命令ゲーム9 笑顔
真は静かにゆっくりと皆が隠れている場所に戻った。
皆のところに戻った真はまず、鳴っている電話に出て死んだ人間を確認した。
真と別れた真実は、真の手を切った血だらけの包丁をキッチンから持ってきて、宮崎家で一番大きい部屋で黒服を呼んだ。
包丁など、ほとんど役に立たないのは分かっていたが、無いよりマシだと自分に言い聞かせた。
1分とかからずに黒服の男は真実の前に現れた。
「どうして呼んだ。」
明らかに上から目線の言い方だった。
「お前を倒すため…殺すためだ。」
「ハハハハハッお前が俺を殺すって?…無理だね。」
震えながら怯えた声で言った真実とは対照的に重く強く黒服は言い放った。
「こっちが包丁を持ってても自分が勝つと?」
全身に立つ鳥肌も笑ってる膝も落ち着けて、真実は冷静を装う。
しかし、黒服はそれをあざ笑うように真実の目の前にジャンプした。
玄関で真実を初めとするクラスの全員を驚かせたあの異常なジャンプである。
「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
驚いて後ろにこける。
本能的に黒服と距離をとると、すぐに包丁を黒服に向けたが男は簡単にそれを落として見せた。
「技術の問題じゃねぇ。人を殺す覚悟の問題だ。」
男は真実に完敗の二文字を押し付けると、座った状態の真実を軽く持ち上げ、右手で思いっきり真実の腹をブン殴った。
激痛という言葉ですら到底伝えきることの出来ない血を吐く程の痛みが、真実の身体を襲った。
その頃、つまり、真実が黒服のその圧倒的なまでの強さを体感している頃、真たちは真実のことで争いをしていた。
「ふざけんなッ!真実だけ1人で行かせたのかよ!」
真実が黒服にブン殴られた時、真も実に同じようにブン殴られた。
まぁ勿論、真実の痛みは真の比ではないが。
「俺だってあいつ1人を行かせたくなんかなかったさ!でもよ!……」
続きが言えなかった。
どんなに自分は間違ってないと言い聞かせても、続きを言うことは出来なかった。
「でもなんだよ!あいつ1人に行かせて逃げて帰ってきて、それが仕方ねぇってのかよ!」
実は今までに無いほどの怒りを込めて、真が続きを言えなくなった一瞬に全部吐き出した。
「…………………」
言い返せる言葉などあるはずもなく、静寂が続く。
クラスの全員が、下を向いて動かない。
そんな状況で、実が切り出した。
「俺はバカだから、お前みたいに自分が行ったらどれくらい役に立つかとか難しいことはわかんねぇよ。でも、友達が死にそうな時に何も考えずに駆けつけられないなら俺はバカでいいよ。」
真は頭がいい。
実は頭が悪い。
学年で一位と最下位の2人だ。
だからいつも実は真に教えられてばかりだ。
でも今日初めて、真は実に教えられた。
実は真に背を向けて歩き出す。
「待て!お前の言ってることは分かるよ。でもやっぱり、行ってなんとかなる訳無いってわかんねぇのか!どこまでバカなんだ!」
実は振り返って今度は笑顔で言った。
「わかんないよ。バカだもん。」
似ていた。
その笑顔は真実が真に残した、
「ずっと親友でいよう」
その言葉の時の笑顔に似ていた。
顔がじゃない。
雰囲気が。想いが。
ただ、似ていた。
その時、真は小さくため息をついた。
「バカってのは大変だな。」
歩き出して、真も笑顔で言った。
それは苦笑いのような笑顔で、真実や実の笑顔とは少し違った。
だけど、この笑顔も悪くないと真は心で少し思った。
「大変だとも思わないのがバカなんだよ。分かるか?真。」
真実のいる方へ歩き出した真と実を追いかけてクラスの誰かが実をバカにする。
そして皆が、また違った笑顔に包まれた。