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涙がとまらないので華になった

゛すべてが幸せになりますように゛


聖星祭の夜にひっそりお願いした。

その頃の私は無力で何も持たない薄汚い子供だった。伯爵家の庶子の私はいくらあばずれの子だと罵倒されようと暴力を振るわれようと逃げれなかったし助けても貰えなかった。

そんな中偶然出会った一人の王子様のような男の子と意地悪な本物の王子様。

『大人になったら僕が助けに行くから』

そう言って微笑みながら無力さを泣いた彼は眩いほどに綺麗だった。

私はその涙を舐めたいとも思った程、彼の献身を夢見て今まで生きてきたのだ。


それが、こんなことになるなんて



                     ▽


王立オルタンシア学院高等部二年、私は17歳になった。かつて私を虐げていた伯爵家は王命により私を中等部からこの学園に差し出すことになり実に悔しそうではあったが、それは私の解放でもあった。

王子様みたいな彼、フェーゼ・ジュネ・ワーツは入学してきた私をあれこれと心配した。友達はできるだろうか、貴族の中でうまくやっていけるだろうか、勉強についていけるだろうか?

私はどうにか彼を心配させないために全てにおいてトップをとり努力をし続けついにはオルタンシアの華とまでいわれるくらいには人気実力ともに至高の中の至高になったのだ。

私の周りにはいつも友人がいて授業ではかならずといっていいほど当てられすべてをパスし褒められる学院側からも信頼の厚い伯爵家令嬢。それがこの私、リリーナ・エル・ローレル。

―それが、こんなことになるなんて


「セシリア嬢への惨い仕打ちの始まりは君だろうリリーナ」

かつての、私のために始めて泣いてくれた少年は美しい青年へとなり私を責める。

彼の、フェーゼの一声に周りのセシリア嬢の取り巻きはヤジを飛ばす。

「リリーナ様はそんなことなさってませんわ!」

私の友人はどうにか私を守ろうと声を上げてくれるが相手が悪すぎる。

オルタンシア学院執行部、つまりは生徒会のメンバーたち。全員高位貴族であり強大な後ろ盾がある青年、しかも学院でも力を持つ者たちだ。

その人たちに逆らったらこれからの学園生活はどうなるものかわかったもんじゃない。

「そもそもそんな話はどこから出てきたのですか?」

私の静かな問い掛けをフェーゼは軽蔑した目つきで見てくる。

「…白々しい。セシリア嬢がされた仕打ちはこの目でしかと見てきた。それに証言人なら何人でもいる。全員が君が彼女へ嫌がらせをするよう仕向けたと言っている」

「そんな、嘘ですわ。リリーナの人柄は幼い頃からお知り合いであるフェーゼ様ならよく知っているのは…」

一番の親友のキャロライン・シェリー・ローデスが問う。

幼い頃(・・・)、か。どうやら昔の境遇のせいでこの貴族社会の象徴でもある学院にはいったのはリリーナにとっては悪影響だったらしい。けして貴族位をもたなくても清らかで志高いセシリア嬢への劣等感が今回の事件に至ったと僕は思う」

―私は彼にそんなふうに思われていたのか

心の中で、保っていた何かが音もなしに崩れていくのを感じる。

そしてその言葉に反応したのは今回の事件の中心人物であるセシリア嬢だった。

「昔の境遇…ですか?」

やめて、どうか話さないで探らないで


「ああ、リリーナは幼い頃―」


「―おい、なんの騒ぎだ」


緩く波打った黒い髪に青い瞳の精悍な顔立ちの青年、昔懐かしい意地悪な本物の王子様。

アンドレアス王国第一王子にして王太子、エルンスト・フィーザ・アンドレアス。正しくその人だった


「エルンスト…みてわからないかい?」

フェーゼは少し苛立った声を出し王太子殿下を睨む

「残念だが、俺には揃いも揃って学院上位の貴族の子息が哀れな伯爵家の娘を追い出そうとしてる図にしか見えないね」

「お、追い出すなんて…私、そんなつもりじゃ…!」

意地悪い、だけど個人的にはすっきりさせてくれる王太子殿下の言葉に即座に反応したのはセシリア嬢だった。

「たしか、編入生のセシリア・オルアンだったか」

「名前を覚えてくれていたなんて光栄です王子!」

その言葉で、王太子殿下の機嫌がかなり悪くなったのはあちらがわの人間もわかっていたし私もやってしまった経験があったので嫌なくらいわかった。

「誰かこの編入生に俺についての礼儀を学ばせろ」

「礼儀、ですか?ごめんなさい私生まれのせいであまりそういうことに詳しくなくて」

そう言ったのはセシリア嬢。

「…エルンスト、彼女は悪気があったわけじゃない。君についての礼儀なんて誰しも初めからわかってるわけじゃないだろ」

彼、王太子殿下への礼儀はただ一つだけ。

―彼に必ず敬称をつけること

それもかなり細かい。王子、王子殿下、これはタブーだ。彼の大嫌いな異母兄弟と同じ呼び方だからである。なので彼には王太子殿下かエルンスト様、エルンスト王子である必要がある。例外として許されてるのは彼の幼馴染であり次期側近であるフェーゼが呼び捨てにすることだけだ。

「間違えるのは許す。だが次への反省の色も見せないのは許さないね」

鼻で笑いながら放つ言葉は氷の矢のように冷たく痛かった。

「わ、私反省してます…!」

「―礼儀もわきまえない上に嘘つきとくれば救いようがない」

「エルンストッ!」

なぜだが、必要以上にセシリア嬢へのあたりが強い王太子殿下にフェーゼが声を荒らげる。

「―実際、嘘をついているだろう。編入生にはリリーナは嫌がらせなどしていない。この俺が証人だ」

その言葉に、セシリア嬢の周りに居た取り巻きはどういうことかとありありと顔に出す


「嫌がらせなんてしてる暇があるわけないだろう。この俺との逢瀬があるというのに」


私は、もしかして心の声でしゃべっていたのならとんでもない大声で叫んでいただろう。

周りの人は一部は間抜けな顔を晒し、一部は敵対心をみせた。

そして、何より驚いてるのは私だった。


「そんな、そんなはずありません!王子は…私が誘ってもそっけないし誰とも付き合ってないってみんな言っていて…!」


セシリア嬢の叫びが静まり返った廊下に響く。叫びたいの私である


「それはこの最愛であり恥ずかしがり屋の恋人、リリーナ嬢が必死に隠していたからな」


断じてこの王子様とはそのような関係はない。

呆然としてる私をおいていき王太子殿下の話は進んでいく


「俺とセシリア嬢、どちらを信じるかは諸君に任せるが…賢明な判断を願うよ」


その言葉に一気に周りはざわめきたつ。

「そんな、そんな…!」

セシリア嬢の憎しみのこもった眼差しが私を射抜く。

私は、自身の知らぬ間に解決してしまった(?)こととなんともいえぬ所在無さを感じていた。

そんな私に声をかけたのは、かの悪名高き王太子殿下。

「ひさしぶりだな愛しの(・・・)リリーナ。さあこんな居心地の悪い場所はとっとと去るのがいいと思うが…どうだ?」

「…同意ですわ王太子殿下」


彼に手を引かれ私はその場から逃げ出した。

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