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時計塔へ

 補習棟にサイレンが鳴り響く。異常事態を知らせる不快音。それが示す事実は、【脱出者が現れた】という事だ。

 脱出者は四人。海月夜道、アシュリー・スタンフィールド、雨宮一葉、日柳薊。

 人間観察部の部員は総出で彼らを探していた。彼らの手にはアサルトライフル――明らかになれない手付きであった。それゆえに、夜道達は特に苦労することなく出口まで走り抜けていた。

 そしてエントランスに到着すると、人間観察部と、赤い制服の生徒の混成部隊が夜道達を待ち構えていた。赤い制服の彼らは、一目で防衛委員会だと分かる。人間観察部の練度不足を補う為に派遣したのだ。

 彼らは少なくとも手馴れていた。動きに無駄が無い。恐怖心の減衰と共に警戒心が薄れ、若干突出気味ではあったが、それぐらいの気概で無いと四人を抑えられないことはしっかり理解していた。


「あら、ごきげんよう」


 アシュリーが余裕そうに言った。


「は――何がごきげんようだ。その格好じゃあ優雅さも何もクソも無いぜ」


 ぶっきらぼうにアザミが言う。


「そればかりは貴女に同意しましょう。……ですが、今更何を言っても無駄です。全く、だから私達は悪目立ちするのです」


 はあ、と一葉が溜息一つ。


《魅力的な女性達だ。ククク、クククク》

「面倒なだけだ。――最近一人増えた」

《自覚はしている。だが、修正するつもりは毛頭無い》

「分かってる、お前のオリジナルを知ってるからな」

《理解ある宿主で助かる》


 そして海月夜道と、冷泉灯火の記憶の欠片。

 四人揃って、べらべらと雑談に興じている。

 まるで目の前の、自分達を阻む存在など眼中に無いように。正面きって、堂々と歩いてくる!

 彼らはこそこそと動くつもりは無い。真っ直ぐ玄関口に向かって、そこから脱出しようとしている。まるで、友人宅から帰るかのように!


「――ふざけやがって!」


 赤制服の男達が銃を構える。それに続く様に、人間観察部の部員も。


「止まれ、止まれ、止まれって言ってるだろうが!」


 叫ぶ。その警告はもはや脅迫の域に達しようとしていた。しかし、


「あら、あら」


 聞く耳持たずとは、まさにこのこと。アシュリーは揺れる黄金の髪をかき上げるて言った。


「さて、どうしましょう?」

「もう正面突破しかないだろ」

「ええ。異論ありません」

「オレもそれでいいぜ。ま、これが一番だな。単純で、分かりやすいからな」


 そう言ってアザミは腰のブレードケースから二振りの鉈を抜く。両手に構えて、目の前の有象無象を見据えた。細めた目は狩人の様。そして、宣告した。


「死ね」


 地面を蹴る。加速する。アザミは敵陣にたった一人で突撃した。


「な――」


 驚かざるをえない。そうしている間にアザミはどんどん加速して突っ込んで来る。その後ろの三人は、まだ動きを見せない。ただ一人、アザミだけが狂犬じみた動きで攻撃を仕掛けてくる。


「――」


 一人がアザミと目が合った。赤制服は本来発生すべき恐怖を殺した――アザミは、明らかに笑っていた。


「撃て! 撃て!」


 ついに射撃命令が出た。同時に発射音。空気を切り裂いて弾丸が発射される。

 流れ弾は全て夜道の物理障壁によって阻まれた。夜道、一葉とアシュリーに弾丸は届かない。ではアザミは?


「っ!」


 直撃した。雨の様に発射された弾丸はアザミの体を貫いた。蜂の巣、と形容されてももなんら不思議ではない。それほどに無残な姿だった。


「やったか!?」


 思わず、人間観察部の一人がそう言った。どう見ても屍以外の何者でもないアザミを見て、言ってはならない最悪のワードを口にしてしまった。

 そして彼は、最前線にいた。


「バーカ」


 人間観察部である彼は赤い制服を与えられていない。ゆえにその一言は、電脳体に絶望を走らせた。

 瞬間、屍は再び活動を始めた。


「え――」


 跳躍、アザミは一気に距離を詰める。三白眼に捕らえられた彼は、一番最初のアザミの餌食となった。

 鉈が頭頂部に直撃する。重力とアザミの力が乗った鉈はそのまま体の中央をなぞり、やがて股を裂いた。

 まるでコミックの様に、非現実的な現実だった。真っ二つに裂かれた彼は左右別々に崩れ落ちる。やがてホロウィンドウにはいつもの表示が現れ、二つの欠片は保健室に転送さてた。


