「俺が記憶する限り、あの時の彼女はまだ機械だった」
(バックアップファイルの日付が正しいなら)2016年5月15日から2017年3月5日まで投降していた『転生計画 Recall prolect』の再投稿です。内容は同一のものになります。
『▶』
少なくとも、これは俺が小学校に入る前の記録だ。
「誕生日プレゼントだ」
俺が記憶する限り、これが父との最後の会話の切り口だ。それ以降、アレの顔は見ていない。
まだまだ小さかった俺は、父の言う誕生日プレゼントというワードにそれは過剰に反応した。プレゼントはいつだって心躍る物だ。何が入っているのだろう、一体何をくれるのだろう、と。たとえそれが、家庭を顧みない男からのものであってもだ。
「これからはこれに面倒を見てもらうんだよ」
そう言った父の後ろには、巨大な箱があった。俺よりも大きく、父と同じくらいの大きさの箱だ。箱と言うよりは分厚い装甲。それは厳重にロックされた機械の箱だ。
この時の俺は、……ああ、そうだった。手を上げ、瞳を輝かせ、リビングを跳ね回って狂喜乱舞した。しょうがないことだ。明らかに小さな子どもの俺の手に余るプレゼント。そんなサイズのプレゼントなんて今まで見たこと無かった。せいぜいアメリカの古い映画で見るくらいだ。それが、俺宛で目の前にあったのだから。
「ねえお父さん、今開けていい?」
俺もつくづく馬鹿な子どもだ。この時の父の真意に気がつかなかったのだから。
この時、俺の母がいつの間にか家から消えていた。当時の俺はてっきり旅行にでも行っているものだと思ってた。愚かだ。だがしょうがない。この時の俺は『離婚』という言葉を知らなかったのだ。
これはプレゼントなんかじゃない。居なくなった『母』というものの代用品だったのだ。
「ああ、いいとも。ここのスイッチを押してごらん……」
と言って父が指差したスイッチは、俺よりも高い場所にあった。なんとか背伸びして押そうとするが、どうしても届かない。そう難儀している俺を、父は優しく抱き上げてくれた。父と同じ目線に立つことの、なんと楽しいことか。「おおー」などと間抜けな声を出して、俺は目的の白いスイッチを押した。
『この度は弊社アンドロイドをお選びいただきありがとうございます。我々は最新のテクノロジーと徹底した管理体制で、常に革新的な創造を行っています。それらは弊社を信頼する、すべてのお客様のに最高の体験を提供するために必要なことです。我々はあなたのお役に立つことを約束します――』
よく装飾された、長い電子音声がなり終わると、箱に掛けられていた厳重なロックが順番に解除されていった。
中々壮観である。これほどに緻密に組み合わさった機械が動く様子はあまり見れるものではない。
やがて箱の駆動音が聞こえなくなると。箱はだんだん小さく畳まれていき、やがて中のものが姿を現した。
「――――――」
ずいぶんと長い時間言葉を失っていた。それもまた、しょうがないことだ。箱の中身は、俺の想像できる範疇を明らかに超えていたからだ。
「――人?」
まだ知識の少ない俺には、それが人間に見えた。立ったまま眠る、不思議な人間。父はすぐに俺の言葉を訂正した。
「違うよ。これはアンドロイドだ」
アンドロイド、と父はそれをさして言った。
「アンドロイド?」
「そう。人間みたいな見た目をしてるけど、これの中身は機械だ」
「ロボット?」
「それも違う。マンションのセキュリティロボットはヒトの形をしていないだろう。これはヒトの形をしているから、アンドロイド」
「ふーん」
「さて、夜道。アンドロイドはロボットと違って名前が必要なんだ。好きな名前をつけてごらん」
「僕がつけていいの?」
と言えば、父は黙って頷いた。また、俺は喜んだ。名前をつけるという、所有欲を満たす行為がとても崇高なものに感じたのだろう。
「じゃあ、ミヅキがいい!」
「それでいいのかい夜道。隣の奥さんが飼ってる猫と同じ名前じゃないか」
「ミヅキがいい! だって、隣の猫可愛いから」
