命令ゲーム1 始まり
好きな人がいますか?
失いたくないものがありますか?
大切なのはなんですか?
これは試しのゲーム。
本当に好きな人、本当に失いたくないもの、本当に大切な何か。
それを知るためのゲームなのです。
20XX年10月のある日。7時12分。いつものように普通の日常が幕を開けた。
はずだった……。
「♪〜♪〜♪〜」
「あっ!電話だ!」
真実はベットの上に置いていた携帯を勢い良く取って電話に出た。
電話の画面に非通知と出ているのに気付きもせず。
「はい!もしもし。」
この時、全ては始まった。
「命令、山村真実。あなたは7番目です。15時にある女の人と手を繋いでください。その人以外の人と今日手を繫ぐのは禁止です。猶予は1時間です。健闘を祈ります。」
相槌も打たずに固まったまま真実は話を聞いた。相手は一方的に話を終えると、勝手に電話を切った。
電話が切れて携帯を耳から離すと、真実の口からは自然と言葉が出た。
「はぁ⁉何だこれ!イタズラだな!ふざけやがって!」
真実が信じないのも無理はなかった。
あんなもの、まずわけがわからない。
朝の忙しい時間にイタズラ電話をされて、ムッとしながら真実は着替えと食事を済ませ、携帯をポケットに入れて学校に向かった。
真実は、産まれてから特に何かで目立つこともなく16年間生きてきた。
そこそこの性格。そこそこの成績。そこそこの顔。
そこそこの学校でそこそこの友達とそこそこの日常を過ごしてきた。
だから真実はこれからも、そこそこの人生を送ってくと、そう思ってた。
全くの見当違いとも知らず。
8時28分、真実は教室に入って鞄を置き、今日の授業…まぁ、時間割りを確認すると、友達の所へ向かった。
真実の親友の1人だか、どうしてもそう思えない人がいる。
宮崎 真。それが彼の名前である。
成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群、宮崎財閥の御曹司。
ハイスペックが服を来て歩いているという感じだ。
真実の友達で数少ない、そこそこではない人である。
そんな真が、みんなに囲まれながら不思議なことを話していた。
「7時12分に俺のところにイタズラ電話が来たんだよ!マジムカついた!!」
真実は驚かずにはいられなかった。
同じようにイタズラ電話が来た。というだけでは、終われない事実があったからだ。
「7時12分?」
頭の中で、自分の今日の朝とその言葉を照らし合わせた。
「同じ時間!」
真実がその答えを口にする、わすが1.8秒前に「嘘だろ⁉」そう口にした男がいた。
渡辺 実。これまた真実の親友だ。
実のことを一言でいうと、「バカ」である。
数少ないそこそこではないバカだ。
本物のバカだ。やばいほどのバカだ。
そんな実が何故、「嘘だろ⁉」などという言葉を発したのか。それは、実のところにもまた、7時12分に電話が来ていたからである。
いや……実や真、真実のところだけではなかった。
「私のとこにもきた!」
「俺にも!」
「7時12分にきたんだ!」
真実が話を聞くとクラス全員のところに7時12分に電話が来たという。
「どういうことだ!」
「おかしいって絶対!」
そんな言葉が飛び交う中、真が教卓を強く叩いた。
皆、一斉に教卓……というより真に視線を向けた。
「静かに!まず、掛かって来た電話が皆同じだったか調べよう。」
驚いている皆に向けて、真がそう言った直後だった。
「♪〜♪〜♪〜」
クラス中の携帯が一斉に鳴り出した。
皆が皆、他の奴の顔を見る。
「やばくない?…誰か出ろよ!」
「お前が出ろよ!」
「何でだよ!」
皆が自分以外が出ろという目で皆を見てる。
「分かった!俺が出る!」
真実は震えながら電話を持った。
「はい。」
「まもなく9時です。1番の人は命令を実行してください。」
「お前は何者…」
「プープープー」
真実の質問に答えは返って来なかった。
返す気すら、なかったのだろう。
あわよくば、普通の電話であって欲しいと思っていた真実だが、そんなことはあり得なかった。
