死神と呼ばれた男
戸惑い、という状態には何度も遭遇したことのある夜道でも、今目の前で起きていることについては一瞬理解が追い付かなるレベルの特異事態だった。
凛々燐が今夜道に突き出している物は? ――どこからどう見てもサイン色紙である。
それが示すことは? ――サインの要求。
誰に対して? ――海月夜道に対して。
間違いなく? ――間違いなく。
【凛々燐 電脳体異常『緊張・極高』】
夜道のラジエル奇眼が示した、燐の状態である。もっとも、赤面してうつむいている彼女の心中など、わざわざ『眼』を使わなくとも明らかではあったが。
「……何で?」
と、夜道が疑問をぶつけたのも至極当然な話だった。燐は緊張してしまい、返答するどころの話ではなかったが。
「はい、これ。必要でしょ?」
燐の代わりに夜道の疑問を解こう、などと気の利いた性格の人間はここにいないようで。理子はマジックペンを夜道に差し出していた。
「何してるの夜道。あ、これ全部食べていい? まだ食べたり無いわ」
マキナの辞書に『助け舟』という言葉は無いようだ。
「―――――――」
一番の常識人であろう舞は、氷の様に固まってしまい、返事をしない屍の様に成っている。
――ええ……。
改めてサイン色紙を見る。燐の態度から察しても、明らかに『あなたのファンなんです! サインください!』の類だった。
とりあえず、夜道はサイン色紙を受け取った。無下にあしらうのも悪い気がしたからだ。しかし、夜道はサインなど書いたことはない。どういったものを書けばいいのか皆目検討がつかなかった。
とりあえず、自分の名前をローマ字で置き換えて、適当に崩したものを書き付けた。夜道がペンを動かすたびに、燐の顔には笑顔が生まれていって、その態度は夜道をひどく困惑させた。
夜道は特別贔屓されるようなことなどした覚えはない。特別な力を持った、平々凡々な人間だ、と夜道は自分のことを評価している。
――人に恨まれることなら、いくらでも思いつくけどな。
同時に、その特別な力は自分の悪評を目立たせている、と理解していた。
誰も追いつけないほど高められたハッキング技術。
操作コンソールを必要としない、思考操作という技能。
相手の状態を読み取る、夜道すら仕組みを理解していない魔的な眼。
そして、死神部隊としてのキャリア。
夜道はラジエル奇眼の存在は基本的に知らせていないが、それを勘定した上でも特異性は際立っていた。
夜道は三年生だ。たった二年とちょっとで、夜道は恐怖の象徴のような存在になっていた。道行く生徒は夜道と関わらない様に努力し、腕っ節に自身があり、年中人を殴っている不良でも夜道にだけは挑まなかった。
だから、その特異性にあこがれる人間がいるなどと、夜道は全く想像していなかったのだ。
「あなたのことは、図書館に納められた新聞と動画資料で知った」
「あそこはそんな情報まで収集してるのか」
苦々しく、夜道はそう言った。
祭葉学園の図書館は資料収集などの通常の図書館業務だけでなく、学園内の出来事や事件などを蓄積する仕事を請け負っていた。そして収集した情報を元に、学園の歴史資料等を作成するのだ。
時折、そこには学園内で力の強のあるものにとって都合の悪い真実も存在する。また、蔵書に対して不適切な表現の本がある、とクレームをつける生徒もいる。彼らは図書館から都合の悪いモノを排除しようとする、図書館にとっての敵だった。
それらに対抗するのが、茶色の制服で身を包んだ生徒『図書委員会』だ。だが、彼らを『としょいいんかい』と呼ぶ者は少ない。彼らは一般的に想像される文官のような仕事もやっている。しかし、彼らは図書館の自由を害するものを排除する、武官でもあった。それゆえに『アーカイブアーミー』と呼ばれた。
