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1章(2)

ハイヤーは、恵美の会社の目の前で止まった。社の役員でも来たのかと、出勤中の社員は皆立ち止まった。恵美は失敗したと思ったが、今更どうすることも出来なかった。スリッパ姿の恵美は、注目を浴びてしまったのだ。恵美は新、浩二に頭を下げた。

「ありがとうございました」

「いえ、仕事は何時までですか」新、浩二は尋ねた。

「えっ、5時ですが」

「じゃあ、5時に来ます」そう言うと、ハイヤーは走り去った。

「あ、待って・・・」恵美の言葉は届かなかった。出勤途中の社員は、怪訝な表情で恵美を見ていた。大方、一介のOLが何でハイヤーなんかで・・・。そんな考えだろう。恵美は足を引きずり社屋に入った。守衛のおじさんも、不思議な表情で恵美を見ていた。

「見たわよ。ねえ、どうしたの」同期の友人、雅子が近寄ってきた。興味津々。そんな表情がありありと浮かんでいた。うるさいのに見られた。恵美はそう思った。仲はいいのだが、とにかく噂好きで、口は軽いのだ。恵美は仕方無しに足を見せ、昨夜の経緯を話した。

「すごいじゃない。玉の輿かもよ」

「もう、そんなじゃないわよ」

「でも、帰りも迎えにきてくれるんでしょ。可能性ありじゃない」やはり雅子に言ったのは、失敗であったと恵美は後悔した。京子もいつの間にか話を聞いていた。同期の中では一番仲がいい。

「浩二君は」京子には、浩二を紹介したことがあった。

「もう、あいつなんて知らない」恵美ははっきりそう答えた。

「別れちゃうの」京子は心配そうに尋ねた。

「私は、もう別れたつもり。携帯も着信拒否したし、アドレスも抹消してやったわ」恵美は得意げに携帯を見せつけた。不思議と怒りは収まっていた。新、浩二のお陰だろうか。恵美はにやついた。

「そう、浩二君かわいそう」京子は小さく呟いた。

「えっ」京子の言葉は、聞き取れなかった。

「ううん。なんでもないの」京子は明るく答えた。しかし顔には無理があった。

「ほら、いつまで話してる。始業時間は過ぎてるぞ」課長に見つかった。

「それから、恵美君、ちょっと」課長の小言が始まるのかと、恵美はげんなりとした。ところが課長は何も言わずに部屋を出て行こうとするのだ。

「えっ、か、課長」恵美は戸惑い課長に声をかけた。

「あー、ちょっと会議室まで来てくれ」恵美は驚いた。なぜに会議室なのか、恵美には想像もつかなかった。足を引きずり会議室に入ると、部長に専務までが顔をそろえていたのだ。

「まあ、座って」部長に言われて、恵美は空いている席に腰をおろした。

「恵美君、山田さんとは、どういった関係だね」課長が尋ねた。今まで聞いたこともないような話方だった。何か、まずいことでもあるのかと、恵美は緊張した。しかも口ぶりからは新、浩二を知っているようだった。しかし、やましいことは1つもない。恵美は出来事の全てを話した。もちろん旧、浩二の事は黙っていた。

「では、帰りも会うんだね」

「そのようです。迎えに来るようです」恵美にはそう答えるしかなかった。しばらく専務と部長が話していたが、やがて恵美に顔を向け話し始めた。

「実は、新しいプロジェクトの協力を求めているのだよ。彼の会社に」課長の優しい言葉使いの意味が、はっきりと理解できた。自分を利用しようと目論んでいるらしい。

「どうだろうか、新規プロジェクトに参加したくはないかね」やはりそう言う事か。恵美は呆れた。自分を交渉の窓口にする気らしい。恵美は平然と答えた。

「プロジェクトの内容も知らされていませんし、興味もありません。それに、参加してもお役に立てるとは思いませんが」部長は眉をひそめ、眉間にしわを寄せた。しかし、部長が何かを言おうとしたとき、専務が話し始めた。

「これは失礼した。君の言うとおりだ。内容も話さずにすまんね。プロジェクト内容は、部長から説明させよう。そのあとで参加するかどうか決めてほしい。君の為になることは保障しておくよ」初めて話した専務は優しかったが、恵美にはどうも受け入れなれなかった。

「はい、お聞きした上で決めたいと思います」恵美はそう答えた。早くこの場から逃げ出すには、十分な答えだと思ったのだ。思惑通りに恵美は無事解放された。普通ならば大抜擢になるだろう。しかし、会社の考えは、恵美を利用すること以外にはないように思える。恵美は憂鬱になった。雅子たちの顔が頭に浮かんだ。ほかの男性社員からも、嫉妬の目で見られるのはあきらかだった。

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