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新たな兆し、試験の鐘がなる

 あれから3日が過ぎた。毎日風の力を操る訓練を繰り返してきた。最初はただ風を感じることすらできなかったが、ようやくその流れを視覚的に捉えることができるようになった。遠くの情報を得ることは試験で大きなアドバンテージになるだろう。しかし、それはまだ十分なコントロールができているわけではない。


「……もう少し。」


 俺は深呼吸をし、再び力を込めて風を使い始める。遠くの木の枝をじっと風を使い見つめながら、力を送る。風が木の葉を揺らすが、目標としていた「折る」という結果には至らない。


「……くそっ。」


 手を一度下ろし、視線を木の枝から外す。肩で息をしながら、体に溜まった疲労を感じる。


「力を加えすぎてもダメ。弱すぎてもダメ。ちょうどいいところを見つけなきゃ。」


 繰り返しの訓練が続いていた。体力が削られ、汗が額から滴り落ちる。何度も何度も失敗しながら、それでも諦めずに力を込める。


「……今度こそ。」


 今度は、少しだけ力を加減し、風を木の枝に送り込んだ。その瞬間、枝がパキッと音を立てて折れた。


「できた……」


 だが、喜びに浸る暇はなかった。すぐに体力が限界に達し、視界がぼやけ始める。


「まだ足りない……」


 ふらつきながらも、俺はその場にしゃがみ込む。風を使いすぎると、すぐに体が持たなくなる。この力には、思っていた以上の代償があることを痛感する。


 風を制御する感覚は少しずつ掴んできた。だが、まだ安定してコントロールできるわけではない。訓練を続ける中で、次第に疲労が積もり、体が重く感じてきた。


「もう少しだけ……」


 俺は力を込め直す。しかし、その瞬間、風が急に激しくなり始めた。


「な、なんだ……?」


 風が暴走し、周囲の空気がひときわ激しく動き出す。木々が揺れ、土が舞い上がり、空気が振動する。意識が少しぼやけた。


「くっ、力が……。」


 自分の手の中から、風が無秩序に放たれているのが分かる。急いでそれを抑えようとするが、無理だ。力がどんどん暴れ出す。


「頼む……止まれ!」


 風はますます激しく、周囲の地面が崩れ、岩が割れ、木々が倒れていく。俺の周囲が次々と壊れていく中で、ただ力を抑えようと必死になる。


「やめろ! こんなところで……!」


 体力がもう限界に達している。汗と共に体力がどんどん消耗し、意識も薄れていきそうだった。だが、目の前に広がる光景を見て、恐怖と焦燥感が一気に込み上げてきた。


「くそ……制御できない……!」


 その瞬間、体に衝撃が走る。


「ぐ……!」


 俺に魔王の言葉が頭をよぎった。


 ──力には代償が伴う──


 その言葉が重く響く。まさにその通りだ。この力を使うことには、それ相応の代償がある。だが、そんなことを言っている場合ではない。俺はこれを止めなければならない。


「力を……抑えなければ。」


 必死で風の暴走を止めようとするが、思うようにコントロールできない。体力が尽きる中で、ようやく冷静になり、風を感じ取る。無駄な力を使わず、冷静に調整しよう。


「落ち着け……。」


 深呼吸をし、集中する。少しずつ、風が収まっていくのを感じながら、力を使いすぎないように注意深く操作を続ける。ようやく、周囲の風が静まる。


「……ふぅ。」


 体力が消耗し、膝をついて息を整えながら、破壊された周囲を見渡す。息が上がる中で、俺は強く胸に手を当てた。


「これが……代償か。」


 風が収まったとはいえ、俺の体力は限界に近い。膝をつき、地面に手をついて息を整えながら、ただ目の前の景色に見入っていた。破壊されたものは戻らないが、それでも気持ちを整理する必要があった。


「こんな力を、使いこなせるのか……?」


 自分の手のひらをじっと見つめる。その手に宿る力が、どれだけ危険か、そしてどれだけ強力かを再確認する。


「でも、やるしかない。」


 力を使うことには代償が伴う。しかし、試験までにこの力をコントロールできなければ、俺は試験に合格することができない。その覚悟はできている。だからこそ、今は冷静に力を制御し続けなければならない。


「代償は……覚悟のうちだ。」


 その言葉を心に刻み、俺は再び立ち上がった。力を使い続けることで、少しずつでも力を制御できるようにならなければならない。


「進むしかないんだ。どんなに辛くても、前に進む。」


 その決意を新たにし、俺は再び訓練を始める。これから先、どんな試練が待ち受けていようとも、俺は立ち向かう覚悟を決めたのだ。


 試験当日の朝、目を覚ますと、いつもと違う緊張感が体中に広がっていた。これまでの訓練の成果を試す時がついに来たのだ。


「試験……どうなるだろう。」


 服を整え、試験に必要なものを確認する。その度に、心の中で不安が湧いてくる。それは、試験に臨む者として自然なことなのかもしれないが、俺はその不安をしっかりと感じ取っていた。


