010[水霊的な事情]
イデアの奉納の舞台を見守って来た同士として、
完全にメロウと意気投合したイグニスは、メロウから、
『僕は、水属性のが強くて、暴走しないんだけど……。』と、
水属性より火属性が強い所為で、
「力を暴走させやすいイデアの体質」の事を耳にし、更に、
水より強い火属性の力の所為で、力を暴走させていなくても、
「イデアは完全な水属性な者には、触れられない」と言う事を聞いた。
但し、イデアは、火属性の方が強くても、
子供等の中では、メロウに次ぐ、水属性の力がある為、
苛められる事は無いが、相応に孤立していると言う。
そこでイグニスは、疑問や不安に思った事をメロウに質問し、
カルチャーショックを受ける事となった。
1000年以上前・・・
海の底に存在する水霊アルケーだけが住む世界から逃げて来た蛟は、
後に「蛟の街の初代宮司」となる人間の男に拾われ、救われたらしい。
10年近く前・・・
活火山地帯の火霊ヘラクレイトスと土霊クセノパネスを祭る地域、
火霊ヘラクレイトスを崇拝する国から逃げて来た「イデアル」。
メロウとイデアの母親も、
後に「蛟の街の宮司」となる者に拾われたと言う。
当時の蛟は、イデアルを嘗ての自分に重ね、
イデアルが、水霊の天敵でもある火属性ではあったのだが、
蛟は気にせず大歓迎して、蛟の街の神殿に迎え入れて、保護し……。
信者達が、蛟様自らが受け入れた存在を拒絶して、傷付けた場合。
肌が異常なレベルで乾燥して、角質が褐色系に変色し、
鱗の様に薄く硬く白く罅割れる呪い。
生きるのに必要最低限の恩恵を残して、水霊の加護を取り上げる。
尋常性魚鱗癬と言う遺伝性の皮膚病を蛟から与えられ、
悔い改め、謝罪に来るまで、助けては貰えなかったそうな……。
で…そんな蛟の『ゲムマが、イデアルちゃんを好きなら、
お嫁さんにしちゃっていいのよぉ~』と言う軽い一言で、
現在に至る……。と、メロウは言う。
『と、言う訳で、母上は、僕とイデアの母親になったんだ。
「水属性の父上」と「火属性の母上」が結婚する事を誰も、
表立って、批判したりしなかったらしいよ!
蛟様の逆鱗に触れたら、祟り神の側面が出てくるからね!』と言い。
メロウはイグニスの好奇心に答える様に、
「水霊・風霊・土霊・火霊」と言う元素の神様の話も語って聴かせる。
水霊アルケーは・・・
水の恵みを齎すが、逆に奪いもするし、洪水や津波をも起こす。
風霊アナクシメネスは・・・
風の恵みを齎すが、吹く風を止めたり、竜巻や台風を連れて来る。
土霊クセノパネスは・・・
土の恵みを齎すが、与えない事も出来、地震で全てを奪う事もある。
火霊ヘラクレイトスは・・・
火の恵みを分け与えもするが、その火で焼き払う事もする。
但し、焼き払った後は後悔し、
他の元素の神様と同じ様に、他の元素の神様の力を借りて、
よっぽどの事が無い限り、
その地域が再生する為に必要な恵みを与えると言う。
イグニスの属する国での天罰は、
「厳つ霊の雷霆ダエーワに仕える巫女」が受注し、
「巫女」と「トリタ神軍の兵士」が、共同で執行するモノで、
神様自らが執行するモノではなかった。
イグニスは、目から鱗が落ちる思いをし、
子供の思考で、素直に蛟の街の信仰を受け入れる事が出来た。
そこでイグニスは考える。
水属性の者に対して、イデアの火属性は弊害があるのだが、
特に属性を持たない者なら、イデアの火属性に害は無い。
つまり、イグニスにとって、イデアの火属性に弊害は無いと言う事。
そして、イグニスには、来年の「厳つ霊を祭る夏の祭り」に、
6歳で巫女デビューする妹「シナーピ」がいる。
それで「家系的に釣り合いが取れてるんじゃね?」と勝手に、
誰に相談する事も無く、イグニスは一人で考えて決め、
『俺の妹を嫁にやるから、お前の妹を嫁にくれ!』と、
メロウに申し出て、『あ、それ無理!』とメロウに即答された。
メロウは『妹をイグニスの嫁にするのは、吝かではないけど、
僕自身は、蛟様を口説いて嫁にする計画があるから、
蛟様以外の嫁は必要ないですよ!』と言い切った。
イグニスは驚き、少し考える。
『吝か、ではない…と、言う事は……。俺が貰うでOK?』
『条件付きで良いなら、OKだよ』
『その条件とは?』
『イデアも、独占欲の強い「水霊アルケーの血族」だから、
イグニス的に自分の意思とは関係ない、
ハプニング的な浮気をしてしまっても、許して貰えない事を考慮して、
それをイグニスが受け入れられるなら…、
浮気を疑われる様な異性を自分の周囲から排除できるのなら……。
「自分の一生の伴侶をイデアだけって約束する」なら、
2人の中を取り持たない事は無いって事!「水霊アルケーの血族」は、
訳有りなんだよ』とメロウはまた、イグニスに説明をする。
メロウは最初、童話の「人魚姫」系列の話を持ち出した後……。
「水霊アルケーの血族」の恋愛は、相手に裏切られると、
「相手を殺して相手の生き血で穢れを落とす。」か、
「自分が、水の泡になって消える。」かを選択する事になり、
その2択が選べないと、海の怪物「セイレーネス」になると言う。
「セイレーネス」とは、海の岩礁に姿を現して、
「見目麗しい姿」と「美しい歌声」で、
「姿を見た者」や「歌声を耳にした者」を惑わし、
人を海で遭難させ、船を難破させた挙句の果てに異性を食い殺す。
海上貿易の天敵となる魔物の事だ。
その存在は、行商団に属するイグニスも知っていた。
イグニスは、「厳つ霊、雷霆ダエーワの巫女」が、
蛟を「魔物と判断した理由」の答えに行き着いた気がして、
頭を切り替える為に深呼吸する。
「ウチの行商団って、子供の俺でも理解できるレベルで、
愛人を持ってる妻子持ちのおっさんばっかだもんな…
行商に行く街に1人づつ愛人在住ってのも当たり前の事だし……。
巫女達も、そう言う警告をしたくなるんだろうな」と、
イグニスは自分だけ、そう納得する。
納得してから・・・
『俺は親父と同じで、浮気否定派の男だから大丈夫!』と断言した。
丁度その時に、
イデアがイグニスの父親グロブスを連れて戻って来た。
グロブスの姿を見て、イグニスは、
『すげ~!本当に親父を連れて来てくれたんだ!』と喜び、
ペットを貰って喜ぶ新人飼い主様的な気分で、
『ありがとう!イデア!こっちにおいでぇ~』と、
イデアを手招きで呼び寄せる。
イデアの方は・・・
「あれ~?イグニスお兄ちゃんが何だか、さっきと違って、
めちゃくちゃフレンドリーな雰囲気になってますよ?
もしかして、果汁と間違えて、果実酒でも飲んだのかな?」と、
不安に感じていただなんて、イグニスは気付きもしなかった。