表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウチのダンジョンに幼馴染の勇者(♀)がやって来た!  作者: 雪月華
第三章 ウチのダンジョンに討伐軍がやって来た!
35/48

第十四話 ディーン、兵法を学ぶ

 17階層で夜間の見張りをやってもらったSランク冒険者たちは、ミノさんと盗賊団チームと交代して草原エリアに戻っていた。そして村里共有の銭湯で朝風呂を浴びてサッパリした後、食堂で朝ご飯を食べている。


 村里の食堂はハーフエルフの女達が、交代で調理を担当してくれてる。配膳はセルフサービスで、自分でご飯とみそ汁をよそって、カウンターに並べてある小鉢を一品ずつお盆に乗せていく。食事が済んだら、流しできちんと食器を洗って厨房に返却する決まりだ。


「あ、ディーンさま。おはようございます。珍しいですね?」


 三角巾とエプロンを着けた、ハーフエルフに声を掛けられた。


「うん。ちょっと」


「朝ご飯、まだありますよ? 食べて行ってください」


 カウンターを見ると、炊き立てご飯に、しじみとネギの味噌汁、温泉卵、納豆、赤カブの漬物、焼き海苔、梅干しが並んでいる。せっかくだから、食べるか。


 オレは朝食をお盆に乗せて、Sランクパーティのテーブルへ向かった。テーブルには、一番年嵩の賢者のじぃさん、壮年の騎士と魔法剣士、妙齢の聖女、青年の暗殺者(アサシン)がオレをチラチラ見ている。


「おはよ、昨夜はお疲れさま」


 賢者の爺さんの前に座ると、温泉卵にネギと出し醤油をかけて、ほかほかご飯の上にのせて混ぜる。オレは卵かけご飯は、生卵より温泉卵の方が好きだ。


「むぅ。お若いの、卵かけご飯は、先に出し醤油をご飯に馴染ませてから温泉卵を混ぜた方が、おいしいですぞ?」


「えっ?! そうなんだ……。今度そうしてみる」


 実はまだ、このパーティには、オレがダンジョンマスターだと明かしてなかった。どこから話そうか考えていると、爺さんから話しかけて来た。


「どうやら、悩みごとのようじゃな? ほれ、ここは年の功。このわしに話して見なされ」


「はは、アールの世話焼きが始まった。でもアールはこう見えても賢者で、色々物知りだから、話してみたら?」


 聖女はオレに笑いかけると、立ち上がって食器を洗いに行く。他のメンバーもオレと爺さんを残して「お先に」と行ってしまった。


「えっと。よろしくお願いします?」


 なんだか、悩み相談室みたいになってしまった。


「お爺さんも知っての通り、討伐軍がここに攻め込んで来ている。敵方に居た赤狼人族の傭兵団が、このダンジョンに寝返ったんだけど、奥さんと子供が王都に残っていたんだ。討伐軍の将軍は傭兵たちは死罪、その家族は奴隷にすると言っていて……。なんとかしなきゃいけなくなって」


「……ふむ。おぬしはソーンの兵法を知っておるか?」


「いや、知らないけど」


「二千年程前に、今は亡き東方の国の名将であり軍略家として名高い者がおってな。その者の書き残した兵法書が、今も国政において賢き為政者の中で、尊ばれておるのじゃ」


 なんか、話が長くなりそうだなあ……。


「攻め込まれた場合、こちらには地の利があり、備えもある。しかし相手方は将に人望はなく、兵も離れた。この戦いはダンジョン側の勝ちに終わるじゃろう。しかし、これで大局が決したわけではない。そこでソーンの"敵の情を知らざる者は不仁の至りなり"じゃ」


「なんですか、それ」


「兵法書の第十二章「火攻篇」で出てくる一節じゃ。相手方の情報を得る重要性を説いている」


「はぁ……」


「そもそも、王都の様子を探る諜報活動を担当する者が、おらんかったのが問題なのじゃ。行き当たりばったりに、戦いの最中、兵の家族を人質に捕られるかもしれないから、救出したいなど。将としての器に問題じゃ」


「うぐっ」


 ダンジョンに、引きこもっていればいいんじゃなかったのか、ダンジョンマスターって。狼人族の傭兵が寝返ることまで、考えてなかったし。


「まあ、そこはあれじゃが、兵を大事にするという所は評価しておる。ダンジョン側の皆の士気も高く、一致団結しておるでの」


 もしかして爺さん、オレがダンジョンマスターって分かってる……?


「この度の討伐軍を、撃退した後のことまで考えておるか?」


「戦いが終わったら、ゆっくり考えるつもりで……」


「それでは、遅いのじゃ。常に先手先手を考え、幾通りもプランを立てて、備えねば。それが一国一城の主の務めであろう? フレイア教団や王国が、勇者と聖剣をこれで諦めるとは、おぬしも思っておるまい?」


「えっと、じゃあ、どうすれば――?」


「元凶を、元から断て。さすれば、問題も解決となるじゃろう」


 村里の質素な麻の服を着た爺さんは、爛々と目を光らせた。


「そんなこと言ったって……。どうすればいいのか」


「わしには、その解決策がある」


 自信たっぷりな爺さんだった。村里でも鬼たちから慕われていると聞いているし、ここは信じてもいいかな?


「――師匠、と呼ばせてください! 兵法も、もっと教えて下さい。お願いしますっ」


 爺さんに頭を下げる。



「ふむ。それには条件があるが……」



 その条件とは……賢者の爺さん以外の、Sランクパーティメンバーの解放だった。


 もともと、依頼するつもりだった王都の狼人の家族の救出をやってくれたら、解放するつもりだった。ただ、ダンジョン内の情報は守秘させる(まじな)いを呪術系の魔法で掛けるつもりだったのだけど――。


 条件と作戦の両方を聞いて、オレは頷いた。


 アーサーに相談しないで、決めちゃって大丈夫かな、というのが心に引っかかりはしたけど。アーサーは局地的な戦術には長けているけれど、全体を見て先手を繰り出す戦略にかけては、この爺さんの方に軍配が上がる、と感じた。どっちみち、爺さんを連れて、マスタールーム(1LDK)に戻るつもりだし。


「師匠と呼ぶからには、その隷属の首輪を外させていただきます」


「うむ」



 これからの作戦を、爺さんを交えて1LDKで練ろうじゃないか。




作中のソーン・シーは孫子の兵法書より引用

兵法の第十二章「火攻篇」敵の情を知らざる者は不仁の至りなり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