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11章(2)

「誰よ、今の」ミミの声に浩二は身を硬直させた。

「誰でもないよ。そう、間違い・・間違い電話だよ」言葉が詰まるのを、浩二は感じながらも抑えられなかった。ミミはベッドに横たわりテレビの歌番組を見ていた。浩二は携帯をズボンに突っ込みベッドに潜り込んだ。二人とも素っ裸だった。

浩二がミミと出会ったのは、やはり浩二の店だった。ミミは派手な美人で浩二の仲間内でも人気があった。しかし浩二はどちらかと言えば、可愛い子、幼そうな女に興味があったのだ。だからミミの話が出ても、それほど興味を示さなかった。今まで浩二が付き合った中では、恵美だけが例外だった。京子も

どちらかと言えば、童顔。幼く見えるのだ。ミミはそんな浩二に興味を持っていた。みんなが媚を売る中、浩二は話しかけようともしなかったからだ。

それがミミの競争心を一層煽る結果となり、ミミの方から積極的なアプローチが始まったのだ。ある日浩二はミミの隣りの女と話していた。

もちろん夜の相手を探してのことだが、その時ミミはわざとその女に飲み物を引っかけたのだ。肘が当たった振りをして、その女のスカートをビショビショに濡らしたのだ。

「ちょっと、何するんですか」濡らされた女は怒りをあらわにしていた。ミミはそっけない素振りで簡単に答えた。

「あら、ごめんなさい」そしてハンカチを差し出した。全てミミの計算通りなのを、浩二は見抜けなかった。

「随分ですね・・・」ハンカチでスカートを拭いていた女は、急に泣き出しだ。

「ごめんなさいね。これ、クリーニング代」そうやって差し出したのは二枚の万札券。女はその金を受け取りもせずに、店から出て行った。

ミミは残された万札の一枚を浩二に渡し、何気ない言葉でこう言った。

「あの人の分、これで払って」それからもう一枚を手に取り、浩二の前に差し出した。

「これは、貴方によ。迷惑料ね」と付け加えた。浩二は驚いた。まだ若そうな女が、こうも札びらを切るものかと、きっと何処かのお嬢様ではと思ったのだ。しかし浩二も伊達に場数は踏んでいない。出された骨なら食いつくが、その前に一芸見せるのが浩二の得意技だった。

「いえ、先ほどのお金で、十分間に合います。そのお釣でしたら受け取ります」あくまでも物欲しそうな顔は見せない。

「言ったでしょ。これは迷惑料。お釣はチップで良いわ」ミミの高慢な態度も現金の前では霞んでしまう。しかもミミの瞳は浩二に向けて怪しく光るのだ。ついに浩二の理性が崩壊した。

「そうですか。じゃあ、遠慮なく頂きます」それなりの容姿、魅力的な金銭感覚。浩二はミミの術中にはまり込んでしまった。しばらく話すうちに、浩二のほうから誘ってしまったのだ。結局は浩二も金の魅力には負けてしまい、どこにでも居る商売男に成り果てた。この時点で浩二の敗北は決定した。ミミは浩二を自宅に招き快楽を貪った。浩二はミミの家の豪華さに圧倒され、金の生る木を得た気になっていた。

マンションの最上階2LDKが、ミミの住まいだが、もちろんミミ一人の部屋だ。配置された家具もみな高級そうで、浩二は見るもの全てにミミの説明を求めた。

「これはなんていうの」ミミは一瞥だけであっさりと答える。

「知らないわ。興味ないもの。父が勝手に持ってくるのよ」知らないはずはない。とは思いながらも浩二の頭には、大金を手にする自分が鮮明に描きだされていた。ミミもあまりしつこく聞かれるので半ば嫌気が差していた。もちろん浩二は好きだ。何度も愛し合ったあとでもこう言う気持ちが残るのは、ミミにとっても珍しいことだった。

「ねえ、良かったら、ここで一緒に住まない」浩二はミミの言葉にあっさりと白旗を上げた。

「君といつでも一緒に居られるね」

翌日には浩二の引越しは全て完了した。荷物と言っても多く有る訳ではないし、ほとんどのものは捨てられたのだ。二人の性の相性はぴったりだった。浩二もミミに溺れる自分を理解できたが、心地良い生活に流されていった。一緒に住みだし三日もしない内に、ミミは浩二に言った。

「ねえ、今の仕事、辞めてよ」どうやらミミも本気になり浩二の仕事に、嫉妬し始めた。

「金はどうすんだよ」これにはさすがの浩二も反論した。もちろん金などどうでもいい事だ。実際にはミミと付き合い始めてから、浩二は一銭のお金も出していない。煙草でさえいつも部屋に買い置きがしてあるほどだった。なぜ、煙草が常にあるのか気にはなったが、浩二は深く追求もしなかった。

「給料以上に、私がお小遣いを上げるわ」他の女の魅力も捨てがたいが、ミミにも魅力がありそれ以上に金の魅力浩二は負けた。その日の内に仕事を辞め、浩二のヒモ生活が始まった。ところが、その選択が浩二に間違いだと気づかせた時には、既に時は遅かった。ミミの家は普通ではなかった。言い換えれば表社会の家庭ではなかったのだ。それは浩二とミミがデート中に分かったのだが、公園のベンチでソフトクリームを食べている時に、ふとしたきっかけでミミと口論になったのだ。その時に、浩二の前に姿を現した男は、見るからに一般人ではなかった。浩二が恐れ慄くとミミは澄まして答えたのだ。

「あ、気にしないで、私のボディガードだから」浩二はこの時初めて気がついたのだ。常に煙草があることも、高級マンションに住んでいることも、札びらを切れることも・・・。それからの浩二は軟禁状態と等しかった。ミミの嫉妬も次第に激しくなり、携帯がなる度に浩二は恐怖した。バンドの練習にも出られなくなり、浩二は逃げ出そうとしたことも有ったが、ボディガードに打ちのめされた。

「今の電話、誰よ」テレビを見ていたミミが、思い出したように浩二に尋ねた。

「だから、間違え・・」

「調べるわよ。その時に分かったら。遅いんだよ」浩二の言葉を遮り、ミミは脅すように浩二を睨んだ。公衆電話の着信は相手が分からないにしろ、その前の記録はしっかりと残っているのだ。「恵美」浩二はもうかかって来ないだろうと、恵美の番号を消し忘れていたのだ。

「実は・・・」浩二は恵美の話を全て話した。そして何故電話がかかってくるのかも、事実を話したのだ。ミミが本気になれば、簡単に調べ上げることが出来ると思ったからだが、浩二が素直に答えたのに反し、ミミの答えは軽蔑だった。

「最低な男・・・・」ミミとしても、同性の敵に見えたらしい。恵美が浩二の汚いアパートに向かっている頃、浩二とミミは口論の真っ最中だった。恵美が浩二のアパートが引き払われたことを知った時、浩二の前にはどこから見て裏社会の男、ミミのボディガードが立ちはだかった。

その後の浩二の悲劇は、皆さんのご想像に任せしよう・・・。


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