013[将来への夢と希望]
ゲムマとグロブスは、酒の席で、
「将来、自分達の子供等を結婚させられたら……。」と話し合い。
ゲムマと蛟の提案で、毎月、
月に1度ある、大きな臨時市場の前日から、その翌日まで、
グロブスが、ゲムマの家を拠点とする事が決定する。
シナーピと、その母ピペルは、シナーピが巫女となる6歳まで、
翌月からも、毎月遊びに来ていたが・・・
シナーピは、母親とばかり過ごし
イグニスの様に、メロウとイデアの部屋で寝る事は無く、
母と娘の2人は、特に蛟の街の住民の誰とも仲良くなる事も無く、
シナーピが巫女となる事を辞退しなかったので、
シナーピが巫女となった後は、
母と娘、2人共々、蛟の街には来なくなった。
その来ていた間に、
基本、蛟と母のイデアルと妹のイデア以外の異性を寄せ付けない。
蛟とイデアルとイデア以外の異性には、笑顔を見せないメロウから、
『将来、妹になるかもしれないからね』と、
特別に、優しい笑顔を向けて貰っていたシナーピは、
優しく、本当に丁寧に対応してくれるメロウに対して、
何時の間にか恋をしてしまっていた。の、だが…しかし……。
メロウが事ある毎に、
『僕は、蛟様の事を結婚したい程に好きだ』と公言していた事と、
シナーピが頑固で、少しばかり気の強い性格だったのが災いし…
シナーピは、未来の可能性の低い恋に対して、素直に慣れず、
メロウに対して、気の無い態度をとり続けてしまう。
蛟の街に来る度に、
シナーピの態度は悪くなる一方だったので、皆が皆、
「シナーピは、メロウの事が好きではない」と思い込んでいた。
その誤認識は新たな誤解を密かに生む。
シナーピにとってのタイムリミットが近付き、
翌月から、ダエーワの為の巫女になる為、18歳の卒業の日まで、
自由を失うシナーピは、メロウに対して、
素直な行動に出られないなりに、正直な言葉を発せられないなりの、
精一杯の恋心を込めた願いを告白した。
もう直ぐで6歳になるシナーピは、少し震える声で、
『崇拝する神は違えど、貴方は同じ神を崇拝する先輩です。
だから、先輩として、私に祝福のキスをして下さい!
私が18歳の引退する日まで、
巫女として神様にちゃんと仕えられる様に、応援して下さい!』と、
心の中で、必死に「断らないで!」と念じながら懇願する。
メロウは、9歳なりの恋愛に対する鈍感さで、
シナーピの簸た隠しにした恋心に、一欠片も気付く事は無く、
それが「強い思い」である事だけは感じ取り、
「何なんだろう?変な事言うなぁ~……。」と思いつつも、
シナーピの額に軽くキスをし、『頑張ってね』と微笑んだ。
シナーピは、メロウの「その行為と言葉」に将来性を見出し、
自分の思いを汲み取ってくれたと勘違いして、
巫女を引退した後の将来に、「幸せな夢と希望」を持ち、
翌月の厳つ霊を祭る夏祭りの日に、正式なダエーワの巫女となった。
その「年に1度」の「厳つ霊を祭る夏祭りの日」は、運の悪い事に、
毎月やって来る「蛟の街の大きな臨時市場」の日程と重なり。
シナーピを知る蛟の街の住人が、夏祭りを観に行く事は無い。
そしてその月は、飲み仲間のグロブスが来ない事をゲムマが残念がり、
メロウとイデアも、
イグニスが来ない事を寂しく思っていた。の…だが……。
夕刻の蛟への奉納の舞終了後、グロブスに連れられて、
父息子共々、息を切らし、汗だくになったイグニスが、
観客席に花束を抱えて姿を現した。
遠目にその姿を発見し、メロウとイデアがイグニスに駆け寄ると、
イグニスは何処で転倒して来たのか?膝や肘に怪我をし、
この周辺には無い砂の様な物で汚れているのが判明する。
先に到着したメロウが、
『如何した?何があったんだ?取敢えず、治療を……。』と、
イグニスを治療しようと手を伸ばすと、イグニスはそれを止め、
『ありがとう、でも、ごめん!先に用事がある!』と、
後から追い付いて来たイデアに、少し元気の無い花束を手渡し、
『今日は、1000年目の祭りと同じ日だ、
イデアは覚えてないかもしれないけど、最初に出会った日なんだ。
来年でも、再来年でも、もっと先でも良かったんだけど、
今日、受け取って欲しくて指輪を持って来た!』と、
イグニスは首から下げた小さな革袋から、指輪を取り出し、
問答無用でイデアの左手の薬指に、少し大きな指輪を嵌めた。
イデアは、家族と蛟以外から、
個人的にプレゼントを貰う事が無かった為、必要以上に…
イグニスが思っていたよりもずっと、凄く喜び……。
そのプレゼントを受け入れる。
イグニスは、自分が宝物にしていた牡鹿の角を輪切りにし、
自分で削って作った白い指輪をイデアに喜んで貰えて喜んだ。
そこから、9歳のイグニスは、父親に教わった通り、
蛟と蛟への奉納の舞を見に来ていた観客、自分の父親、
メロウとメロウとイデアの両親の前で、イデアに跪き、
6歳のイデアに嵌めた指輪に婚約の誓いを立て、
『イデアが18歳になったら、俺の嫁にするからな!』と、
将来の約束を宣言し、イデアはまだ、ママゴト感覚ながらに、
それを受け入れるのだった。
観客は、小さな恋人達を無責任に応援し、祝福する。
イグニスとイデアの保護者達は、静かに見守る事にしたらしい。
最初、戸惑い、困り顔であった蛟も、
『両想いなら祝福するしかないわね』と溜息交じりに、
小さな恋人達を祝う事にする。
だが、一仕事を終えたイグニスは、そこで吐血し意識を失った。
まだ、そう言う事に免疫の無かったイデアは、
血の気を失ったイグニスに対し、訳も分らず、
「死んでしまうのではないか?」と思い込み、半狂乱になって、
『蛟様!イグニスを助けて!イグニスを死なせないで!』と、
泣きながら懇願していた。
蛟は、もう一度、大きく溜息を吐き、
『イデア、本当に、その相手で良いのね?』と確認し、
『いいから、助けて!蛟様!イグニスを助けて下さい!』と、
必死になったイデアに微笑み掛け、
蛟はイグニスとイデアを抱き締め、2人の魂を繋ぎ、祝福を与え、
イデアを守る為、密かにイグニスへ呪いを掛け、
今日、この場に来る途中で落馬し、肺を痛めてしまっていただけ。
酷い状態で、肺に後遺症が残る予定でも、
死ぬ予定はなかった運の良いイグニスを完全に修復する。
元気になったイグニスは、その後直ぐ、意識を取り戻し、
『本当は、イデアが16歳になったらって思ってたんだけど、
妹が巫女になって、16歳の時だと、
巫女の仕事してるシナーピに祝福して貰えないから、
シナーピの巫女卒業後にって思ったんだ』と、
「18歳になったら」の理由を話し、
「今、そんな話をされましても」的な雰囲気の中、
『でも、もう、イデアは「俺の」って事で良いよな』と、
イデアの額に軽くキスをした。