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【ダ=ザイン】〔2〕

「ようこそ少年、【ダ=ザイン】へ」

「今日からここが君のあの世だ」

 さぁどうぞ、と中に入るよう促した。

「兄さん、カッコつけすぎじゃない?」

「うるさいな、ここに来たってことはそういう事なんだから」

「俺だってちょっと恥ずかしいんだよ」

 話についていけない俺を他所に兄弟のじゃれあいが始まった。俺はただぽかん、と玄関前で呆然としていた。

「あ、あぁごめんな。中に入ろう」

 その言葉でやっと意識を取り戻し、分からない事だらけではあるがとりあえず中に入ることにした。

「し、失礼します」

「ずっと氷水背負ってて大変だったろ?そいつは部屋にぶち込んでいいから」

 二階に上がって一番奥の部屋な、と指示する。随分と立派な家だ、10人以上は住んでいそうな程に。

「部屋入っても大丈夫なの?」

「え~っと、うんイイヨ…」

ぎこちないな。

見られたくないものでもあるんだろうか。

にしても、ほんと立派な家だ。この階段の手摺ですら綺麗に意匠が施されている。

哲道荘(てつどうそう)】って書いてあったし下宿何かかな?

しかし結構人が居そうなのに賑やかさが無いな。こういうモノなのだろうか。

 話し声、物音すら聞こえない事に違和感と少しの不気味さを覚える。こんなに広くて、こんなに部屋数があるのに二人暮らしなんてことは無いだろう。

「今日は皆出払ってて、兄さんと私と暗刻(あんこ)ちゃんしか居ないんだよね」

 不安が顔に出てしまっていたのか、氷水ちゃんは人が居ない理由を教えてくれた。

「暗刻ちゃんっていうのは何方ですか?」

初めて聞く名前だ。姉妹かな?

「お姉さんみたいなモノ?かな」

またよくわからない関係だ。

「えぇ~っと、しょ、小説を…書いてるよ」

 なんだか凄く気まずそうに言う。小説を書くという事がそんなに言いづらい事なのだろうか?

割と誇れることじゃないか?

「へぇ!小説家さんですか!すごいですね!」

「どんなジャンルを書くんです?まぁ俺は有名どころの小説しか読んだこと無いんですけどね」

宮沢賢治とか太宰治とか、一般教養みたいなやつしか読んだことは無いけど。

作家と知り合えるなら素人なりにでも、やっぱちょっとはそのジャンルについて語り合いたいよな。

「ジャ、ジャンル!?えぇ~…そう、だなぁ」

何故かすごく困ってしまった。ジャンルでそんなに困ることがあるか?すごいマイナーな奴か?それともお相手が自分のジャンルにすごい厳しい人なのだろうか?間違ったら殺す、的な。

「ほ、本人に聞いてみて?」

間違ったら殺すルートかもしれない。気難しいタイプかなぁ~。


「あ、そこの部屋」

 いくつかある扉に『ヒスイ』と書かれた看板を見つける。

「それじゃあ、失礼しますよ」

「い、いらっしゃいませ…」

「店員じゃん」

 緊張している氷水ちゃんを背負いなおして、こっちも少しドキドキしながら扉を開くと

 床に、ベッドに革ジャン。壁にはバンドのポスター。ベース、あれは…リッケンバッカー?

「これは…」

「か、可愛くな」

「かっけぇ~~~!!」

「え?」

すげぇイイ!バンドやってるのかな?リッケンバッカー初めて生で見た!やっぱ形もロゴもめっちゃイイな!

