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祭葉学園の初恋

「……ん」

「ああ、目覚めたか。……安心したまえ、ここは間違いなく祭場学園だ」


 そうか、と夜道は体を起こした。


「……ん、体が」

「君が寝ている間に修復した。まさか首だけで彼女に会うわけではあるまい?」

「……そうだ、ミヅキは!」

「ここよ、ここ」


 その声は後ろから聞こえた。振り向いて、ミヅキ、と名前を呼ぼうとして。


「!?」


 突然口を塞がれた。夜道の目の前にいるのは間違いなくミヅキで、顔をはっきり見ることができて、唇と唇が触れ合って――


「……ああ熱い。熱いなあ! 空間の設定温度を下げるか、お二人さん? おっと、私の声が聞こえてない? もし? もし? ……やれやれ」


 そう言ってトーカはぱちん、と指を鳴らした。そして、ワームホールが生成される。


「邪魔者は去るよ」

「ちょ、待って」


 夜道はミヅキの顔を掴んで話す。「きゃっ」と微妙に不満そうな表情をしたが、夜道はそれをしてでも言わなければならないことがあった。


「――ありがとう」


 そう言われたトーカは「ほう……ふむ」と興味深そうに、指を顎につけて考えた。自分が祭葉にいた頃の記憶を思い出そうとしているのだ。


「ふむ、そう言われたのは初めてだ! ではこう返そう。どういたしまして、と」


 そしてトーカはちょっとだけ口角を吊り上げて、ワームホールを通ってどこかへと消えて行った。


「あの子は?」

「命の恩人」

「なら、私もあとでお礼を言わなくちゃ」

「また、会えたらな」

「きっと会えるわ」


 沈黙が挟まった。だが気まずさは感じない。むしろ、夜道は嬉しかった。ミヅキも嬉しかった。お互い、この無意味な時間を、とてもいとおしく感じたのだ。やっと手に入れたこの次官を、やっと共有できたのだ。


「……ねえ、夜道」

「どうした」

「きっと、私はまた迷惑をかけるわ」

「そうかもしれない」

「そうしたら、どうする?」

「決まっている。また君を助ける」

「ええ、その時はきっと、アンタの隣にいる」


  ◇ ◇ ◇


「夜道、無事でしたのね!」


 夜道とマキナが外にでると、アシュリーが待ち構えていた。体中傷だらけで、手で顔を仰いでいる。

 彼女の後ろにはスクラップと化した多脚戦車――そして、気を失って倒れている赤制服。


「その様子だと、全てが終わったのですわね!」

「……あ。あなたは」

 Hi、とアシュリーはマキナに眩しい笑顔で挨拶をした。


「どう? 夜道はいい男でしょう? 最後まで貴女のために動いてくれた。うふふふ、残念。もうすこし夜道がわたくしに関心があればつまみ食いしたのですけど」

「! 絶対に駄目よ。ええ、駄目。絶対、絶対……」


 この会話を聞いて、そういえばミヅキはアシュリーの紹介で自分を頼ってきたことを思い出した夜道は思い出した。


「……」


 思考操作。ミヅキに悟られないようにこっそりとコールした。相手は――


『うふふふ、夜道、何か御用ですの? 誰かと話しながら念話通話するの、結構大変でしてよ?』

『お前の中には誰がいる?』

『あら――何のことですの?』

『とぼけるなよ』


 夜道はそうアシュリーを追求した。なぜアシュリーが自分と緋之宮マキナを引き合わせたのか――そこだけが解せなかった。

 夜道は監獄棟での出来事を思い出していた。マキナは結晶を自分の腹に突き刺した。そして、トーカという人格と、彼女の能力の一部が自分に宿った。

 トーカは自分のことを記憶の欠片と呼んだ。つまり、あの結晶が記憶の欠片なのだろう、と夜道は理解している。

 そう、欠片なのだ。トーカは言った、『不定形の記憶の欠片が学園に複数散らばっている、と』


『ふふ――とぼけてなんていませんわ。ただ、一つ言うなら――特別な目を持っているのはあなただけではなくってよ? そう、データフローは流れ続ける……それは未来という一方向に向かって。たった一つの結末に収縮する為に。ええ、全ては必然。そう、全て必然ですわ』


 そこで念話通話は切られてしまった。どこか釈然としなかったが、今はそれでもいいか、と夜道は思い直した。

 なにせ、ようやく終わったのだから。


「夜道! 無事だったか! オレ達も無事だぜ。まあこの足手まといがいなければもっとマシだったけどな!」

「うるさいですよ日柳薊。貴女は加減を知らなさ過ぎです。全く、貴女の監視を強めねばなりません」

「なんだとこのまな板女」

「デブ」

「あー!!!!!! 言ったな!!!! ついに言いやがったな!!!!! 許さねえ! 絶対に、絶対にだ!」


 二人が喧嘩を始める。


 ――ああ、やっと祭葉学園に戻ってこれた


 夜道は何だかやっと心を落ち着けられる気がして、ミヅキの方を見た。


「夜道」

「ん」

「えいっ」


 突然夜道はキスされた。


「んー!?」

「好きよ。夜道……」


 夜道はめちゃめちゃ嬉しかった。嬉しかったのだ。合計二度――三度のキス。ようやくアンドロイドと人間という枷が外れ、お互いに好きあえるということが。

 ただ――直感した。


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

「あらうふふ」


 金髪全裸は笑っていた。

 平面の女は直ちにライフルに弾を込めた。

 狂気の女は涙を流しながら大鉈を構えた。


「待って」

「多分それは無理だと思いますわ!」

「あああああああああ!!」


 夜道は回れ右した。マキナも一緒に回った。

 そして、そのまま走り出した。逃走である。


「逃がすものですか……」

「夜道、夜道、夜道夜道夜道夜道」


 目が血走っている。明らかに怒っている。どうしようもなくヒートアップしていて、収集がつかなそうな感じがすごかった。


「ねえ夜道知ってる! かつて現実の日本にあったっていう全校生徒十万人以上の巨大な学園のこと! そこでは一人の男子生徒が一目ぼれした女子生徒を追いかけて、学園中を巻き込んで遁走事件を起こしたんですって!」

「知るかそんなこと!」

「私は追いかけられるより、一緒の方がいいわ!」

「何!? 今なんて言った!?」


 そしてミヅキは、目一杯の笑顔で言った。


「私、夜道と一緒に逃げてれて幸せよ!」

ここまで読んでくださったあなたに感謝を

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