「な、なんで……」


 他の人間観察部部員が潤む目で訴える。目の前の現実が受け入れられなかったからだ。

 日柳薊には傷はほとんどついていなかった。


「ああ、ああああ――!」


 その現実のトリックを人間観察部部員は見た。まるで、ちぎれた電線を無理矢理繋ぐかのようなスパークがアザミの傷に発生する。かと思えば、次の瞬間には傷が綺麗に塞がっていた。

 それだけでない、攻撃によって発生した衣服の破損。それすらも同様の現象で、綺麗に修復されていた。


「何をびっくりしてやがる。オレの力を忘れたのか?」


 そう言ったアザミの肌には変化が起きていた。その肌には複数の選が浮かび上がっていた。

 幾何学的で、かつ魔的な様相。それを見て、赤制服の一人が言った。


「――『論理紋様(ロジックタスク)』」


 それを聞いたアザミは肯定するかの様に「にぃ」と笑う。

 論理紋様――とはいうが、その性質は全く論理的ではない。論理紋様の効果は無効化。アザミと、それに付随する物に発生したあらゆる現象をキャンセルし、論理紋様発動前の状態に戻す。ゆえに、傷は傷つく前に戻り、衣服も同様に戻る。当然だが、あらゆるハッキングも受け付けない。絶対防御に完全回復の二つを兼ね備えた力だ。

 ではアザミの電脳体に、特別な何かがあるのか? と聞かれたら、ノウである。超能力者(サイキッカー)合成種(キメラ)変異種(ミュータント)は電脳体を調査すればすぐに分かる。電脳体に明確な変化が現れているからだ。しかし、アザミの体は完全にプレーンな電脳体のそれである。ただ一つ違うところは、なぜか紋様が浮かび上がること。その紋様こそが、アザミの力の正体であることは明白だが、なぜその紋様が浮かび上がるのか、その紋様にどのようなプログラムが走って効果を発生させるのか。全くの不明だ。

 ゆえにアザミはヒトでは理解が追いつかない『魔』の女――魔女という、電脳世界には全く似合わないよ呼び名が与えられたのである。


「さあ踊るぜ。銃を構えろ、ナイフを携えろ。オレの武器は鉈だ。二振りの鉈だ。オレを殺して見せろ、やるだけやって見せろ。だけど、オレは死なないぜ。死なないならしょうがない、オレの代わりにお前らは死ぬ。分かりやすいぜ」


 そういってアザミはぶっきらぼうに左手を横に薙いだ。いとも容易く首が飛ぶ。

 空いてる右手は下から振り上げた。顎を叩き、無理矢理口を閉じられたせいで、下を噛み切ることとなった。


「この――!」


 銃を構えるが、遅い。アザミは引き金が引かれる前に蹴りを入れる。体制を崩してよろめいた。

 そうなったらもう助かる術は無い。その大きな隙をつくようにアザミが両腕を振るえば、左右の肩の肉を裂き、骨を粉砕し、両腕を切り落とした。


「こ、こんなの、こんなのってありかよぉ!」


 人間観察部の生徒が叫ぶ。目の前の惨状に耐えられるほど、彼らは訓練されていない。


「わああああああああ!」


 戦意を喪失し、銃を落とした。逃げ出す。一人逃げ出したかと思えば、また一人逃げ出す、また一人、一人――


「ちいい! 使えねえ、人間観察部は下がれ! 手前らにも出来ることはある! ハッキングだ、ハッキングを仕掛けろ!」

「は、はひっ」

「――そういうことなら、見逃すわけには行きません」


 ぱん、と乾いた音がした。一葉が放った、威嚇用の空砲だ。


「逃げる相手を追い詰める、なんてことはしませんが。あくまで楯突くなら、私の弾丸が貴方に届きますよ」


 その言葉は、人間観察部の面々には最高の妥協案のようにも聞こえた。逆に言えば、何もしなければ自分たちは助かるのだから。だが、彼らは心に余裕を持つことなどできはしない。一葉のその照準器のような眼――一切瞬きせず、一切揺れることなく、攻撃するかもしれない対象を見据えていたからだ。

