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蜃気楼と終わらない夏

作者: 志摩いづく

夏だ。暑い夏だ。

「だるい…」

今は、暑すぎてやる気が出ない。

おそらくこれが地球温暖化…。アスファルトの地面さえ溶けてしまいそうな日差しの中、頑張って歩き続ける私を褒めてもらいたい、というのは図々しいか。

「こういう時は家で寝るのが一番だ…。でもその前に、アイス…」


なぜこんな暑い日に外に出ているか。

これこそのんびり過ごすための中学生の夏休みを妨害するもの、部活である。

もともと写真を撮るのが好きな私は、中学で写真部に入部した。まあ、写真部にした理由は、カメラが好きなこと以外に、活動日数が他の部に比べて異常に少ないこともあるのだが。他のクラスメイトが暑い外で部活に勤しむ中、私だけさっさと涼しい家に戻ってアイスを食べるというこの幸福を味わえるこの部活、結構気に入っていたんだけど。

なんで夏休みに活動があるんだよ…。

なんでこの季節に写真会という名の遠足に行かなきゃいけないんだよ…。


というわけで、今はその帰りだ。

動物園や水族館で動物の写真を撮ってきたり、空港で飛行機の車体を眺めてきたりしたあと。向こうで秘密で食べたソフトクリームのひんやりなめらかな食感は、この暑さの中でもう思い出になってしまった。

部活の仲間とも別れ、駅から家までの長い坂を、駆け上る想像だけして、そこまでの元気が残っていなくて、仕方なくゆっくり歩いていく。

焼けている。灼けている。

ところどころひび割れた道路を、燃える足で踏みつける。道沿いにある家の前に捨てられて、少し空気の抜けたタイヤから、煙が見えた気がした。


ふと、下を見ていた顔を上げると、ゆらゆらと景色がぼやける。これは、陽炎といったっけ。その先には、藍色をした海と、橙色をした夕暮れ空。いつもはどちらも青くてよくわからない境界線が、この時間だけはっきりと見える。

また、あの砂浜で遊びたいな。

そんな願い事は、儚く空に消えていった。


昔の夏を思い出す。

あれは、幼稚園の頃だっけ。

「見て!できたよー!お城!」

家族と海水浴場、私は砂浜で城のような茶色の塊を作っていた。

水のある方で楽しそうに泳ぐ姉に少しでも近づきたくて波打ち際に建てた城。

優しい姉が、その辺に落ちていた短い木の枝を拾って、頂上にそっと刺した。

「王様だー!!」

姉は、飛び回って喜ぶ私を、誇らしそうに見つめていた。


そんな夏は、もう来ないのかもしれない。

たとえ昔と同じ海に行ったとしても、幼い頃のように無邪気に遊ぶことはできないだろう。

でも、夏休みは続いていく。

この長い道のずっと先に向かって。


道端の茂みが、ぬるい風にさらされて静かに揺れている。夕日に照らされて黄金色に輝き、まるで燃えるように。


この美しくも悲しいような、複雑に色が絡まった景色を見て、私はなぜか歌いたくなった。揺らめく陽炎を追い払って、夕暮れ空の向こう、水平線の彼方で、歌声はしばし漂った後、吸い込まれて消えていった。

私の願い事は、その歌声のように、空へ吸い込まれ、美しい夕陽とともに深い海へ沈んでいった。

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