転生者 海月夜道
その場所は、曇り空の様にどこまでも灰色だった。光の濃淡が存在せず、影もできない。上も下も区別できない、のっぺりとした空間。まるで幻覚の世界。
ただ一箇所、薄いタイルがひかれている床。そこだけは例外的に影も光もあって、人間が活動できそうな場所だった。
夜道はそこに倒れていた。
「……っ」
首筋に走るズキリとした痛みで夜道は目を覚ました。
「ここは……?」
眼前に広がる奇妙な世界。夜道には覚えが無く、自分の居場所がわからなかった。そもそもここは現実なのか、夜道にはそれすらも疑わしかった。
――これは夢?
これが、夜道が一番納得する答えだった。
――なら、目を覚ましたらミヅキが朝食を用意していて。いや。
夜道は思い出した。ミヅキのことだ。睡眠薬を盛って、夜道を自殺に見せかけて殺害したアンドロイド。
悪夢のような記憶だ。夜道は夢であったらいいのにと思わずにはいられなかった。
――いや、アレが夢でこれが現実……?
ともかく、夜道は現状を確認したかった。とりあえずその場で立ち上がろうと力を入れた。
「痛ってえっ!」
しかし、それは全身に走る強烈な痛みで止められてしまう。全速力でアスファルトに叩きつけられたような痛みだった。耐え切れず尻餅をついてしまった。
「あまり動かない方が良い。君の電脳体には、死亡した時の痛みが少し残っているようだ」
そんな夜道に、一人の女性が声をかけた。夜道はびっくりして、声のした方を向いた。
「たまにあることだ、君はビルから落とされて死んだのだろう? その衝撃を脳が覚えていたんだ。すると、その痛みがここで再現されてしまう」
夜道にはその女性が同じ位の歳の人間に見えた。しかしながらその格好はどうも子どもらしくなかった。ところどころほつれ、薄汚れた白衣。床まで伸びた長い髪。よれよれのジーンズ。まるで浮浪者、或いはやつれた女子大学生。
仮称浮浪者はどこからか、一冊の本を取り出した。ぱらぱらとめくり「これが君の名前か」と言った。
「ようこそ、あー、そうだな。ここはさしずめ死後の世界といった所だろう。えーっと……くら、げ」
「うみづき、だ。海月じゃない。念のため言っておくと『夜道』が俺の名前だ」
「そういう名前が流行なのか?」
「奇抜な名前を付けたが親はいつの時代もいる。俺はマシな方だ。そういうアンタは何者?」
「当ててみたまえ」
「神様」
「は?」
「死人と会話できるのは神様だけだ」
「そうか、そうか。ククク神様ね。そうか、神ね」
「そうだ神様。そろそろ冗談を言うのをやめてくれ。死後の世界って……つ」
夜道は体を起こし、立ち上がった。痛みを感じたが、我慢できないレベルではなかった。
「まだ痛むだろう。寝てても構わない」
「いや、いい。俺はベッド派だ」
「それは気が回らなかった。失礼」
そう言うと女性はぱちん、と指を鳴らした。すると、何もない空間に突然、一台のベッドが現れた。場所はちょうど夜道の後ろ、木製のシンプルなベッドだ。
「……どういうことだ」
「すごいだろ? ゼロから物質を構成できる奴はそうそういない。ま、腰掛けてくれ」
夜道はひとまずそのベッドに座った。
――疑問は腐るほどある。
それが夜道の本音であったがしかし、どうすればいいのか夜道には全くわからない。不可解な要素があまりに多すぎる。
ここはどこか。これは夢か現実か。お前は誰だ。さっきの手品は何だ。俺はなぜここにいるんだ。死んだとはどういうことだ。ミヅキはどこにいる? ――疑問が疑問を呼び、渦のように絡み合う。
そんな夜道の様子を見て「ふむ」と一言。そしてもう一度ぱちんと指を鳴らした。
次に出てきたのは金属性のカフェテーブル。その上には皿が一枚、ポテトチップスが山のように盛られていた。
「神の御業。――なんて、冗談だ。それでも食べて落ち着きたまえ。しまった、味を聞くのを忘れてた。君は何味が好きなんだ? 私はコンソメ味が好きだが、食べ過ぎると飽きる。だからこれは薄塩味で――そう訝しげに私を見るな。よろしい。君の疑問を、そろそろ処理しよう」
仮称神様はおほん、と咳払いを一つ。そしてこう続けた。
「初めまして海月夜道。私は冷泉灯火。変な名前だろう? 流行りだったんだ。この死後の世界で、一人で暮らしてる。残念だが神ではない、が普通でもない。超能力者かも知れないし、魔法使いかもしれない。突然変異種かも知れない、合成種かもしれない。もしかすると、機密を盗んで追放されたスパイかもしれない。しいて言うなら『死神』だ。君達死人を、死後の世界まで案内する死神様だよ」