「でも、やるしかない。」


 心の中で、決して弱気にならないように、自分に言い聞かせる。


「これまでの訓練が、役立つはずだ。」


 試験会場に向かう途中、少しずつ緊張が高まり、心拍が速くなるのを感じる。風の力を使いこなすことができれば、必ず試験に合格できる。それだけを信じて、俺は歩き続ける。


 試験会場に向かう途中、俺は歩みを止めた。突然、風が止まったような感覚に襲われた。周囲の空気が重くなり、心臓の鼓動が一瞬早くなる。


「これは……?」


 無意識に、風を感じ取ろうとした。だが、風はただの風ではなかった。耳に響く風の音が、いつもと違う、まるで何かがその中に隠れているような気がした。違和感が全身を駆け巡り、思わず足元を見下ろす。


「風、じゃない……?」


 その時、ふと風が再び動き出した。だが、今度はただの風の動きではなかった。どこか、遠くから吹いてくる、重く、深い風。まるで何かを運んでくるかのように、じっと俺に向かって吹いてきた。


「神の使徒……?」


 風に乗ってくる気配は、どこか異質だった。その感覚に背筋が震える。この感覚は、ただの偶然ではない。まるで、近くに神の使徒が存在しているかのような、そんな圧倒的な存在感を感じる。


「いや、違う。気のせいだ。こんなことで動揺してたら試験に臨めない。」


 フィリアスは自分を励ますように呟いた。しかし、心の中の不安は収まらない。風はただの風ではない、その風から感じる何かがある。何か、目に見えない大きな力が近くにあるような気がしてならなかった。


「どうして今、こんな……」


 神の気配、使徒の気配。俺の頭の中を何度も巡る言葉が、どんどん現実味を帯びてきていた。風の概念を変えてるのを神に悟られてはいけない。俺は概念を元に戻す。


 だが、風はただ吹き抜ける。だが、その風がまるで俺を試しているように感じるのは、気のせいだろうか?


「とにかく、試験に集中しなきゃ。」


 俺は再び歩き出す。だが、その一歩一歩が重く感じられる。風が運んできたあの不安な気配は、消えたわけではない。無理に感じ取らないようにしようとしても、その気配はどこかに確かに存在していた。


「あの風、何だったんだ……?」


 試験に向かう道、風を感じながら、俺はその疑念を胸に秘めたまま、足を進めた。


 俺は学園の外れに広がる広場に足を踏み入れた。あまりにも広大で、これから自分がやるべきことがリアルに感じられてくる。周囲にはもう、多くの受験生たちが集まっている。それぞれが何を使ってどれほど強いかが問題だ。


 そして、俺自身は「風」を使うが、誰かに見られたらその力の本質がバレないように気をつけなきゃいけない。そう思うと、少しだけ身が引き締まる。


 その時、壇上に立っていた教師が、大きな声で話し始めた。


「皆さん、これから始まる試験の内容を発表します。」


 教師は広場全体に目をやり、受験生たちを見渡しながら言った。


「試験の最初の内容は、『障害物競走』です。」


 その言葉を聞いて、俺は一瞬安堵のため息をついた。


「良かった、前世通りの障害物競走だ。力をうまく使う方法さえ見つければ勝てるはずだ。」


 だが、すぐに考え直す。問題は、その障害物をどう突破するかだ。


 教師は続ける。


「この競走は、単に障害物を越えるだけではありません。障害物の中には、特殊な仕掛けが施されています。それぞれの障害物をどう突破するかは、君たちの力にかかっています。」


 俺はその言葉を聞いて、すぐに周りを見渡す。他の奴らがどういう能力を持っているのか、少しでも感じ取っておかなきゃ。


「そして、もう一つ重要なことがあります。この試験では、『力を制御する』ことが最も重要です。無理に力を使いすぎると、思わぬ危険を招くこともあります。自分の力を冷静に、そして効果的に使いこなしてください。」


「制御……か。」


 俺は心の中でつぶやく。力を制御する…確かに、それが一番難しい部分だ。


「試験の詳細については、順番に説明します。君たちは、制限時間内にこの障害物を越えることを目指します。そして、様々なトラップに臨機応変に対応しなければなりません。」


「この障害物競走、懐かしいな。」


 思わず、心の中でつぶやく。前世のこととはいえ全てを覚えてる訳では無い。そのため障害が待ち構えているのかは正確にはわからない。


「それでは、順番を決めますので、しばらくお待ちください。」


 周りの受験生たちを見ると、それぞれが異なる能力を持っていることがわかる。さっきの風系の奴も、風を使いこなすだけでなく、周りの空気を操る力も持っているようだ。障害物を越えるためには、いかに上手くその能力を使うかが問われるだろう。


 さらに、筋力に自信がある奴は、物理的な障害物を無理やり突破しようとするだろうし、別の奴は何かしらの「火」を使って障害物を燃やし、道を切り開こうとするかもしれない。俺はその中でどう立ち回るか。力を使いこなすためのコントロールが鍵になるだろうが、それを超えた問題が待ち構えているような気がしてならない。

今回から少し入ってますが次回から本格的に学園編がスタートします!ここまで読んで次が気になったり面白ければ、★★★★★とブクマで応援よろしくお願いします!

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