020[岩砂漠のゴーレム 2]
15R程度に抑えたつもりですが……。
そろそろ、「残酷な描写あり」な設定が入ります。
地盤が崩れた穴の下、洞窟の中では、
イデアが『発生源って何処よ?』と口に出して呟いてしまう程、
思っていた以上に、ゴーレムで犇めき合っている。
イデアは、脱力して溜息を吐き、
汗で、額や首筋に貼り付いたストロベリーブロンドを払い除け、
崖を登った疲れで座り込み、
近くに落ちたらしい稲光と雷鳴に『怖いなぁ…』と呟き、
『メー兄達は大丈夫かなぁ~』と不安になりながら、
ここへ来る途中、崖を滑り落ちて作った自分の擦り傷に触れ、
苦手な癒しの力を自分に行使する。
「メー兄を連れて来て、
砂利入りのウォーターカッターで切り刻めたら楽だけど…
メー兄には…ココに来る為の崖登りが無理だよねぇ~……。」と、
イデアは1人孤独に考え、持参した水筒の水を飲み。
持って来た干し肉を軽く火で焙ってから、ゆっくりと噛みつつ、
岩でできたゴーレム達の体が赤くなるまで熱し、冷たい水を掛けて、
『何処に有るのかも、魔法陣か魔法道具かも知らないけど、
壊れないかな?』と、体力の回復を待ちながら、実験を繰り返す。
実験を繰り返した結果、
洞窟の中の湿度が無駄に上がっただけに終わったかもしれない。
イデアは涼しさを求め、無駄になってしまった水気を回収しながら、
強化した視覚を頼りに発生源の目測を立て、筋力を強化して、
投石での発生源の破壊を試みた。
暫く、大きめな石を3か所の魔力を発する地点へと、
全力投球で投げていると、
全部のゴーレム達の動きが一瞬「ピタリ」と止まり、
崖崩れの様な音を立てて崩れ、ゴーレム達が岩や石に戻って行く。
イデアの攻撃が功を奏したのか?
今も何処かで、真面目に活動しているメロウが、何かを発見し、
仕事をしてくれたのか?イデアには判断できないのだが、
「もう、メー兄の元に帰っても良いみたいだ」と大喜びする。
イデアは、早く兄のメロウの無事な姿が見たくて、
メロウ達と合流したくて、
地盤が崩れ、天井が崩壊した場所から、洞窟の中に、
危険を冒して滑り降り、崩れたゴーレムの上を歩いて、
洞窟から繋がる最初の分岐点へ進み、ピタッと足を止める。
ゴーレムの残骸で塞がった正面の道と、現在地から西側にある道から、
濃い血の臭いがするのだ。
嫌な予感と不安が募る。イデアは少し迷い。
通れなさそうな、微かに悲鳴が聞こえて来る正面の道は諦め、
西側の道へと、歩き辛い元ゴーレムの上を駆け足で進んだ。
そこで、イデアが思いもしなかった光景に出くわす。
最初に、朱色の瞳を見開き、涙を流す魔物と化した遺体と目が合った。
水霊アルケーは、深い関係になった恋人や夫に裏切られないと、
魔物落ちなどしないし…何らかの思念を残さずして、
こんな死に方はしないであろう……。だが、
彼だか、彼女だか分らなくなった遺体は、おかしな事に、
何の思いの残り香も、感じさせていなかった。
その遺体の奥で、
メロウは矢を受け、何故か焦げ、血塗れになっていた。
メロウが戦う「その敵」は…、
先程までのとは違う機敏な動きのゴーレムと、厳つ霊の者達だった。
イデアの婚約者であるイグニスが在籍する厳つ霊を崇拝する国の者が、
蛟の街を裏切った理由が知りたくて、
イデアは、その場に居た者の思念を拾おうと試みるが
その場から、誰の気持ちも聞こえて来ない。
イデアが驚き過ぎて動けないでいると、不意に視界の端が揺らぐ。
視界の端には、シナーピが連れて来た少女達が居て、
行動的には何もしていない様にも見えるが、
何かの魔法を使っている雰囲気が地味に伝わって来る。
イデアは、呆然としたまま、
自分が視力を強化したままだった事を思い出し、
ゴーレムへの投石の為、強化したままの腕で、足元の拳大の石を拾い。
その石を躊躇せず、少女達の頭部へと投げる。すると、命中し、
何かしらの魔法が解け、沢山の思念を拾う事が出来る様になった。
そこでやっと理解する。彼等、彼女等の思念から、今回の事、総てが、
「蛟の街を壊滅させる為の作戦だった」と言う事を……。
イデアは訳が分らないながら、
心の整理を簡易的に付け、肉体の強化を全身に広げ、
持って来て、使うタイミングを失っていた剣を鞘から引き抜き、
表面に高速な水流を纏わせ、
イデアの投石で、イデアの存在に気付いた厳つ霊側の輩が、
射て来た矢を薙ぎ払うのに、まず、使う。
攻撃が来る方向とタイミングを襲ってくる輩、本人から、
攻撃すると言う意思で密かに聞かせて貰う形になるので、
イデアにとって簡単な御仕事だった。
続いてイデアは、
見るからに重傷を負ったメロウを護る為に派手に立ち回り、
ゴーレムを一刀両断し、ゴーレムが自己修復している間に、
接近戦で襲ってくる人間の武器を持つ腕を斬り落とし、首を刎ね。
接近戦を仕掛けて来る相手が居なくなったら、
矢を射て来る相手との間合いを一気に詰め、
弓を居る為の指を斬り落とし、
剣の刃ではなく水流で切っているので、迷わず、
斬った事に寄る油で切れ味が落ちる事は無いから、と、
相手の腹を薙ぎ払いもする。
イデアは人間を殺す事を恐れる事も無く、無心で、
一気に十数人程居た筈の厳つ霊側の男達を惨殺し、
その血の雨を朱色の瞳を持つ遺体に降らせる。
残る敵は、修復途中のゴーレム1体と、
シナーピが連れて来た少女2人だけとなった。
だが少女等は迷う事無く、メロウだけでも殺そうと、行動する。
イデアは、相手が素人で、まだ幼さの残る少女だからと、その時、
武器を弾き飛ばすだけで済ましてしまった事を後に後悔する事になる。
武器を失った少女は、雷の魔法を使い。
敵の数が減り、
自力で回復を試みる無防備となったメロウを襲ったのだ。
一瞬の光の嵐、雷鳴が鳴り響き、空気を揺らし、
一瞬、油断してしまったイデアから、兄メロウの命を奪って行く。
少女達は、愚かにも、初めての殺害に高揚し・・・
既に、兄と一緒に行動しなかった事を後悔していたイデアに、
更なる後悔をさせてしまった事を知らず、気付かない。
大切な者を奪われた者の心理に気が付けない。
イデアは、不用意に喜ぶ少女達に純粋な殺意を持ち、
仕事を成功させた達成感に酔いしれ、抱き合い喜ぶ少女達に、
静かにゆっくりと近付き、流れる様な動作で踞み、
2人の少女の肩に優しく触れ、『その喜びの対価、頂きます。』と、
暫くの延命に必要な臓器を残し、少女達を一瞬で完全に干乾びさせ、
生きたまま燃やしてしまう。
そして、少女達から奪ったそれをメロウへの回復に利用する。
の…だが、しかし……。
遺体となったメロウに変化は見られず。心臓マッサージをしても、
人工呼吸をしても、メロウは回復する事も、息を吹き返す事も無い。
その背後で、ゴーレムの自己修復が完成し、
地響きを鳴らしながら、ゴーレムは、イデアの背後に歩み寄った。