「だから冗談はやめろと」
「そうだな、そろそろ真面目な話をしよう。海月夜道、君は死んだ。寝ぼけて、ベランダから飛び降りた。事故だ。ありえない死因だと思うか? だがありえてしまったのだよ、まるでバラエティ番組のような死に方だがね。そして祭葉コーポレーションに遺体を回収された。知ってるだろう? あの有名IT企業だ。それと同時に葬式屋だ。知ってるとはおもうが、衛生上の問題で死体は企業が処理するのが今の時代の常識だ。そして、引き取った死体をどう使おうが企業の勝手だ。『死体処理に関する利用規約』にも書いてある。読んでる奴なんていないとおもうがね。知ってるか? サイレントグリル社の販売している格安缶詰は……おっと、話がそれた。そして祭葉コーポレ……長いな。祭葉は君の脳から精神情報を取り出して、データ化、こんなところに放り込んだのさ」
「死体? 脳? データ化?」
「そう。ここは電脳世界。電脳空間。わかりやすく言うならここはインターネット上に展開された空間で、コンピューターの中。厳密にはまあ、ちょっと違うがね」
唖然とした。
灯火から次々に繰り出された言葉、それはサイエンス・フィクションを髣髴とさせるような話で、余りに現実離れした話ていた。
それをこの冷泉灯火はさも現実の様に語る。さも当然のように、歴然と、ただ事実を述べているだけとでも言いたげなように。
「失礼だが」
「何だ」
「頭がおかしいのか?」
「本当に失礼だな!」
夜道には灯火の話を受け入れられなかった。
「お前の話は余りに空想的だ。信じろという方が無理だ」
話を聞いて思ったことを夜道は灯火に告げた。そして、
「それと、一応お前の話を信じるとしても、さっきの話しは一つ間違っている」
そう夜道は指摘した。
「ほう?」
「俺は事故で死んだんじゃない。殺されたんだ。他殺だ」
「――ほう」
灯火は興味深そうな反応を、夜道の言葉に示した。「ふむふむ、そうか」と独り言を呟き「うーむ」と唸る。夜道には灯火が何を考えているのかさっぱりわからない。変人が変なことを考えてるようにしか見えなかった。
うーむ、と何回唸っただろうか。夜道は五十回から数えるのをやめた。唸り唸る。
「彼なら、或いは……」「いや待て、最初にして最後のチャンスだ。慎重になれ」「この事を伝えたら、祭葉が動くだろう。……私はどうなる?」「……いや、違うな。祭葉は高確率でもう動いてる。そうだな、一年間もイレギュラーな試行を続けていたのだから」
灯火の独り言だ。ボソボソと小さな声で呟いているから、夜道には聞こえていない。今の夜道は退屈に耐えかねて、ポテトチップスをいただいている。
「よろしい」
そして時間がたち――突然に、灯火はやりと頬を吊り上げた。
そして夜道に告げる。
「先ほど言葉を訂正しよう。そして、君の言葉を肯定しよう。その通りだ。君は殺されたのだ。君を殺したのは――そうそう、君の部屋にいた家政婦型アンドロイドだ。やれやれ、普通は気がつかんのだよ。君達は本来ならば気がつかないうちに速やかに殺されるのだから」
そして灯火は「やれやれ」と最後に付け足し、ポテトチップスを三枚重ねてかじった。
「…………」
夜道は何も言えない。言葉が見つからない。
「さあ、どうする」
「どうするって、何を」
「これで、私がわざと隠した部分が暴露したわけだ。やれやれ全く、この後私はどうなることやら……。信じる気になったかね、私の話を」
「いや、無理」
「だろうな。さあ、どうすれば信じて貰えるのか……ま、信じてもらわなくても結構だが。結局、この現実を受け入れざるを得なくなる。いや、むしろ私の話を信じた人間の方が稀だったな。ふむ、しかたがないことだ」
やはり灯火は淡々と語る。その灯火の態度は夜道に不安を感じさせた。
――嘘に決まってる。
だが、夜道は自分の考えを貫けそうになかった。灯火の言葉の妙な、魔力とも言える説得力。それが夜道に猜疑心をまとわりつかせる。
夜道の背中に汗が伝う。
――この女は常に客観的にを語っているだけだ。だから妙に真実味がある。それに、わざと隠した部分って何だ? 一体この女は何を知っている?
