017[戦いへの道標]
水の元素を司る神「水霊アルケー」の中でも、とても珍しい。
アルビノ体の白い肌と朱色の瞳、
日の光の加減で、水色にも見える銀髪美女の姿をした蛟が、
地母神となって護り続ける「蛟の街」で、喜ばしい事が発覚する。
蛟と血縁を結んだ金髪の初代宮司の血脈と、
火の元素を司る「火霊ヘラクレイトス」の赤毛の血脈を継ぐ、
ピンク掛かった薄い色合いの金髪、ストロベリーブロンドの兄妹。
蛟と同じ朱色の瞳を持つ21歳のメロウと、
朱色の混ざるワインレッドの瞳の18歳になったイデアを産んだ母、
火霊の血を引く40代になるイデアルが、今日になって、
『来年には、弟か妹が生まれるわよ』と言い出したのだ。
蛟との結婚間近なメロウと、同じく、同じ日に、
水霊や火霊とは違う種類の存在定義となっている神、
厳つ霊を崇拝するイグニスと結婚する予定のイデアは、
喜びながらも、母イデアルの体調を気にする。
イデアルは、
『今朝から体調が悪いのは悪阻の所為よ!問題無い!』と言うが、
蛟は、眉間に皺を寄せて、
『私が今まで以上に強く加護を与えるけども、
悪阻が落ち着いて、子宮の中で胎盤が完成する妊娠16週まで、
大人しくしててよね!まぁ~、それは無理だろうから、
最低でも、妊娠4カ月越えるまでは、無駄に動き回らないでね?
35歳から高齢出産って言われてるのに、
もう、40代でしょ?体も心も子育てに向かなくなってるんだから、
胎児の為に、考えて行動する様に、努力して頂戴!』と言う。
多分、蛟の言う様に、
イデアルには、無理をさせてはイケナイのであろう。
結婚して直ぐに、夫となるイグニスと一緒に、
行商の旅に同行する予定になっていたイデアは少し考え、
自分の目で見なければ、ココまで苦しむ事の無かった筈の現場、
夜空みたいな黒い瞳で、イグニスが自分以外の女性見詰め、
その女性に瞳と同じ色の髪を触らせキスをするシーンが脳裏に過り、
蛟にイデアルの妊娠の安定期は何時からなのか確認したイデアは、
『私、結婚諦めて、母上の傍にずっといても良いよ』と言い出した。
イデアの言葉が、マリッジブルーから来るモノであろう事は、
相手が思っている事が、イメージ的に伝わってしまう蛟は勿論、
近しい力を持つイデアルとメロウも、
イデアが一瞬、無防備に垂れ流したイメージから気付いてしまう。
不可抗力で、
マリッジブルーを発動させてしまったイデアルは慌てふためき、
イグニスと2人で、サプライズプレゼントを企画し、
結婚式を手前に、イグニスが遠くへ行商へ行き、帰って来れない、
マリッジブルーが発動しやすい状況を作ってしまったメロウは、
蛟とイデアへのプレゼントの調達を託した手前、必死で、
イグニスの事を擁護しながら、イデアに「大丈夫」と言い聞かせ、
イデアにトラウマを作ったイグニスに対し、
「早く帰って来い!」と理不尽に思い、願った。
そのタイミングで、イグニスの母ピペルとイグニスの妹シナーピが、
久し振りに、蛟の街を訪問する。
それは、正式な「外交」だった。
イグニスと同じ黒い髪と目のシナーピは、
蛟の街の巫女の衣装とは違う。飾り気の無い衣装、
一見して巫女と分るシンプルで質の良い服を身に付け、
似た衣装を着た黒髪黒目の2人の少女を引き連れて、
ピペルとピペルに似た顔立ち男性率いる傭兵集団を引率し、
蛟の街に対して、まずは書状で、
「物流の重要な交通路を守る為、蛟の街の力を借りたい。
交渉の席を求む。」と言って来た。
蛟はそれを受ける。シナーピは自分が連れて来た他の者達に、
蛟の街の外で待機するように命じ、少女2人を共に、
蛟と、宮司のゲムマその妻イデアル、メロウとイデア、
朱色の瞳を持つ蛟の子孫達、蛟の街の代表者達の前に立ち、
事情を説明し始める。
その話に寄ると・・・
魔物の出る森を抜ければ、安全に来れない事は無いが……。
厳つ霊を崇拝する平原地域と蛟の街を結ぶ山岳地域、
大きな道の有る岩山、岩砂漠部分に、大量の魔物が出現したらしい。
行商団的には、そこの魔物を退治しないと、蛟の街への行商は勿論、
東にある火山地域への行商にも行けず、物流が滞ってしまうと言う。
既に東の地域に使者を送り、援軍の要請は断られたが、
一般人の出入りを制限し、岩砂漠の北の道に来た魔物の始末は、
それなりに対応して貰える事になっていて、
南にある厳つ霊を崇拝する平原地域側からの道は、
戦えない者が入り込まない様に、
魔物が出て行かない様に護りを固めてあるらしい。
残るは、蛟の街の南にある北側からの道だけで、
警備をする者の派遣と、援軍が出せるなら、援軍が一番嬉しいが、
それが無理でも、蛟の街の他に存在しない、
回復魔法が使える者達を派遣して欲しい。と言う事だった。
最初の方、蛟は・・・
力を制限されてしまう水の無い場所への「子孫の派遣」を渋り。
力の制限を受けないが、近々、自分の夫となるメロウ。
メロウとの婚姻で妹になる予定の、元より大切に扱っているイデア。
妊婦のイデアルの派遣を断固拒否した。のだが…しかし……。
朱色の瞳をした。銀髪の蛟や金髪の初代宮司の要素を継ぐ、
色素の薄い蛟の子孫の者達は、
『水が無い場所で、力に制限が掛かるなら、邪魔ですね。
足手纏い以外の何者でもないなら、必要無いです。』との、
シナーピが口にした言葉に、過剰反応してしまい。
蛟の街の主戦力メンバーが、討伐隊参戦を表明してしまう。
そこに責任者兼、引率者として、ゲムマが出る事にしたのだが・・・
イデアが『父上は、妊娠中の母上と一緒に居て下さい!
水の無い場所で戦うなら、私の方が戦力になる筈です。』と言い。
『イデアは、僕かイグニス意外と連携取れないでしょ?
パーティープレイは連携取らなきゃ危険なんだよ?
僕のが適任だと思う』と、そんな話になって、安全策として、
ゲムマの代わりに、メロウとイデアが一緒に行く事となる。
その決定後、久し振りに直接話したシナーピは、
緊張した面持ちで、厳つ霊の主戦力となる者達の不在を告白し、
グロブス率いるトリタ神軍の遠征部隊が予定外の行商に出ていて、
戦力不足に陥ってしまい。必死だった事を伝え、
蛟とゲムマとイデアル、遠征に行く事になったメロウとイデアに、
静かに謝罪してきた。
メロウは、その予定外の行商の原因を担う1人だった為、
申し訳なく思い。シナーピに他の事は何も訊けず。
蛟は何か他にも、理由がありそうな雰囲気を感じ取ったのだが、
心が読めない事を理由に、断る事も出来ずに黙り込んだ。
ゲムマとイデアルとイデアは、
グロブスの娘さんで、イグニスの妹だからと安心してしまい。
今回の出来事を深く考える事は、無かった。