026[アオスブルフ国の憂鬱]
「何が如何して、こうなってしまったのだろう?」
活火山地域と言うか…、歩く場所の選択を間違えば、
自然にできたマグマの落とし穴に落ちてマジで死ねる危険地帯……。
標高が高くて、寒い筈の場所なのに、無駄に暖かい。
噴火と言う意味を持つ「アオスブルフ」の国の城にて・・・
その国でも『あまり見た事が無い』と言われる。
珍しい色合いの髪を持っていたイデアは、緩くカーブを描く、
背中まで伸びたストロベリーブロンドの髪を手櫛で梳かれ、
怖いくらい美しい相手の顔を近付けられ、髪にキスされ…、
『蛟のアルビノ種としての遺伝の名残りを受け継いでるのね』と、
服から露出した明るい白っぽい色の肌に、ゾッとする程、更に白い、
でも、女性のモノではない細長く綺麗な指を這わされ、
朱色の混じるワインレッド色の瞳を覗き込まれ、もっと深い色、
虚ろで暗いワインレッドの瞳で見詰められる……。と、言う。
ある意味で、拷問をアオスブルフの守護竜「カルフェン」から、
受ける事になっていた。
カルフェンは普段、マグマの中に住んでいて、
城の方には滅多に遊びに来ない。細長く赤黒い竜らしい。
けれども今、現在は人型に化けており、男の人なのに、
男の人の筈なのに、何故か凄く、妖艶の美を醸し出し、
真っ赤で、黒い花の描かれた丈の足りない女物の着物を着崩し着て、
胸を開けさせ、時々、セクシーに生足まで見せ付けてくれ、
日の光の加減で紅くも見える長い黒髪を弄り、
アンニュイな雰囲気で、目を釘付けにするだけでなく、
アルビノ体の「蛟」が醸し出していた空気感。白い肌と朱色の瞳、
日の加減で水色にも見えた銀髪美女の儚げな雰囲気とは違う。
気だるげで、鬱っぽい感じの儚さで、周囲の者を魅了している……。
イデア的には、正直、隣に居られると…、居た堪れない……。
イデアの目の前に居る。イデアが生まれて初めて出会った母方の祖父。
赤毛が白髪になり、頭が綺麗なピンクになった老人。
アオスブルフの「勾玉」と言う名を継いだ国王「ユヴァーレン」は、
イデアの母「イデアル」が、
『ウチの親族と結婚したら、100%1回の出産で命を落とすのよ!
冗談じゃないわ!好きでも無い相手の子供を産んで死ぬのは嫌!
私は、絶対に、殺されたって、政略結婚なんてしませんからね!』と、
家出をして、蛟の街で、浮気のできない水霊アルケーの血族、
イデアの父ゲムマに恋をし…、「夜の押し掛け女房」以下略……。で、
物理的攻撃を仕掛けて、結婚に持ち込んだのが原因とかで、
イデアと、一度も目を合わせようとはしない。
イデアを「この場」に連れて来た次期国王。
イデアの母イデアルの腹違いの弟。睫毛の長い美人顔で、
蛟の街出身の母を持つ、イデアの叔父。
アオスブルフの「鏡」と言う名を継いだ「シュピーゲル」と…、
一見、エルフにも見える男、イデアの護衛になった水の魔物、
「グラシュタン」も……。今のコレに巻き込まれたくないらしく、
不自然に視線を逸らして、イデアを助けてはくれない。
そんなこんなで、イデアが途方に暮れていると・・・
アオスブルフの「剣」と言う名を継いだ今年20歳になる双子。
シュピーゲルの息子達が、国王ユヴァーレンに呼ばれてやって来た。
シュピーゲルの紹介に寄ると・・・
色合いは火霊の特徴が強いのに、少し水霊の特徴が見え隠れする。
イデアの兄メロウに少し似た雰囲気がある方が、
「月」と言う意味を持つ名前を持った「双子の兄」で、
「モーント・シュヴェールト」と言う名前らしい。
そして、火霊系の母親の特徴が色濃く出ていると言われ、
「太陽」と言う意味を持つ名前を持った方が「双子の弟」で、
「フェーブス・シュヴェーアト」と言うそうだ。
イデアが目尻に涙を滲ませながら、その双子を見詰め、
「カルフェンの腕の中から助けて出して貰えないだろうか?」と、
様子を窺っているとまず、双子の弟の方と目が合い。
何故かニヤリと笑われ、その後、完全に無視される。
イデアは「あ~…、コイツ、いけ好かない。」と直感で感じ、
「期待して損したなぁ……。」と、早々に助けて貰うのを諦め、
でも、他に当ても無く、途方に暮れた。
暫く、ある意味でイデアが孤独に我慢していたら、
唐突に孤独感が襲って来た。
「少し、情緒不安定になっているのかもしれないな……。」と、
イデアは、未練がましいと指から外し、でも捨てられなくて、
何処かに置いておく事も出来ず。皮紐に通し、
首から下げていた「イグニスから最初に貰った鹿の角の指輪」と、
イグニスと「一緒に選んで買った指輪」を抱締め、握り締めて、
「何だろう…?何でか、凄く辛いな……。
昨日までは、蛟様と一緒に花嫁衣装を縫いながらも、
母上の妊娠を知って、
母上を支える為に、結婚を取り止めても良いって言えてたのに…、
今更、何で、どうして……。
ふとした拍子に、あの人に会いたくなってしまうんだろう?」と、
蹲る様に俯き、溜息と共に、大粒の涙をポタポタッと数滴零した。
でも、それは一瞬の出来事。
涙も、涙の跡も、イデアは誰にも見られたく無くて、
水霊としての力で一瞬で消し飛ばし、伏し目がちに瞼を固定して、
巫女として培った無表情と、蛇の目の瞳孔を閉じ気味にして、
目からの情報を減らしながら、時が過ぎるのを待つ事にする。
暫くすると、誰かがイデアの名前を呼んだ。
イデアが反射的に『はい、何でしょう?』返事をすると、
誰かが目の前に来て、
『ちょっと!寝ぼけてるの?目を覚ましなよ!』と、
イデアの目の前で、大きくパチン!と手を打ち鳴らした。
イデアが一度、目を閉じ、
閉じ気味にしていた瞳孔と、伏し目にしていた目を開けると、
至近距離に、モーント・シュヴェールト。双子の兄の方の顔がある。
その時、イデアは、その近過ぎる距離感に驚き、動けなくなり。
モーントは、イデアの瞳の動きを見て、驚いた様子を見せ、
イデアの瞳に対し『猫の目だ!』と言い出し、
『フェーブス!この娘、凄いよ!猫の目を持っているよ!』と、
騒いで、双子の弟を呼び寄せる。そして呼ばれたフェーブスも、
モーント同様、子供みたいな驚き方、騒ぎ方をして、
「20歳って、こんなに御子様だったっけ?
去年20歳だったメー兄や、イグニスが大人びていただけなのかな?
いやいや、だからって、ココまで御子様なのってどうよ?」と、
イデアを更に驚かせ……。
『『御爺様!これって、僕等の誕生日プレゼントだよね?
嬉しいな!ちゃんと、可愛がるね!』』と、双子達が言い出し、
『おい、馬鹿息子共…、直属の部下は、ペットじゃねーぞ!
而も、ソイツは、お前等の従妹だ!俺の姉の子だ!
大事に扱ってやれ!』と、シュピーゲルが言って、
「うぅ~わ…何それ……。
この双子が上官とか最悪じゃないかな?マジで!」な、
悲しい感想をイデアから引き出してくれた。