夜道にとって追い討ちになったのは、灯火の次の言葉だった。
「ところで、実は君は既に私とコンタクトを取っている。覚えはないか?」
「何だと?」
「電話をしたのだけど」
夜道の頭に、一つのセリフが浮かんできた。
「――『君は死ぬ』」
夜道は灯火にそう告げた。
夜道にかかってきた悪戯電話のセリフ。その中から引用した宣告だ。
「ああ、それだ」
灯火はそのセリフを認めた。
夜道は悪戯電話のことを誰にも話していない。だからこのやりとりは、夜道への電話主が誰であるかを判明させた。
「お前、だったのか。あの悪戯電話」
「そう、私。……おっと! その握り拳は解いてくれ。恐らく君の予想は間違っている。確かに君は死ぬと伝えたが、殺したのは私ではない。だが悪戯電話とは心外だ。私は警告のつもりだったんだがね」
「警告? アレが? お前は俺が死ぬことを知っていた。いや、お前が俺を殺すように手引きしたから、俺が死ぬことを知っていた。お前が俺を殺したんじゃないのか」
「飛躍しすぎだ海月夜道。それは根拠も何もない妄言だ。全くもって違う」
怒りでギリギリと握っていた拳を押さえ込み、夜道は電話の言葉を思い出す。
だが、夜道にはどうにもあの電話を警告と捉えることができない。
『あらかじめ伝えておこう。君は死ぬ。どうやって死ぬかはわからない。ただ、確定した未来の事実として、一時間以内に君は死ぬ。絶対だ。今の君にできることは、祈るか、怯えるか。哀れな犠牲者よ。どうか、良き人生最後の一時間を』
――そうだ。この電話でははっきりと『どうやって死ぬかはわからない』って言ってるじゃないか。もしもこの女が俺を殺すつもりなら、この言葉は不自然だ。いや、それにしたって……警告? 本気で警告のつもりだったのか?