 一葉の視界はすべてが射線上。そこにいること、それは有効殺傷範囲にいることと全く同義だった。

 前衛に回れば一撃必殺の鉈が、後衛に回れば見敵必中の弾丸が飛んでくる。


「武器を捨てて、この場から消えてください」


 この言葉がとどめだった。赤い制服を着ていない人間観察部部員はもはや為す術無しと、すべての装備を捨てて逃亡を図った。


「おい、馬鹿野郎! 逃げるな!」


 と、赤い制服の男は叫ぶが手遅れであった。当然だ、その言葉に従っても、待っているのは明確な恐怖だけだからだ。


「夜道、あなたはアシュリーと一緒に生徒会室に向かってください」


 その混乱の隙を突いて、一葉は夜道にそう提案した。


「四人でここを突破したほうがリスクは少なくないか?」

「目の前の惨状を見て言ってるんですか? 明らかに戦力過剰です。ここは私とアザミだけで十分対応できます。むしろ、貴方達がいると邪魔です。やること全部規模が大きすぎるんですよ、貴方達は。

 それに夜道、貴方は私達の切り札です。余計なことで消耗するべきではない。ここに送られる直前、空間の歪みが検知されました。夜道、アレを使いましたね?」


 ――ぎくり

「空間情報ごと削除するハッキングなんて、普通の電脳体ならあまりの処理の重さに気を失ってしまいます。無論、貴方なら耐えられるでしょう。それでも、大きな負荷を負うことに変わりはありません」

「……全くその通りだ」

「では、貴方は少しでも休むべきです。アシュリー頼みます」

「ええ、おまかせあれ」


 そう言うアシュリーはスワイプキーボードを投影していた。ハッキングをしているのは、誰の目から見ても明らかであった。


「ちょっと借りますわよ!」


 アシュリーがエンターキーをタップする。

 すると、どこからともなく低く唸るような音が聞こえてきた。アシュリー以外の生徒は皆、音の聞こえる方向を見た。夜道達からは正面、赤い制服の彼らからすれば真後ろ、ちょうど出口の地点だ。

 その音の正体はエンジン音。すなわち、車が走る音である。車は出口の扉を突き破って建物の中へと侵入してきた。窓の位置が鉄板でふさがれている護送車だ。

 その車は無人であった。アシュリーが車をハックして遠隔操作しているのだ。


「ぐあああ!」


 と叫ぶのは、運悪く車に轢かれた生徒だ。車は邪魔者を撥ね飛ばしながら、アシュリーの前に停車した。


「運転は任せてくださいませ」


 運転席にアシュリーが飛び乗る。


「急いで!」


 一葉に催促され、夜道は助手席へ乗った。


「撃て! 逃がすな!」

「ああ、逃がしはしねえぜ!」


 車へ発砲しようとした生徒は、アシュリーによって銃を破壊された。


「さっさと行ってくれ。そんなデカブツがあったら邪魔でしょうがねえぜ」

「アザミ」

「なんだ」

「信頼してる」


 夜道のその言葉に、アザミはきょとんと、そして顔を真っ赤にして言った。


「――任せろ!」

「出しますわよ! シートベルトの準備はよろしくて? フルスロットルですわ!」


 ◇ ◇ ◇


「ははっはははは! 見たまえ! 海月夜道が逃げていったぞ! オマケに死神部隊全員つれて! はははははははは! 面白い、面白すぎる!」

「抱腹絶倒?」

「おっと、君が四字熟語を使うとは――ははははは。しかし、おもしろい。面白すぎる。だが悔しいなあ! はははははは。やはり卒業生が残した設備では不十分だったか。なら私は設備を強化せねばなるまい。脱獄を許さない為に。更なる脱獄劇を見るために! 有田君。部員には追撃しないように命令しておきたまえ。これ以上は無駄だ、死体が増えるだけだ。

 しかし生徒会め。あんな化物を放置するとはな。殺してしまえば楽なのに。――有田君、祭葉でヒトを殺す方法を知ってるかね?」

「不可! 生存! 保健室!」

「――そうだ、この学園ではどんな致命傷を負っても保健室に転送されて治療を受けることになる。だが、一つだけヒトが死ぬ方法があるのだよ。まあ生徒会長に教えられて、最近知ったのだがな――」


