命令ゲーム3 the god of death
皆が気付いたあること。
それは、3人グループのことである。
「同じ番号の人が3人?」
2人グループしかいないと言われた訳ではないので、3人グループがいても、問題があるとは限らない。
しかし……2人グループと3人グループがある以上は、そこに意味が存在するのは確かだ。
「次の奴がちょうど3人グループだ。とりあえずは……」
♪〜♪〜♪〜
真実の言葉を遮る着信音が教室を包み込む。
とても、気持ちがいいものではない。
「はい。」
「まもなく11時です。命令3番目の人は命令を実行してください。」
お決まりの台詞だけを吐いて、電話は切られた。
何を聞いても、何も返ってこないので、質問をするのはやめにした。
「実行しろって言われてもなぁ……3人いるしなぁ」
困りきった顔で、敦士が呟く。
「俺様がこいつと手を繋いでやる。貴様はそこで見てろ!」
まるで、王様のように、光介は敦士に命令する。
光介という男は、自分自身を世界で1番偉いと考えている。
だから誰にでも、ああいう口の利き方になるようだ。
敦士の右斜め後ろにいる咲を光介が呼び寄せる。
光介は自前の手袋を出すと、右手だけにそれをつけ、隣に来た咲の左手を握ろうとした。
「ちょっと待て。」
光介の右腕を真が掴む。
周りにいる皆は驚かない。事前に聞かされたのだろう。
驚いているのは咲だけだ。
光介の方は真を睨みつけている。
「なんだ!貴様ごときが触れていい腕ではないぞ!」
どんな腕だよ。
そう思いながら、真は手を離す。
「何かあるかもしれない。3人グループがある理由をもう少し考えてみよう。命が懸かってるんだから。
「……まぁいいだろう。」
真の言葉を聞いて、横目で先生の死んだ場所を見ると、光介は自分の席へ戻った。
「皆もギリギリまで考えてくれ!」
「分かった。」
3人グループが何故あるのか。
あることで何が起きるのか。
皆は静かに考えた。
それぞれがそれぞれ、仲の良いので集まり、意見を出し合った。
真実も、真と実の2人と色々な考えを出した。
しかし……間違いないと思えるものは出ないまま、時間は過ぎていった。
11時52分……。
咲が、わざと大きな音がするように椅子を引いた。
周りの視線が咲に集まる。
「もういい!別に意味なんてないわよ!どっちでもいいからはやくして!」
咲の発言を聞いて、敦士も痺れを切らしたように、立ち上がる。
「そうだなぁ!どうせ意味なんかないんなぁ!」
時間が無いのだから、もう繋ぐしかない。
3人グループの意味など、分からなくとも。
「光介は、自分で繋がなくていいのか?」
「俺様がいきなり怒鳴るような男女と手を繋げるか!汚らわしい!」
真実なりに気を遣ったのだが、それが光介には気に食わなかったらしい。
「敦士が繋いでいいってさ」
真実の言葉を聞いて、安心したように敦士は右手で咲の左手を握った。
『これで大丈夫。』
2人がさらに安心して、笑顔になった瞬間…二度と思い出したくないあの映像が、クラス全員の脳裏にフラッシュバックした。
先生が死んだ時の映像である。
映像が消えると、今度は音がした。
先生の腕の時とは明らかに違う音、爆発音ではなく、『ぐちゃ』という、鈍く気持ち悪い音。
耳で聞いたのではなく、頭に流れ混んで来たのだ。
皆は震えながら、それでも、フラッシュバックで瞑った目を開いた。
真実の目には足下に、何か丸いものが見えた。
まだ少しボヤけている。
だんだんと、ハッキリしていくにつれて、真実は、自分の体の震えが大きくなっていくのを感じた。
瞳
女の子の、咲の、瞳。
足下のそれがそれであることがハッキリと分かった時、真実はもう一度目を瞑った。
声は出なかった。
怖すぎてではない。
色々な事と同じだ。
人は、人の死にも……慣れてしまうんだ。
真実の足下には、咲の目があったが、他の人の近くにも、咲と敦士の顔のパーツが散らばっていた。
2人の近くにいた人によっては、2人の血が身体中に飛び散った人もいた。
皆が涙を流して固まっている中で、真だけが、あることを考え、ある人を探していた。
何故2人が死んだのかは真には分からない。
しかし……2人は死んだ。それは確かだ。
なら、手を繋ぐ相手を失った光介はどうなる?
真はそれを疑問に思ったのだ。
どれだけ真が視線を巡らしても、光介の姿は見えない。
そう。真の予感は当たっていたのだ。
手を繋ぐ相手が死んだなら、もう1人の方も殺される。
それがこのゲーム。
つまり、光介も2人と同じように殺されたのだ。残酷に。
フラッシュバックが終わってから…つまり、咲と敦士、そして光介の顔がバラバラになってから10秒程経つと、3人の死体はまたもや真実たちの前から消えた。
♪〜♪〜♪〜
着信音は、何事もなかったかのように鳴り響く。
3人の携帯も鳴っている。
今までに無いほど怒りを持って、真実が電話に出た。
「てめえ!こんなことして何が面白い!何が命令だ!ふざけるなぁ !今すぐここに来い!
俺がお前を殺してやる!」
「私に会いたいなら、ゲームをクリアしてください。」
怒鳴る真実を馬鹿にするような口調で、電話の相手は、初めて違う事を話した。
「何がゲームだ!何がクリアだ!お前は人の命を何だと思ってる!」
「うるさいなぁ。全部のゲームをクリアしたら会ってあげるって言ってんじゃん。無理だろうけど。」
今度は子供のような口調で真実を馬鹿にする。
「なめてんじゃねぇぞクソが!」
「落ち着け真実!」
真が携帯を真実から奪い取る。
「分かった。ゲームをクリアすれば、お前は俺たちに会うんだな?」
「おっ⁉やる気満々だねぇ。いいよ!クリア出来たらね。」
真も相手も、お互いに自信満々という感じだ。
「えーでは、まもなく12時です。4番の人は命令を実行してください。」
「最後に、お前は何者なんだ?」
「the god of death……死神ってとこかな。」
「死神……だと……⁉」
死神……それだけを答えて、電話は切られた。
何も無かった訳ではないが、ヒントが貰えた訳でもなかった。
真は携帯を真実に返して、話をする。
「頭は冷えたか?」
「あぁ。助かったよ!」
「いや、皆気持ちは一緒だったさ。」
携帯を強く握りしめ、小さく笑いながら真実は言う。
「クリアか……やってやろうじゃねぇか!」
その言葉を待っていたように、真も笑った。
「そうだな!なぁ皆!」
「ぜってぇやってやる!」
「おうよ!」
「後悔させてやる!」
真と真実の笑顔を見て、皆も笑う。
泣いてる者はもう、1人としていなかった。