番外編 卒業式
数年間過ごしてきたこの学院とも今日でお別れだ。
別に愛着があったとかそういうわけではないけれど窓からの光とか礼拝堂のステンドガラスとかアンティークな椅子だとか、結構好きだった…愛着があったのかも
学院は涙を誘う卒業式から姿を変え、綺麗な満月が光る夜の中最後の卒業パーティーが行われていた。
私は彼、エルンストと抜け出して少し離れた温室で黄昏ていた。
「厨房からオードブルをしこたま盗み取ってきたぞリリーナ」
そういってもってきたワインにシャンパン、チキンに生ハム、チーズにバーニャカウダー、ほかにもたくさん、そして甘いお菓子。
バスケットにぎっしりと詰まっていた。
「エストって泥棒の才能もあるんじゃないかしら?」
「お褒めに預かり光栄だよお姫様」
最近使うようになった愛称と軽口。もうスラスラと出てきちゃう。
行儀が少し悪いけど、芝生の上で寝転んで星を見る。
背中はチクチクするけど夜風は涼やかで気持ちがいい。
そんな私の頭をエストの大きな手がなでる。
…私も彼も、こんなお遊びこれで最後だってわかってる。これからは王太子とその妃として暮らさないといけないこと、自由は段々となくなっていくことを
「ほら、上着でも下にひけ」
「芝生が冷たくてきもちいからいいのよ」
そういう私にエストは苦笑する。
「なら俺もリリーナの流儀に従い上着なしで寝転ぶことにしよう」
そう言いとなり寝転ぶエストに、一年前では考えられなかった姿に自然と笑みが浮かぶ。
空には満天の星がキラキラと輝いている。
となりには愛しい恋人、どんなに幸せな状況でもこれには勝てまい。
私の緩く巻いた髪をエストは遊ぶように弄った。
「…子供は1人だけがいいな」
その言葉に、彼の王宮での幼少時代の話を思い出した。半年前、王妃様が重い口を開き彼を守れなかった贖罪だと話してくれた話。自分以外の異母兄弟が正当な血筋であるエストを一斉に攻撃していたこと…詳しいことは、一生胸の中にしまっておく。
「私は3人欲しいわ」
それでも私は彼に、家族をたくさん上げたい
「そんなの、辛くなるに決まっている」
昔のことを思い出したのか、私の髪をクシャリと握りつぶす
「きっと私達なら大丈夫。男の子がふたりに末に女の子じゃなくちゃ嫌」
「わがままだなリリーナは」
そう言って苦笑する彼からはまだ影は取れてない
今こそずっと心の中にあった決意を言うべきだと思った。
「私が貴方を幸せにするから、エストが私にしてくれたように」
彼は笑った。
私も笑って、きっとこれが幸せなのだとわかった。
それから数年後には男の子が二人生まれているのは多分私の星へのお願いの成果だろう。