看板に書き換えられるわ」

「その場合、どちらを太一の妻に据える事に成るのだろうなあ」

 いや太一のハーレムには元総理の孫娘も居るのだが、

「いずれにしても、太一が政界に行くなら矩総兄さんとの折衝が必要になるだろうなあ」

「太一さんが政界に乗り出す場合、御堂家が後見するの?」

 帰宅後に話を聞いた美紗緒がそう訊いてきた。

「そうか、傍目にはそう見えるんだな」

 矩総は神林家の血縁であるが故のその支援を受けて選挙を戦っている。太一は御堂の一族として処遇されているのだからそのあと押しがあると考えるのが自然だ。

「本人が出たいと言っている訳でもないのだから、周りが急いても意味が無いわね」

「自分から出ると言い出す子では無いわね」

 と真梨世。

「矩総兄さんが声を掛けて、春真兄さんが支援を約束すれば別だけど」


 翌日、速水邸で先代秀臣の四十九日の法要が営まれた。公務を理由に通夜と葬式に来なかった総一郎も参列したが、それ以上に大きいのが海外に居た真梨世も加わって十三人の孫が一堂に会したことだ。

 最初に到着したのが春真と美紗緒の夫妻、それに同行する妹の真梨世であった。前日から泊まり込んでいた母の真冬に出迎えられる。続いて華理那と恭子。華理那が恭子を乗せてきたようだ。皆人が母の瞳と一緒に、希総が母の希代乃と一緒にそれぞれ到着。その次が太一と万里華。そして総志の家に泊まっていた総一郎と矩華。志保美とみちる、総志と沙也加、生まれたばかりの双子が来て、最後が矩総と千種である。希理華が居るので本来なら千種は待機の筈なのだが、欠席した千里の代理として席に着いた。

 御斎における孫たちの序列は、速水家の貴真と千秋が筆頭なのは当然として、次が本家筋である春真と真梨世、そして御三家の皆人と太一、万里華と続く。そして速水家と縁の深い西条家の総志、総美、恭子。矩総と華理那、最後に希総となる。

 適当な時間で矩総と千種が公務に戻り、方丈さんも席を立った。総一郎が下から順に回って来て、百恵の具合の万里華に訊ね、見舞いの約束を交わした。

「太一の引っ越し先は決まったのか?」

 と訊かれた太一。

「千里さんが秘書時代に使っていた東京の家を紹介してもらいました」

「あの家は伯父の名義なので、返却と言うのが正しいですね」

 と万里華が言い添える。

「あれは一人で暮らすには広すぎないか?」

「まあ、実質一人では無いから」

 と言ったら苦笑しつつも納得した総一郎だった。

 春真のバイオリンの伴奏で万里華がレクイエムを熱唱し法要は終わりとなった。


 太一と万里華は滝川邸へ戻って、総一郎が見舞いに来たいと言っていたと伝えると、千里はすぐに連絡を入れた。

「明日、奥様とご一緒にいらっしゃるそうよ」

 と兄に伝えてからそわそわしだして、

「ちょっとシャワーを浴びてくるわ」

「来るのは明日でしょう」

 と娘の万里華にツッコまれている。

 翌日、太一と万里華は祖母の様子を見に部屋へ入った。

「旦那様、にしては若いわね」

 百恵は太一を見てそう言った。

「旦那様はもうすぐいらっしゃいますよ」

 と万里華が気を利かせて話を合わせる。記憶が混乱して居る百恵は、万里華を娘の千里だと勘違いした。そこへタイミングよく総一郎たちが到着した。

「旦那様、このような場所へ足をお運び頂き恐縮です」

「具合はどうだい?」

 状況を察した総一郎は余計な事を言わずに枕元へ寄って太一と交代した。

「申し訳ありません、旦那様。百恵はお嬢差の元へ逝きます」

「少し休め」

 と総一郎が言うと、百恵は眠りに落ちた。それから三日後、滝川百恵はそのまま意識を取り戻すことなく安らかに息を引き取った。

 葬儀はひっそりと家族葬と言う事で、姪の滝川千種を含む滝川姓の六名だけで行われた。速水真夏、御堂真冬、そして瀬尾総一郎の三名から花が届けられ、千万太と翼、千里のそれぞれの勤め先から弔電が届いた。

「お墓は用意されているのですか?」

 と千種に訊かれ、

「もしお決まりで無かったら、うちの墓に一緒に入れてはいかがでしょうか?」

 千種の母と祖母は都内の霊園に眠っている。百恵にとっては母と妹になる。母親はともかく父親の違う妹とは一緒に暮らしたことが無いのだが、

「別々に埋葬するよりも良いかもな」

 と千万太。

「本音を言うと、管理費が折半出来て助かりますから」

「いや、むしろ今まで丸投げにしていて申し訳なかった」

 納骨は四十九日を待って行われるが、その際に管理者を千種から千万太へ変更することも合意が出来た。



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