第一章
おかしい。ユーリ・アルビーンは目を瞑りながらそう思った。何故未だに自分の思考が続いているのだろうか。普通ならブラックアウトしていくのではないか?銃弾を何発も受けたはずなのに。
ユーリは死刑囚である。正確に言うと、死刑囚であった。つい一分前に銃殺刑が執行されたのだ。顔に黒い布を被せられた時に改めて、自分の死と言うものを意識したユーリだったが、銃声を聞いてもまだ意識があるのはおかしい。
「まさかこれ、ドッキリだったりとか?」
恐る恐る目を開けてみたユーリ。すると彼の目の前に広がっていたのは裁判所の法廷でも刑場の四角い建物でも、ましても自宅のアパートでもない。見たこともないレンガの建物が林立する大通りと、そこを闊歩する大勢の人々だった。
「......は?」
思わず声が出てしまったユーリ。当然といえば当然だが、彼の頭脳はこの状況に「対応できていなかった。
そもそも対応できる訳がないのである。いきなり目を開けたら見たことも無い街並みが眼前に広がっているなんて状況はどんな人間にも理解できないだろう。十人中九人は彼のように「......は?」と声を漏らしてしまうだろう。