うちのメイドの服のこだわり
「はい、では出発しますよ。シートベルトをお願いします」
メイド姿の陽子はパイパーマリブミラージュの操縦席で言った。
「Chofu Ground, Elf 03, at E1, taxi for Departure」続けて無線でタクシング許可を求めた。
「あの、陽子? 陽子って飛行機操縦出来るの?」
由那は後部座席から訊いた。
「はい、出来ますよ。ちょっと狭いですか? ガルフストリームの方が良かったでしょうか?」
陽子は何でも無いように答えた。
「いや、そうじゃなくて……。いつもは専用機でパイロットがいたり、軍の飛行機使うわよね。今まで陽子が操縦してるのって見た事無くて」
由那はどう言ったらいいか分からないような口調で言った。
それを見た陽子は由那に訊いた。
「意外ですか?」
「びっくりした」
陽子は続けて答えた。
「今回は由那様のプライベートという事でしたので、私が操縦させて頂だこうと思ったのですが、もしかすると、不安でいらっしゃいます?」
「ううん。 陽子の腕を見せてもらおうじゃないの」
挑発的に由那は言った。
「おまかせ下さい」
と陽子は答え、少しの間をおいて続けて言った。
「機体が小さいので、多少揺れるとは思いますが、嘔吐袋は座席の下にありますので」
と由那に言った。それを聞いた由那は少し青ざめた。美雪と綾は微笑んでいた。
「03」
陽子が無線に向けて言った。パイパーは滑走路に向けてゆっくり動き始めた。
「しっかし、メイド服で操縦席に座ってるパイロットって見た事無い。すごい違和感が」
由那は言った。
副操縦席にやはりメイド服を着て座っている綾が言った。
「確かに、そうかもしれませんね。普通は飛行服とか、飛行会社の制服とかですから」
それを聞いて操縦席のスイッチを操作しながら陽子は反論した。
「メイド服だって、れっきとした私達の制服よ」
後部座席、由那の左隣に座っていた美雪が頷きながら言った。
「あら、意見が合うわね、陽子」
すると由那が皆に言った。
「何、そのポリシー。みんな結構頑固ね」
今度は肩をすくめながら陽子が言った。
「とは言うものの、固定翼機でしたらメイド服でもいいのですが、回転翼機の場合はちょっと邪魔ですね」
「回転翼?」由那が訊いた。
「ヘリコプターの事ですよ」と由那の隣で美雪がそっと答えた。
「私達のメイド服は、フルレングスで、中にロングペティコートじゃないですか。足をかなり使う回転翼では動きにくいんです。コレクティブピッチレバーもスカートにぶつかりますし」
由那は少し笑いながら言った。
「そこまでしてメイド服着なくてもいいんじゃない?」
それに陽子は答えた。
「いえ、この服はメイドのステータスシンボルです。今だってかなり不本意なんですから」
そう言う陽子に由那が訊いた。
「なんで? 今、ちゃんとメイド服着てるじゃない」
すると、陽子は、自分の頭を指さしながら少し不満げに答えた。
「不本意なのは、ヘッドセットを付ける場合、カチューシャを外している事です」
それを聞いた由那は少しあきれ顔で言った。
「くあぁ。すごいこだわり様」
「由那様にお仕えする仕事の心の切り替えスイッチみたいなものですよ、この服は」
と陽子は言った。
「私にとっては、お嬢様のメイドでいるための服です」と美雪は言った。
さらに続けて綾が言った。
「まぁ、仕事によりいくつかの種類がありますけどね、私達の服」
それを聞いた由那は、
「え? 何種類もあるの?」と訊いた。
「ええ。条件や場所、内容によって違っているのですよ。例えば今はお嬢様のプライベートで外出なので、少し雰囲気が固めで機能的なメイド服になっています」と綾が答えた。
「あー。微妙にカチューシャが変わったり、公式の場で出る時違ったりするのは気が付いていたけど、意味あったんだ」
と由那は言った。
「でもなぁ、私には仕えるとかメイドとかいうより、みんなを家族みたいなもんと思っていたんだけどな。家族にこんな風にしてもらうのもおかしいけど」と由那は全員に言った。
それに対して陽子が答えた。
「一応、メイドとしてのけじめとして。メイド服を着ている時は」
「じゃぁ、メイド服を着て無い時は?」由那が訊いた。
「メイドがメイド服を着ないでメイドとして認識できるのは四分三十三秒までです!」
「ぷっ! わけわかんない」由那は吹き出して大笑いした。
「それは冗談ですけれど、家族同様と思って頂けるのは嬉しいです。私達もお仕えのし甲斐があります。気持ちよくお仕え出来ますから」
「あ、でも美雪は別よ?」と由那は付け足して言った。
「私は別なのですか?」美雪は首を傾げて訊いた。
「美雪は家族同様じゃなくて……」途中から由那の声が小さくなって途切れた。つい、言ってしまいそうになった事に気が付いたようだった。
「なんでしょう?」美雪は右側に座っている由那を見ながら訊いた。
「秘密!」由那は顔を真っ赤にして言った。
「実はそう思いまして、わざと小さい飛行機を選んだのですが、いかがでしょうか。距離、近いですよね?」
陽子は微笑みながら言った。
「陽子、ナイス! でも言っちゃダメ!!」親指を立てて握った手を突き出しながら由那は言った。
「Tower, Elf 03 at Runway 17, Ready for Takeoff」陽子が無線に言った。
「では、飛びます。八丈島まで約一時間半かかります」と言うと陽子はスロットルを全開にした。エンジン音が上がり、パイパーは急加速を始めた。
「上がって水平飛行になったら、飲み物を用意致しますね」美雪が水筒を膝の上に乗せて言った。




