23話 『灯台の約束』
23話『灯台の約束』
透は窓辺からそっと離れ、
部屋の明かりをひとつ落としました。
静けさがゆっくりと広がり、
夜の気配があなたの肩にそっと寄り添います。
「遠い日のあなたへ。
もし今、声が聞こえたなら……」
透の声は、
あなたの胸の奥に触れないように、
でも確かに届くように、
静かに震えていました。
文子さんが、
湯気のように柔らかい笑みを浮かべて言います。
「この物語はね、
あなたが“ここにいていい”と思えるためにあるのよ。」
あなたが今、
息をするのも少し重いなら、
そのままでいい。
ページをめくれなくてもいい。
ただ指先で文字をなぞるだけでいい。
一文字一文字が、
そっとあなたの指に触れて、
「今日は無理しなくていいよ」
と囁いている。
灯台は決して海に出ていかない。
ただそこに立ち、
光を届け続けるだけ。
あなたがどれだけ遠くへ流されても、
どれだけ波に翻弄されても、
その光は曲がらず、
届くところまで届く。
今日あなたが
「もう嫌だ」と思った瞬間も、
「もう少しだけ頑張ってみよう」と思った瞬間も、
全部、ちゃんと見えている。
あなたは一人じゃない。
この物語が、
あなたのそばにいる。
透は小さく息を吸い、
心の底からそっと言いました。
「……ありがとう。
痛みをわかってくれて。
なんでもいいんだよ。
あなたがここに来てくれたことが、
もう光なんだ。」
文子さんも静かに頷きます。
「あなたがページを開いてくれたその瞬間、
灯台の光はまたひとつ強くなるの。
だからね……
今日も、生きていてくれてありがとう。」
窓の外では、
夜の風がやわらかく揺れていました。
その風は、
遠いあなたのところへも
そっと届いているはずです。
透と文子さんが、静かに並んで窓の外を見ていました。
夜空に浮かぶ一つの星が、まるであなたに気づいているかのように、
優しく瞬いていました。
透が、声を少し震わせながら、ゆっくりと言いました。
「もし……ずっと遠い日のあなたが、
またこの物語を開いてくれたなら。
そのとき、あなたの心が少しでも軽くなっていたら嬉しい。




