001 Prologue[物語の始まりは、終わり]
過去の出来事が切っ掛けで、相手が相手を信じず。
互いが、互いに対して愛憎を抱き、抱えてしまった2人は、
その時・・・
互いが、それぞれに属する軍隊に下された「国の王の命令」で、
両国の城から離れた場所。互いの国の辺境伯が護る国境沿い。
自分達の王が、
「最終決戦地」と心に決めた「とある1つの場所」に赴いていた。
そこは本来、人間が立ち入るべきではない場所。
草木も育たぬ山岳地帯。
生き物の存在を拒絶した「土霊クセノパネス」の大地。
そんな戦地で戦う両国の軍の兵士達は、血統書付きの上司。
両国似た様な、実戦無知なタイプの指揮官の指揮に従い。
兵士達は普通に高山病に罹り、
戦闘前から馬鹿みたいに、病人や怪我人、死人を多く出して、
互いに無駄な苦戦を強いられてしまっていた。
御蔭で開戦後、1時間…いや…多分、30分と経たない内に……。
何時の間にか、まともに戦っている様相を見せているのは、
元恋人同士の男女一組だけとなってしまう。
そう言う2人の「戦いに関係する6種の感覚や勘」、
それに連なる「行動力と瞬発力」は、高いランクで拮抗し、
2人、それぞれの総合的な戦闘能力に優劣は無い。
今も、その場所で、
それを証明するかの様に、熾烈な互角の戦いを繰り広げていた。
女に生まれた「イデア」は・・・
男女差で生まれた力の差を「小手先技術を極めた剣技」。
父親から受け継いだ「水霊アルケーの水の魔法」と、
母親から受け継いだ「火霊ヘラクレイトスの火の魔法」。
相反する「水と火の力」を駆使して補い。
気合い十分な、
朱色の混ざるワインレッドの瞳で、相手を睨みつける。
男として生まれた「イグニス」は・・・
漆黒の瞳でイデアの姿を捕らえて離さず、経験から動きを読み。
小手先技術だけに頼らない戦い方。
男らしく力強い「純粋な剣術のみの実力」で戦う。
でも、その2人の戦いには、必ず邪魔が入り、誰かしらが頻繁に…
無自覚に……。その戦いに対して、水を差してしまっている。
2人の戦いが、両者の呼吸を整える為の膠着状態に入ると時折、
イデアが属する陣営から、
「火の魔法の援護射撃」と言う名の雨が、其処等一帯に降り注ぐ。
援護射撃をする「ヘラクレイトスに属する大人」に守られ、
連れて来られたイデアと同郷の「水の魔法が使えない子供達」。
信じる神と、家族を・・・
「ダエーワとトリタの信者に奪われた」幼い少年少女達の声。
嗚咽交じりの悲痛な叫び声が、イデアの集中を阻害し、
自分達の為に『頑張って!』との、必死な声援と、
自分達の代わりに「親の仇を取って欲しい」と言う願いが、
子供達からイデアに齎され、イデアを突き動かす。
一方、イグニスが属する陣営からは、
彼等が崇拝する「厳つ霊の軍神、雷霆ダエーワ」の巫女からの命令。
『ダエーワに代わり、責を負うトリタ神に選ばれた戦士達よ!
アルケーに属する民、及び、ヘラクレイトスに属する民、
我らが雷霆ダエーワに逆らう民共を根絶やしにせよ!』との、
昔、イデアに酷い火傷を負わされたイグニスの妹、
シナーピの怒鳴り声が響く。
トリタ神の戦士として選ばれたイグニスは、
巫女に命令される度に、集中力を大きく途切れさせ、
それでも、可愛い妹である巫女の願いを叶える為だけに、
命令に従って戦う。
そして、落ち、稲光が走り、駆け上る「雷の魔法」。
雷霆ダエーワの力を借りた巫女達の無差別攻撃。
2つの国の戦いは、敵兵を倒す為に、自国の兵をも攻撃して倒し、
両国軍の兵士の命を無駄に散らしてしまう。
只、只管、双方が消耗するだけの戦いになってしまっていた。
そんな中でも、何時もの戦地での戦いと変わる事無く。
イデアとイグニスの2人だけは、踊っているかの様に剣を振るい。
互いの剣を…互いの攻撃を剣で受け流し……。
時に剣を合わせ、弾き。
斬撃を繰り出し、受けて、火花と甲高い音を打ち鳴らし。
2人の戦いの世界に乱入する者があれば、一度引き、
狙われた方に、乱入者を切り殺させてから、
『『仕切り直しだ!』』と、
2人の2人による2人だけの戦いに舞い戻る。
2人は、「一騎討ち」を求めているかの様な戦いをしていたが……。
それは、周りを…邪魔する者達を須らく排除して……。
2人だけの世界で、心を通い合わせ、
純粋な戦いを楽しんでいるかの様子にも見え、周囲に疑心と、
「何時か、裏切るのではなかろうか?」と言う不安感を与えていた。
そんな時に、何かが互いの胸元で「キラリ」と光る。
イデアとイグニスは、
一度、大きく引き、互いの胸元に視線を向け、動きを止める。
剣を振り回す遠心力と、激しい動きの戦いの為に、
服の中に隠し、互いが密かに首に掛けていた御揃いの指輪が、
何時の間にか、その姿を服の上に現していた。
それは、平和だった頃…本当に幸せだった頃に……。2人で選び、
贈り合った婚約の為の品。まだ、若かった2人の純粋な愛の証。
イデアとイグニスは互いに、
相手が「それ」を所持していた事に対して、心底驚き、
相手から目を離さずに、それぞれ、同時に、無意識に、
相手から貰った自分の指輪を胸元で愛おしそうに握り締める。
2人の心が…心臓が……。
密かに何時の間にか抱えてしまった後悔と共に、
自らの「自分の本当の気持ち」をしっかり、明確に伝えて来る。
2人は、そこから動く事が出来なくなり、
2人はそれぞれ、一度だけゆっくり目を閉じ、一瞬で開いて、
改めて冷静に互いをの姿を見て、動揺し、本気で戸惑う。
互いが互いの姿を見て、互いに哀しんでいる様子が見て取れる。
互いにとって、目の前の互いの存在は、
似ているのに同じ方向で重ね合わす事のできない。
きっと、多分、色々同じなのに、一つになる事の出来ない。
そんな「鏡像」の様に思えた。