第十話 祝勝会
「ちょっと、おっさん!! 何てことしやがるっ。その自販機に、いくらDP払ったと思ってるんだよ?!」
「なんだぁ? てめぇは!! どっから来やがった?!」
アーサーに盗賊を一人もダンジョンから逃がすなって言われたから、入り口の見張りはオレがやることにした。
そしてこのおっさんは、入口の自販機の前に置いてある台をオレの前で蹴り飛ばしやがった。
ガッシャーン!
あっ。台の上の小銭や花瓶、味噌まんじゅうの置かれたお皿が割れて飛び散っちゃったよ!
くっそう。つつましく暮らしている村人達からの、ささやかな志を踏みにじりやがって。
しかも傷心の俺にかまわず、渾身の力を込めて幅広の剣を突き出して来た。オレの心臓狙ってるじゃん! 人族だったら死んじゃうじゃんか。
キーン! 高い金属音が洞窟に響いた。
切っ先が丁度左胸の心臓の辺りに当たって、いい音を立てた――ってオレは楽器じゃねえ!
「なっ……服の下に魔法の鎧でも、着ているのか?!」
信じられない、という顔をするおっさん。
人化してるときに危険を察知すると、無意識に鱗肌に変化すんだよ。自前の鱗鎧だ、いいだろ。
「お返しだっ、えいっ!」
幅広の剣の刀身の平に、グーパンチをした。拳も刀身にぶつかる直前に鱗でおおわれる。
バリンッ。刀身がさっきの台の上のお皿みたいに割れて、おっさんがビックリしている。
「どうだ、お供えの皿が壊れた時の、オレの心の痛みが分かったか!! あの皿には、美味しいの味噌まんじゅうが、載せられていたんだぞぉおおおお!」
「ばっ、バケモノ……!」
壊れた剣を捨て、ダンジョンの外に飛び出そうとするから、おっさんの足を払って転ばす。
「仲間を見捨てて、自分だけ逃げるのかよっ」
「ひっ、ヒィィ」
よし、荒縄でおっさんを、ぐるぐる巻きに縛ったし。ここから先は、誰も通さないぞ。
「鬼どもから逃げてきたら、このオレが相手だっ。さあ、かかって来い!」
オレは、ダンジョンの暗がりの中に向って、叫んだ。
……すると。
「……ディーン、お疲れ~。――もう全部終わったよぉ」
スピーカーからアーサーの緊張感のない声が聞こえて、水を掛けられたように戦いで高揚した気分が冷めて行く。
――中二病みたいな恥ずかしい台詞を言ってしまった気がするけど、アーサーに聴かれてないといいな……。
さて、捕獲した盗賊達は12人、無事保護したハーフエルフの娘達は10人、馬が14頭、盗品の宝石と金貨が手に入ったぞ。
村里の鬼どもに目立った負傷者はなく、盗賊団×鬼どもの戦いは大勝利に終わった。
これはカムランのダンジョン史に『嵐の夜の盗賊軍との激戦――エルフの姫たち救出作戦――』として刻まれ、長きに渡り語り継がれるだろう。特に敵の退路を断ち、将軍の首を見事に打ち取ったオレの勇猛な戦いぶりは、ミズガルズ大陸中に轟くに違いない。魔王さまの側近にスカウトされたら、どうしよう。
……なんか虚しくなったから、妄想はこのくらいでいいや。
「お前らよくやった! さあ、これから草原エリアで祝勝の宴だ!! 御馳走もお酒も、朝まで食べ放題飲み放題だっ!」
「ウォオオオオオ!!」
それから、草原エリアのゴブリン村長宅に場所を移し、オレ達は飲めや歌えやの大騒ぎをした。盗賊のお宝や装備ををDPに変えて、その分を全部御馳走やお酒に交換してみんなで楽しんだ。
村長宅に入りきれない者達が庭にもあふれている。その庭では焚火に香木を入れて、網の上でステーキやイカ、エビ、ホタテ、キノコ、トウモロコシ、タマネギ、ナス、パプリカ、芋などを焼いた。冷えたエールの樽をいくつも用意し、ジョッキで数えきれないほど乾杯する。
ハーフエルフの娘達は、盗賊から助け出した時は、怯えたり戸惑ったりしていた。無理もない。相当お腹も空かせていたらしい。
村里の宴会で、熱々の美味しい料理にお酒も入ると、少しずつ笑顔も見せてくれるようになった。鬼どもは食べ物や飲み物の世話を一生懸命して、娘さん達の気を引こうとしてる。
まあ娘達にとって一番よかったのは、ゴブリン村長の奥さんが、元冒険者の人族だったことかな。
「まぁあ。美人さんばっかりね。大丈夫よ、取って食ったりしないから。ここの女は、女神さまのように崇められて大事にしてもらえるから、心配しないで」
「わたし達、ハーフエルフ村に返してもらえないんですか?」
「ここを出ても、あなた達だけで帰れないでしょう? また、すぐ悪い奴らに掴まって、もっとひどいことになるわよ。村里は食べるのに困らないし、鬼たちは見てくれは悪いけど、男は顔じゃないわよ、ハートよっ」
女将さんに娘達を任せておけば、大丈夫そうだな。
明日からは、村里に新しく来たみんなの為に新居を立てなきゃな。盗賊達は、DPで隷属の首輪を出して、奴隷にした。命のやり取りをする戦いにおいて、勝者であるオレ達が盗賊団を殺さず生かすとしたら、奴隷にする他ないわけで。秘密保持や裏切りに対する保険を掛ける意味もある。村人も増えたし、開墾やら農作業やらに人手も居るだろうからしっかり働いてもらいたい。
新たに増えた村人たちの滞在DPが、毎日入るのもありがたいな。全員合わせても1万p/日位だけど。そう考えるとアーサーの10万pは、ホント規格外だなあ。
「ん? なぁに。なんか言った?」
「あ、えっと。鬼たちの訓練の成果、出てたみたいだな。アーサーのお陰だ。ありがとな」
「ディーン。ボクはそんな風に言ってもらう資格、ないんだ。だって、ボクは――」
ワァアアア、キャアアア!!
ゴブリンが笛、オークが太鼓を叩いて、みんなが踊り出した。宴会が一段と盛り上がり、アーサーの声がかき消される。
「さあさあ、ディーンさまたちも、わしらと一緒に踊りましょう!!」
ダンジョン音頭でヨヨイノイヨイッ。あ、それっ! ヨヨイノヨイッ。
オレ達も鬼どもに腕を引っ張られて、庭に降りた。みんなで、ゴブリン村長の庭で焚火を中心に輪になって、踊る。盛大な焚火の灯りに照らされた、村里のみんなは笑顔だった。アーサーも笑っている。
「ディーン、ちょっとなにコレ、変な踊り~。アハハハ」
みんなの笑顔を、守りたい――オレはそう思った。そのみんなの中には、もちろんアーサーも入ってるんだ。




