命令ゲーム8 親友
大声で泣き叫ぶ真実の声が着信音よりも大きく屋敷に響き渡る。
真を始めとする皆が、真実の居場所を声から特定する。
また、悲しみに溢れたその声から、友達の誰かの死を静かに悟った。
真実のクラスメイトが声から居場所を特定出来たということは、当然、黒服にも同じことが言える。
そして、真実の居場所への距離は、黒服の女の方が真たちより少し近かった。
1秒と考えず、黒服は真実の方へ向かった。
また、同時刻に真も動き出した。
悲しみに溺れた真実に黒服のことを考える余裕はあるはずもなかった。
悲しみは真実の冷静を完全に崩していた。
「おい!!」
後ろから声がして、その時やっと真実は自分の置かれていた状況を思い出す。
『やばいっ!』
瞬間、後ろを振り向いた。
後ろにいたのは黒服……ではなく、真であった。
同じ場所に向かう時に向かい出した時間が同時である場合、順位を決するのは距離または、速さであるのがほとんどだ。
ということは、両方で黒服に劣る真が、黒服より先にその場に来ることはまず、あり得ないはずだが例外はある。
一方だけが最短距離を走り、また、一方が道を正確には知らない場合である。
その場合、まず、距離の概念が壊れる。
また、『道を正確に覚えていないから迷わないように』と黒服は走っていないのであれば、足の速さも意味をなさない。
つまり、宮崎家での戦いという地の利が、真が黒服より先に到着した理由だった。
「真!!」
一瞬死を覚悟した真実が、真の姿を見て安心から言葉を発した。
真が生きていたことからの安心なのか、黒服ではなく真が来たことからの安心なのかは、真実自身にも分からなかった。
「今生き残ってる24人全員で隠れてる場所がある。お前も行くぞ。」
真は、真実の右手を掴んで引っ張り、とりあえずは龍也の死んだ部屋から出た。
しかし、真がそのまま行こうとすると、真実は、真の手を振り払った。
「おい!何やってんだよ!」
言葉とは裏腹に、真は、真実が自分の手を振り払った理由がなんとなく分かっていた。
分かりたくなくても、分かっていた。
「わりぃけど俺さ……」
「皆待ってんだ!!早く行くぞ!」
長い付き合いだから分かっていた。
「俺さ……」
「後で聞いてやるから!早くしろ!!」
真が真実の言葉に言葉を被せる。
真は、真実の言いたい言葉を分かっていながら分からないふりをする。
それはきっと、聞きたくないから。
認めたくないから。
自分の勘違いであってほしいから。
そして、聞いてしまったら、止められないから。
真実も、真が自分の言いたいことを分かっているということを分かっていた。
真の気持ちを痛いほど、分かっていた。
それでも、真実はその言葉を言った。
「俺さ、戦って来るよ。あいつらと。」
真実のぎこちない笑顔がその言葉の重みを泣き出したくなるほどに伝えてくる。
「バカか!勝てるわけねぇだろぉ!あいつらぁバケモンなんだよぉ!お前なんかがぁ勝てるわけないんだよ!……すぐ殺されて終わりなんだよぉ!親友が命がけの戦いに行くって聞いて止めねぇわけねぇだろぉ!……行くなよぉ!」
胸ぐらを掴んで涙を流しながら裏返った声で溜め込んでいたものすべてを真は吐き出した。
この状況にいない人からすれば大袈裟に思えるものかもしれない。
でも、2人は、もう二度と会えないかもしれないということを分かっているから、躊躇するものなど何もなかった。
覚悟を決めた真実の心を動かすことは出来なかったが、想いのすべてが詰まった真の言葉に、真実は自分もすべての想いを込めて言葉を返した。
「真……俺たち……これからもずっと……親友でいような。」
結局、真自身分かっていた通り、止めることは出来なかった。
仕方なく真は大きく頷いた。
真が下を向いた瞬間、さっき流した涙の一雫が真の頬を伝い床に落ちた。
「男が泣いてちゃダメだよなぁ……わりぃ」
真の少し高い声で言われた言葉と鼻をすする音、軽い深呼吸が真実の瞳にも涙を誘った。
「……………………」
真実はあえて何も言わず黒服を探しに行った。
真の言葉に答えたら、自分も泣いていることが真に分かってしまう。
それが、嫌だったのかもしれない。