 ◇ ◇ ◇


 東部学生街(イースト)から中央学生街(セントラル)までの道のりは順調であった。今のところ夜道達とアシュリーを阻む何かは現れていない。

 がたがたと段差で跳ねていた車体も、いつの間にか揺れが収まっている。中央に入ってから、道が舗装されてきたのだ。


「大分緋之宮マキナにお熱ですわねえ」


 運転しているアシュリーが、突然そう言った。どこから取り出したのか、風船ガムなどを噛んでいて、先ほどから膨らんだりしぼんだりしている。


「何を言い出すかと思えば……」

「気にもなりますわ。あなたが女性に執着するのも珍しい話しですもの……」

「そうか?」

「すっとぼけてますわねえ。あなた、掲示板でなんて呼ばれているかご存知?」

「知るか」

「『ラノベ主人公』ですわ。周りに女子生徒を侍らせているくせに、浮ついた話が聞こえてこない性欲ゼロの朴念仁」

「酷い話」

「事実でしょう?」


 ぷくう、と風船ガムが膨らむ。


「もしかすると、俺は、その、上手く説明できないけど、生前にマキナと会ってるかもしれない」

「あら、ここでは珍しい話では無いですけど」

「だから、それを確かめに行く」

「男の子ですわねえ。――そろそろ準備してくださいませ。生徒会室はすぐ目の前、ですわ。……あら、あら?」


 アシュリーはブレーキを踏み、車を停止させた。急なことに夜道は対応できず、前のめりになってシートベルトに締め付けられる。


「アシュリー、勘弁してくれ……」

「夜道」

「ん」

「今すぐベルトを外して、外に飛び出してくださいませ」


 何故――という疑問を口にする前に、夜道はあわてて車外に飛び出した。フロントウィンドウ越しの風景を見れば、たとえ日柳薊だって冷や汗かいて同じ行動をとっただろう。

 夜道が何とか外へ出れば、背後から膨大な熱と衝撃波に襲われた。爆発である。つい先ほどまで夜道達が乗っていた車が、外部の干渉により爆発したのだ。

 爆風に吹き飛ばされた夜道は、どうにか受身と取りダメージを抑える。そして、目の前の『外部の干渉』を睨みつけて言った。


「二脚戦車……さすがにそれは強烈だ……」


 キャタピラーの代わりに巨大な脚が接続され、走る代わりに歩く兵器。全長五メートル。無機質な電磁砲に、有機的な脚が繋がっているそのデザインはどこか不気味な印象を与える。

 それが、夜道の目測で十機。

 生徒会室が設置された時計塔を守るように配備されていた。


「ああくそ、面倒だ」


 夜道は頭を掻いてどうするべきか考える。


「ハッキングを仕掛けて二脚戦車の機能を停止、或いはバグを発生させて動作不良を起こす――いや、それは駄目だ。例えそれで一機停止させたとして、残り九機は? 十機同時に機能を停止させるほど俺も器用じゃない。あの電磁砲は、物理障壁は当然として、結界すらも貫通するだろう。空間凍結も同じ理由で駄目だ」

「なら、わたくしの出番ですわ」


 と、体の埃を払いながらアシュリーが言った。夜道はその言葉だけで、アシュリーが何をしようとしているのか理解した。

 それはアシュリーを囮に、夜道が生徒会室に突入するということ。一見残酷なその提案を夜道は、


「……無理はするなよ」


 と返した。アシュリーはにい、と笑ってそれに答える。

 夜道は知っているのだ。この手の、大型オブジェクトの相手はアシュリーが一番得意としていることを。ここでアシュリーを心配するのは、かえって無礼だということも。


「ええ、お任せあれ――」


 そういうとアシュリーは二脚戦車の前へと歩みを進めた。当然全裸だ。彼女の体を保護するものなど何もない。

 その堂々とした行動に、二脚戦車のパイロットもたじろぐ。


「アメリカの緑の巨人をご存知?」


 アシュリーがそんなことを言い始めた。二脚戦車のパイロットは集音機でアシュリーの声を拾っているためしっかり聞こえていた。


「彼は普段はおとなしい科学者なのですけど、ある条件を満たすと怪力無双の巨人に変身してしまう。まあそれはどうでもいいのですわ。彼の不思議なところは、体が何倍にも膨れ上がるのに絶対にパンツは脱げないところ」


 一体何を言っているのだ――という空気が二脚戦車の間に流れる。そんなことはお構い無しにアシュリーは続けた。


「羨ましいですわねえ。絶対に破けないパンツ。わたくしも欲しいですわ。でも、祭葉では未だにそんな便利なものは作られていませんわね。ならわたくしは――全裸でいるほかにありませんわ」


 はっとしてパイロットの一人が、電磁砲を発射した。アシュリーの危険性を思い出したのだ。

 轟音を上げて砲が打ち出される。着弾。地面がえぐれ、衝撃で砂煙が上がる。この時点でアシュリーに直撃したかどうかは不明だった。ただ、当たっていなくとも着弾時の衝撃で電脳体にダメージが入っているのは確実であった。

