勉強
運命の中間テストまで残り一週間と5日となった日の夜、少年は少女の部屋の壁に紙を貼り付けていた。紙には少年が3日かけて作り上げた少女の苦手分野とスケジュールがびっしり書かれている。
「当分はこの表どおりに進めてもらう。びっしり書かれてはいるが、これでも結構余裕ができるように作った。」
「ヒエ----------」
スケジュールを見ると、理系科目の勉強予定時間が全体の8割程を占めていた。これは少女の苦手分野を痛いほどしめしていた。
「さあ、始めるぞ。」
少年はダンボール箱に入った大量の参考書を机に置いた。
「さて、やるか。」
少年は一冊の付箋が大量に付いた参考書を取り出して、テスト範囲のページを広げた。
そうして少年が立てたスケジュールどおりに時は流れていった。残り5日までの話だが。
そしてテスト前日の夜となった。
少女はようやくテスト範囲の全ての勉強を終えて机に突っ伏した。
「あー終わったー」
「そうだな。」
少年は開いていた参考書を閉じた。
「ところで前半にやった事とか覚えてるか?結構短時間で詰め込んだから心配なんだが。」
「そこは大丈夫です。伊達に悪魔やってませんからね、バッチリビデオに撮ったように記憶してますよ。」
「それなら良かった。記憶力だけはあって助かった。」
少年は勉強を教えていた時にようやく気が付いたが、少女は記憶力が優れていた。
以前に解の公式が思い出せなかった理由を聞くと、ちょうどその欄が手で隠れていたからだという。何故そう言えるのか?それは少女は映像記憶ができたからである。少年が試しに英語の長文が書かれた紙を10秒見せ、読み上げさせたところ、一字一句間違えることなく読み上げたのである。
映像記憶は目に映ったものを映像として記憶出来る能力のことである。当の本人は人間は誰でもこうなんじゃないかなと思っていたらしい。
それがわかった少年は、すっかり自分のたてたスケジュールなど忘れていた。
そして、少年はわずか10日で自分が所持している参考書約200冊の全てを覚え込ませたのだ。
少女はスイッチが切れたように椅子にへたり込んだ。
「じゃあ頑張れよ。」
「ふぁぃ...」
少年が部屋を出ていった。もうそろそろ日付が変わりそうだ。
少女は、明日の事で頭が一杯だったが、そのうち椅子に座ったまま寝てしまった。
翌日、少年は通常授業の時の眠そうな顔で、少女は自信に満ちた顔で問題用紙を受け取った。日程は国語、社会、理科、英語、数学の順だ。
問題用紙が配られた。
「ハイ、チャイムが鳴ったら回答を開始して。」
少女は初めてのテストなので緊張していた。
冊子になっている問題用紙が、さらに重厚に見えた。
教室内を時計の秒針の音が支配している。
そしてチャイムが鳴った。
「はい、回答開始してどうぞ。」
40分後、試験監督が寝ている少年を見つけた。
揺さぶって起こそうとしたが、解答用紙を見てやめた。もう既に全ての解答欄が埋まっていたからだ。
そこから机6つ分程離れた席で、頭を抱える生徒がいた。
誰であろう、少女である。
少女は悩んでいた。ただ一つ埋まっていない解答欄を穴が開くほど見ていた。
(まずい、まさかこんな所でコケるなんて!)
残り10分。少女の頭の中を絶望感が支配していた。