彼らは、学園内でもトップクラスの攻撃能力、防御能力を有していた。夜道ですら、彼らと積極的に関わろうとは思わない。救いなのは、彼らは高潔な生徒で、図書館を自由を妨害する者以外には決して力を振るわないということだ。
公安が兵士なら、アーカイブアーミーは騎士。両者を比較する時に使われる文句だ。
故に、図書館が自分のことを記録した、という事を夜道は歯がゆく受け止めざるを得なかった。
それは海月夜道という生徒は、祭葉学園に大きな影響を与えた人物だと証明することに他ならないからだ。
「祭葉凍結事変、制服消失事件、悪魔召喚事件、日柳薊暴走事件……祭葉学園では、私が入学前に大きな事件が多く発生していた。そして、それらの全ての事件にあなたの名前が載っていた」
「……そんなこともあったな。特別、俺がピックアップされてたわけじゃない。他の死神部隊の連中も載ってたはずだ」
「その通り。でも、あなたは他のメンバーと明らかに違っている。超人的な三人と違って、あなたはだれでも身につけられる力で戦っていた。あなたは、私みたいに特別な力を持たない生徒にとっての希望」
――何を言っているんだ。
口には出さなかったが、それが本音だった。
「希望だって? まるでヒーロー映画のような台詞だ」
「口に出すのは恥ずかしい。けど、あなたは私のヒーロー」
「ヒーロー? いいや、死神だ。みんなそう言ってるだろ。情け容赦なく命を刈り取る、黒いローブの嫌われ者。――俺にはぴったりの呼び名だ。ここじゃ人は死なないけどな」
「死神が刈り取るのは悪い人間の命。正しく生きる人間を守るため」
ひゅー、と理子が茶化す。面白くて仕方がないのだ。燐という、人と積極的に関わらない少女が、頑張って男子と話している様子が。
それとは全く正反対に、面白くなさそうに見ているのはマキナだ。
マキナは食べる手が止まり、はっとして夜道を見た。食べるのに夢中だったマキナだが、それは燐の台詞で止まる。
――何? この女。
分かりやすいほどの嫉妬、それにマキナは襲われていた。燐の言葉の並べる言葉、それはなぜだかマキナを苛立たせた。
――何なの? 私が少し目を話した隙に……。
とは思うが、マキナは燐を羨ましくも思った。
燐の言葉は直情的で、言葉の端々には好意が潜ませてある。それは、今の自分ではおそらくできないだろう、とマキナは思ったからだ。
――ああ、もう! いらいらするわ!
……などとマキナが考えているのを――女の勘というやつだろうか――理子は感じ取って、意地悪く「おおっ!」と分かりやすく声を上げて、この妙な空気を完全に楽しんでいた。
そんなことを考えているのは理子だけで、舞は相変わらず固まっているし、マキナはイライラとフォークを握り締めている。
苛立っていたのは、夜道もだった。
「それは違うぞ。今、俺は外に出るたびに目を背けられてる。希望どころか恐怖だ。それに――」
特別な力を持っていないといえば、嘘になる。と続けようとして、夜道は言葉を濁した。夜道の『眼』のことだ。後天的に手に入れた、魔法じみたこの眼はあきらかに特別な力だ。だが、夜道はそのことを言い出せなかった。
もしかしてここで本当のことを言うのは、せっかく自分を良く思っている後輩に対しての裏切りでは無いか、と思った為だ。
――嘘をつけ。本当は嫌われるのが嫌なくせに。
それは死神部隊としてそれなりに尊敬されていたころの反動か、夜道の本音が湧き出てくる。
――他人に理由をこじつけるのはやめろ、海月夜道。
葛藤。それはとっくに乗り越えたと思っていた壁だった。
死神部隊のやり方は恐怖政治的だ――そう批判されたこともあった。しかし、それでも去年まで夜道は学園のヒーローのような扱いを受けていたのだ。
――それが、今はどうだ。
――道を行けば恐れられ。
――教室に行けば誰も夜道に離しかけようとしない。ずっと朝から眠る夜道を起こしたのは誰だった?
