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ウチのダンジョンに幼馴染の勇者(♀)がやって来た!  作者: 雪月華
第三章 ウチのダンジョンに討伐軍がやって来た!
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第十五話 策略

  再ポップしたモンスターと戦う討伐軍のうち、一番苦戦しているのは16階層エリアの先陣隊だった。


 討伐軍の中で一番深い階層なので、モンスターも強いのに、前衛の赤狼人傭兵が抜けてしまっている。


 固くて攻撃力の大きい石ゴーレムは、前衛の騎士が攻撃を盾で防ぎ、戦士が剣や槍で物理攻撃、後衛の魔法使いが攻撃魔法などの連携プレイで倒していたのに。


 冒険者ギルドから派遣されたAランク戦士ドミニクと忍者ハンゾーの居るパーティは、傭兵が抜けても二人が加わっていたことで連携が取れていた。そして混戦状態になった16階層エリアで一番厄介な、石ゴーレムを何体も倒し、他のパーティの援護に回っていた。


「ふ――ぅ、やれやれ、なんとかこのエリア、制圧できたか?」


 ドミニクが辺りを見回しながら、額の汗を手の甲で拭う。


「怪我人が結構でた、でござるな……」


 迷宮エリアの石畳の回廊のあちこちで、うずくまったり、横たわったりしている討伐軍。



「衛生部隊!! セーフエリアに負傷者を集めて、治療に当たれ!」


 黒騎士団中隊長アイザックは、負傷者の治療を最優先で、次に部下に被害状況を調べて報告を上げるように命令していた。


 するとその時。


「た、助けてくれ~!」


 17階層へつながる階段から、着衣がボロボロの冒険者らしい人族が数人、わらわらと現れたのだ。


「お前たちは、いったい何者だ?!」


 黒騎士達に囲まれ、剣を突き付けられて誰何(すいか)される。


「わし達は、あやしい者じゃない――ああ、そこに居るのは、ドミニクにハンゾーじゃないか?」


「――どういうことだ? 知り合いか?」


 ドミニクとハンゾーに、黒騎士達の視線が集まる。二人は、騎士達を掻き分けるようにして、くたびれた様子の冒険者の前に出た。


「あなた達は! 賢者アール、聖女ヴィオラ、Sランクパーティ『希望の光』の皆さんじゃないですか!!」


「おお、よくぞご無事でござった!! ギルドの皆も心配しておりましたぞ」


「ドミニク、久しぶりね。冒険者ギルドで、救出部隊を組んで下さったの?」


 聖女ヴィオラがドミニクに微笑みかける。


「いや、もちろん、あなた方を救出するつもりで来たけど――それだけで来たわけじゃ、ないんだ。とにかく、中隊長のアイザック殿に会って欲しい」


 彼らが頷いてセーフエリアへ進むと、その場にいた黒騎士達もホッとした様子で緊張を解いた。




 『希望の光』のメンバーは、セーフエリアで集められた負傷者たちの横を通り、アイザックの元に連れて行かれた。


 すでに部下から報告が来ていたアイザックは、ドミニク達に「この方たちはSランクパーティ『希望の光』のメンバーで間違いないか」と目で合図すると、二人は頷いた。


「『希望の光』の皆さん、私はティンタジェル神聖王国黒騎士団中隊長のアイザックです。この前線の指揮を任されています」


「アイザック殿、わしは賢者アール、こちらがパーティリーダーの騎士ローランドじゃ。その隣がうちの紅一点聖女ヴィオラ」


 パーティのリーダーは騎士ローランドなのだが、年の功のアールが外交では表に立っている。聖女ヴィオラも有名人で、いつもローランドは影が薄くなってしまうが、この男は気にしなかった。


  賢者アールは、魔法剣士、暗殺者と順に紹介していき、最後にまだ年若い少年を自分の弟子だ、と言った。


「とにかく、あなた方がご無事でよかった。このダンジョンの探索に行かれてから、長いこと行方が分からなかったので。体調は大丈夫ですか?」


「問題ありません」


「今、将軍に伝令を送ったところです。あなた方の保護についても知らせました。幕僚本部から、次の指示を待つ間、このダンジョンで何があったのか、聞かせていただきたい」


 この質問にも賢者が答えた。


 賢者の話す内容は、ギルドの依頼でダンジョンの調査と地図作成の為、17階層まで順調に進み、18階層の森林エリアで迷ってしまい、今まで脱出できなかった。森で狩りをしながら食料を得て帰路を探り、ようやく脱出して、16階層まで登ると討伐軍が居た……というもの。


「……ほう。では、18階層までの地図は出来ておられると?」


「ええ」


 そこまで話をしたところで、10階層の将軍から伝令が戻って来た。


「マクブライド将軍から、前線本部へ以下の通り伝令を伝えます。今回のクムラン・ダンジョン掃討及び聖剣の奪取作戦は中止する。直ちに、全軍撤退せよ。Sランクパーティ『希望の光』は、討伐軍と共に王都に戻り、王城にに出頭させよ。身柄は、討伐軍総指揮将軍の預かりとなる。以上です」


 討伐軍は、回復薬や治癒魔法でも治しきれない負傷者を抱え、クムラン・ダンジョンを脱出、敗戦の帰途に就いた。



「"帰師には(とど)むること勿かれ"じゃ、弟子よ」


 王都への道中、隣を歩く栗色の巻き髪の弟子に、賢者アールは教え諭す。


「岸にトド? ……師匠、分かりやすく言ってください」


「母国に帰る敵軍はひき止めてはならない。ようするに進退窮まった敵をあまり追いつめるなよ、ということじゃ」


「えっと、それは何故ですか?」


「ふぅ、おぬしには、一から十まで説明せにゃ分からんのかのぅ。つまり、敵の兵士たちも何とかして生きて故郷に帰りたいと必死になるのじゃ。阻まれると激しく抵抗しこちらも損害を受ける、そういうことじゃ。窮鼠猫を噛む、ということわざもあるじゃろ?」


「なるほど~」


「物事には、表と裏がある。将たるもの、臨機応変に対応せねばならん、というソーンの兵法書第八章「九変篇」じゃよ」



 敗残軍たちは、王都まで馬なら通常二日の道のりを、負傷者を連れて魔物から守りながら進むので、一週間掛かった。


 その間、賢者アールが弟子に付きっきりで、あれこれと話している姿が見られたのだった。






第三章 ― 完 ―







孫子の兵法書より引用

兵法の第八章「九変篇」帰師には遏むること勿かれ

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