「――って思ってるだろ、君」
夜道の考えを察したのか、灯火はそう言った。そして、夜道の疑問に答える。
「警告のつもり、だったが。あまりに直接的な表現を使うとばれるんだよ。私をよく思っていない奴に。特定のワード――現実世界で生きるものが死後の世界を知ってしまうような言葉を使えば、おそらく監視網に引っかかるだろう。だからばれないように直接的な表現は避けた。だがまあ、確かに言葉を落としすぎた。アレでは正しい意図は伝わらなかっただろう」
はあ、と灯火は一つため息をつく。「やれやれ、ちゃんと国語の授業に出ておくんだった」
そして灯火は続ける。
「まあ都市伝説程度、噂程度に流布すればよかったんだ。『怪奇! 突然の死の電話!』って感じで。だが、失敗だったな。実はあの電話は一年かけて一万人にに発信している。その内九千と九百八十件はシステムにブロックされ、十九件は無視された。そして、一万件目の電話――君への電話だ、君だけが最後まで話しを聞いたんだよ。そして君は死んだ」
ぱちん、と灯火がもう一度指を鳴らす。一人用の椅子がなにもない空間に現れて、灯火はそこに座った。
「……死んだのは君だけではない。私が電話をかけた一万人は皆死んだ。世間に怪しまれないように時間をかけて、順番に。もうすでに六千人程度と面会は済ませている。君と同じように、この祭葉がつくりだした電脳空間でね」
「一万人? そんなに多くの人間が死んだ?」
「そうだ、そして全員君と同じ十五歳だ」
膨大な数字だった。今の日本の人口は何人だっただか、その何割が未成年だったか。夜道は正確な人数を思い出せなかったが、ともかく膨大な数字だった。
「ま、結局のところね。信じるか信じないかは、君が決めろ。私の言葉の真偽なんて確認しようもないからな。だが君は死亡し、ここにいる」
最後にそう付け加えて、灯火は話を切った。灯火はポテトチップスを五枚重でつかみ、全部一気に口の中に放り込んだ。
「……サイレントグリル社の都市伝説は俺も知っている。『サイレントグリルの缶詰は人の死体できている』だろ?」
灯火が話し終えたのを見計らって、夜道が話し始めた。
「本当だったら恐ろしい話だ。けど、そんなの信じてるヤツはいない。俺達にとっては所詮都市伝説にすぎなかったからだ。だけど――」
夜道はそこで言葉が詰まってしまった。恐ろしいのだ。自分の口から、陰謀論じみたこの言葉を言うことが。
「ミヅキ……俺を殺したアンドロイドは『命令だ』と言っていた」
――祭葉コーポレーションは人間の死体を欲している。
――俺はなぜか殺されてしまった。
――俺の死体を引き取ったのは、祭葉コーポレーション。
「続けたまえよ、海月夜道」
「……祭■■―■■―■■■は死体を効率的に集める為に、何らかの手段で人を殺し、その死体を回収して――?」
違和感を夜道は感じた。自分で発した言葉の一部を、自分で聞き取ることができなかったのだ。
当然だ。夜道は言葉の一部を正しく発話できなかったのだ。いや、正しく発話できないように妨害されたのだ。
まるで、言葉が塗りつぶされたようだった。経験したことのない感覚に戸惑いを覚え、困惑する。
「ふむ、やはり介入してきたか。……ッチ、時間か」
灯火が吐き捨てるように言った。
「■葉! ■■コ■■■■■■■! 何だ、一体何が――」
「焦るな海月夜道」
ぱちん、と指を鳴らした。
「どうだ、これでちゃんと話せるだろ。ちょっと話してみろ、塗りつぶされた言葉を」
「……『祭葉コーポレーション』」
「ふむ、問題なさそうだ。しかし、少しだけ、ほんの少しだけ焦る必要があるな」
そういって灯火はまた指を鳴らした。今度は何も出現しない。代わりに、今まで灯火が出現させたもの――ベッド、カフェテーブル、ポテトチップス、椅子――がことごとく消えていった。
「さて、君のこれからの話をしよう。君は死んだ。現実世界ではな。だが、君ははっきりと意識を持ってここにいる。『電脳体』という、電脳世界の体を得て。新たな体で、君はこれからある高校に入学することになる。名前は『祭葉学園』だ。ただの学園じゃない。大学と一体化した七年生教育施設で、生徒数七万人の大規模校。君はその七万分の一になる。そこはどうしようもなく広大で、信じられないくらい自由だ。ああ、そうだ。祭葉学園だけの特徴があったな――学園内に大人はいない。いや、現実で大学生に相当する年齢的な大人はいるが、社会人という意味での大人は一人もいない。学園内のあらゆる運営は生徒が行っている」
