命令ゲーム2 気付き
真実たちの目の前で教師は死んだ。
人の死を始めて目で見て、肌で感じた。
テレビや漫画なんかとは訳が違う。
今まで人であったものが、ただの物になってしまった嫌な感覚。
「…………………」
言葉が出ない。口が重い。
好きなんかじゃなかった。むしろ、嫌いだった。
なのに、最後に思い出すのは先生の優しさばかり。
先生が死んでから13秒後、先生の死体は白い靄に囲まれ、靄が消えると同時に消え去った。
『なっ⁉……』
口に出して驚く者はいなかったが、心の中では誰もが驚き、恐怖していた。
「♪〜♪〜♪〜」
静かになった教室で、荒れた息と着信音が耳障りに響く。
「もしもし。」
電話に出て着信音を止めたのは、真だった。
「1番ペア成功です。なお、片原 智はこのゲームの存在に気付き、止めようとした。このゲームの参加者以外がこのゲームの存在に気付き、ゲームの妨害をしようとした場合、その人間には死んでもらいます。……まもなく10時です。2番の人は命令を実行してください。命令違反者も死んでもらいますので注意を。」
「…………………」
何も言い返せないまま……電話は切られた。
先生の死について、ゲームの終わらせ方、何故こんな風に人を殺せるのか。
言いたいこと、聞きたいことはたくさんあったのに、結局、真は何も言えなかったのだ。
さすがの真も、まだ先生の死の直後で冷静ではなかったのだろう。
「命令に従わない者、ゲームの妨害をしようとする者は殺されるらしい。」
真の発言を聞いて、ほとんどの者が顔を下にして呟いた。
「そんな理由で……」
納得出来る理由なんか、あるわけないことは分かっていた。
それでも、それを期待していた。
「はぁーふぅー」
大きく深呼吸をすると、さっきまで青ざめていた真の顔は、いつもの力強い真の顔に戻った。
「いつまでも泣いてるだけじゃ変わらない!このままじゃ俺たちだって死ぬかもしれない!全員気合い入れろ!!」
同じく青ざめていた皆の顔にも気合いが入った。
『こんな時なのに真は本当にすごい奴だ』と真実は心の中で呟いて涙を拭った。
「よし、まず手を繋げばいいことは変わらない。2番は手を挙げてくれ!」
すぐに2番の本田 美紀子が周りを見ながら言った。
「2番は私よ!早くしなさいよもう1人!」
「お前かよ。」
神川 神也が美紀子に近づいて嫌々手を出した。
「お前らこんな時まで喧嘩してんなよ。」
神也と美紀子のやり取りを見て皆は笑った。
こんな時なのに、いや、こんな時だからこそ、いつもの仲の悪さが可笑しくて笑った。
「私で悪かったわね!」
美紀子も怒りながらも、手を出して、神也の手を握った。
「♪〜♪〜♪〜」
もちろん、電話が掛かってきた。
もちろん、真が出る。
「手は繋いだぞ!」
「はい。2番ペア成功です。」
「お前は何なんだ!何のためにこんなことをしている!」
必死の思いで真は声を出した。
しかし……無情にも答えは返って来なかった。
「何だって?」
皆の期待した顔をまっすぐ見れず、真は目を逸らて答える。
「2番ペア成功。それ以外は何も言わなかった。」
「そっか……」
皆の残念そうな顔が、真の心を打つ。
「ごめん……」
自分が悪いわけじゃないのに、真は頭を下げて謝った。
「真君のせいじゃないでしょ!気にしないでよ!」
女子がすかさずフォローする。
「でも……これからどうすれば……」
真は珍しく弱気に言った。
それを聞いて、今度は真実が珍しく強気に言った。
「おいおい!完璧超人の宮崎 真がそんなんじゃ皆がまた、青ざめちまうだろ!俺も皆も、お前の凄さに期待してるし、信頼もしてる!だから頼むぜ!」
それを聞いて、真は大笑いして返す。
「……何言ってんだよ!俺は逆に、お前に期待してるんだ!お前はこういう時こそ光るものを確かに持ってる!お前が皆を引っ張れよ!なっ!」
「俺が⁉」
真実は『何を馬鹿なことを』と思ったが、皆は真実を見て頷いていた。
すると、実が真実の肩を組んで言う。
「そうだぜ真実!2年前の遠足で俺が迷子になった時、お前は俺を完璧な推理で俺を見つけてくれた。お前はこういう時にこそ力を発揮するんだよ!俺はお前の言う通りにするぜ!」
真実が周りを見ると、皆が、笑顔で言う。
「俺も!」
「私も!」
それは言うまでもなく、真実への信頼と期待からの言葉だった。
真実は嬉しかったし、この信頼に応えたいと思った。
「よし!これからは俺が皆をまとめる!まだ、11時まで46分もある。今のうちに、ペアをはっきりさせておこう!」
「賛成!」
こうして、全員が一ヶ所に集まった。
すると、ペア確認の前に聞きたいと言って、愛が質問した。
「皆は、電話でどんなこと言われたの?最初の時みたいに曖昧じゃなくてしっかりさせれば、何かあるかも……。」
「そうだな!」
「えーとたしか……」
注意して聞いていたわけじゃないから思い出すのは至難だ。
まるで、夢を思い出そうとするように、はっきりしない。
それでも、皆で話し合って、言われたことは出来るだけ思い出してまとめた。
「命令……あなたは◯番目です。◯時までに手を繋いでください。その人以外と手を繋ぐのは禁止します。猶予は1時間です。健闘を祈ります。だな。」
ほとんど違いはないし、電話の内容は同じものだったと考えられたが、人によっては、始まりが違かったと言う人もいた。
まぁ、それも、勘違いだろう。ということになり、結局、何も得るものはなかった。
「よし!今度こそ、ペアを確認しよう。」
1番 今田由美と山本光太『9時』
2番 本田美紀子と神川神也『10時』
3番 安藤咲と石川敦士と上田光介『11時』
4番 斎藤優気と橋本奈々子『12時』
5番 青木龍と川口早苗『13時』
6番 渡辺実と平野千秋と宮本花『14時』
7番 山村真実と井上心と春村恋『15時』
8番 大野信二と鈴木美穂『16時』
9番 高村彩と山田太郎と佐藤裕二『17時』
10番 竹中香織と坂本龍也『18時』
11番 岡本桃子と宮崎真『19時』
12番 川村真矢と森田彩奈と中村健二『20時
』
13番川島久美と戸田明人と菊池瞬『21時』
14番玉村愛と奥田栄次『22時』
話し合った結果を真実はメモしたがその結果、誰と誰がペアで自分がいつ手を繋ぐのかだけでなく、あることに皆が気付いた。