「あのさ、こういうの変じゃない?」

「まぁ、世間一般で言うと変ですね」

興奮して忘れてたけど、氷水ちゃんって普段は『お淑やかでクールな生徒会長』をやっているわけだからな。

変っちゃ変だ。

「や、やっぱそうだよね…」

でもなぁ

「『変であること』がなんかマイナスになるワケでも無いですし」

「イイんじゃないっすか?」

「カッコいい人は往々にして変なもんっす」

「甲本とか、ビリーとか」

パンクな人は特に。

氷水ちゃんのギャップは人に迷惑をかけているわけでも無いし、隠せているし、そもそもちゃんと似合ってるし。何の問題もないな。

「…いい趣味してるね」

「ロック好きなんすよ、邦ロックのほうが好きですけど洋ロックも聴きますよ」

「そっか、ふふ…全然知らなかったな」

「俺だってそうですよ、もっと早く言って下さいよ」

「今度、ロックについてもっと話そうね」

「えぇ」

 ベッドの上の革ジャンを退かして氷水ちゃんを横にする。氷水ちゃんは満足そうに「『かっこいい』かぁ」と呟いていた。

「少年!」

 と下の階から呼ぶ声がした。

「兄さんが待ってる」

「私はもう大丈夫だから、いってらっしゃい」

 少し心配ではあったが、微笑む彼女の顔を見ると「もう十分だ」と言っているようだった。





「座れよ、少年」

 冷蔵庫を漁りながらお兄さんは言う。

この三つ編みの赤髪、整った顔、声…どっかで聞いたことあるんだよなぁ。

何処だったかなぁ~?

「缶詰めとかならあるけど、あと白米」

 「缶詰めのつまみにハマっててな」といくつか目の前に置く。

ご馳走になれるのか…。

ちょっと申し訳ないけども、緊張が解けた反動で腹は減っているしいただこう。

「あ、じゃあコンビーフで」

割と高そうな缶詰が並んでるし、普段あんまり買えない奴選んじゃお。

好きなんだよなぁコンビーフ。

「いいチョイスだな」

 白米も用意してくれた。本人は白米を食べずビールを冷蔵庫から取り出した。

「牡蠣の缶詰め、美味いんだよこれ」

「はぁ」

 俺もコンビーフをつまみながら米をかきこむ。

 彼はビールをグイっと飲み「ア”~!」と何かしらの感情を吐き出すと一言告げた。

「突然で悪いけど。君、死んだから」


「は?」


 思わず口に入れた白米を零してしまった。

「な、え、どういう…どういう事っすか?」

「え、今は余韻で生きてる状態?」

 即座に自分の脈拍を確認する。

脈はある…肉体は生きてるけど的なことか?いや精神もそんな異常は感じない。

「ははは、そういうヤツじゃない」

何笑ってんだこの人。こんなに焦ってんのに。

「君のは『もう社会には戻れない』って意味の死だ」

?どういうことだ?

「『シンカイにトリップした者は無事には帰れない』ってのが常識だろ?」

そうだ、今まで殆どの人が行方不明のまま。そうじゃなくても廃人状態で見つかっている。

だからこそ【シンカイ】の内部は未だに謎に包まれている、いや()()

実際見たわけだしここは過去形でいいだろう。

「アレ、嘘なんだよ」

「まぁほとんど死ぬのはホントだけどな」

…ま、まぁ何となくそうだとは思ってたけどさぁ。

でもそれじゃ

「じゃあなんで公表されてないと思う?」

そうなるよなぁ。

考えるか。

公表すると何かしらの不都合が起こる?

何処が?国が?いや【トリップ】は全世界で起こっている。

国がこれを把握しているのなら大規模な研究が進められていてもおかしくない。

そんなものは聞いたことがない。

もしかして()()()という方が重要なのか?

つまり

「【トリップ】から生還した個人が自分を死んだことにしてる…?」

 彼は少し驚いてニヤリと笑った。

「大体正解だ、やるな」

 「これを見ろ」とスマホの画面を見せる。数年前にあった行方不明のニュース記事の様だった。

「静岡県で小学生の集団トリップによる行方不明者多数。情報求む…」

 スワイプしていくと事件の全容が見えてきた。

 静岡県のとある市の小学校で下校中の児童12名が【トリップ】により【シンカイ】に落ちた。児童は学芸会の前日で早めの下校だったそうだ。

 捜索を諦めきれない家族が児童の写真をアップしている。その中で一人の少女に目が留まる。

 紅白帽をかぶって運動会で選手宣誓をしている…のだろうか。何となくの既視感があった。

「この子…どっかで?」

う~ん…でも北海道住みの俺に静岡の小学生となんて接点が無いしなぁ。

なんだこの既視感は、目元が誰かに…

「え?氷水ちゃん?」

氷水ちゃん、氷水ちゃんじゃないか?