夜道は奥歯に妙に力が入るのを止めることができなかった。
ああ、と思い出した。生前、自分がどんな人間だったかを。たかだか電話一本で、あんなに恐怖した自分を。祭葉学園に入学し、力を振るっていて忘れていた、どうしようもなく心の弱い自分を。
燐は言葉を続ける。
「私は、ここにくる前は何にも自信を持てない人間だった」
その言葉に、この場の人間全員が驚いた。舞が意識を取り戻すくらいにだ。燐は、祭葉学園のタブーに易々と触れたのだ。
「私は何も取り得のない人間だった。私ができることは、だれでもできる。私は誰でもできることしかできない。私の代わりなんていくらでもいる。ずっと、そう思って生きてきた。両親にもそう言われてきた。先生にも、同級生にも。ここで任されている事務作業だって、その気になれば部長にだって、舞にだってできる。数学は誰も習ってるし、事務処理だってちょっと調べればやり方は分かる。でも、私は料理が作れない。笑顔で接客だってできない。逆は無い。そして、生前の私は、バスルームで――」
そう言って、燐は左手の手首を夜道に見せた。そこは白い包帯が巻かれていて、何かを隠しているようだった。
「だけど、あなたのことを知って。私は正直おどろいた。この学園の生徒ならだれでもできるハッキングという行為。それを使って特別な人間の中と肩を並べて活動している。だから、」
燐の一連の言葉、燐の光ある瞳。それらはどれもが夜道を高く、高く持ち上げて称えるものだった。
燐からすれば、そのつもりだったのだろう。
――やめろ。
夜道にとっては、そうではない。
無意識に開く瞳孔、荒れる呼吸を無理矢理押さえ、上がる体温を自覚する。
「――だから、あなたは。私にとって希望」
その輝く瞳は、輝く刃。
その言葉は、心を蝕む毒。
「私は、あなたに救われた」
「違う」
夜道は否定する。激情ではない。ただ悲しみに追われて。
そうしなくては、電脳体に異常をきたしそうだったから。
「……え?」
と、燐は一瞬夜道の言葉を理解できずにそう漏らした。
「俺は、違う。違うんだ……。誰も救っちゃいない……」
夜道は、まだここに着てから何も口にしていない。喉の辺りまで来ている何かの正体は、胃酸だった。電脳体に消化器官は無いが、現実の肉体と同じような生理現象を再現するようにはできていた。
「う、ぐ……」
夜道はそれを、みっともなく吐き出す前に外に出ることにした。自分の精神状態は、ラジエル奇眼で確認するまでもなく明らかだった。
ふらふらと歩き出す夜道。それに対して、
「ちょっと、どうしたのよ。くらげ?」
マキナが心配そうに声をかける。夜道が尋常でない状態なのは、マキナにもわかった。
「……ちょっと外に出る。放っておいてくれ」
「はあ? 放っておける状態じゃないわよ。ちょっと待ちなさい、くらげ! ――ごちそうさま!」
と、マキナは食事を止めて、夜道を追いかける。りん、と客の出入りを知らせる呼び鈴は二回鳴り、マキナが扉をくぐったあと、蝶番は静かに外と内を隔離した。
「……どうして」
「あのね、燐」
ショックを受けている燐に、理子がフォローするように言った。
燐は一年生。理子は二年生。
だから、理子は夜道の事情を知っていた。突然夜道に起きた以上のこと――止めるべきだった、と理子は後悔する。
「ああ言ったのは、あなただけじゃないのよ」
◇ ◇ ◇
できるだけ店から離れよう、という思考だけが夜道の電脳体で処理されていた。誰とも顔を合わせたくない、という気持ちがあった。それともう一つ。
体は熱病に病気に罹ったように熱く、頭は槌で殴られた様にくらくらとしていて、心は冬空の様に寒く――精神的に異常をきたしているのは明白だった。
