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蝸牛

第一章 蝸牛


 俺は約束を破るのが嫌い・・・、言い訳する奴も嫌い、だから、俺は約束するのが嫌だった、守れる自信が無かったから、自分自身が。

 言い訳なんか絶対したくなかった、だから、優香との約束もしなかった・・・つもりだ。

 なのに俺は、毎年のように丘の上野公園のちょうど真上で星が輝く時、公園に行く、優香との約束を守るかのように。

 最初は優香を泣かせた償いのつもりだった、でも、今じゃそんな事関係ない、ただ俺は願う、優香が戻ってきてくれる事を・・・。

 そして今日もあの日から見続けてきた空を見上げる。


「君もよくここに来るね。」

 大祐がいつもの様に公園の入り口まで行くと、係員の雄三が話しかけてきた。

 昔は無料では入れたこの公園は、何時からか国の物になり、お金を取るようになった。

 そのせいか、昔は賑わっていたこの公園は薄寂れ、昔の面影なの全然残していない。

「ええ、この場所、落ち着くんですよ。」

「まぁ、最近は寒くなって来てるから風邪ひかないようにね。」

「ありがとうございます、それじゃあ。」

 103段の階段を毎回登る、大祐は白い息を吐きながらもゆっくりと階段を登っていく。

 この公園には言い伝えというか、ジンクスなんて物がある。

 『この公園で約束した事は必ず叶う。』と。

 優香はこの言い伝えを聞いて、大祐とこの公園でわざわざ約束したんだろうきっと。

「居ない・・・よな・・・、探しても無駄か。」

 公園まで行くと、大祐はいつものように意味もなく公園を一周する。

 正直こんな所に来たって優香に会えるわけじゃない、それは大祐だってよく知っている。



 だけど、俺にはここに来る必要がある。

 俺が一番嫌いな約束の為に、その約束を破らない為に、もう優香だって忘れているかもしれないその約束の為に、俺はずっとこの公園に居る。

 忘れる事なんか簡単だ、簡単すぎるぐらいだ、学校の勉強に比べたら、でも忘れる事は出来ない、それが俺にとっての優香への償いだから。

「あら?また、君なの?」

 最近になって俺は夏樹という女の人に出会うようになった。

 年も、どこに住んでいるかも、どうしてここに居るのかも何も知らないけど、唯一初めて会った時に名前と携帯のアドレスだけを教えてもらう事が出来た。

 そして、俺がここに来ると必ずペンキの剥げ落ちたベンチにいつも同じような格好で座って、こんなに暗いのに本を読んでいるのだ。

「その言葉、そのまんまお返しするよ。」

 夏樹は読んでいた本にしおりを挟むと立ち上がった。

「まぁ、私は帰るね。あなたの邪魔はしたくないわ。」

「別にいいんだけど。」

「そうはいかないわ、いきなりあなたの待ち人が来たら、誤解されちゃうじゃない。」

 それだけ言うと、夏樹は俺がさっき登ってきた階段をダンスを踊るかのように軽やかに降りていった。

 




「ねぇ、大祐くん。」

「何?どうしたんだ?」

 そこには蹲る優香が居た、小さな体をさらに小さくして。

「ここに蝸牛が居るよ、可愛いねぇ。」

 いつもの事だったけど、優香は心配するだけ無駄なぐらい元気が良かった。

 いちいち心配してる俺の方が馬鹿みたいだったけど、そんな事をしてるのが俺の中では凄く楽しかった。

「蝸牛?優香・・・、持って帰るとか言うなよ。」

「むぅ、駄目なの?」

 その上目遣いに弱かった、いや、それが分かっているから優香はわざわざそんな風にするんだ、俺だけに・・・そう、俺だけの為に。

「駄目だ、だいいち飼い方知ってるのか?」

「知らないけど、でも、大祐くん知ってるでしょ?」

「知らない!!知ってても教えない、絶対に!!」

 ここで負けたら、この小さな小さな蝸牛の世話は俺がやる事になってしまう、それだけは阻止しなければ、俺の部屋は優香が拾ってきたというか、捕まえてきた虫だらけになってしまう、どんな事があっても蝸牛は持って帰らないぞ。

「意地悪〜、悪代官だぁ。」

 そ、そんな事言われたって、絶対に駄目だ。

「優香、約束しろ。その蝸牛は自分で育てるって。」

 何言ってるんだ俺?

「自分で?絶対する、だから、飼い方教えて!」

 

 結局、その蝸牛は直ぐ死んだ。

 優香のせいでもあるけれど、俺は自分のせいだと思った。

 もっと俺が、優香に親切にしてあげれば良かったのに、それで良かったのに・・・

 悪かったのは全部俺だったんだ。




 確かこの公園に埋めたんだ、蝸牛。

 俺と優香だけが知ってる、場所に・・・・。

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