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この世界には似つかわしくない者

小学校のグラウンドには縦1.5m、横3、高さ1m程のどっしりとした白い箱が転がっていた。


「おっ。あったあった。」


羽堂(はどう)が足早に近付いていき、慣れた手つきで箱を開ける。

気圧の差で生じた音と共に出てきたのは、箱の色とは正反対の黒々とした突撃銃(アサルトライフル)散弾銃(ショットガン)狙撃銃(スナイパーライフル)手榴弾(グレネード)弾倉(マガジン)など戦闘に用いる物資だ。

突撃銃や散弾銃、狙撃銃は対人用ではなく対アンダー用なので普通のモデルより一回り大きく改良されており、その結果弾倉も大きくなっている。

手榴弾も同じ様にソフトボールぐらいの大きさまで拡大している。


「流石に重いわね。」


葵は自分に合う武器を選び、背中のバックパックに装着していた。

どうやら突撃銃2丁を選んだらしい。


「パイルバンカーは誰が持って行く?」


散弾銃と突撃銃をバックパックに装着した羽堂が尋ねる。

パイルバンカーとは、太さ10cm、長さ40cm程の杭を高速で相手に打ち込む接近戦闘用武器である。

必ずしも必要という訳ではないが、接近戦闘に持ち込まれた場合に心強い武器となる。


「今回はFランクが相手だし、必要ないだろ?

それよりさっさと行こう。」


突撃銃2丁を選びながら俺は言った。

実際、パイルバンカーなどはCランク以上のアンダーと接近戦闘を行う場合によく使われる武器だ。

Dランク以下なら腰にあるコンバットナイフでもなんとか対処出来る様に訓練をしてきた。

そうした上での判断だ。


特に羽堂も反論はせずパイルバンカーを元あった箱の中にしまい込んだ。


----------


討伐場所である住宅街の一角は妙に静かだった。

基本的に討伐場所と言うのは、早朝に航空機による索敵を行いアンダーを発見次第討伐場所に指定していくと言うシンプルなものだ。

アンダーはある一定の場所を住処として留まる習性がある為、移動したと言うことは無いはずだ。


「おかしいな。確かに場所はここで合ってるはずなんだが.....」


俺はそう呟きながら、もう一度討伐場所を確かめる。


やはり場所はここで合っているようだ。


「近くにアンダーが居るなら、俺らを見つけて奴らから近付いてくるはずだしなぁ〜。」


流石の羽堂も眉間にシワを寄せ訝しんでいる。


「念のために安全装置を解除して周囲の警戒をしてくれ。

三葉(みつば)先生に確かめてみる。」


全員にそう告げると、それぞれ近くにある壁や塀、木の陰に身を潜ませバックパックから銃を取り外し周囲に銃口を向ける。

俺も一応は銃を手に取っておきながら、ディスプレイを操作し通信先のカテゴリーから『実戦訓練本部』を選択する。


【どうかしたか。竜樹?】


応答したのは三葉先生だった。


「それがですね。三葉先生。

討伐場所にアンダーが一体も居ないんですよ。

そちらでもう一度探してもらえますか?」


【アンダーが居ない?一体もか?】


「そうですよ。一体も居ないんです。」


【分かった。こちらでもう一度探してみる。

そのまま待機していてくれ。】


「しっかりして欲しいわね。ほんと。」


一連のやり取りを聴いていた葵が愚痴ってくる。


「まぁまぁ、そう言うなって。

もう一度探してくれるみたいだし。

少しの間休憩って事にしよう。」


そう言いながら、俺は持っていた銃を壁に立て掛けて座る。

他の面々もそれぞれ銃を置き、リラックス出来る体勢をとる。


快晴の空から照り付ける日差し心地よい。


風に揺られ木の葉が舞った。


座っている向かいの壁の上には一匹の猫がいる。


とても眠たそうな顔をしながらあくびをして俺ら同様にリラックスした体勢でくつろいでいる。


こんな景色を見ているとアンダーなどただのお伽話の様に思えてくる。


----------


何分経っただろうか、唐突に眠たそうにしていた猫が走って逃げて行ってしまった。

それと同時にディスプレイに通信が入る。

応答しようとし違和感に気付く。

今回の通信は緊急連絡だった。


【大丈夫か!!!】


緊急連絡をして来たのはどうやら三葉先生だったようだ。

何をそんなに焦っているのだろうか。


【大丈夫ですけど。どうかしたんですか?】


反応に遅れた俺に代わり葵が尋ねる。


【間に合ったか!今お前達の討伐場所付近の上空で飛行型のアンダーを捉えた、推測だがCランク以上はあるだろう!

まだアンダーに発見されていないのなら今すぐそこを離れろ!!】


息を切らせながら三葉先生は大きな声でそう叫んだ。


しかし、今この場にはそれを集中して聴いている人物はいない。


この場にいる全員が空を見上げ声を失っている。

先程まで地面を照り付けていた日差しも今では隠れている。


横幅にして8m程はある羽、剥き出しの鋭い犬歯、人を軽々握れそうな鉤爪。

口先で一回り小さい血だらけのアンダーを咥え歯の隙間からは、体の内と外との温度差で生じた水蒸気が溢れ出ている。


咥えているアンダーの血が滴り落ちて俺のヘッドディスプレイに付着する。

どろっとした粘着質の血が線を描く。

その瞬間背筋が凍る。


地球上に存在する生物を混ぜ合わせ拡大したかの様な禍々しい容姿。


その姿は己を見る者全てを射止めていた。

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