極度の緊張状態。夜道は情けな催し《・・》そうになっていて、自分によくしてくれた店の近くで致すのは望むことではなかった。
幸いここは西部の中でも人数の少ない場所だ。夜道はふらりと路地裏に迷い込み、そして汚れた壁に手を着いて、嘔吐した。
「ッグ、う――――」
つうとした酸の臭いが鼻腔をくすぐり、嘔吐感を余計に招く。そして二度目の嘔吐。胃酸は夜道の喉を伝い、糸を引いて地面へと染みこんでいった。跳ねた吐瀉物がズボンを汚しても、そのことを指摘する人間はここにはいなかった。
「――、はぁ、はぁ……」
悪態をついて、行き場の無い感情を吐き捨てる努力をした。しかしこみ上げてくるのはやはり吐き気だけで、もはや吐き出すものの無い夜道の電脳体はぴりぴりと悲鳴をあげていた。
「……アレぐらいで動揺してどうするんだ」
ぽろりとそう呟く。
『海月夜道は裏切り者である』『海月夜道は自分の責任を全うしなかった、公安失格の生徒だ』『海月夜道の判断ミスのせいで事件が長引いた』
過去の記憶がリフレインする。それはどれもが一つの出来事に関するもので、夜道が死神部隊を抜けるきっかけになったもので、部隊が解散する理由になったものだ。
「……くそっ! やめろ、もう終わったことだ!」
頭を振り回し、髪の毛を握り締め、電脳体を走る映像を叫ぶようにシャットアウトする。だが死神部隊としての、明確なただ一度の失敗はそんなことでは完全に忘却することはできなかった。
まるで呪いだった。解除することのできない精神汚染が、夜道を苦しめるのだ。
「おうおう、そこのガキんちょ。もしかして海月夜道じゃあねえかあぁ?」
聞き覚えのある声だった。ちょうど、太陽が沈む前に鬼ごっこをした気がする、と夜道の記憶は告げていた。
「教室全体を電子レンジにするたあ、中々残虐な催しだなおい! 熱くて死ぬかとおもったぜおれは! ぎゃははははは!」
木戸幸太郎は下品に笑いながら、夜道にそう言った。
「……尾けてきたのか?」
「誰を?」
「俺を」
「何の為に?」
「捕まえる為に」
という夜道の言葉を聞いて、幸太郎はより大きく笑う。
「んなわけねえだろ? たまたまだ、たまたま。ほら、黒制服も脱いでるじゃねえか。わざわざお前を捕まえに西部学生街までくるか。そもそも、この場所は特殊なんだ。西部学生街を牛耳ってるヤツが公安と仲良くし続ける限り、俺はここで仕事はしねえよ!」
そして「ぎゃはははは!」とまた笑う。
「成程、納得いった」
「だろ?」
「西部のこの辺はがあまり盛り上がっていない場所だ。こっそり未成年に酒を出す店もあるだろうよ」
「分かってるじゃねえか! ええ? お前も飲むかァ?」
と、幸太郎は大きな瓶を夜道に突き出した。角度的には明らかに酒がこぼれそうな状態だが、一滴もこぼれないあたり瓶はもう空っぽなのだろう。そんなことも分からない状態に成っている幸太郎みて、相当キマッていると夜道は判断せざるを得なかった。
「公安もいよいよもって腐敗してきたな」
「公安の連中は昔からクズばっかだってーの。テメエらが仕事しすぎてただけだ。死神部隊? いや、あの時は楽だったぜ? お前らが大きな仕事は解決しちまうからな」
「……そりゃどうも」
「ところで俺は思うわけだ。チャンスは絶対に逃しては成らない、と。人の出会いは一期一会、チャンスを逃したら次はいつ出会えるか……」
と、幸太郎がホルスターから銃を抜いた。大口径リボルバーだ。公安委員会制式の銃ではない。一目見れば幸太郎の趣味のものだと分かった。
「仕返しだぜ、よぉみちィ?」
