006[人探しの序章]
メロウはイグニスの手を掴み。『イデア!帰るよ』と、
イデアを呼び寄せ、街の東にある奉納の舞台から更に北東、
蛟の湖に流入する川の入り口付近に建てられた神殿へと、
イグニスを強引に連れて行ってしまう。
その道中、メロウはイグニスの言い分を聴く事も無く。
『2年間だよ…2年間!御礼を言おうと思ってるのに、
こっちに仕事があって、話し掛けに行けなかったり、
そっちが帰っちゃったりで、タイミング掴めなくてさぁ~……。
本当に、遅れ馳せながらありがとうな!
2年前、街と妹を救ってくれただろ?マジで感謝してる!』と、
繋いだイグニスの手を離す事無く、メロウは振り返り、
魅惑的な笑顔をイグニスに向けて放出し、イグニスを黙らせ、
そのまま神殿の中に連れ込んでしまった。
イグニスの近くを歩いていたイデアは、
『ごめんねぇ~、我が兄上様は、思い立ったら吉日の人なんだよ、
メー兄に悪気は無いから、許してやってね。』と話し掛け、
メロウが目指した目的地の扉の前に来る前…
声や音の響く、神殿に連れ込まれる前まで……。
『おい!ちょっと待ってくれ!
俺は、今から早い事、親父と合流できなかったら、次からはもう、
蛟の街で、自由行動させて貰えなくなってしまうんだぞ!』と、
必死に訴えていたイグニスの為に、
『取敢えず、イグニスお兄ちゃんは、
親父さんと合流出来たら良いんだよね?私に任せてくれる?
今日は、街中に松明と水瓶が準備してあるから、
人捜しなんて簡単だよ!ねぇ~!親父さんの事を考えながら、
少し屈んで目を瞑ってよ』と言う。
イグニスは、
怪訝な顔をしながらも、半信半疑でイデアの言う事を聞いてくれた。
「イグニスお兄ちゃんって、メー兄と同じ年って聞いてるけど、
旅をする人の割に、人を疑わないタイプの素直な人だなぁ~…
他人様の街の治安まで守るとかする偽善者だし……。
あ、そうだ!序だし、昔、助けられた御礼も兼ねて、
騙し打ちされて死にそうだから、加護も掛けちゃおうっと!」と、
余計な事を考え、実行する為、
イデアはイグニスの後頭部と首筋に手を回し、
イグニスの額に、回復魔法を使った時と同じ様な事をしてから、
『じゃ!行ってきま~す!』と、衣装を着替える事無く、
そのまま、来た道を戻って行ってしまう。
イグニスは不意打ちを食らって、呆気に取られてしまい。
一部始終を黙って見守っていたメロウは、溜息を吐き。
イグニスを温かい目で見ながら、
『お前…今、多分だけど……。3つも年下のイデアに、
迷子になった小さい子供を見る様な目で見られてたぞ、
ホント、マジで……。』と言う。
『え?冗談だろ?』と言ったイグニスも、
シチュエーション的に考え、『うぅ~わ、勘弁してくれよ』と言い。
『元はと言えば、お前が俺の話を聴かずに、
ここまで強引に、俺を連行してきた事に問題が無いか?』と不貞腐れ、
『所で、アイツ…俺の親父をどうやって見付けるつもりだ?
2年前に、顔は見ただろうけど……。覚えてないだろ?』と言う。
メロウは、一瞬、凄く驚いた顔を見せ、
『あぁ~…そっか……。魔法に関係する定義が違うんだっけ』と、
脱力した様な様子を見せて、
その場で唐突に、この世界での魔法の種類の話を持ち出した。
最初に確認したのが、厳つ霊の巫女が使う雷の魔法の類。
未婚の処女限定、修行して使えるようになる魔法の話。
そう言う話に免疫の無かったイグニスだが、興味津々で聴き入り、
知っている事を確認し合い。
「来年から、自分の妹が修行に入る事」をメロウに話す。
続いてメロウが、それと類似する宗教的な関連。
神や悪魔、精霊の類を祭って使える様になる魔法の話をする。
予断として・・・
魔法を所持するモノに気に入られ、加護と言う形で使える魔法の話。
祭るのではなく、支配して使えるようになる話等をした後で、
最後に、メロウは自分達の魔法の話をする事にした。
メロウやイデア、朱色の瞳を持つ者達の魔法は、
人外のモノとの異種間交配で使える様になった魔法である。
イグニスは少し戸惑いを見せながら話を聴き、メロウは、
『僕とイデアは、水霊アルケーと火霊ヘラクレイトス。
その2種類に分類される神の血を引いているから、
水と火の魔法が使えるんだ』と手品の様に、右手に水を溢れさせ、
左手に小さな火の球を出現させた。
メロウの魔法を目の当たりにし、イグニスは疑問を呈す。
『それで、どうやって僕の父親を見付けるんだ?』と……。
メロウは、イデアが使っている探索の魔法が
自分が使える魔法ではないのと、
理屈無しで、発見する事の出来る魔法であると言う認識だった為、
説明に困ってしまい。
目の前の目的地への扉を開け、中で祭りの打ち上げをしていた者達。
朱色の瞳を持つ集団に対して、
『なぁ~!イデアの探索の魔法って、どう説明すれば良い?
コイツ、魔法使えないから、理解し辛いみたいでさぁ~』と、
イグニスと顔見知りの子供等も居る場所にイグニスを連れ込んだ。
その場にいた者達は一瞬、メロウが連れ込んだ部外者に驚き、
イグニスと顔見知りの子供等を中心に、イグニスが・・・
蛟の街の慈善活動に参加していた少年と同一人物である事が知れ、
確認され、朱色の瞳の皆に受け入れられる。
受け入れられたイグニスは、料理を勧められる中で、
朱色の瞳の老女から・・・
イデアが、魔法を使う者として、
突出した大きな器と膨大な魔力を持って生まれた事を教えられる。
但し、その特性を全て台無しにしてしまうレベルで、
イデアには、それを使う為の魔法に関係する制御力が無い事。
更に、水と火に愛され、
水と火に対する万能的な相性の良さを持つ事。
それに伴い。少しの魔力で絶大な効果を得られてしまう事。
要は・・・
イデアの魔法は、魔力使用量の加減が難しく、
暴走してしまいやすくて危険だから、特に回復の魔法とかは、
「微かな吐息に魔力をちょっぴり乗せる形でしか使えず。
あぁ~ゆぅ~形に落ち着いてしまった。」と言う事を知る。
そう、イデアの魔法の事を知る事は出来たのだが・・・
「…だから…どうやって、俺の親父を発見して連れて来るんだよ?
本当にイデアに任せて大丈夫だったのか?このまま此処に居て、
来月から来れなかったり、自由時間貰えなかったら嫌だな~」と、
イグニスは不安を抱えながらも、食欲に負け、
蛟への奉納品の御裾分けを美味しく頂くのであった。