038[アオスブルフ側からの策略的攻撃]
とある日の深夜に、ダエーワ側の者達は一つの集落を襲った。
その戦況は、気持ちが悪い程、優位に進み…、
アオスブルフ側の武器や食料の補給路となっている小さな街、
山間部の小さな集落を陵辱し尽くした時点で急転する……。
戦いへの高揚した気持ちが解け、冷静になった者や、
住民に顔見知り、自分達と同じ特徴を発見した者達から順に、
自分達が蹂躙してしまった者達が、
元は、自分達の仲間であった者達だと、気付いてしまったからだ。
アオスブルフ側の捕虜となって生き残った者達は、
アオスブルフから支給された武器を捨て、鉄仮面を脱ぎ、
嘆きながら訴える。
「今朝、アオスブルフの捕虜収容施設から解放され…、
アオスブルフ側から、
これから生きて行く為の街を与えられた……。」のだ…と、
「自衛する事を勧められ、武装し、武器を手にしていたが、
こっちには、元の仲間と戦う意思はなかった」のだ…と……。
アオスブルフから希望を与えられて、
元の仲間に奪われた者達の気持ちは、相当に複雑であろう。
そして、捕虜になっていた仲間の集落を襲った側の気持ちも、
穏やかなモノではないであろう。
葦毛で黒い鬣の水馬、グラシュタンは馬の姿のまま、その様子を眺め、
闇に紛れ、集落の中へと入り込み、兵士達の集団の傍、
捕虜になっていた仲間の集落を襲ったダエーワの者に対して、
「今、生じた事柄を無かった事に出来る方法」を囁いて、
道の草を食べる振りして距離を作り、その場から立ち去る。
それから、頃合いを見計らって、
「捕虜となった者達を救う」そんな名目でアオスブルフの兵を率いて、
そんな状態の街を襲い。何にも知らないアオスブルフの兵を使って、
今回、街を襲ったダエーワ側の者達を殺し、
目印の付いた衣服を纏った捕虜達を救う茶番を演じた。
捕らえられていた筈の仲間を襲ってしまったダエーワ側の者達は、
事実を知って動揺し、
グラシュタンと言う名の悪魔の囁きに惑わされた者達と、
そうでない者とが対立して、全体的な統率を失い。
そこへ乱入して来た敵に平常心を奪われた。
彼等は必要以上に動揺し、そんな迷いの有る攻撃は、
隙が大きく、本来、誰よりも強かった筈の者達をも負けさせる。
長年、定期的にしか使われず。
最近、入居者を迎えた街の建物は、乾燥していて、
小さな魔法の炎で燃え上がり、更にダエーワ側の者達を翻弄し、
こうして、ダエーワ側の者達は、
アオスブルフ側の攻めに対応し切れずに、大敗した。
アオスブルフ側の兵士達は、
進撃して来たダエーワ側の者を簡単に殺す事が出来たのだ。
その後、グラシュタンは人間の姿になって、イデアから託された力で、
街を与えられたアオスブルフ側の捕虜達の心を読み、
読んだ心を分析して、
元の仲間に陵辱された者達の欲する言葉を紡いで与える。
元の仲間に陵辱された者達をアオスブルフ側の者として保護し、
怪我や心の治療、洗脳を施して解放する。
そんな事をされた者達は……。最初に街を与えられた時に、
『蛟の街の住民は、両手で数えられる程しか生き残ってはいないけど、
皆さんの力を借りて、そう言う街を作って行きたいのです。
手を貸しては頂けませんか?』と言うイデアの言葉を思い出し……。
実質、住んでいる者が存在しなかった場所。
荷物を運ぶ途中に素泊まりする為に作られた場所。
魔獣が出る地域な為、危険過ぎて普通には住めなかった場所。
アオスブルフの兵士達が交代で管理していた場所。
そんな街モドキの場所でアオスブルフの人間となった。
「その者達」は、元々が傭兵……。
『兵士としては弱くても、一般人よりは強いから大丈夫。
魔獣が出る住み辛い土地でも、生きて行ける人達だよ』と、
イデアが笑顔で断言した通り、今回の戦いで壊れた場所を修復し、
その後、その地に完全に根付いた。
なんてのは後日談。と言う事で、置いておいて……。
その時、その場所の事をグラシュタンに任せたイデアは、
この出陣の為に警備が手薄になった場所。
ダエーワの巫女達の居る場所。
敵陣の魔法を使う者達の居る場所に移動し、
雷の攻撃を2~3度防げる純粋な水の鎧を纏う者達。
炎の魔法と剣術を扱える。少数の精鋭を連れて、
敵陣の後ろから、巫女達居る野営地目掛けて襲いかかっていた。
炎を使役するアオスブルフの者達は闇夜に浮かぶ篝火を使役し、
自分達の都合の良い様に大きく燃やしたり、
消えるギリギリまで沈下させたりして、ダエーワ側の視界を奪う。
対するイデアとアオスブルフ側にとっての敵陣は、
アオスブルフ側からの一方的な、拠点への攻撃を受けた経験がなく、
右往左往して、拠点としての防御力は低かった。
更に途中から、
火の光と水の反射で自分を目立たせ、イデアが囮となった為、
ダエーワ側からの攻撃はイデアに集中する。
その為、攻撃を主体とするダエーワ側の者には、侵入者の姿は映らず。
その野営地に居たダエーワの巫女達を殺す事は簡単で、
アオスブルフ側には、負傷者も出ない状態で暗殺は済まされた。
その野営地に、ダエーワ側の魔法攻撃の主戦力となる者達。
シナーピが居なかった事が悔まれる程に……。
イデアは暗闇の中、イグニスの意識を読み、知っていた場所。
相手側の主戦力であるシナーピが居る予定だった野営地の方を眺め、
巫女達の悲鳴と男達の怒鳴る声の言葉に対して自嘲気味に笑う。
仕事を終えた者達が不審な動きをし始めたからだ。
イデアは溜息も吐いて、
『慰み者にされるよりはマシだよね?』と呟き、
カルフェンの血を引く者だけを殺しはしない炎の矢を野営地に放ち、
同じカルフェンの血を引く男達を嫌いにならない為に、
暗殺する標的ではないダエーワ側の女達をも生きたまま、
一瞬で焼き払った。
断末魔と、悪戯をしていたであろう男達の悲鳴が聞こえてくる。
イデアは「悪戯してた奴は人に見せにくい場所を火傷しただろうな…」とか、
「コレがトラウマになって…」等、
アオスブルフ側にもいる「駄目な男達」の心配をし掛けたのだが、
思い直し、深呼吸して、
「自業自得だよね?強姦魔が減って良かったと思おう!」と、
気持ちを切り替える。
実質、イデアの気持ち的には、
敵であっても、自分が殺さなきゃならない相手であっても、
同じ女である生き物が強姦される設定は気に入らない。
寧ろ、強姦する相手に対して殺意を持ってしまうレベルで気分が悪い。
だから、引き上げる際、
悪戯してて、負傷した者達を故意に置き去りにして、
本拠地へと帰ってしまった。勿論、治療なんてしてやらない。