目元にある泣き黒子、切れ長の目。確証はないけどなんか似ている。

あのフープピアスは無いけれど、嵌めている指輪のようなモノがそれに似ている。

「お~これも当てるとは」

 感心しながら彼はビールをまた一口飲む。

「この時だ、アイツが()()()を手に入れたのは」

()()()というと今日見た斧の事か。

という事は氷水ちゃんはこの集団トリップの中で生き残ったという事か?

「俺たちは()()()を得た者を【超人(ちょうじん)】と呼んでいる」

「【超人】は特殊なアーキタイプと出会い、試練を乗り越える事で成る」

「そしてソイツの思い入れが深い物品に特殊な力が宿る」

「例えば俺の場合だと」

 「コレな」と、彼は帰宅してもずっとしていた手袋を外した。

「【一騎当全(いっきとうぜん)】アレス、触れたモノのあらゆる『力』を100倍に出来る」

危険すぎるだろ。だがじゃあ氷水ちゃんの場合はあのピアスだろうか?

「氷水の【断骨裁神(だんこつさいしん)】ギルガメシュ、あれは『形あるものならなんでも切れる』斧」

「鋼だろうが隕石だろうが何だろうが一刀両断だ」

思ったよりやばい能力だった。だから豆腐を切るみたいにアーキタイプぶった切ってたんだ。

「んで、話を戻すぞ」

()()()()()()()()()()()()()

そうだ、そこが気になっていたんだ。

それこそ、その【超人】とやらになったら能力を使って暴れたりもしそうなものだが。

「人は【超人】となった時に、ある種の精神疾患の様なものを患う」

「『超人以外の人間に対する嫌悪感』だ」

「勿論個人差もあるがな」

 暫く手を付けていなかった牡蠣を食べる。

哲道荘(ここ)の住人は何故かその症状が薄い」

「しかし、もう一つの『本能』とも呼べるものがある」

「『超人であることを知られたくない』という『本能』」

 ビールを飲み干し一息置いて、

「つまり、だ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から()()()()()()()()()()()んだよ」

んーーーーこんがらがってきた。

一旦整理しよう。

ステップ1、【トリップ】によって【シンカイ】に入る。

ステップ2、特殊なアーキタイプに出会う。大体ここで死ぬ。

ステップ3、アーキタイプからの『試練』とやらをクリアし【超人】となる。

しかし【超人】になると能力を手に入れると、『超人以外の人間に対する嫌悪感』と『超人であることを知られたくない』という『本能』も付いてくる。

だから元の社会に戻らず行方不明のまま死んだことにする。

結果、帰還者の報告が無い。と。

…何となくだけど理解した、が。

「俺みたいに超人にならずに帰って来れた奴は居ないんですか?」

 彼は悩んだように腕を組んで唸った。

「それがなぁ…聞いたこと無いんだよ」

「普通、超人になるか死ぬかだから」

「氷水が近くにいたのがデカすぎるな」

俺めっちゃラッキーじゃん。

初のそのままの生還者か。


「でもな、」

 低く響く声だった。

「誰にも生きてることを知られるなよ」

 淡々と死を告げる、死神の様な声は。


「知られたら殺されるから」

「【超人】達にな」


「勘弁してくれよ…」

ホントに勘弁してほしい。

やっとの思いで生きて帰ってもコレかよ。

ってことは

 ここに来た時の言葉を思い出した。

 「ようこそ少年、【ダ=ザイン】へ」

 「今日からここが君のあの世だ」

あれそういう事かよ!

生きて帰っては来たけど、()()()()()()()()()から行方不明のまま死人として生きるしかないって事か!

「…学校は」

「無理だな」

「家には」

「帰れないな」

「友達に」

「連絡も駄目だ」

まじかよ…。

ホントに死んだことにするんだなぁ。あいつら心配してくれんだろうなぁ。

いや待てよ?

「氷水ちゃん!氷水ちゃんはどうなるんですか?!」

俺が【トリップ】するのが見られてるんだったら、氷水ちゃんも見られてるはずだ。

「【超人】は誰にも見られずに【トリップ】が出来る」

都合良~!

