007[人探し]
イデアは街に戻ると、松明と水瓶に近寄り、
衣装に飾られた気軽に手を貸してくれる風属性の「水晶」。
蛟の友人「風霊アナクシメネスに属する妖精」の力を借り。
街中の「松明の炎」と「水瓶の中の水」の全てに、
声無き声で語り掛け、イグニスから感じ取ったイメージを乗せ、
「知らないかな?」と、質問する。
「松明の炎」と「水瓶の中の水」が属している属性。
火と水は、自分達に属する愛し子「イデア」の意思を汲み取り、
「松明の炎」と「水瓶の中の水」に返事をさせる。
イデアは何時もの様に、
『ありがとう!』と力を貸してくれた精霊達に御礼を言い。
風属性の「水晶」の道案内で
「捜索対象は」直ぐに発見できたのだが…しかし……。
『あっれぇ~困ったぞ~っと、何て声を掛けたら良いんだろう?』
イデアの目の前には、
イグニスから感じ取ったイメージ通りの2人の大人の背中がある。
イデアは、軽く息を切らしながら、
5人程で固まって歩く厳つ霊の信者らしき人の背を追い、
少しばかり困惑していた。
強く思った事、念じた事を汲み取る「巫女」としての訓練の成果で、
イグニスから感じ取ったイメージ通りの人間は見付けたが、
イメージだけで探していた為、顔が分らず。
2人、どちらが本命の「イグニスの父親」かが分らない。
2人が並んで話していれば、両方の手か服を掴んで、
話し掛けても良かったのだが…世の中上手くいかない……。
そんな位置関係に、オジサン達2人はいない。
その間にその集団は、人気の少ない街の外へと向かって行く。
取敢えずイデアは、急いでその集団の真後ろまで行き、
大声で「イグニスのお父さん!」って叫んでみようか?等と、
密かに思っていたら、
集団の真ん中の方で歩いていた候補の一人が突然、振り返り、
続いて全員がイデアを囲う様に動いた。
突然の事でびっくりしたイデアだが……。
最初に振り返った人を中心に、相手の方が何故だか、とっても、
心底、驚いた様子だったのに注目する。
「何だか、人気の無い場所に誘い込まれちゃったみたいだけど…
誘い込みたい対象が、私ではなかったのかな?
何だか、オジサン達……。凄く困っている様に見えるのは、
私の気の所為ではないよね?」と、警戒心より、何となく、
イデアは申し訳なさを抱いてしまう。
因みにグロブスは、この時……。
多分きっと、グロブスの部下達も全員、同じ様に、
「失敗した!」と本気で後悔していた。
目の前には、行商団の団長グロブスの所の5歳の娘と同年代の幼女。
一見、不安そうな顔をしたイデアが、キョロキョロしながら、
自らを取り囲む大人達の顔色を見ている様子が見て取れる。
実際の所、イデアは・・・
「松明の炎」と「水瓶の中の水」が教えてくれ、
風属性の「水晶」が示した「イグニスの父親」かもしれない。
その候補のもう一人を捜していただけなのだが……。
グロブス達は、そんな事、全く知らない。
グロブス以外の大人達は、
「ヤバッ…何時もの癖で、脅す様に取り囲んじまった!
コイツ、団長の息子さんのお気に入りじゃねぇ~か!
確認してから取り囲めば良かった……。」等と、
それぞれが知る5歳児が、
「今の状況に置かれたらどうなるか?」を連想し、
「怖がって泣き出したら……。」という不安の中、たじろぐ。
グロブスも、娘のシナーピを思い浮かべ、
内心、動揺したのだが……。イデアの様子を細かく観察し、
「あれ?コイツ、ちっとも怖がってねぇ~でやんの…
意外と肝の据わったガキなんだな……。って、そう言えば、
最初に見た、このガキの舞台デビューの時にですら、
俺らん所の馬鹿なゴロツキに襲われてたよな?
髪色だけでも、値打ちの高いガキだし、
頻繁にそう言う目に遭ってる可能性があるよな、
それで、トラウマを通り越して慣れてたりする可能性が……。
無きにしも非ず、なのか?」と思考を巡らしてから、
グロブスは最初の見立ての間違いに気付いて、脱力し、
大きく溜息を吐き……。
遠征の度に顔を忘れられて、父親であるグロブスを見て泣く、
自分の娘「シナーピ」を再び思い出してしまい。
グロブスは、軽く深呼吸してから、気を取り直す。
これまでの経験で、グロブスは・・・
娘のシナーピが自分に慣れた風に見え、嬉しくなって抱き上げ、
何度、大泣きされた事だろう。
グロブスは自分の見立てより、経験を考慮する事にする。
そして、細心の注意を払い、
部下に少し下がっている様に密かに支持を出してから、
「ここで油断したら負けだ!野生動物を相手にしていると思え!
今まで、何度も、シナーピに泣かれてきた事を思い出すのだ!」と、
自分に念じ、言い聞かせ、「急に近付き過ぎない事」を始め、
「適切な距離」と「自然な笑顔」を心掛け、
イデアに目線を合わせる為、警戒されない様にゆっくり踞んでから、
怖がらせない様な声色で、『お譲ちゃん、俺等に何か用事か?』と、
イデアに話し掛けた。
イデアの方はと言うと、相手の気持ち、我、関せず。
話し掛けて来た人の顔とその声とが何となく、
イグニスを連想させるモノだったので、一人、内心喜んで、
「取敢えず……。
初対面の人には、笑顔で挨拶と自己紹介だったよね?」と、
両親からの言い付けを思い出し、営業スマイルで、
『こんばんは!御存知かもしれませんが、
ワタクシ、蛟様の巫女をしている「イデア」と、申します。』と、
両親仕込みの短い挨拶をする。
グロブスの方は、想定外な丁寧な応対に冷や汗を掻き、
『あ…え?…うん…あぁ~…はい!こんばんは……。』と、
焦りながら、返事を返す事しかできなかった。
イデアは、相手からの挨拶の返しを認識すると、
『お譲ちゃん、俺等に何か用事か?』と、
自分に話し掛けて来たオジサンに対して歩み寄り、
その顔を軽く覗き込み、親の言い付け通り、話す相手の目を見て、
『間違ってたらごめんなさい!オジサンってもしかして、
イグニスお兄ちゃんのお父さんでは、ありませんか?』と、
笑顔を崩さず質問する。
朱色の混ざるワインレッドの瞳に見詰められたグロブスは、
水霊系の魔物が持つ魅了の力を思い出しつつ、
イデアが身に付けているアクセサリーの飾り石、
水属性の浄化の力を持つ「ラリマー」と、
火属性の退魔の力を持つ「ルビー」を確認してから、
『それで間違いない』と答えた。