灯火が、まるで人格を切り替えた様にそう話し始める。その様子は、さながらコンピューターのシステムヘルプだ。
「生徒達がどんな活動をしているか、例を挙げよう。学園内で定食屋を運営しているのは生徒だ、アレは料理部の連中だったか。学園内で着用できる洋服データを作成して売ってるのも、もちろん生徒だ。被服部だな。そういう真面目な連中ばかりじゃないぞ。例えば音声麻薬を嗜む不良、その売人もいる。それら非行を取り締まる組織は指導公安委員会という。現実でいうところの警察だな。おっとそうだ、部活動の幅も広いぞ。『野球部』や『サッカー部』だとか『新聞部』から、自分達で飛行機飛ばして年中騒音騒ぎ起こしている『航空部』やら謎の洞窟にRPGばりの装備で固めて探索しに行く『冒険部』やら変な部活動もある。中には、生徒会の認可を受けていない『未認可部活動』なんてのもある。心して行けよ」
ふう、と灯火は言葉を切る。
時を同じくして、どこからか音が鳴り始めた。けたたましくジリリ、と空間中に鳴り響く。目覚まし時計の様な音だった。
ジリリリリ、ジリリリリ……一定のパターンで響くその音はひどく不快で、意識の隅に引っかかるようだった。。
「この音は……?」
「ふむ、時間か。そろそろ行こう、転生者」
夜道には聞きなれない言葉だった。
「転生者?」
「そう、転生者。死して再び呼び出される者。それは新たな世界に降り立つ者の呼び名だ」
「なら特殊能力の一つでもくれよ。今までとは違う環境でも生き残れるような」
その言葉を聞いて灯火は「はぁ……」とため息一つ。まるで意味不明、とでも言いたげだ。
「そんな権限私には無い。いや、昔なら頼まれればくれてやっても良かったが。なんだ、どうして転生者は皆そういう発想に至るんだ? 普通はそんな漫画的発想は思いつかないだろ。しかしその気持ちもわからなくはない。祭葉学園には魔法使いと呼べばいいのか、超能力者と呼べばいいのか、はたまた合成種類、変異種と呼べばいいのかわからん奴が結構いる」
「最初のアレはそういう意味か……!」
灯火の話を聞いて戦慄する。夜道はこれまでの話を脳内でまとめて、祭葉学園がとんでもない場所で、何が起こるかさっぱりわからない学校だ、ということだけはとりあえず理解した。
「安心したまえ」
灯火はそういって夜道のほうに向き直る。そして灯火はまっすぐに夜道の瞳を見た。
まるでそこから全てを見通すようだった。
「な、何だよ……」
恥ずかしそうに夜道が言う。冷泉灯火は控えめに言っても美人であった。夜道の目の前の灯火はひどい格好だが、それさえ解消できればモデルにでもなれるような。
「君がいずれ覚える特殊技能は、おそらく特別なものだ。……すごいな、これは。地味だがとてつもなく強力だ。ずるいぞ、不正もいいところだ。そうだな、電脳世界らしくチートと表現しよう」
――まーたこの女わけのわからない話をし始めたぞ。
「って思ってるだろ、君」
また夜道の心を読んだように灯火は言った。
「何、学園で過ごしているうちにわかるさ。ところで君、三年前にもこういう話を私としただろう」
灯火は突然そう言った。アラームはまだジリリと鳴っていた。そんな中でも、不思議と灯火の声が良く聞こえた。
「一体何の話?」
「君、今何歳だ」
「十五歳」
「違う、本当は今年で十八歳だな」
ジリリリリと、アラームが不穏に鳴り響いていた。夜道は心なしか、先ほどより大きく響いているように思えた。
「――ああ、わかった。君、実は何度もこの光景を見ているだろ。そうだな、ひどく印象的だもの。成程、本当は、私はここにいないのか」
アラームの音がさらに大きくなった。対照的に先ほどまでクリアに通っていた灯火の声が、だんだんと小さくなっていく。
「気がつかないのか? これは過去に君が見た現実、それを君は今夢でみているのだ。海月夜道、目を覚ませ。居眠りが過ぎる。祭葉学園の、今日の授業はもう終わってしまった。机で突っ伏してるとノートがよだれで汚くなってしまうぞ?」