 そのはずだった。


『――愚かですわ』


 砂煙が晴れると、アシュリーらしき姿はどこにも無かった。ただそこにいたのは、奇妙な巨獣だけだ。

 その巨獣にはおおきな翼が生えていて、電磁砲はそれに受け止められていた。

 この瞬間、パイロットは判断ミスを自覚した。アシュリーがヒトの時に電磁砲を打ち込んでいれば! だが既に遅い。もはやアシュリーの電脳体を電磁砲で傷をつけるのは難しくなっていた。

 全身は白い体毛で、神話生物の様に巨大。獅子を彷彿させる鬣は金色に輝き、その背中には鷲の如き翼が。羽は一枚一枚が鱗の様に硬く、その四肢は荒々しく爪が生え、尾はまるで蛇。

 まるで動物のハイブリッド。攻撃的な姿のそれは、紛れも無くアシュリーであった。

 千在幻獣(ドレッドジャム)――あらゆる生物の情報を電脳体に取り込んだ合成種(キメラ)、アシュリー・スタンフィールドのアダ名だ。


『全ての生物は水から生まれた。その全ての生物の混ざり物が、わたくし。故に、わたくしは水中で傷を癒し、陸で自壊する。この姿でいられる時間は長くはありません。すぐに終わらせてさし上げましょう』


 十機の二脚戦車は同時に電磁砲を発射した。アシュリーに向かって一直線に飛ぶ。今度は受け止めずに、その巨翼を羽ばたかせて空へ舞い上がった。

 かと思えば、一機の二脚戦車に飛び掛る――取り付かれた二脚戦車は体勢を崩して、横転してしまった。

 すかさず追い討ち。アシュリーは牙をむき出しにしてコックピットを噛み砕く。牙に貫かれたパイロットは速やかに保健室送りとなった。

 背後から別の二脚戦車が迫る。射撃が通用しないと判断したのか、二脚戦車は普段は格納されているドリルアームを展開、アシュリーの機動力を奪う為に翼を攻撃しようとしていた。

 しかし、それが到達する前にパイロットは保健室へと送られた。アシュリーの硬化した尾が、コックピットを貫いたのだ。

 アシュリーの取る全ての行動が一撃必殺。接近戦は不利――冷静にそう判断したパイロットは一度距離をとることにした。二脚戦車には豊富な射撃兵器。外見から判断するに、アシュリーにはそれに準ずるものは無い。なら効果は薄くとも、遠距離から攻撃した方が分がある――そう判断した為だ。


『本当に、愚か』


 アシュリーは二脚戦車から飛び降りると、地面にがっちりと着地した。爪を食い込ませ、電脳体が衝撃に耐えられるように。体毛がワイヤーの様に伸び、地面に突き刺さった。電脳体をしっかりと固定するために。

 アシュリーはその鋭い眼で獲物を捕らえると、静かに口を開いた。すると、それに伴って、羽の一枚一枚が赤熱し始めた。余剰エネルギーを放熱するためだ。

 アシュリーの体温が上がる。口の中でエネルギーが収縮される。そして、


『□□□□―――!』


 表記不能の、アシュリーの咆哮が大地を振るわせる。破壊的な轟音と共に、圧縮されたエネルギーが発射される。それは一筋の熱線となって伸びていき、連なって移動していた二脚戦車を貫通した。

 三機同時撃破。それを一瞬で成し遂げたのだ。


 ――夜道は?


 と、アシュリーが思うと同時に、眼前にポップアップが表示される。新着メールの通知だった。尻尾でホロウィンドウを器用に操作し、メールを開く。差出人は海月夜道。


【暴れすぎだ馬鹿。俺はなんとか時計塔に到着した。そっちも無理せず、適当に切り上げてくれ】


 そのメールを見て、アシュリーはほっとする。だが、アシュリーは適当に切り上げるつもりなどなかった。たとえここで退いたとして、後から来るであろうアザミと一葉が二脚戦車を突破するのは難しいだろう、と思ったからだ。

 アシュリーは痛みを感じていた。アシュリーの電脳体は、獣の情報を取り込みすぎて、もはやあるだけで電脳体に負荷が掛かる状態だ。

 だが、それを理由として退くつもりも毛頭なかった。


『さあ、来なさい。××××(ブっ殺して) ×××(さしあげますわ)


 残った五機に対して、アシュリーはそう宣告した。

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