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夢で遭いましょう  作者: 神夏美樹
■第3章 悪だくみ同好会の野望
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・第4節 ナノ・マシン

「ホントに苦労したんですからね」

 ナルルは開口一番、皆に向かってそう言った。

 「だから、謝るって言ってんじゃない。これ、この通り」

 ケイラがむくれるユキとナルルに向かって深々と頭を下げたが、二人は許してくれそうな気配は無い。事の原因は「マーチン記念館」に行ったついでにアイス食ったりハンバーガーショップに寄ったり、商店街で買い物してたりした事を、ついうっかり二人の前で行ってしまった事が原因だ。

 ケイラが二人に向かって謝りまくって居るのだが、二人はそれを許してくれそうに無い。何故なら、あたし達が外出して居る間に抜き打ちの点呼が有ったのだ。さすがにこれには二人で慌てたらしい。

 ユキはあたしの事を、シャワー浴びてる事にして、ナルルはケイラがちょっとした食あたりでトイレに籠って居る事にしてスェルはダイエットの為に学校の何処かを走り回って居ると言う、むちゃくちゃな理由で寮に居ない事にしたのだ。もし、良く調べられたら、勿論無断で何処かに消えて居る事がばればれな理由なのだが、二人は開き直って押し通したのだ。

 普段は優等生の二人だから、寮長もその話を一応信じてくれたのだが、この手はもう使えないなとあたしは思った。無断外出は、ちょっとリスクが大きすぎる。まぁ、外にはこれ以上用事が無いから大丈夫だとは思うのだが、皆がこれに味をしめて、ひょこひょこ外出しないかどうかが不安な処で有る…が、

 「皆さんの事は私達が、しっかり見張りますからね」

 ナルルが少し強い口調であたし達にそう言って、むくれてしまった」

 ナルル、確かに外に出たかった事は分るけど、そんなにむくれないでおくれ、折角可愛いのが台無しだから。

 「そうだ、ユキ、携帯貸して貰える?」

 あたしは恭一郎と連絡を取らねばと思いユキにそう頼んで見た。ユキは二つ返事で了解してくれて、クローゼットの中で厳重に悲観して居た携帯を、あたしに渡してよこした。

 あたしは恭一郎の電話番号を入力して通話ボタンを押し奴が出るのをじっと待った。皆の視線があたしに集まる。

 ――こちらは留守電話サービスです。ピーという発信音の後に……

 あたしは通話を停止する。何やってるんだ、こんな大事な時にと思いながら携帯を二つに畳んだ。

 「肝心な時に約に立たないな、あいつは」

 あたしは、もう一度「赤いスミレ」の分析をして欲しかったのだ。あの、赤い色素の正体が知りたかったのだが……

 「――よっ」

 突然窓の外から声が聞こえた。

 「あ、恭一郎…様」

 ユキのほんわりした声が部屋の中に響いた。銀杏の木をよじ登って再び恭一郎が現れたのだ。

 「だから、突然現れるなって言ってるだろ!」

 あたしはベッドから枕を取り上げると、ばすんと奴に叩きつけた

 「ま、ヒーローは遅れて来るって事だ」

 何がヒーローだ。

 「まぁ、良いや、こっちもあんたに用事が有ったんだ」

 「ほう、それは光栄だが、その前に、俺の話を聞いてくれるか?」

 恭一郎は窓から部屋に入り込むと、何時もの様に、無用な爽やかさを振り撒いた。


          ★☆★☆★☆★☆


 「ナノ・マシン?」

 あたし達は恭一郎の言葉をじっと聞いて居た。奴の話しに寄れば、例の「赤いスミレ」の分析結果の追加報告が来たのだそうだ。その結果、あの赤い色素は超微細な「ナノ・マシン」人工物で有る事が分ったそうだ。

 「で、その、ナノ・マシンって奴は、何をする物なんだ?」

 ケイラが不思議そうな声でそう聞いた。

 「使途は、通信用の微細機器、こいつは何らかのネットワークを構築して居る事までは分った」

 あたしが聞きたかったのも、その赤い鉱物の正体だった。

 「君達がマーチン記念館で見た、赤い鉱物は、そのナノ・マシンを濃縮して抽出した物だ。そして、このマシンは、厄介な事に、自己増殖能力が有る」

 「自己増殖能力?」

 ユキがほんわかと恭一郎にそう言った。

 「そう、乾燥して居る時は何も起こらないのだが、水に浸すと増殖する。そう言う性質が有る物だそうだ」

 あたし達は、皆で顔を見渡した。

 「それで?」

 あたしは恭一郎にそう突っ込んだ。

 「それで、とは?」

 「正体は分ったわ。この赤い色素の正体と、どんな性質が有るのか。で、あんた言ったわよね。この件から手を引けって…それは一体、どう言う意味?」

 あたしの突っ込みに、恭一郎の表情が変わる。そして頑なにこう言った。

 「残念だが、現時点でそれを話す事は出来ない。そして、君達が危険な目に合う可能性が十分に有る。だから手を引いて欲しい」

 あたしは、ちょっとむかっと来た。

 「なによ、散々あたし達に調べさせておいて、手を引けって言うのはどう言う事よ」

 恭一郎の表情が複雑な物に変わる。そして…

 「君達を、危険な目に会わせる訳にはいかないんだよ」

 「だから、その危険な目って言うのは一体何よ」

 恭一郎の表情から営業スマイルが消えて、妙に真剣な物に変わる。そして、あたし達に、訴えかける様にこう言った。

 「危険な…目だ…」

 あたしは大きな溜息を一つ。

 「なんか、堂々巡り…だね」

 「済まない。今言えるのは此処までなんだ。そしてこれ以上君達がこの件に関わらない事を、心から希望して居るんだよ」

 あたしの腹は、この時点で決まった。国家公務員が何を言おうとあたしには関係無い。徹底的にこの件に首を突っ込んでやろうと考えた。だって、悔しいじゃぁ無い、何処からの圧力かは分らないけど、そんなものに潰されるってのは。

 「分ったわ、恭一郎。あたし達は、この件から全面的に手を引くわ。以降、この問題には手を出さない。だから安心して」

 今度はあたしが営業スマイルを作って見せた。

 「そうか、良かったよ分って貰えて」

 恭一郎は、心底安心した表情を見せると、皆を一度ぐるっと見渡してから、ゆっくりと立ち上がり、窓からごそごそと姿を消した。

 「――さて」

 あたしはゆっくりと立ち上がる。

 「恭一郎は、ああ言ってるけど、あたしは手を引く気は全くないわ…ううん、逆に投資が湧いて来た。あたしは最後までこの話から手を引かない。ひょっとして、何もしなければ何も起こらないのかも知れないけど、なんだかこの状態は気に入らない」

 生徒会がどうのこうの言う問題だけでは終わらない事なのかもしれないが、あたしはこの状況が気に入らないのだ。

 「そうよ、私達は後に引かない。こうなったら、とことんやってやろうじゃない」

 ケイラが力強くそう言うと、悪だくみ同好会全員が笑顔で頷いた。あたし達は戦うのだ。絶対に負けない。

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