第1話:襲来
「ありがとな、アイリ……」
俺はアイリに渡されたネックレスを首に飾り、アイリにお礼を言った。
母さんに貰ったネックレスを今まで無くしてたなんて、本人の前では口が裂けても言えないなー。
「でもさ、これってどこにあったの?」
二週間かけて必死に探したけど、どこにも無かったんだ。一体、どこで……。
「分からない。気付いたら私の部屋に置いてあって……」
「ま、まじかよ……。それってアイリが俺のネックレスーーぶはっ!!」
全部喋らない内にアイリにビンタされてしまった。
「知らないって言ってるでしょ?」
「ご、ごめん……」
とにかく、無事見つかってよかった。
「それより、ミルネさんがライトを探してたよ。早く帰って来なさいってさ」
「あぁ、分かった。じゃあ、そろそろ帰るか……」
帰ろうと一歩踏み出した時に急にアイリに腕を捕まれた。
「ん? 何?」
アイリは真剣な顔つきで俺を凝視している。
「もしかして……島を脱け出そうとしてないよね?」
図星だった。
俺はすぐにでも島を出て消えた父さんと母さんを探したかったんだ。
けど、この島の人達は多分誰も許してはくれないだろう。
「いや……。そんな事は考えてないよ。もし、俺までいなくなっちゃったらミルネさんが悲しむだろ?」
ミルネさんは俺のおばさんにあたる人だ。悲しませたくないのは本心だった。
でも、俺は父さんと母さんに会いたい。
何故俺の前から居なくなったのか。何故この島から出ていったのかを聞きたいんだ。
「うーん。信じていいのか、いけないのか。ライトは最近何考えてるか分からないからなぁ……。ってね」
月を見上げていたアイリは俺の方を向いて微笑んだ。
~~~~~~~
家に戻るとミルネさんが晩ごはんを作ってくれていた。机には大きな焼き魚や野菜のスープに牛肉のステーキまで用意されている。
「また砂浜にいたんでしょ?」
ミルネさんが険しい顔で俺の顔を覗いてくる。それでも俺は構わずスープを口に運んだ。
「うん。うめー、このスープ!! やっぱミルネさんの手料理は最高だよ」
「島を出るなんて絶対に反対だからね」
大袈裟に言って話を変えようとしたけど、到底無理だった。
間髪入れずにすぐ俺は焼き魚に食いついた。
「この魚も最高に美味いなー!! 俺は幸せ者だ!!」
またしても同じ作戦に出てみる。
「ねぇライト、聞いてる!?」
眉間にシワを寄せたミルネさんが思いきり机を叩いた。こうなったらもうきちんと話すしかない。
「知りたいんだ……」
唐突に切り出した俺をミルネさんは黙って見つめる。
「突然消えた父さんと母さんはどこに行ったのか。海の向こうに二人がいるんなら俺は会いに行きたい。手掛かりは何も無いけど、いつか絶対に探しだしてみせる」
ネックレスを強く握って俺はミルネさんに訴えかけた。
「駄目よ……。それでもライトはこの島を出てはいけないの」
「何で? 何でだよ?」
俺には何か島を出てはいけない理由があるのか?
それが父さんと母さんが消えた原因にでもなるのか?
考えれば考える程、疑問が浮かんでくる。
「だってあなたは……」
そうミルネさんが口を閉ざし、ハッとした表情を見せた瞬間だった。
けたたましい爆音と共に、目の前が真っ暗になった。
何が起きた?
「い、い痛っ……。ミ、ミルネさ……ん……」
全身が痛い。身体中に激痛が走った。意識が遠退いていく。
~~~~~~~
「うっ……」
目を覚ますと暗闇の中に俺はいた。
辺りがどうなったのか全く把握出来ない。
気付いたのは仄かな火薬の臭いと、血の臭い。
幸いにも俺自身は軽い怪我で済んだようだ。
それよりも、ミルネさんの安否が心配だ。早く確認しないといけない。
「ミルネさん!! ミルネさん!!」
精一杯叫んで呼び掛けてみたが返答がない。
「ミルネさん、返事をしてくれ!! ミルネさん!!」
手探りで回りを触ってみたが、何もないみたいだ。爆発か何かに巻き込まれたんだろうか?
静まり返る辺りに俺は焦りを感じた。
「ミルネさん!!」
「ミルネさん!! ミルネさん!!」
何度呼び掛けても返事がない。
その時だった。
「全く……。最近の子供はうるさいねぇ……」
背後で老婆の声が聞こえた。
恐る恐る振り返るが、暗闇で何も見えない。
「あ、あんたは……?」
「私はお前を救ってやった者だよ。感謝しなよ」
その声はどこか掠れて低く、相当な年齢に達しているように感じた。
「救った……? 一体、何が起きたんだよ?」
「情けないねぇ、こんな子供が“器”だなんて呆れたもんだよ。いっそここで殺してやろうか? …………爆発したんだよ」
爆発? やっぱりあのけたたましい爆音と衝撃は爆発だったんだ。
「ミ、ミルネさんはどうなった? 俺のおばにあたる人なんだ……」
「そうか、おばか……。そのおばが禁言を破って爆発したんだよ。残念だが、死んだね……」
「は?」
ーーーー死?
頭が真っ白になった。
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ミルネさんが……死んだ?
「おい、いい加減なこと言うなよ!!」
老婆に掴みかかろうとするが、全く動けない事にすぐに気づく。
「ヒヒヒヒッ!!」
老婆の笑い声が聞こえる。込み上げる怒りと悲しみを押さえきれない俺は泣き叫びながら老婆を罵倒した。
「いい加減にしろ、冗談にも程があるぞ!! ミルネさんが……ミルネさんが……死ぬわけ無いだろ…………?」
「ヒヒヒッ!! あぁ愉快、愉快。“器”ともあろう者がこんなに脆く、弱いとはねぇ。これじゃあ、あの人もガッカリするだろうよ。ヒヒヒヒッ!!」
それでも老婆は俺を笑っている。得体の知れないこの老婆に俺は恐怖さえ抱いた。
ミルネさんは本当にこの老婆の言うように死んでしまったんだろうか?
爆発したと老婆は言っていたけど、何が爆発したんだ?
いや、実際に目で見て確認しない限りは俺はこの老婆を信じない。
ミルネさんは生きてる。絶対に。
まずは明かりが無いと辺りが見えない。
「この暗闇は何だ? 早くミルネさんを探したいんだ。それに何故か動け無いんだ……」
手足や体は動くが、どうやら移動が出来ない。
老婆は溜め息を吐いて、状況を説明し始めた。
「いいかい? まずここはもうお前のいた島じゃない。そして、お前の知る世界でもない。力と権力で支配された弱肉強食の世界さ。お前はこれからこの世界を旅して私を殺せるくらいに強くなってもらわないといけないんだよ」
「なんだって……?」
老婆の言葉についていけない。
「今お前が動けないのは私が造り出した空間でお前を押さえ込んでいるからだ。まず、この空間で自由に動き回れないと話しにならないね。仕方がないから解いてあげるよ」
老婆がそう言うと、急に体が軽くなった。
そして、視界には巨大な広間が現れた。
「ここは……?」
島には無かった建物には違いない。もしかして城とかいう巨大な建物か?
ここはどこなんだ……。