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君と・・し合いたい  作者: 上木 MOKA
第四章[妄執の果て]
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037[遠距離での再会]

日がまだ登っていない時間の朝焼けで、

空が、イデアの髪色に似たストロベリーブロンド色に染まっている。

昨日、寝るのが早く、早起きをしてしまったイデアは、

アオスブルフ側の砦の見張り台の屋根の上、

カルフェンが立てた避雷針を背に、独り空を見上げ、

訪れた朝が、きっと今日も戦いの時間を連れて来るであろう事から…、

自分や、兄メロウの髪と同じ色をした空を見ても、

溜息を吐いてしまう……。


『昔は、朝焼けの赤が濃い程、蛟様と一緒に雨の予兆を歓迎して、

こんな、淡い色合いの朝焼けの日は、「凄く特別な日」だって喜んで、

メー兄と一緒に、笑い合ったりとか、してたのにな……。』

イデアは独り言を呟き、する事も無いので目を閉じ、

周囲の音に耳を傾けた。


イデアの沈む気持ちとは打って変わって、

アオスブルフの砦、見張り台の内部では、

夜勤の夜目の利く魔法剣士達と交代をする朝勤務の兵士達が、

運ばれてきた朝食を口に運び、危機感無く、楽しげに会話をしている。


彼等は、イデアの寿命を知らず。

イデアが行使する蛟の力の御蔭で有利な「今の戦況が続く」と、

自分勝手に信じ切って、完全に安心してしまっている。


イデアは幼少の頃に、修行して手に入れた力で兵士達の心を読み、

苦笑いして、近い将来の事を考えていた。


現実問題、イデアが居なくなれば、敵側の後ろに付いている者達、

ダエーワの巫女の「雷の魔法」を防ぐ手立てが無くなってしまう。

雷を通さない純水を使えるのは…、イデアだけ……。

電気を通す水を高速で操り、アオスブルフの兵士を護り、

敵陣への攻撃に変化させる事が出来るのも…イデアだけだった……。


そして、イデアが蛟の街から連れて来た10人の子供達中、

水霊の力を受け継いでいて、水の力が使える子供等は3人だけ…、

だが、その子等は…、そこまで「強い力」は所持していない……。

伸び代は無く、将来性は見込めない。

イデアが蛟から引き継いでいる力を、受け継がせられる器も無い……。

多分、蛟と繋がる血が薄過ぎるからであろう。

その力の欠片を受け継がせる事すらも相当に難しい。


更に、アオスブルフには、炎の魔法が使える者達が存在するが…、

炎では、雷の魔法を防ぐ手立てがない……。


アオスブルフの守護竜、カルフェンが戦場に出て戦えば、

勝算があるのだが…、戦いに出る場所を考えなければ、

空前の大事故に繋がる……。

カルフェンは、存在するだけで広範囲に溶岩流を生んでしまうのだ。

行った場所、周辺が草木も育たぬ焼け野原になってしまう上、

溶岩流の為に「その場所」が通れなくなり、その周辺の物流が死ぬ。

戦いに勝てても、アオスブルフが陸の孤島になっては意味がない。

正直、イデアの想定できる範囲内では、手詰まりだった。


斯くなる上は、攻めの一手、イデアが敵地に潜入して、

「ダエーワの巫女を根絶やしにするしかない!」の、かもしれない。


イデアがそんな事を考え、

そんな事をした場合、発生する特定少数の人間への罪悪感を抱え、

首から下げた物を握り締め、苦しんでいると、

遠くから微かに聞こえて来た「心の声」、

「その特定少数の人の気持ち」を不用意に受信してしまう。

そしてイデアは、

その声の持ち主の気持ちに感情を揺さぶられ、涙を零した。


イデアは顔を上げ、崖を越えた先にある高台へと目を向ける。

その場所に佇む者は、イデアの方向へと、顔を向けていた。


気付けば、涙腺から溢れ出すしょっぱい涙で目が沁みて、

目が痛い。嗚咽が洩れ、零れ落ちる涙を止められない。

胸が締め付けられる様に痛い。

嗚咽を抑えていたら、喉まで痛くなって来た。

でも2人は、互いにその場所から目が離せなくなっていた。


現在の立ち位置を代わってくれる者は存在しない。

愛しい相手の身代わりを立てる事も出来なくて、

出会う度に絶望感を禁じ得ない。

今回みたいに、涙を流したのは…、初めてだったけど……。


暫くすると、強い光を放つ朝日が昇り出し、

朝とも夜ともつかぬ曖昧な時間が終了を告げる。


その場所に佇んでいた者は俯き、砦に背を向けて歩き出し、

イデアは、その背中が見えなくなるまで見詰め続け、

呼び寄せた冷たい水で目元を洗い冷やしてから、

今、偶然に発生してしまった不都合を意図的にリセットして、

その気持ちに偽りを練り込み、違う風に思い込む努力をした。


そろそろ、本腰を入れて動き出さねばイケナイ時期がやって来る。

逃げたいけど、逃げられない。逃げる事は出来ない。許されない。


「未練を断ち切らねば、動けなくなってしまう。

このままでは、駄目!子供等までもを巻き添えにしてしまう。

そうだ!どうせなら、本物の加害者になってしまおう。

立ち切れないなら、断ち切られる側になればいいじゃない!」

イデアは決意を新たに立ちあがり、歩き出した。


イグニスも、イデアとは少し違う事を考えて歩き出していた。


イグニスは、イデアとは違うスタート地点。

神託を告げる「ダエーワの巫女」である妹シナーピの言葉を信じ、

自分達の崇拝する「厳つ霊」の神の言葉を鵜呑みにして、

自分達の仲間を罠に掛けて殺し、

妹と母親に深く残る傷を残した「水霊と火霊」、

死んだと言う噂の蛟を恨み、

アオスブルフを滅ぼし、その国の守護竜を退治する事を目指している。


そんな今日は、見上げた先、

砦にある塔の上にイデアらしき姿を見付ける事が出来た。

イグニスは、見付けた塔の屋根の上の人影に問い掛ける。

「イデア……。お前は何を願い。何を思って戦っているんだ?」と…、

勿論、その問い掛けに返答は無い……。


そもそもイグニスには、

塔の屋根の上にいる人物が本当にイデアなのか?確認を取る術は無い。

イグニスは、胸の中で蟠る今の気持ちを心の中で言葉にしてから、

踵を返し歩き出す。そして、それから、大きく溜息を吐く。

キャンプ地に戻ればきっと、出陣の準備が整っていて、

巫女代表であるシナーピと、その母親であるピペルを先導として、

馬鹿みたいな作戦の実行に向けての準備が整っている事であろう。


イグニスは、キャンプ地で耳にした作戦、

妹が大声を張り上げ、宣言していた馬鹿みたいな予定を思い出し、

これから無駄に死んで行く者達の冥福を祈りながら、来た道を戻る。


イデアは、その作戦を知り、

アオスブルフの兵士達を護る為の行動に、策を講じた。

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