鳩尾
二学期中間考査、教科は国語、<おまけ問題>と記された最後の問には、こう書かれていた。
次の漢字の読みを答えよ。(配点2)
「鳩尾」
※ヒント:叩かれるととても痛い
もはやクイズとも取れる問題であり、おそらく教師の悪ふざけで入れられた問題であったが、他の生徒はともかくとして満点を取らなくてはならない少女にとっては絶対に避けては通れない問題である。
少女は最後の手段として少年とのテレパシーを試みた。
が、反応がない。
少女はかなり離れた最前列にある少年の席を見ると、少年はもう既に夢の中にいた。無論テレパシーは使えない。
少女はテスト期間中に読んだ参考書の記憶を隅から隅までチェックした。どこにも問題の読みは書かれていなかったが。
少女は、はっと何かを思い出した。少年には無駄だと言われていたが、保険にと思って辞書も完全に記憶して来ていたのだ。なんだ、初めからこうすれば良かったじゃないか。少女は頭の辞書をローラーした。
少女は遂にその読みが書いてあるであろうページを見つけた。が、直後自分を恨むこととなった。
脳内に、まるでカメラで撮った写真の様に映し出されたページの、まさに答えが書いてあるであろう場所に、またしても自分の指が写り込んでいる。しかし、意味が書いてある部分は隠れていなかった。が、意識して見たわけでもないので、1文字特定出来なかった。
試験監督が残り5分を告げた。
少女は書かれていた《腹と〇の間にあるくぼみ》というヒントだけで回答する必要があった。
普通なら、これだけ情報があれば解けるかも知れない。しかし少女は人の身になって一ヶ月も経ってないのである。
(腹と何かの間の痛い所?頭?足?もし頭だったら胸か首?足だったら[自主規制]?いや、でも[自主規制]は教育機関が出していいワードでも無いだろうし、胸や首は痛いと言うには足りない気がする。じゃあもっと別の部位?)
少女はあらゆる思考を尽くした。しかし残り時間も後1分になった。
もう手段を選んでいる暇はない。
少女は突然、自分の身体の胸から股の上にかけてをバレないように殴り始めた。痛い所は幾つかあった、が腹と胸の間を叩いた瞬間、少し声が漏れそうな程の痛みを感じた。五臓六腑が悲鳴をあげるような痛み、朝食がリバースしそうな痛みが襲った。少女は震える手で解答欄に記入した。
「みぞおち」
試験終了のチャイムがなった。
少年は席に突っ伏す少女に歩み寄った。
「最後の問題かけたか?」
少女は黙って首を縦に振った。
「あれ、完全に先生の悪ふざけだよな〜。“みぞおち”って読むんだぞ、書けたか?」
少女はまた黙って首を縦に振った。
「そうか、じゃあ大丈夫だな。」
すると、少女は急に机から頭を上げ、立ち上がって少年の胸倉を掴んだ。
「大丈夫じゃねえょ、手前が、手前が...」
「へ?」
突然の事に少年はただ呆然としていた。
「手前が寝て無けりゃこんなに苦労する事は無かったんだよ!!!!!」
少女の中指の部分が少し飛び出た無慈悲な握り拳が少年の鳩尾に食い込んだ。
次の社会のテストを少年は別室で受けた事は言うまでもない。