眉間に皺をよせて、目は完全に据わっている。そこから見える感情は怒りだけだ。ただ夜道に仕返しをする、それだけを考えているようだった。
「仕事はしないんじゃなかったのか?」
「仕事? ば~っかじゃねのか。私怨だよこれは! 仕返しにきまってんだろうが!」
「だろうと思った」
そういうと共に、夜道の警戒レベルは引き上げられる。思考操作で、幸太郎に対抗するにはどれにアクセスすれば良いかを考え始めていた。
「テメエのその余裕そうな表情、昔から気に食わなかったんだよ!」
幸太郎はふらふらの体で夜道に狙いをつけて、リボルバーの引き金を引いた。
ハンマーが弾丸を叩き、炸裂音と共にそれが発射される。空気を押し広げて、まっすぐに飛んでいき、攻撃対象に損傷を与える。銃とは本来そういうものなのだ。
幸太郎の銃は、その機能を果たすことができなかった。
「あん? 何だこの引き金? かってえな」
幸太郎はそもそも引き金を引けていなかった。犯人は言わずもがな、夜道だ。夜道は幸太郎の銃にハッキングを仕掛け、バネを硬くし、幸太郎の握力では撃てない様にしたのだ。
「くそ。どういうことだ! いいところだってのに……」
それに気がつかない幸太郎はリボルバーの異常を探す為に銃をチェックし始めた。シリンダー、ハンマー、そして銃口。所詮幸太郎は日本の十八歳、銃を扱う際のやってはいけないことに対して意識が薄かった。
「弾が入ってるのに銃口を除くヤツがいるか」
夜道は再び思考操作で幸太郎の銃を遠隔操作する。引き金は指がかかってないにも関わらず後ろに引かれ、リボルバーの各パーツが動き、ハンマーは弾丸を叩いた。
銃声が響く。
「がっ!」
発射された弾丸は幸太郎の眼にめがけて発射された。一発ではない、六発だ。銃に込められた弾丸は高速で連続発射され、幸太郎の電脳体に損傷を与えたのだ。
「あああああああああああ! いてえ、いてえよ! 痛い痛い痛い痛い!」
【重傷確認。保健室への転送まであと三秒】
そして表示される、強制転送を告げるホロウィンドウ。幸太郎の復讐はかくもあっけなく終わったのだった。
「ううううううううう! 何でだ! 畜生! お前はいつも表情を変えず、しれっとして相手をぶちのめしやがる! 気にくわねえ、気にくわねえ!」
ぎゃあぎゃあと叫びだす幸太郎。
夜道は幸太郎のことを哀れに思わなくも無かった。このまま保健室に転送されれば未成年飲酒がばれる。校則違反、ということだけでなく、公安内でも問題になるだろうことは容易に想像できたからだ。面子を潰した――おそらく幸太郎は公安をクビになり、補習部屋に送られることになるだろう。
そんな幸太郎を見て、夜道は吐き捨てる様に行った。
「……お前らがそんなんだから、俺はアシュリーの誘いを受けたんだ。公安委員会でありながらほぼ独立している、たった四人の部署。死神部隊の!」
という夜道の言葉を最後まで聞くことなく、幸太郎は転送されていった。
「……はあ」
夜道は壁に体を完全に預けた。そのままずるずると、背中を壁に擦りながら地面に座り込んだ。
「賞賛されると懐疑的になって、恨まれるとショックを受けて。……馬鹿か、俺は」
下を向いても、見えるのは暗い地面だけだった。空に浮かぶ仮想の月は、路地裏まで光が届いていなかった。だから、なんとなく夜道が上を向いた。
「くらげ、こんなところにいたのね。銃声が聞こえたから焦ったわよ?」
マキナがいた。心配そうに夜道を見ていて、その表情ははっきりと認識することができた。空に浮かぶ月の光のおかげだった。
その日の月は、真円を描く美しい月だった。




