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after:移りゆく季節

「もう、しつこいっ!」

「愛してるよリリーナ」

私の体を逃すまいと抱きしめながらいたるところにキスを仕掛けてくる恋人兼王子様には参ったものだ。

ここは学院にある王族専用の館の王太子殿下の部屋。私達は付き合い始めてから一ヶ月がたつが、キス以上は進まないことを条件に部屋で戯れている。

「そんなに愛してる愛してる言われたって許さないんですからね!」

「どうか許してくれ愛しい人」

私が何を怒ってるかというと…

フェーゼとグルになって私を嵌めたことなのだ。

セシリア嬢と親密な仲であると思われた彼だったがそれも私を糾弾したこともこの王子様の指示であったらしい。フェーゼとしては「昔助けるって言ったじゃないか」とのことで私が王子と付き合って婚約する=助けるになったらしい。

件のセシリア嬢は今は人気も下火気味で私もために睨まれる程度で変に絡まれることもないのですべてうまく大団円、とまではいかないが解決したのである。

「…そんなに私のことを愛していらっしゃったなら言ってくださればよかったのに」

「信じてなんて貰えないのは目に見えてたしな、だからあんな猿芝居打つハメになったんだ」

「まぁ…そうですけど…」

それでもスカっとはしない話だ。

悶々としてる私に後ろから抱きついて頬に口付ける王太子殿下。

そして怪しくドレスの中に入ってこようとする手。

「王太子殿下っ!」

「俺の名前は王太子殿下じゃないぞ?」

ニヤニヤと笑いながら大胆に足を触る手は上に上がっていく。

彼と付き合い始めてから、私は名前を呼ぶように言われた。

しかしずっと『王太子殿下』と呼んできたのだ、今更変えられるわけもない。しかもあの事件の日の彼の『逢瀬に忙しい』と言う発言から周りの友人、特に親友のキャロラインは私達をわざと二人きりにしようとおせっかいまで焼いてくる始末。余計恥ずかしくてしょうがないのだ。

「え、エルンスト様…手をどかしください」

「゛様゛?」

「エルンストっ…お願いだから!」

「愛しい人の頼みだ。わかったよリリーナ」

『純潔は初夜までとっておきたいしな』なんていう明け透けな彼の言葉に赤面してしまう。

実際、彼は本当に私と結婚するつもりなのだろう。そういう話はすでに王家を通して伯爵家に伝わり長らく私に酷くあたってきた伯爵夫妻は今では週に何回も手紙をよこすほど私に取り入ろうとしている。


「…来週からはドレスのデザインが始まるのであまり今までのようにエルンストの元にはこれないです」

しばらく戯れたあと、言いづらかったことをこれを機会に言う。

まだまだ私たちが結婚することなど遠いとおもったがなんと学院を卒業したらすぐに結婚式はとり行われるらしい。準備期間は一年とちょっと、王家の婚姻にしては少ないのですべてが急ピッチで行われる。

「俺も色々と忙しくなる。お互い様だから気にするな」

そういってキス攻撃をまたしてくるエルンストに私はただただ頷いた。



                    ▽


「『気にするな』なんてどういうことよっ!?」

「まあまあリリーナ落ち着きなさいって」

放課後に学院のカフェの片隅でキャロライン―キャシーに悩みをぶちまける。

「前だったら拗ねたり怒ったり押し倒してきたり…なのに今はこんな大人な対応されて私どうしていいかわからないわ…」

「前はもっと独占欲を減らして大人になって欲しいとかいってたじゃない」

「これが倦怠期なのかしら!?」

「聞いてないわね…」

ちゃんと聞いてますとも

付き合い始めた当初はもう獣のようにガルガルと周りを威嚇して私が男子生徒と話したものなら嫉妬感情爆発、といった風情だったのだ。しかし今では私が誰と話そうが穏やかに聞いている。しかも性的なイタズラは控えめ。前だったらなんといっても強行しようとして私が泣いたらおろおろしながら手を止める、そんなエルンストだった。

