011[異文化交流 1]
その日、イグニスは、メロウの宣言通り、泊まる事になり、
水不足の地域から来たイグニス的に、毎日入る習慣の無い「風呂」に、
メロウによって、半ば強引に連れて行かれ、生まれて初めて、
頭から体から全身、微かに美味そうな匂いのする泡立つ湯で洗われ、
湯船と混浴の初体験をする。
そこからの更なるイグニスの初めては、血縁者以外との布団の共有、
メロウとイデアの兄妹の部屋で、3人仲良く川の字で寝る事だった。
イグニスが『食い過ぎで動けない』と言ったのに、
『半身浴にしとけば大丈夫』と、メロウに連れて行かれた風呂は、
湖を一望できる景色の良い、源泉掛け流しの露天風呂。
一緒に来たイデアは、
『今日は、兄達の洗濯物は引き受けてあげる』と
脱いだ3人分の衣類を持って先に風呂へ行ってしまう。
服を持って行かれて慌てるイグニスに対し、メロウは、
『服や下着は、朝までに絶対に乾くし、
寝る時の服は貸すから、安心してくれて良いよ』と笑い。
『そうそう、湯船に入る前のルールだから!』と、
メロウは、泡立つ湯をイグニスの頭に掛け、髪を洗い。
イグニスは、その湯に入っていた布である程度、洗われ、
顔と体をそれで洗わされる。
その時、使われた美味そうな匂いのする泡立つ湯の正体は、
「ムクロジ」と言う植物の果実の「乾燥させた果皮」、
それから出た「出汁的な物?」と言えば、良いのだろうか?
取敢えず、洗うのに使われたのは、
「乾燥させた果皮」を扱いやすくする為に、
荒い布袋に入れてから湯に入れ、ふやかした物と汁だった。
その効果の程は良く分らないが、
『汚れを落とす作用の有る物だよ』と、メロウは言っていた。
つまり、イグニス的には、「良く分らない」物だ!が…、
そう、イグニスには、
その良さが何だか理解できない物だったのだが、しかし……。
『灰石鹸って、汚れ落ちは良いけど、臭いがね……。』と、
愚痴るイグニスの母や、妹が「好きそうな物」ではあった。
イグニスは、その為に、
体を洗うのに使った「洗い袋」なる布袋と中身が欲しくなり、
「母親への点数稼ぎ」と「不仲な妹との関係構築材料」を理由とし、
それを幾つか、土産用に貰って帰れる様にメロウに頼んでおいた。
メロウはシスコンらしく、
『妹と不仲なのは辛いよね』と、異様な程、イグニスに同情し、
『仕方ないから、糠袋も付けてあげるよ』と、凄く協力的だった。
そして、髪や体を洗い。
残ったムクロジの洗浄液と、使った洗い袋を再利用して、
衣類の洗濯を終えたイデアが、同じ湯船に入って来て、
『イグニスお兄ちゃんにも、妹さんが居るんだね』と興味を示す。
イグニスは、その興味に答える為、
来年の厳つ霊を祭る夏祭りの日に、6歳で巫女デビューする妹、
「シナーピの話」をイデアに話して聞かせ、
『イグニスお兄ちゃんの妹さんは、私と同い年だったんだね…
で、妹さんと仲が悪いから…ウチの兄妹仲を見てたのね……。』と、
イデアは、何故か安心した様な表情を見せ、同時に、
申し訳なさそうな顔をする。
イグニスは不思議に思い。
『どうかしたのか?』と、イデアに訊ねると・・・
『ゴメン、イグニスお兄ちゃん…私ったらてっきり、
お兄ちゃんの事、メー兄を女の子だと勘違いして、
舞台を観に来ている人の一人なんだと、思っちゃってたよ!
良かったぁ~…跡取り問題に発展しなくて……。
イグニスお兄ちゃんってば、メー兄にされるがままだったから、
メー兄が男でもOKとか、そもそも、元からそう言う人種って、
そんな落ちを想像しちゃってたんだよ!』と、
イデアがイグニスに対し、
とんでもない想像をしていた事が発覚する。
因みに、その思考の感染源は、メロウ曰く・・・
『僕とイデアの母親だよ、
母上ってば、男が仲良く2人で話してるのを見掛けると、
必ず「出来てるのかしら?」って、口癖みたいに言うんだ』と、
明るく笑いながら教えてくれた。
イデアは、その事を肯定し、
『メー兄が長男じゃなくて…次男以降なら……。
無条件でメー兄とイグニスお兄ちゃんの仲を祝福してたよ』と笑う。
イデアの想像がどの程度のモノなのか?
それが判断できていないイグニスは、顔を少しばかり引き攣らせ、
イグニス的に喜ばしく無い事を口走るイデアを捕まえて、
『頼むから、忘れろ!俺とメロウで想像した事を消去しろ!』と、
イデアのこめかみに拳を当て、少し強めにグリグリと押し付ける。
メロウもイグニスと同意見だったらしく、
『イデア…正直、そう言うのは、僕も笑えないから……。』と、
助けを求めるイデアを助けませんでした。
そんな、御風呂タイムを終え・・・
イグニスが驚く程、柔らかいタオルで、髪や体を拭いて乾かした後、
メロウの未使用の下着と寝間着を借りて着たイグニスは、
メロウとイデアの寝室で戸惑う。
薄く、柔らかく、手触りの良い寝間着や下着にも、驚かされたが、
寝室のベットには、もっと驚かされたのである。
その無駄に馬鹿でかいベットの上には、そのベットから、
はみ出すレベルの大きな魔獣らしき獣の1枚物の毛皮が敷かれ、
その毛皮は、驚く程に手触りが良く、手入れも行き届いていた。
イグニスが、その手触りを確認しながら、『何の動物だ?これ?』と、
その部屋の住人、メロウとイデアに話し掛けると、
2人は『『蛟の街を襲った獣の魔獣の成れの果て』』と答え、
先にベットに上り、メロウとイデアは、イグニスに手招きをし、
イグニスを真ん中にして寝転がり、
『取敢えず、寝てみなよ』と、イグニスにも寝転がらせる。
それから、『寝心地最高だろ?』と笑い。メロウがイグニスの為に、
今では、花の香りが微かに香る寝床に変身した毛皮の詳細を説明し、
気付けば、3人は何時の間にか、寝ついてしまっていた。