番外編 青年は烈火の様に2
「あ、あれです…」
エルラナがビクビク震えながら指をさした方向にいる彼は噂通り真っ赤な髪をしながらベンチに行儀悪く横になっている。
そして、よく焼けた軍人のような肌に猫目がちの長いまつげに覆われた琥珀色の瞳。
あまり貴族には見かけないタイプだ。つい観察してしまう。
いつのまにか私とその彼の周りには人がいなくなり(もともと少なかったが)、遠巻きに眺める生徒がいるだけになってしまった。
先に口を開いたのは彼だった。
「そんなに見つめるのは、貴族の礼儀がなんかか?」
「そんな格好でベンチに座るのは貴方の礼儀なのかしら?」
最初に不躾なことをしてしまったのは私、だけどこんな嫌味たっぷりに言われたら言い返す他ないじゃない―!
自分のプライドが恨めしい。
反省モードとバトルモードが入り混じって何とも言えない顔しているだろう私を例の彼は鼻で笑う。
「後悔するぐらいな言うんじゃねェよお嬢様」
な、なんてイヤミで明け透けなやつなの…!?
普通そういうのは言わないのがマナーでしょう!
「わ、私の名前はお嬢様じゃなくてよ!?」
―情けないなぁ自分!
「へぇそれじゃあ時期王太子妃殿下か?」
…この男、私のことを知っていてなぜこんな態度が取れるのかしら?
別に自身を驕っているわけではないけれど、普通の人間なら次期王族にこんな態度とれたもんじゃない。もちろん私もエルンストと普通に話せるようになったのは将来を約束された恋人同士になってからである。
「…貴方、わかっているのなら態度を改めなさい」
「今現在では俺のほうが位は高い。つまり、お前に説教される覚えはないね」
―そこをついてくるなんて、本物の馬鹿か鋭い人間かのどちらかだ
だからといって、ここで私が折れてしまったらエルンストの名にも泥がつく。
「そう、なら同じ学院の生徒として苦言を呈しますわ。学院の風紀を乱すのはやめてくださらない?」
「嫌だ、といったら」
「貴方が頷くまで言い続けますわ」
もちろん、嘘半分本気半分である。
しかしこの言葉が聴いたのか彼はとたんにめんどくさそうな顔をした。
「わかったわかったお前みたいな女王様に逆らえるのは王様ぐらいってコトだよな」
「恐れ多いことをおっしゃらないで。言葉遣いも直して頂戴」
「冗談の通じない女だな」
また鼻で笑う。
これじゃあ私がとてつもなくつまらない女みたいじゃない。
そんな気持ちが顔に出てたのかこの男はこう言い放った。
「そう怒るなって、お前は充分にいい女だぞ見た目はな」
「そんなこと言われて怒らない女性などいますかッ!」
私はすっかりこの男のペースに飲み込まれてしまいつい怒鳴ってしまう。
「女王様のお怒りで首でも――」
何が楽しいのか笑いながらそういう男に私がまた起ころうとした瞬間――
「―我が妃への無礼はそこまでにしてもらうか不躾者」
いつぞやよろしくエルンストが現れたのだ。