婚約者が取られちゃう!?
気晴らしに書きました
よくある婚約者〜なやつです
大好きな私の婚約者であるカイト様が他の女性と抱き合っているところを見てしまいました。
この時、私の中で何かが壊れたのです。
次の夜会から、カイト様から着るなと言われていた胸の部分が大きく開いていて、かつ強調されたドレスを着るようになりました。
身につけるアクセサリーもカイト様からもらったものは一切つけず、自前で用意した派手なものをつけるようにしました。
なるべく婚約者であるカイト様とは会わないように夜会に参加する日をずらしました。
一人で夜会に参加すれば、カイト様とあの女性が仲睦まじくしていらっしゃるという噂を聞きました。
もし同じ夜会でカイト様とあの女性が一緒にいるところを見てしまったら、耐えられないでしょう。
そう思っていたのに、一緒に参加しなくてはならない夜会の招待状が届いてしまいました。
王妃様主催のこの夜会には、婚約者がいるものは一緒に参加するようにという指示が付いていたのです。
断るわけにもいかないし、かといって誘いにも行きづらい。
結局、誘わずに一人で行くことにしました。
会場へ一人で向かい、一人で馬車を降り、一人で門をくぐる。
コソコソとした話し声が聞こえますが気にしても仕方がないことです。
だって私の婚約者はきっとあの女性と参加するのだから。
しぼんだ気持ちのまま、壁の花となっているとあの女性が私の婚約者と一緒に現れました。
見ていられなくて目を背けてしまいました。
同じ場所にいるのさえ辛くて、テラスへ逃げ込みました。
人のいないテラスで大きく息を吐いていると誰かがやってきました。
あの女性です!
「まぁ!先客がいらっしゃいましたのね。わたくしここでカイト様をお待ちしたいの。だから、あなたどこかへいってくださる?」
ひどい言われようです。
私がカイト様の婚約者だって知ってて言っているのでしょうか。
しかも場所を譲れというより出て行け?
一体こいつは何様なんでしょう。
「初めまして、イライザ・フォン・オーフェンと申します。あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「え?アンジェラよ。それでどいてくださらないの?」
名前を知らない方と口を聞くのもおかしいことですし、家名を名乗らないことも失礼すぎます。
そんなことを考えていたら、額に汗を浮かべたカイト様が現れました。
「やっと見つけた!」
ああ、本当にこの女性と会う約束をしていたのですね。
もう、どんな女性であっても私の出る幕はないのですね。
涙が出そうになりましたけど、ぐっと堪えて立ち去ろうとしました。
「イライザ!ずっと探していたんだぞ」
え?今なんて言いました?私のこと探していたと?
そんなはずはありません。聞き間違いでしょう。
ぐっと唇を噛み締めてカイト様の横を通り抜けようとしたら、腕を引っ張られました。
「どうして逃げるんだ?」
「え?」
今度こそ聞き間違いではなさそうです。
驚いていると後方でアンジェラ様の声が響きました。
「カイト様!そんな方の腕なんかお離しになって!わたくしとお話ししましょう?」
「あなたには用はない。すぐに立ち去ってくれ」
あれ?何か思っていたのと違う展開っぽい。
「嫌ですわ!わたくしはカイト様をお慕いしているんです!そんな逃げるような女性は放っておきましょう」
「ああもう、うるさいんだよ。どっか行けって言ってるだろうが、クソビッチが!」
あぁん!久々のカイト様の罵倒を聞きました!
格好良くて惚れ惚れしてしまいます。
私はついカイト様に見惚れてしまったのですが、アンジェラ様は違うようです。
「な、なんて口が悪いんでしょう!こんな方、カイト様じゃありません!」
いいえ、カイト様はもともと口が悪いのです。他人の前ではきっちりと猫を被っておいでなのです。
今のカイト様が素であり、私の大好きな婚約者様なんです。
「何度も何度も近寄るなって言ってるだろうが!一度で言われたことを理解しろよ、このクズが!」
カイト様の言葉に痺れてしまい、クラクラしてしまいました。
アンジェラ様は唇をぎゅっと噛みしめて無言で去って行きました。
残されたのは私とカイト様です。
これからどんな罵倒を受けるのでしょうか!
「イライザ、どうして逃げようとするんだ?」
「カイト様があの女性と仲睦まじいから」
「は?」
「今日だって一緒にいらっしゃったでしょう?」
「………入り口で待ち伏せされていたんだ」
「他の夜会では、カイト様があの女性といつも一緒にいるって噂されております」
「勝手にクソビッチがついてくるんだ!」
「この間だって、あの女性と抱き合っているところを見ましたもの!」
「あれはクソ女が勝手に突進してきたんだよ!避ければよかったって後悔してんだよ!!」
なんだかおかしいです。
カイト様は嫌がっている気がします。
「逆にお前は、俺が着るなと言ったドレスを着て歩きやがって!どれだけの男がお前を寄越せと俺に言ってきたと思うんだ!」
「はい?」
「俺が贈ったアクセサリーも一切身につけないし、俺がどんな思いで過ごしてると思ってるんだ!」
カイト様はそう言い切るとガバッと私のことを抱きしめました。
「わからねぇなら、わからせるまでだ!」
そう言って舌舐めずりした後、私の唇にカイト様の唇を押し付けてきました。
こんな場所でこんなことをするなんて!顔が赤くなるのを感じました。
カイト様はグリグリと唇を押し付けた後、鼻の頭に頰に瞼に額に、と顔中に優しいキスをしてくれました。
少しだけ離れてペロリと唇を舐めた後、今度は優しくちゅっと唇にキスをしてくれました。
ただその優しいキスの回数が何度も何度も続いて、背中に何か痺れるようなものが通り抜けていきました。
立っているのがつらくなり、ふらりと倒れこむと私をしっかり支えてようやく唇が離れて行きました。
「わりぃ、まだ足らない」
ええ!?という声をあげる前にまたしても唇を奪われて、さらに舌まで!
唇が腫れるほどのキスの嵐が止むとニヤッとした笑みを浮かべたカイト様が言いました。
「俺の思いが少しはわかったか?」
こくこくと頭を縦に振れば、さらにニヤッと笑いました。
「なんだまだわからないのか?」
「わかります!ごめんなさいっ」
「わかればいいんだ。もう逃げるなよ」
カイト様は最後に私の耳たぶにかじりつきました。