毒婦と呼ばれた王妃の弁明
私が毒婦ですって?
少しばかり、納得いかないわ。私の話を聞いてから、改めて判断してくださる?
……夫を殺そうとしたことは事実よ。
だけどね、夫は初恋の人との約束を守ると言って、勝手に戦争に参加したのよ。軍団を引き連れて。そのまま十年も帰ってこなかった。
その間、誰が国を統治し、守っていたと思う?
兵士たちを連れて行かれたら、国の守りが手薄になるのよ。大々的な遠征だったから、それを周辺諸国は薄々勘づいている状態なの。
攻め込まれないための武力がない。つまり、外交で乗り切るしかないのよ。それはもう、大変だった。
剣がないから、言葉を盾にして。綱渡りの緊張感だった。
そして、一番許せなかったのが、戦勝祈願と言って、娘を神に捧げたのよ。――生け贄よ。
やめてと叫んだのに、やめてくれなかった。
自分の娘を、片想いの相手に捧げる?
約束を守る誠実な男?
巫山戯るんじゃないわよぉー!
重たいお腹を抱えて、死ぬような痛みに耐えて産んだのは私。
心を砕いて乳母を選び、教育係を手配したのも私。
子育てに参加していないから愛情が薄いのは、目を瞑るとしても。あまりにも勝手だわ。
無責任ではた迷惑な男に、愛想が尽きるのは当然じゃない?
おまけに捕虜として敵国の王女を連れ帰ってきた。愛人としてよ?
信じられない。
さらにその女は、不吉な予言ばかり撒き散らすの。雰囲気が悪くなるし、言っていい場かを判断せずにベラベラと。
神に愛でられかけたという美貌には、私ですら目を奪われたけれど。そんな女に酔いしれて鼻の下を伸ばす中年男なんて、醜悪だわ。
その愛人だって、夫のことを愛していなかった。戦利品扱いですもの、嬉しいはずないわよね。
捕虜だから我慢しているのが明白で、見ていて痛ましいくらいだった。
ああ、夫の従兄弟を私の恋人にしていたこと?
それを下の娘も毛嫌いしていたわね。
確かに褒められたことではないわ。けれど一族の会議で、夫が戦死した場合の後継者の候補に挙げられていた人よ。
他国との折衝の場にも出席してくれて、心強い相棒だったわ。彼がいたから、容易に攻め込めないと判断されたのかもしれない。
私と再婚することになった場合に備えて、彼は結婚できなかったの。だから、互いに慰め合うのは仕方ないと、許してほしいわ。
そんなふうに忙しかったから、下の娘の教育係は厳選できなかった。
気がついたら、頭でっかちな理想主義者になっていたの。
他国の要人もいる場で、王妃である私を責め立てた。
その前に話し合うとか、事情を訊くとか、根回しをするとか王族としての素養がまったく身についていなかった。清濁を併せのまなければ、王族などやっていけないのよ。
もう、これでは他国の王族には嫁がせられない。
国内の貴族たちにも、敬遠されてしまった。誰だって、家庭内の事情をいつ、どこで暴露されるかわからない王女なんて、嫁に欲しくないわよね。
だから、裕福な農家に降嫁させてあげたのよ。人格者で、包容力のある人に。
それを逆恨みされるとはね。私は、子どもに陥れられた。
まあ、政治の世界ではよくあること。
子どもができたから母の気持ちも理解できるようになったのねと、うっかり気を許した私の落ち度だわ。
私は夫を殺したんじゃない。
馬鹿で有害な虫を駆除したのよ。
護衛が離れる入浴中に、刺した。煙たがられてはいても、妻が浴場に入るのは怪しまれなかったわ……。
それで毒婦と呼ばれるなら、上等よ。
――もう少し若かったら、悪役令嬢と呼んでいただけたかしら。それだけは残念ね。
元ネタは神話です。