ひどく雑なネーミングである。この由来を聞いたら、恐らく苦笑いを浮かべることは必至だ。だが、この頃の俺はこの名前がぴったりだと本気で思っていたのだ。
目の前のアンドロイドは、それだけ美しかったのだから。
「じゃあ、名前を呼んであげるんだ。『ミヅキ』って」
「分かった。おきて、ミヅキ!」
目を開く。両手は前で組む。そして小さくお辞儀。俺の言葉に反応して、アンドロイドは動き始めた。
「――『ミヅキ』は正常に起動しました」
ぽつんと、ただそれだけ言った。
後で知ったことだが、このミヅキの世代のアンドロイドは言語機能がまだ洗練されてなく、また感情表現に乏かったらしい。
それでも目の前のものが面白かった俺は、意味の無い言葉をどんどん羅列した。
「おはよう!」
「おはようございます」
「何時?」
「午後七時です」
「男?」
「いいえ」
「女?」
「はい」
「部屋の掃除して!」
「了解」
命令を聞いたミヅキはすばやく清掃用具を発見し、部屋の掃除を始める。
「おや。もう使い方を覚えたのかい」
父がそう言った。俺はむつかしい説明書を読まずに操作できたことが、なんだか誇らしかった。
「うんうん、結構だ。――いいかい、夜道。よく聞くんだ」
「?」
「父さんはね、ちょっと遠くまで出張しなくちゃならないんだ」
「また?」
「そう。ごめんね。それと、今度はちょっと長くなりそうなんだ。だから、しばらく家には帰れない。いいかい、あのミヅキを母さんだと思って――
『■』
◇ ◇ ◇
「……胸糞悪い」
そう言って動画の停止ボタンをタップした。
「たまたまファイルの奥底に覚えのないファイルを見つけたかと思えば、これかよ」
と、少年は機嫌悪く呟く。少年はまさに動画に写っていた男の子だ。しかしその容姿は、動画内の小さな男とはおよそ一致しない。当然だ。この動画が撮影されてから、既に十年は経過しているのだから。
スマートフォンの奥底に眠っていたのは、父がこっそり撮影した動画だった。それがなぜ保存されていたのか――夜道は昔、気まぐれでスマートフォンに転送したことを思い出す。
「本当に胸糞悪い。あいつ、今はどこにいるんだ! くそ、電話の一本でもかけてきたらどうだ!」
ちょうどそのタイミングで、マナーモードのスマートフォンが振動を始めた。紛れも無く、電話の呼び出しを知らせるサインだった。
「――ふん、ユキナならここで『お父さんかもよ!』なんて言うんだろうな。タツローなら『おい夜道! 出てやれよ!』か?」
少年はクラスメイトの名前を挙げながら、そうぼやいた。
そんな希望、夜道は一つも感じていなかった。というのも、夜道はこの電話の正体が一体何なのか予想できたからだ。
ちなみに、『夜道』は一般的に理解される『夜の道』という意味ではない。『夜道』はこの少年の名前だ。フルネームは『海月夜道』。『海月』は名字で、読み方は『くらげ』ではなく『うみづき』となる。そういう説明を、初対面の人間に必ず行わなくてはならないから、夜道はこの名前が嫌いだった。
通話ボタンをタップする。そして、何度繰り返したか分からない文句を口にした。
「はい、もしもし」
――これが、物語の始まり。夜道とミヅキの出会い。
――そして、夜道の現実世界とのお別れ。
まずは第一話を読んで頂き、まことにありがとうございます。
前書きの通り、この作品は再投稿です。そのため、既に完成している作品になります。続きは予約投降機能を使って、毎日夜11時くらいに投降する予定です。
これは私が初めてちゃんと完成させた作品であり、正直に白状すると、荒さがかなり目立ちます。読み直して「ああすればよかった」だとか「この話書き直したい」とか反省点は少なく無いです。一方で完成しているのにストレージで腐らせておくのもなんだかなあと思い、再投稿に至った次第です。
拙作ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。




