命令ゲーム7 誰のせい
龍と美穂の2人の次に1.3秒遅れて真実だけが黒服の2人を確認、龍と美穂が手を握られたことに気づく。
そしてその1秒後に真実が叫ぶ。
「逃げろぉぉぉッ!!手をにぎられるなぁぁぁ!!」
その言葉の1.9秒後に意味を理解して真が屋敷の扉を開き、実を連れて中に入って行った。
また、その0.5秒後に数人が動き出す。
その間に瞬と彩奈が手を握られていた。
この数秒だけで死人は4人にもなっていた。
「なぁ龍也、皆でお前のこと十発殴るつったの嘘じゃねぇから。後で殴らせろよ。」
「分かったよ。でも、代わりに鍛えた俺のパンチをお前が喰らえよな。」
真実は最も近くにいた龍也だけに言葉を残して、屋敷内には入らず、屋敷を左に回るように逃げ出した。
その時、電話が鳴り出した。
♪〜♪〜♪〜
誰も出ることなど出来ない。
広い敷地に着信音が響いている。
龍たち4人は体が半分になって消えた。
不気味な大量の血が森の緑と混ざり合い、より不気味な色となって広がっていく。
その頃、実を連れた真はキッチンに向かっていた。
真以外にキッチンの場所を知る者は遊びに来たことがある真実だけだ。
だから当然、誰もいない。
黒服から逃げ出した時から考えると52秒程経って真たちはキッチンへと着いた。
キッチンに着いた真は、流し台の上にある包丁を右手で素早く取った。
「真……それでどうすんの?」
実の質問を聞いて振り返った真の顔は恐怖で埋め尽くされていた。
「ハァ………ハァ………」
真は実の質問に答えずにTシャツを口で噛んでから、右手に持った包丁で床に着けた左手
の手首を思いっきり叩き切る。
「いぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁッ!!」
言葉にならない声を真は叫ぶが、左手はまだ切れていない。
それを見て真はまた思いっきり包丁で左手を叩き切る。
頭がおかしくなりそうになりながら何十回と真はその行動を続けた。
そして叫び声を上げることすら出来得ない激痛が左手を襲うと共に真の左手は切れた。
血だらけの左腕と返り血で汚れた左頬が真の行った所業の恐ろしさを訴える中、目を逸らしていた実に包丁を渡した。
「えっ!?まさか………」
「頼む。俺を助けると思って。」
真は震える実に向かって右手を差し出す。
「無理!無理だって………」
「頼んで悪いと思うよ……でも、死ぬよりマシだから。」
「ハァ………ハァ………」
最初の真と同様に実の息が乱れる。
息が乱れてから2.8秒後、決心したように右手に持った包丁の刃を下に向ける。
そして実は包丁を振り上げ振り下ろす。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、
実は真の右手を叩き切る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
恐怖と苦痛が叫びに変わる。
泣き叫びながら叩き切る。
友達の手を叩き切るのはどんな感触だろう。
最低最悪なその感触を手に残しながら、数十回目にやっと実は真の右手を叩き切った。
「ごめん…ごめん…ごめん…ごめん…」
実は包帯を巻きながら何度も、何度も、謝った。
真の手を切った何倍も多く謝った。
気絶していた真にその声が届くことはなかったが、それでも確かに実は泣いて謝った。
実が真に泣いて謝っている頃、真実は隠れた場所で電話に出ていた。
「11番ペア成功です。なお、鈴木美穂 青木龍 菊池瞬 森田彩奈 平野千秋は、命令に背いたのでしんでもらいました。」
「ふざけるなぁぁッ!!」
真実の言葉など聞くはずもなく、電話は切られた。
「くそぉぉぉぉッ!!」
真実は携帯を思いっきり芝生に投げ捨てた。
仲間が殺されていくのが悔しくて堪らないのだ。
しかし…
「皆を助けなきゃ……」
それと同じ程、恐怖を感じる。
震える足を何度も必死に叩く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
手も足も感覚がなくなるほど叩いてやっと震えは止まった。
真実はまず、玄関まで走った。
走り出してから6秒ほど経って、真実は玄関に到着した。
黒服はいない。
少し安心した真実の目に次に飛び込んで来た光景は、まさしく血の海であった。
また、その血の海に立ち尽くす1人の男がいた。
そこにいたのは目や耳、鼻や口など体の至る所から出血して血まみれになった龍也だった。
「オイ!大丈夫か龍也!!」
立ち尽くす男が龍也だと認識出来ると、真実は龍也に駆け寄った。
「わりぃダメかも。」
「オイ!何言ってんだよ!!ふざけるなよ!」
「聞いてくれよ…俺…謝んなくちゃいけねぇんだよ…ごめん、俺なんだ…ォェッ ゴホッ……あいつらにこの家教えちゃったの……俺なんだ…」
倒れた自分を抱えた真実に龍也は、血を吐きながら謝った。
龍也は謝るが、それを聞いて真実は気づいた。
あの時、龍也が遅れて来た理由をもっとちゃんと聞いていれば皆で逃げれたかもしれないということに。
「何だよ……じゃあ俺のせいじゃん…俺が皆の逃げるチャンスを潰したんじゃないか…」
ごめんじゃ到底済まない自分の罪を真実は知った。
「龍也は悪くねぇよ。これは俺のせいだ。俺がなんとかする。だから……死ぬな。なぁ、死ぬなよ。まだ……十発殴ってねぇぞ……これ終わったら、皆で笑って、バカ野郎ってお前殴んだよ……なのに、お前が死んだら意味ねぇだろ…なぁ龍也ぁ……お前も代わりに俺を殴っていいから……だから……なぁ……」
鼻の奥がツンとして目が赤く充血する。
抑えることなど出来るはずもない涙が、真実の瞳から流れ落ちていった。
龍也は何も言わず、黙って聞いていた。
そして……
「ごめんなぁ真実……約束…守れないわ…ごめん……」
「やだ……やだよッ!死ぬなぁぁぁぁ」
それだけを残して龍也はゆっくりと消えた。
龍也が消えた後、真実の泣き叫ぶ声と着信音が木霊する。