「私の経験からいうとただリリーナが手に入ってやっと落ち着いてきたんじゃない?十数年の溜め込んだ嫉妬がやっと落ち着いたのよ」

「落ち着かれても落ち着かなくても嫌だわ…」

「わがままね貴女って!」

そう言いながらキャシーはケラケラと笑う。

私はそんなキャシーを恨めしそうに見ただけだった。



                     ▽


『そんなに気になるならフェーゼ様に探りでも入れてみたら?』


―頼もしい友人のアドバイスである。

どう考えてもそんなの無理、なんて言えばいいって言うのよ?なんていう不満は押し殺してとりあえずの名案として乗ってみた。


「王妃様、真珠はこちらかこちらがいいと思うのですが…」

「うーん、こっちの方が柔らかい色合いでいいわね。」

「わかりました」

現在王宮にて私のウェディングドレスのデザインが行われていた。

次期王太子妃、なんて言うと照れるが…次期王太子妃のドレスは王妃様と一緒に作ってもらっている。

それも私の伯爵家での境遇を知ってのことか、エルンストが手配したことだった。

実際王妃様はとてもチャーミングな方で頼りになる。私一人では決められないことをバシバシと決めてくださってるのだ

「あら、リリーナ?浮かない顔してどうしたの」

「王妃様…大丈夫ですわ」

王妃様にまで心配をさせてしまった。

どうにか取り繕うとする私をエルンストとそっくりな青い瞳で王妃様は鋭く射抜く

「私に嘘をつこうたって無駄ですよリリーナ。はやく不敬罪で捕まる前に言ってしまいなさい」

…この王妃様なら本当に私を牢に入れることもしかねない。

「実は…」

私は王妃様に例の悩みのことを話した


「つまり、貴女は若い肉体を持て余してるのね?」

「全然違いますわ王妃様!」

どうやったらそんな発言を引き出せたのか

「冗談よ、そんなに気になるならフェーゼに聞くべきよ。あの子なら王家に忠実だし貴女にも忠実でしょう?」

やっぱりフェーゼに聞くしかないのか…

「私が手配しておくわ。ちょっとアンジェ、フェーゼを城に召喚して頂戴!」

王妃様が侍女であるアンジェに言いつけるとすぐさまフェーゼと合うことが決まってしまったのだった。



「これはこれは次期王太子妃様がなんの御用でありましょうか」

「ふざけるのはやめてよ、フェーゼ」

「あはは、わかったよリリーナ」

そう言って微笑む姿は相変わらず絵になるくらい美しい。

「それで王妃様に休日の朝っぱらから召喚されたわけだけど…どうしたのリリーナ」

優しい声、微笑み、私はとても懐かしい気持ちになる。

フェーゼは私の幼い頃の唯一の希望で多分、憧れだった。

「その、エルンストに最近変わりはないかなって…」

「変わったところねぇ…やけに上機嫌の時が多いぐらいかな。まあそれも君のおかげさ」

そう言われると、恥ずかしいしこそばゆい。

「その、ほかには?」

「…さっきから君は何を探っているのかな、ん?」

鋭い視線、王妃様とは違った忠誠からくる警戒心

「それは…」

観念するしかない。

私はフェーゼに全てを話した。



「つまり君はもっとエルンストにムラムラしてほしいと」

「全然違うよフェーゼ!」

王妃様同様、フェーゼもどこからそんな発言が出るのか

「違わないだろう?君はもっと束縛されたくて、性的に見られたくてしょうがないんだ」

「みんなどこまで倒錯的な思考なのかしら…」

もう、どうしていいかわからない!

「でもリリーナの悩みは単純だよ。エルンストの気持ちを知りたいなら…怒らせるが手っ取り早いね」



                     ▽


「おい、母上に呼ばれてきたが――」

部屋に入ってきたエルンストが、まさに氷のように凍てついてしまった。

それもそのはず、自身の恋人が、ほかの男に膝枕されてるなんて誰でもそうなるはず。

「リリーナが頭痛でつらいみたいでさ、こうして――」

すべてを言われる前にフェーゼは全速力で走ってきたエルンストに殴られた。

膝の上で横になっていた私は所謂、お姫様抱っこでエルンストの腕の中だ。

「え、あ、フェーゼ大丈夫っ!?」

「だ、大丈夫ではないかな…あはは…」

いつもの陽気な声に覇気はない。というかゴキっという音がしたのだけど…

エルンストは何も言わない。

私はフェーゼが提案した『膝枕で嫉妬心を取り戻せ作戦』が効きすぎたことを悔やんだのだった。



王宮のエルンストの部屋まで私は運ばれていた。


「きゃっ!」

寝室に入り乱暴にベットの上に放り投げられる。

短く悲鳴を上げた私の上にエルンストは無表情で覆いかぶさる。

「え、エルンスト…」

肩に埋められた頭をそっと触れる。

わずかに、彼が震えてるのがわかった。

「エルンスト、さっきのは悪ふざけでフェーゼは悪くな―」

「―あいつの名前を呼ぶな」

絞り出したような低くかすれた声。

「お前を、滅茶苦茶にしてやりたくなるんだ。大切なのに愛してるのにお前があいつの名前を読んだり微笑んだりするたびにあいつも殺したくなるしお前もどうにかしてやりたくなる」

「エルンスト…」

彼の片手が私の頬をなでる

顔を上げた彼の瞳と目が合って、自分が写るほど澄んでいる青い瞳はどこか潤んでた。

「やっと自制できるようになったのに、お前は、リリーナはいつも俺を…」

この手負いの獣のようなエルンストに、私は底知れない愛情が沸いてきてしまった。

「エルンストがしたいなら、なんでもしていいよ」

「…きっと後悔するぞ」

その言葉と同時に、彼は私を貪った。






「エルンストって、意外とヘタレだわ」

「紳士だといえリリーナ」

ムッとして言い返してくる彼の瞳はどこまでも優しい。

結局私にしたこともないくらい情熱的に口づけて私がその様子に少し泣いてしまったら彼は正気を取り戻したか、途端に狼狽し始めてしまった。

結局一線を越えることもなく私の純潔も守られてるわけだ。


「―エルンスト、愛してる」


ただ、感じた事を言ってみた。始めて使う『愛』なんて言葉は口に出してみると結構重い。

横目で彼を伺うと


「俺も、愛してる」


真っ赤になりながらそう言うのだ。


―きっと未来は幸せだろう。





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