俺が空中で氷水ちゃんとわちゃわちゃしてたのも一人でやってるように見えてたのか。恥ずかし。


でもそうか、

「氷水ちゃんはちゃんと学校に行けるのか」

「よかった」

俺のせいで死人にならなくてよかった。

「…少年、君」

 安堵する俺を見ながら彼は上がる口角を手で隠す。喜んでいるのか面白がっているのか分からない。

「いや、ウン。何でもない」

笑いどころあった??

「よし、少年。死人生活の覚悟は出来てるか?」

そんなもの決まっている。

「出来てるわけないでしょ」

「ハッ!そうだろうな!」

 「当たり前だ」と笑う。

「でもやりますよ!えぇ!」

やるしかないし!

見つかると殺されるんだし!


「そういや自己紹介がまだだったな」

そうだ、ずっと名前も知らなかったわ。

でもこの人、やっぱどっかで見たことあるよな…。

テレビかなんかで…。

「俺はルキウス。ルキウス・(スメラギ)。本職はアイドルプロデューサーだ」

あーーー!!『アイドルより美しいプロデューサー』で有名になった!皇Pだ!

プロデュースするアイドルグループもちゃんと売れてるし、結構な有名人だったわ!

「ハハハ!その反応、知ってたけど気付かなかったってトコだな?」

「ここで生活するんだ、君も俺の弟みたいなもんだ」

「明日斗、でいいか?」

あのイケメンプロデューサーが兄か…命が掛かってなきゃラブコメの一話目なのに。

「いいっすよ」

「よろしくな、明日斗」

「よろしくお願いします。兄さん?でいいすか?」

「氷水と被るな」

「問題ないでしょ」

「違うのがいいな」

「え~」

兄、兄様、兄上…

「兄貴?」

いやナイな、これは子分過ぎる。ウ○ッカじゃないんだから。

「それだ!」

採用されちゃった~!

別に困らないけどさぁ!

「んじゃあ、よろしくっす兄貴」

「おう!」

喜んでる…

ならいいか…


「今日はもう遅いし寝ろ。疲れてるだろ」

「部屋は、暗刻ちゃんの隣か」

「そこの階段の前の部屋だ」

一階の部屋なのか。てっきり二階の廊下のどっかかと思った。

「…ちなみに介護の経験はあるか?」

な、なんだ急に。介護しなきゃいけない人でもいるのか?

「無いですけど…」

「そうだよな、ウン」

「明日、他のメンバーが何人か帰ってくるからその時だな」

「何の事か分からないっすけど、多分あんまいい事じゃないっすよね」

 帰ってきたのは兄貴の「ハハ」という乾いた笑いと、表情筋が壊死したのかというような笑顔?だった。

「よし、寝ろ寝ろ。俺も疲れた」

「俺の部屋は二階上がって直ぐだから、何かあれば言えよ」

疲れてても対応してくれるんだ。優しい人だな。

超人として戦うと結構体力を持ってかれるんだろう。だから氷水ちゃんは全く動けなかったのかな。

「あ、すいません!」

「ん?どうした?」

「氷水ちゃんが巻き込まれたあの事件、結局どうなったんですか!?」

氷水ちゃんが超人として覚醒したなら全員とは言わずとも救えたんじゃないか。いや、超人にならず帰ってきたのは俺が初めてらしいし、他の子ども達も超人になれたんだろうか?

 その答えは痛いほど残酷で、単純なものだった。


「…生き残ったのは12人のうち()()()()()()だ。アイツが『試練』をクリアした頃には子ども達は息絶えていた」

「そんなもんだ。世の中ってのは」


 何となく頭の片隅にあった「もしかして」を消そうとした質問だったが、まさかそれが的中してしまうとは。


「改めて、ようこそ」

「死に損ない共の集まり、【ダ=ザイン】へ」

 こうして死人としての第二の生が始まった。

【シンカイ】

50年前に出現した世界を覆う海。異界に繋がっていた。

【アーキタイプ】

シンカイに生息する怪物。

【トリップ】

シンカイに引きずり込まれる現象。まともな生還者はただ一人。

【超人】

特殊な能力を持つ人。シンカイ内で出会う特殊なアーキタイプからの『試練』をクリアすると成る。

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