「何だって?」
全員がすぐに口を揃えて聞いて来た。
真実はため息をしてから聞いたことをそのまま答えた。
「まもなく9時です。命令を実行してください。だって。」
「どういうこと?」
「知るか!」と思いながらも真実は脳を回転させて考える。
「こういうことか?」という仮説真実の頭の中で生まれた。
「俺は朝の電話で7番目って言われた。ってことは、1番の奴もいるんじゃないのか?たぶん、9時から1時間後の10時までに朝言われたことをやれってことだ。ちなみに俺へは女と手を繋げだった。」
真実の仮説におかしいところはない。
だから、真実が話し終えた途端に、皆が一斉に話し出した。
「俺も手を繋げだった。」
「私は男!」
「俺もだ!」
「静かに!」
騒ぎ始めた皆をまた、真が静かにさせた。
真が言っただけで静かになるのは真の人徳からだろう。
「まず、1番の奴だけ手を挙げろ!」
真の声に反応して、静かに2つの手が挙がった。
今田 由美と山本 光太だ。
「他にはいないな?」
シーンとしている。
こうして、1番のペアが分かったのだった。
「これからどうするんだよ!」
光太が真を少し睨みながら言った。
真のリーダーシップ感が嫌らしい。
しかし、答えたのは真ではなく、クラスで1番人気の女子と言われている玉村 愛だった。
「別にアニメじゃないんだし……命令なんて無視してもいいんじゃない?」
誰もが「確かに」と思った。
しかし、真が冷静に言い返した。
「いや…全員の携帯に一斉に電話が来るっていうのはやっぱりおかしい!たかが、手を繫ぐだけだろ?命令に従おうよ。」
真の意見ということもあり、皆が頷いた。
こうして、命令ゲームが始まった。
「じゃあ繫ぐよ!」
「おう!」
光太と由美の手が触れ合った瞬間、また、電話が鳴り響いた。
「♪〜♪〜♪〜」
皆が皆を見る。
「俺でいいよ!もう!」
誰も出ようとしないので真実が仕方なく電話を持った。
電話に出ようとした瞬間、教室の扉が開く音がした。
皆が皆、振り返った。
「お前ら何やってる!早く席につけ!」
先生が入って来たのだった。
先生は立ち歩いてる生徒を見るなり険しい顔で怒鳴った。
そのせいで、先生は最初の犠牲者となる。
いきなり、まるで爆発音のようなどでかい音がけたたましく木霊した。
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
爆発音とほぼ同時に先生の断末魔が響く。
数秒後、教室の床に何かが落ちた。
それが先生の左腕であることを全員が認識したのは、携帯の着信音が響き渡る教室で真実が悲鳴を上げた時である。
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
真実が叫び声を上げた後、わずか0.6秒後にまるで口火を切ったように、次々と悲鳴があがった。
「キャァァァァァァァ」
とりあえず先生から離れる奴。
嘔吐する女。
声すら出すことができなくなる男たち。
いろんな者で教室は溢れた。
「何だこれ…おい……何なんだこれは!!」
おかしくなったのは生徒だけではない。
むしろ、先生の方がおかしくなって当然たんだ。
「助けて…だれか……たすけ……」
先生が残った右腕を伸ばして助けを求める。
誰も何もできない。
再びけたたましい音がした。
すると今度は、先生の右足が床に落ちた。
急に右足が無くなりバランスがおかしくなったのだろう。
先生は教室の床に倒れた。
しかし、それでも先生は這いつくばって助けを求める。
「助けろ……だ……れでも…いい…山村……腕だ……うでよこせぇぇぇ」
真実は必死に首を横に振る。
可哀想で…でも、怖くて……。
瞳には今まで流したことのないほどの涙が溢れていた。
「宮崎……お前でもいい……だれで…もいい……うで……あ…し……よこ…せぇぇぇッ!」
一瞬、先生の顔が鬼の形相に変わったように見えた次の瞬間。
先生は首が落ちて死んだ。
真実たちの目の前で息絶えたのだった。